招待Ⅰ
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一方、サッカー部主催の焼きそば屋は訪れる客で賑わっていた。
鷺「ふふ、今年も俺らの勝ちだな」
焼きそばを焼くのは部員に任せ、自分は離れたところから椅子に座りその光景を見ていた。
鷺「(…幸村の奴、)」
悶々と闘争心が沸き上がってきて、ふと昔を思い出す。
それは、一年前のこと―…
鷺「あ!いけねっ」
鷺谷の蹴ったボールが案の定遠くに飛び、慌てて取りに追い掛けて行った。
テニス部の部室の裏に回ると、
花壇にボールが入り、花を折ってしまった。
鷺「(やっちゃったか…まぁいいや、今の内に…)」
誰もいないことを良いことに戻ろうとすれば、前に立つ何かにぶつかってしまった。
恐る恐る顔を上げると、
幸「………」
花壇の創設者、幸村精市本人がいた。
鷺「あー…えっと、これから気を付けますので、すいませんでした」
小さく頭を下げると、幸村はニッコリ笑い突然鷺谷の足を踏み付けた。
驚いて顔を上げると、さっきよりもニッコリ微笑んで、
幸「今回は仕方ないけど、次やったら…」
「この花達のようにしてやるよ」と耳元で低く囁いた。
その時、幸村の後ろに得体の知れない真っ黒な何かが見えたのだった…
鷺「(天使の微笑みとか言われてるけど、絶対悪魔だって、)」
あれから鷺谷は幸村を恐れ、それが何故かライバル心に変わっていった。
この文化祭でも、絶対に負けられない。
「鷺谷さん大変です、客が…っ」
鷺「どうした?」
「皆テニス部に集まってます!!」
その言葉を聞き、サッカー部は慌ててテニス部の店を訪れた。
そこには、
「私も焼きそばお願いします!」
柳生「かしこまりました。りんさんお願いします」
『はい!』
人混みを掻き分けて見てみると、店の中で調理をしてるのはりんだった。
客は次々と焼きそばを注文していく。
鷺「な、何でこんなに…俺らと変わんないだろ」
赤「それはどーかな」
仁「気になるなら食べてみんしゃい」
仁王に焼きそばを渡され、鷺谷は眉を寄せつつも口に運ぶ。
鷺「!!」
それは同じ焼きそばでも、自分達のと比べ全然違った。
麺は水っぽくもなくパリパリすぎでもなく、具も丁度良い大きさとボリュームで、そしてこの味。
ソースの他に何かを使ってるような…
『えと、特別なことは何も…』
鷺「そんな筈ないだろう!何か隠してるな?」
『ただ、麺を焼く時に油に生姜を加えて、炒めた後蒸し焼きにしてみました』
調理の手を止め、りんは微笑みながら答えた。
『前に料理番組でやってたのを、真似しただけなんですけど』と付け足して。
鷺谷は呆気に取られてポカンと口を開けていた。
幸「どうやら勝負ありのようだね」
鷺「……っ」
『幸村さん!』
振り向くと、そこには沢山の女の子達を引き連れた幸村の姿があった。
幸「りんちゃんお疲れさま。それと鷺谷、」
りんを見て微笑んだ後、前に視線を戻しゆっくりと歩み寄る。
鷺谷が思わず後退りすると、フッと笑われた。
幸「この子達が教えてくれたよ。君に脅されてたんだって、ね」
鷺「!な、何のことだか」
「私達、この人に弱みを握られて、言う通りにしないと幸村くんにバラすって言われてたのよ!」
「だから仕方なく食べに行ってて、」
女の子達は幸村ファンクラブらしく、寄って集って鷺谷に詰め入る。
鷺谷は最早弁解の余地がなかった。
そんな…とその場に崩れ落ちるように手を付いた時、目の前に誰かが座った。
『鷺谷さん、本当はこんなことしたくないんですよね』
鷺「…え?」
『だって、花壇に水をやったり…本当はすごく反省してて、仲良くなりたいんじゃないですか?」
鷺「………」
顔を上げた鷺谷にりんはそっと手を差出して、ふわりと優しく微笑んだ。
鷺谷は微かに頬を赤く染めその手を握ろうとすれば、別の手が間に入ってきた。
幸「お互い勘違いしてたようだ。…悪かったね」
鷺「…幸村…先輩!」
手を握れば、幸村はニッコリと微笑んで更に力を込めた。
その力強さに鷺谷は眉を寄せていると、耳元に幸村の顔が下りてきて。
幸「まぁ、花の件は別だけどね…」
微笑んだ幸村の背後には、真っ黒い何か…そう、大魔王様が確かにいたのだった。
仁「(…鷺谷、諦めるんじゃな)」
柳「(…慣れるしかない)」
『(仲良くなれたみたい、良かったぁ)』
りんだけはその黒いものの存在に気付かず、仲良く手を握る二人を見て微笑んでいた。
それぞれが片付けに取り掛かり始める中、りんと丸井は店の外の長椅子に腰掛けていた。
丸「…今日、ごめんな?」
『え?』
申し訳なさそうに眉を下げる丸井を見てりんはキョトンと目を丸くする。
丸「折角来たのに全然回れなくて、」
『…そんなことないです、楽しかったですよ』
やっぱり一人より、こういう行事は大勢の方が楽しいんだと改めて思った。
そんなりんを横目で見ながら、丸井はそっと鞄からある物を取り出した。
丸「あのさ、コレ…」
『?』
りんの膝に置かれたのは、綺麗にラッピングされた包み。
首を傾げつつ丸井を見ると、顔を赤くして前を見ていた。
『あの、』
丸「やるよ。開けてみ」
『えと…はい』
良くわからぬまま包みを開けると、小さなウサギの形をしたおまんじゅうが入っていた。
『可愛いー…』
目を丸くしながら見惚れていると、丸井は無造作に頭を掻いた。
丸「料理大会のお菓子部門に出した奴なんだ。優勝出来るかはわかんねぇけど」
『出来ますよ!絶対出来ます!』
バッと身を乗り出して叫ぶりんに、丸井は目を丸くしてから可笑しそうに笑い出した。
丸「まだ食べてねーのに?」
『う…でも絶対大丈夫です!』
丸「ありがとな」
少し照れつつも微笑むと、りんも柔らかく微笑み返した。
その表情に又もや心臓が大きく鳴り慌てて顔を背ける。
俯きながら「りんさ、」と呟いた。
丸「…好きな奴とか、いるか?」
『ふぇ?!』
ある人が頭に浮かびカァァと顔を真っ赤にするりん。
一緒になって思わず俯くと、丸井は顔を上げくるっとりんへと体の向きを変えた。
丸「俺、りんのこと…す「先輩ー片付け終わったっスよ!」
「早く回りましょーよ!」とウキウキ体を弾ませる赤也に、ガクッと肩を落とす。
柳生「まだやってるところもあるそうです。りんさんもご一緒に行きませんか?」
『いいんですか?』
幸「勿論だよ」
パァッと花が咲いたように笑うと、りんは赤也に続き駆け出して行った。
仁「惜しかったのぉ」
丸「…うるせー」
ニヤニヤと笑い肩に手を掛ける仁王。
その手を勢い良く払いながら、離れて行くりんの背中を見つめた。
丸「(…まぁ、いいか)」
今日を一緒に過ごせただけで。
それは丸井だけじゃなく、皆同じ気持ちだった。
数日後、テニス部は部活部門で見事賞を貰い、学食で特別メニューを食べていた。
赤「う、うめぇ…」
柳生「りんさんに感謝しなければ…」
だが、
鷺「幸村先輩、あの天使のような少女は今度いつ来るんですか?」
毎日のように、幸村の元へ鷺谷は現れていた。
幸「今食事中だから後にしてくれないかな?てゆーか…
帰れよ」
その度黒い幸村を目にするようになり、テニス部の皆は寿命が縮まっていく気がしていた。