贈り物

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リョーマの双子の妹




二人で暫く夜景を眺めていると、「そうや」と白石がポケットを探る。


首を傾げるりんの目の前に、クリスマスカラーでラッピングされた包みを取り出した。




白「誕生日プレゼント。遅くなってしもーたけど」




驚いて白石を見上げると、少し照れているようにも感じた。



そっと開けてみれば…ビーズの花のヘアピン。
りんの口から思わず『可愛い…』と零れる。




白「姉妹以外に女の子にプレゼントするのなんて初めてやったから、何あげたら良いか全然わからんかったけど…」



『…いいんですか?』



白「そんなんで良かったら、もろうてや」




りんはヘアピンを見つめてから顔を上げる。




『ありがとうございます。
……嬉しい、』




ふわりと、本当に嬉しそうに微笑んだ。


「どう致しまして」と白石も微笑んだ瞬間、二人の鼻先に冷たい何かが当たった。




『……雪?』




りんが両手を差し出してみると、手の平の中にあるのは確かに雪で。




白「…ホワイトクリスマスやな」




12月に雪が降るなんて珍しくて、白石も顔を上げてそれを見つめる。



りんは静かに降る雪を見つめながら、幼い頃のことを思い出していた。







リョーマと雪だるまを作ったこと。





雪の中、手を繋いで帰った日のことを。






『(…お兄ちゃん、何してるのかな…)』






プレゼント、届いたかな。




風邪、引いてないと良いな。












白「…りんちゃん?」




白石の声にハッと気付く。

危うく落ち込んでしまうところだった。




『ごめんなさい…ちょっと昔のこと思い出してて、』




えへへと笑って見せるが、その顔は泣きそうで。




白「…………」




何かを考えた後、白石は小さな手をそっと握る。


突然のことに驚いたりんだったが、その気持ちに応えるかのように、やがてギュッと強く握り返した。




その時、携帯の着信音が鳴り響いて、りんは慌てて繋いでいた手を離してしまった。


白石は携帯を見て「ちょっとごめんな」と言うと、部屋の中に入っていく。




ドキドキと高鳴る胸に手を当てて、静かに振る雪をぼんやりと眺める。


すると、さっき出て行ったばかりの白石が再び隣に立ち、りんに携帯電話を差し出した。




『?』




りんが首を傾げると、




白「クリスマスプレゼント」




その言葉に顔を上げると、白石は優しく微笑んでいた。


躊躇いながらもそれを受け取り、そっと耳に当てた。




『……もしもし』




恐る恐る声を掛けるが、返事がない。




『もしもし…?』




もう一度、声を掛けてみる。















《………りん?》






聞こえた声に、耳を疑った。




まさかと思ったが、確かめたくて。




『…お兄ちゃん…?』




強く、携帯を握る手に力を入れる。










《…うん》




それは間違えなくリョーマの声で、りんの瞳から堪えきれず涙が溢れた。




《…変わらないね。泣き虫なところ》



『だ、だって…』




顔は見えなくても、リョーマが呆れたように溜め息を吐いている気がした。


白石は気をきかせ部屋の中に入り、りんはごしごしと涙を拭いた。




『急すぎて…びっくりしただけだもん』



《本当?》



『本当だよ!』




「いつも泣いてるんじゃない?」とからかうように言うリョーマに、あながち間違いではないとりんは真っ赤になって小さくなる。




りんは白石さんといる気がしたから、電話したんだ》



『え、そう言えば…お兄ちゃんどこから掛けてるの?』




リョーマの携帯は海外対応していないはず。

だからいつも手紙を送っていたのだ。




《寮の電話、無理行って貸してもらってる。だから少ししか出来ないけど、》



『そっか…』




話したいこと、聞きたいこと、たくさんあったはずなのに、いざ声を聞くと何も言えない。


りんはそうだと思いついた。




『お兄ちゃん、お誕生日おめでとう!』




声を張り上げて言えば、少しの間があり、




りんもじゃん》




リョーマは小さく笑いながら、「おめでとう」と言ってくれた。




《マフラー届いたよ》



『本当?良かったぁ』




嬉しくて頬を緩める。

リョーマのアメリカの学校の話などを聞いて、元気そうで良かったとりんは安心して微笑んだ。


跡部の家で誕生日パーティーをしていることを言えば、リョーマの機嫌が少し悪くなった気がした。




『あ!今ね、雪が降ってるんだよ』



《へぇ、珍しいじゃん》



『うん!お兄ちゃんもそっちで見たら、教えてね』



《何それ》




電話越しに知らない男の人の声が聞こえて、英語でそろそろ時間だと言っていた。





本当は、きりたくない。





だけど、リョーマを困らせたくないし、仕方のないことで。



俯いていると、リョーマの「りん、」と呼ぶ優しい声音が聞こえた。




《春にはちゃんと戻るから》



『…うん』



《それまで、待ってて》



『うん』




じゃあ、と囁かれ、電話がきれると思った。



だけど、











《メリークリスマス、りん




その言葉に、りんは段々と笑顔になる。




『メリークリスマス、お兄ちゃん』









あの日リョーマは、りんに言った。








―あのさ、りん



―なぁに?








―…俺と一緒に生まれて来てくれて、ありがとう










きっと、一生忘れない言葉。



あの日からクリスマスイブの誕生日が、りんにとって特別な日になった。






今日という日も一生忘れないだろうと、りんは空から振る雪を見上げ思った。





























一階の会場では、そろそろパーティーの終了だという合図があり、皆帰り仕度をしていた。




跡「白石、今日泊まる部屋だが……どうかしたか?」




白石の表情を見て、跡部は眉を寄せた。




白「いや、何でもないで。部屋が何?」



跡「ああ。あの琴平(紅葉)って女だけ別室で、あとは全員一緒でいいか?」



白「おおきに。折角のクリスマスやのに…ごめんな」




シャンパンを渡され、壁に背を向けて座る跡部に合わせて、白石も腰を下ろした。


もったいないと食べれるだけ口に詰める桃城や丸井を呆れながら見ていると、「何でやろ」と隣からぽつり聞こえた。




白「…何で、近付く度もっとってなるんやろ、」




「今までも、ずっと一方的やったのに」と言う白石は、どこか苦しそうに見えた。




跡「…それが普通だ。でも、」




跡部の言葉に耳を傾けていると、「白石ー!」と呼ぶ金太郎の声が響いた。




白「はいはい、ったく今度は何やねん」




白石はハァと溜め息を吐きながら立ち上がり、金太郎の元へと歩いて行く。


跡部はその背中を見てから、自分の持つグラスに視線を落とした。




跡「…一方的じゃ、ねーだろ」




独り言のように呟いた言葉は、深く胸に突き刺さる。


グラスに映る自分の顔は、先程の彼が見せた表情と良く似ていた。


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