招待Ⅱ
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『だ、だからあれは…咄嗟に思い出してっ』
跡「でもお前…男って、」
『もう、そんなに笑わないで下さい///』
今だに可笑しそうにクックッと笑う跡部に、りんは赤くなりながら頬を膨らませる。
二人は人混みから離れ校舎の裏に来ていた。
『この前も同じようなことあったから、そしたら仁王先輩がこう言えって教えてくれたんです』
跡「仁王…」
絶対からかわれてるだろうと思ったが、りんが余りにも本気で信じてるようだったので言わなかった。
跡部はハァと小さな溜め息を零す。
跡「隙だらけなんじゃねぇか?」
『隙?』
跡「ぼぉっとしてるから狙われんだよ」
りんは一瞬キョトンとしたが、暫くしてムゥと微かに眉を寄せた。
『隙なんてないですよ』
跡「どーだか。じゃあこれは何だ?」
ニヤリと笑った跡部を不思議に思い視線を下に向けると、その手には自分がまだ配り終えていない残りのチラシがあった。
『(…い、いつの間に!)』
これじゃ本当に跡部の言う通りだとショックを受ける。
すっかり落ち込んでしまったりんを見て、跡部はチラシの束で軽くその頭を叩いた。
跡「早く終わらせて来い。手伝うって言っても断わるだろうからな」
「ここで待っててやる」と言う跡部。
その言葉を聞いてりんの顔は段々と笑顔になって、
『…はい!』
去り際に見せたのは、いつもの笑顔だった。
パタパタと走って行く背中を見届けながら、跡部は自然と口元を緩めていた。
無事全て配り終えたりんは、先程の場所まで小走りで向かっていた。
しかし校舎の裏に回っても姿はなく、不安になりながらももっと奥へ足を進めると、先程の賑やかな雰囲気とは一変した場所に辿り着いた。
紅葉した葉やイチョウの木がたくさんある中、二人掛けの小さなベンチが一ヶ所だけ置いてある。
聖華女学院生徒の間では恋人同士の憩いの場だと有名で、りんの一番好きな場所でもあった。
ふと、その中にある一本の大きな木の下に跡部らしき姿を見付けた。
『跡部さ……』
近付いて声を掛けようとしたが、その姿を見るなり思い留まる。
跡部はその場に座り、木を背にして眠っていた。
『…遅くなってごめんなさい』
自然と口から零れ、りんはしゃがみ込む。
その寝顔は普段の彼より随分幼く見えて、
『…やっぱり、似てるなぁ』
りんには兄のリョーマと被って見えた。
何だか起こすのが悪い気がして、同じように近くに腰を下ろした。
跡「……ん、」
跡部がゆっくりと目を開けた時、映ったのは紅葉した木々と今だ誰もいないベンチだった。
遠くから賑やかな声が聞こえ、いつの間に寝てしまったのかと前髪を掻き上げる。
が、ふと感じた肩の重みに顔の向きを変えると、そこには眠るりんの姿があった。
跡「………」
自分の肩に頭を乗せて、スヤスヤと気持ち良さそうで。
こういうところが隙だらけで無防備なんだと、また知らぬ間に溜め息を吐く。
強引に自分のものにしようとも、彼女に対しては思わない。
何故なら…りんは真っ白だから。
すごく単純なこと。
いつも人の為に泣いて、怒って、笑って。
少しも汚れてなくて、余りにも純粋だから、誰も触れられない。
跡「(…何でだろうな)」
手を伸ばせば届きそうなのに、何故か戸惑う。
『…い、ちゃ…ん…』
小さく小さく聞こえた声。
『おにい、ちゃん…』
りんを見ると、眠っているはずなのに涙が頬を伝っていた。
その時感じた、言い表わせない気持ち。
誰も一歩を踏み出せないのは、紛れもなく、絶対に越えられない壁があるから。
跡「…お前も不器用だな」
独り言のように呟き、涙を拭く代わりにそっと小さな手を握った。
拭くのを躊躇ったのは、その役目は自分ではないと思ったから。
だけど想像したくなくて、静かに前を見つめ握った手に力を入れた。