すれ違い
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―合宿3日目―
海「足が追い付いてねぇんだよ、そこ!!」
海堂の力強い打球に、部員達は必死で耐えていた。
ついには倒れてしまう荒井。
海「何やってんだてめぇ!」
荒「ちょ、ちょっとタンマ!」
しかし、海堂の打つ球は容赦なく荒井に向かう。
菊「おっかないにゃ~海堂」
『………』
苛立ちを露にする海堂を、りんは心配そうに見ていた。
堀尾達から今日の練習試合は三年生抜きで行うと聞いたが、それに関係してるんだとすぐに理解した。
不「大丈夫かな、フォローしなくて…」
手「それでは意味がない」
河「あと数ヶ月もすれば、一、二年生だけの練習が当たり前になるんだよなぁ」
大「それはそうだが…」
対する皆も、思うことは同じで不安らしい。
けれども一度決めたのだから、どうすることも出来なかった。
桃「……はぁ、」
球を受けた感じから部員の実力を判断し、その現実に桃城は深い溜め息を吐いていた。
ふと、肩をトントンと叩かれ、
白「これ、うちらの練習試合のオーダー表や。そっちのメンバーは?」
桃「え?それがーその…」
周りを見渡すが、全員顔を俯かせていて。
すると、桃城が持つ紙を海堂が奪い「決める必要ねぇ」と前を睨む。
海「俺とあんたら全員で勝負だ」
それを聞いた四天宝寺の皆は「はぁ?」と目を見開き驚いた。
海「大体お前が、一、二年生だけでやれと言われてびびってるからだ」
桃「うるせぇ!俺だってこんな…「もういい!」
びくっと反応し、揃えて顔を向ける。
竜「監督、すまんが今日の練習試合は中止にさせてくれ」
渡「…そうしましょか」
「頭を冷やしてこい」とスミレに怒鳴られ、桃城と海堂は何も言わず出て行ってしまった。
『先輩…っ』
慌てて後を追おうとするりんの腕を手塚が掴む。
手「…行くな。本人達で解決しなきゃならない」
『でも…っ』
静かにわからせるように言う手塚を見て、やがてコクンと頷いた。
ふと後ろに目を向けると丁度白石と視線がぶつかったので、りんは慌てて逸らしてしまった。
『はぁー…』
練習を続ける四天宝寺の部員がいるので、りんは部室を借りてドリンクを作っていた。
無意識に零れた溜め息に気付かず扉を開けた時、
財「何しとるん?」
『!!わわ!』
急な財前の登場に驚いて手に持つドリンクを落としそうになったが、何とかバランスを取り直した。
『ドリンク作ってたんです。あ、部室をお借りしてすみません』
財「…いや、ええけど」
ようやるなぁとりんを見ながら改めて思った財前。
財「自分の先輩心配やないん?」
りんは一瞬キョトンとして、『えっと』と呟く。
普段の彼女だったら、自分も何か出来ることがないかと一生懸命働くはず。
なので財前は、今普通にしているりんが不思議だった。
『…心配です。だけど、先輩達なら大丈夫です』
『信じてます』とふわり笑うりん。
ふと、財前はりんを見て思い出す。
財「…昨日、」
『え…?』
財「急に帰ったから、部長めっちゃ落ち込んどったで」
その言葉にりんは顔を俯かせた。
暫くすると前から小さな溜め息が聞こえて、顔を上げると財前が呆れたように自分を見ていた。
財「嫌やったんやろ、紅葉さんと白石部長が」
『………』
そう思いたくないけど、ゆっくり頷く。
『…私、すごく悪くて、嫌な女なんです』
眉を寄せて言えば、財前は一瞬目を丸くする。
けれで突然吹き出し、クックッと笑いだした。
財「普通自分で言わへんやろ」
『ほ、本当です!///』
笑われたことにムッとしつつ、でも何より財前がこんなに笑った顔を初めて見たから、りんは驚いていた。
『…二人が話してるのを見てたら、すごく胸が痛くなって…見たくないって思って、だから…嫌な女なんです』
楽しそうで、
自分の知らない顔で笑ってて、
見たくなくて…逃げ出したくなって。
財「…鈍感ってよう言われへんか?」
『へ?』
財前は再び溜め息を吐き、りんと視線を合わせる。
財「想っとるだけじゃ伝わらん」
それは、りんの心に深く響いた。
財「原因は二人おるんやろ。
本人が嫌なら、もう一人にしたらええ」
「何かわかるんやないか?」と言う財前の言葉を、りんは考えて。
ようやく結論にたどり着いた時、その瞳は真っ直ぐで濁りがなかった。
『…私、ちゃんと知りたいです』
この気持ちが何なのか、
ハッキリさせたい。
財前はそれを聞くと、りんが腕に抱えるドリンクをすべて奪い自分の腕に収めた。
りんが何か言う前に「行きたいんやろ」と一言。
『…ありがとうございます。行ってきます!』
大きく頭を下げて駆け出したと思ったら、くるっと振り返り、
『財前さんって良い人ですね!』
笑顔で言うと、りんは背を向け走りだした。
財前はその後ろ姿を見つめながら、初めて人から言われたのでただ呆然とする。
と、ふと自分の横から欠伸をする声が聞こえたので顔の向きを変えた。
財「…千歳先輩、寝てたんスか」
千「んー白石に呼び出されたけん、きたっちゃけど、練習してなかったから」
千歳のジャージには葉っぱがたくさん付いていて、誰が見ても今さっきまで近くの裏山で寝てたとわかる。
マイペースな先輩に呆れつつもお先にと早足になった時、「財前」と名前を呼ばれた。
顔だけ振り返ると千歳はフッと笑い、
千「良い人と好きな人は別ものやけんね。頑張り」
何も言わず顔を元に戻すと、さっきよりも早く歩き出す財前。
財「(……ムカつく)」
心の中で舌打ちをし、先程言われた言葉とを重ねて微かに眉を寄せた。
たったっと足音を立てて、りんはひたすらに走る。
いつからだろうか
気付かないうちに、こんなに、こんなに
あなたで、私の中がいっぱいになったのは
―その子が泣いとると俺まで悲しくなって、その子が笑っとると俺まで嬉しくなる
『(私も…同じ)』
わかるのは、あの人の笑顔が大好きだと言うこと。
嬉しそうに、照れたように、優しくふんわり微笑んだ顔が好きで、
……好きで、
『好き…』
色んな感情が頭の中で交ざった時、この一言が確かに口から零れ落ちた。