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目の前の人物が動かす手を、友香里は尊敬の眼差しで見つめていた。
『んと、こうやってチョコレートを先に細かく刻んでおいて、薄力粉とココアも合わせて振るっておくと便利だよ』
友「…はい、師匠!」
『(師匠?)じゃあ、卵を卵白と卵黄に分けよっか』
料理はもちろん、お菓子作りも大好きなりんは、手早くこなしていく。
それについ最近家で同じものを作っていたので、作り方も覚えていた。
友「…ゎわ!」
卵を割ってから上手く分けれなくて、友香里はう゛ーと嘆く。
『大丈夫だよ。だんだんと上手に出来るようになるから』
友「本当?」
『うん、絶対!だから頑張ろ?』
りんが優しく笑うと、落ち込み気味だった友香里もよしっと気合いを入れ直した。
わからないところはりんが先にお手本を見せたりしたが、殆んどは友香里自身がやって。
そうして何とかケーキを焼くところまでいき、焼き上がる間、二人でまったりと待つことにした。
友「りんちゃん、本当にありがとう」
『ううん、私も楽しいから』
友香里の煎れてくれたココアを飲みながらニッコリ笑うりん。
「あのケーキ…」と友香里は少し俯きながら呟く。
友「幼なじみに、あげんねん」
『幼なじみ?』
友「うん。いつも顔合わせると喧嘩ばっかでな。この前もうちがチョコなんか作れるわけあらへんって馬鹿にしてきよって」
それであのケーキなんだ、とりんは納得した。
「あいつってなぁ」とブツブツ文句を言い捨てていく姿を見て、りんは理解した。
『友香里ちゃん、その子のこと大好きなんだね』
友「っ!」
そう言うと顔を真っ赤にさせる友香里。
友「い、言わんといてな、クーちゃんとか皆に!//」
『うんっ』
友香里は肩を落とし、ちらりと前を一瞥する。
友「クーちゃんの好きな人…りんちゃんやったらええなぁ」
『え?』
思わず、ココアを飲んでいた手を止めてしまった。
友「好きな子いるって前から知ってたんやけど、クーちゃんようモテはるから。昨日も学校で大量にチョコ貰って来てな、」
『(そ、そんなに…)』
ガーンとショックを受けるりん。
その光景を想像したら胸の奥がズキンと痛くなった。
友「でもな、昔から義理チョコ以外は絶対食べへんねん」
落ち込むりんを見て友香里は少し眉を下げ、苦笑する。
友「本命の子から貰ったのしか食べへんて言うてな。もううちチョコの食べ過ぎで、鼻血出そうになったわ!」
友香里は昨日を思い出すように語る。
『(本命……)』
それは、自分のことだと思ってもいいのだろうか。
あんなに告白?のような台詞を沢山言われているにも関わらず、りんはまだ自信が持てずにいた。
りんの性格上…優越感に浸るどころか、白石を好きな沢山の女の子達に対し、申し訳ない気持ちになってきていて。
その後も友香里が話す内容に耳を傾け、白石が一途だとわかる度に、いつまでも待って貰ってることに罪悪感を覚えていく。
更には…
友「受験勉強もそっちの気で嬉しそうに電話しててなぁ」
『(じゃ、邪魔していたなんて!)』
勉強の邪魔をしていたと思い込み、再び衝撃を受けるりん。
やがてケーキが焼き上がる音がして、友香里は立ち上がり見に行った。
りんも後に続くと、取り出したケーキを見て二人して目を見開いた。
「…おいしそう」
甘い香りが立ち上がり、どうやら大成功のよう。
最後に軽く粉糖をかけ、友香里はジャーンと言うように白いチョコペンを取り出した。
友「これでメッセージ書くで!」
『わぁ…いいね』
友「うん!りんちゃんも使う?」
『えっ』
りんは躊躇ったが、自分の持つケーキと友香里を交互に見て、やがてコクンと頷いた。
二人で真剣に書いていると、ガチャッと玄関のドアが開かれた。
白石本人かと思い、ドキリとする。
「ただいまーあれ、お客さん?」
だが顔を覗かせた人物は、綺麗な女性だった。
どことなく雰囲気が白石と似ていて、何となくだが察する。
友「あ、お姉ちゃん、お帰りー」
「ええ香りやね。うちのはあるん?」
その声を聞き、ドクンと鼓動が大きく鳴った。
知らない声ではなかった。
無意識のうちに作業を止めていて、そんなりんを友香里は紹介し始める。
友「あの子、りんちゃん言うねん。クーちゃんの後輩なんやって!今ケーキ作り教わっててな」
へぇ…と、その人はりんに視線を向ける。
「妹がお世話になりました」
綺麗に微笑む姿を見て、りんは『いえ…』と小さく返事をするので精一杯だった。
その手は、ギュッと力強く自分の服の裾を握っていた。
謙「あースッキリしたでー!!」
白「そら良かった。せやけど、バレンタインに男二人でバッティングセンターって……」
謙也と白石は、二人並んで家路を歩いていた。
周囲の目も気にせず叫ぶ謙也に、白石は呆れて溜め息を吐く。
本当は部活に顔を出す予定だったのだが、毎年(主に白石にとって)それは自殺行為なので思い留まった。
白「クラスの子らにめっちゃ貰ってたやん」
謙「全部義理な!!美味しく頂きましたけども!」
街中の甘いカップルを見ては唸り、バッティングセンターに誘ったのは謙也だった。
白「(…まぁ、俺もついホームランとか出してもうたけど)」
白石も何かスッキリすることをやりたいと思っていたので、丁度良かった。
そんな白石を横目で見て、謙也は内心ほっと安心していた。
白「あ、そや。姉ちゃんが謙也にも久しぶりに会いたいんやって」
謙「ほんまに?」
白「多分もう帰って来る頃やから、家寄る?」
謙「おん!」
談笑しながら家の前に着き、ドアに手をかざそうと前を見た瞬間、白石の視界に飛び込んで来たもの。
白「…何や?これ」
ドアノブに掛けてあった袋を見て、目を丸くする。
謙「また貰ったんかい」
謙也も一緒になって袋を見ると、中にはカードが入っていた。
゙白石さんべと書かれていて、袋の中を見ると白石は急に驚いた顔になる。
勢い良くドアを開け、「友香里!」と叫んだ。
友「あ!クーちゃん今「誰か来たんか!?」
突然血相を変えた白石を見て、「白石?」と慌てる謙也。
友「えっとりんちゃんって子。クーちゃんの後輩やって言ってて…」
謙「え?ほんま?」
謙也も目を見開いて驚く。
友「でもな、さっき急に帰ってしもーて」
白「…っどこ行ったかわかるか!?」
友「河原の方やったと…て、クーちゃん!?」
それを聞くと、白石は勢い良く家を飛び出し走って行ってしまった。
取り残された二人は呆然とする。
友「…あんなに必死になるクーちゃん、初めて見た」
ぽつり呟いた言葉を聞きながら、謙也は親友の健闘を祈った。