幸せ日和
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跡「…ったく、何やってんだよ」
『う…ご、ごめんなさい』
大きなキングソファーに腰掛け、りんは跡部に手当てを受けていた。
前髪を上げ、赤く腫れ上がったところにポンポンと消毒をされる。
跡「(…越前の気持ちがわかるな)」
りんはしっかりしてるようで危なっかしくて、目を離せない。
兄のような気持ちになってきた時、りんはクスッと小さな笑みを零した。
跡「…何だよ」
『あ、ごめんなさい。跡部さんに手当てをされてるなんて、何だか可笑しくて』
クスクス笑うりんを見て、今度は跡部が眉を寄せた。
跡「このくらい出来て当然だ」
『もしかして…部員の手当ても跡部さんが?』
跡「まぁ、その場に俺しかいなかったらな」
さすが部長だなと感心するりん。
「終わりだ」と言われた時には、額の痛みは既に薄れていた。
『ありがとうございますっ』
ペコリと頭を下げると、跡部は素っ気なく返事をして前に向き直る。
りんもそれに合わせ前を向き、煎れてくれた紅茶に口を付けた。
跡「…あいつには、渡したのか?」
『え?』
跡部はティーカップを置き、りんの方を向く。
跡「……白石」
ドキンと、鼓動が大きくなった。
りんは俯きながら小さく首を横に振る。
跡部はハァと呆れたように溜め息を吐き、足を組み直した。
跡「お前はあいつとどうなりたいんだ?」
『ど、どうって…』
どうなりたいのか、そんなことは考えたことがなかった。
ただ自分は彼が好きで、その先の関係なんて、想像も出来なくて。
『前に、白石さんに言われたんです。自分の好きと、私の好きは違うって…』
きっと今も、そう思われてるはず。
『ただ、同じだって…伝えたくて』
跡部はりんの空になったカップと自分のを持ち、立ち上がった。
書類だらけの机の上に置き、再び溜め息。
跡「大体、半年以上も待ってられるなんて…相当気が長くなきゃ無理だろ」
『!!』
ガンと衝撃を受けるりん。
何故跡部が知ってるのかと疑問に思うことも忘れ、自分の意気地の無さに落ち込む。
『し、白石さんを目の前にするとどうしても言えなくて…っ』
跡「……ヘタレ」
『うう…』
跡部はしゅんと落ち込むりんに近付き、その腕を掴み立たせた。
驚いて顔を上げるりんに、「行ってこい」と言い捨てる。
跡「こんなとこまで義理チョコ配りにくる暇があんなら、本命のとこ行ってこい」
『でも明日は部活「本当に欲しいものは、何もかも捨てて手に入れろ」
そう言う跡部は、真っ直ぐにりんを見ていて。
まだ動けないでいるりんに、「行け」とさっきよりも強く叫んだ。
『…跡部さん、ありがとう』
微笑んだりんの瞳は…純粋で、まったく迷いがなかった。
跡部の一番好きな笑顔。
自分の元から次第に遠ざかって行く背中を、目を細めて見届ける。
振り返り部屋に戻ろうとすれば、先程自分がいた場所に忍足が座っていた。
跡「…いつからいた」
忍「始めっから。二人とも全然気付かへんやもん」
優雅に紅茶を飲む忍足を見て、何故か肩の力が抜けた。
忍「…知ってたんか、りんちゃんの気持ち」
跡「…見てればわかる」
「よう見てんなー」と言われ跡部の機嫌が悪くなると、忍足はコホンと小さく咳払いをする。
忍「諦めたんか?」
そう聞いてから少しの間があり、
跡「あいつがりんを泣かせたら、その時は必ず奪う……それだけだ」
相変わらず、余裕たっぷりで言い切る。
忍「(…やっぱり跡部やな)」
変わったのは、以前より優しい顔をたくさんするようになったことくらいか。
跡「……忍足、付き合え」
忍「何処に?居酒屋とかはアカンで」
跡「…テニスコート」
低く呟き部屋を出て行く。
忍足は「了解」と苦笑し、その背中を追い掛けた。