別れ
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*リョーマside*
俺は今、あるホテルの前にいる。
部活もないし、りんは俺と過ごしたがってると思ったけど、何も言わずに家を出た。
すぅと息を吸い、大きく前に踏み出した、その時。
「ん?コシマエやんか~!」
聞き慣れた声に振り返ると、遠山と…誰だっけ。
謙「ちょ、忍足謙也や!忘れんといてーな」
「…ああ。ども」
心の声がバレたのか、謙也さんはムスッと眉を寄せる。
…金髪の人って覚えよう。
金「コシマエ、どないしたん?」
「別に。白石さんに話があって」
このホテルは、合宿中に遠山から聞いた。(とゆうか勝手に喋ってた)
どうしても、今日じゃなきゃ駄目だった。
金「白石?コシマエが何の話や?」
「…何って、」
言葉に詰まっていると、
謙「…白石なら部屋におると思うで。案内しよか?」
じっと見ていた謙也さんが何かを察したのか、遠山を連れて建物に入っていく。
以外に鋭い人だと思いながら、その後について行った。
白「越前くん、どないしたん?」
一つの部屋の前に来ると、中から白石さんが顔を見せた。
俺の姿を見るなり目を丸くする。
「急ですみません。…話があって」
暫く驚きの表情をしていた白石さんは、それ以上聞くことはなく俺を部屋に招き入れた。
遠山が続いて入ろうとすれば、謙也さんに襟を捕まれ引きずられて行った。
白「驚いたわ。越前くんが訪ねて来るなんて」
持ってこられた椅子に静かに腰を下ろす。
「コーヒー飲める?」と聞かれたけど、すぐ帰るんでと断った。
緊迫した雰囲気を察したのか、白石さんも静かに近くの椅子に腰を下ろす。
その姿を真っ直ぐに見据え、口を開けた。
「俺、明日アメリカに行きます」
聞き返されるより早く、言葉を繋げる。
「知り合いがアメリカのテニススクールに通うらしいんです。
プロの選手と対戦出来る機会も多いみたいで…」
アメリカに行くことは、全国大会が終わったあたりから決めていた。
このまま日本にいても、色々なプレーヤーと戦えるだろう。
けれど、俺は
「自分の力を、もっと試してみたいんです。一人になって」
今までは、先輩達の存在や…りんがいたから頑張れたのかもしれない。
だけど、それじゃ何も変わらない。
白「…その知り合いって、クリスくんのことか?」
やっぱり見抜かれていたと思いながら小さく頷く。
クリスはあれから父親とちゃんと話したらしく、二十歳まで好きにさせて貰えることになったらしい。
その連絡をこの間受けて、決心した。
そのまま、暫く静寂が続いた。
白「越前くんが決めたなら、そうしたらええと思うで」
「俺に止める権利もないし」と力なく笑われる。
確かにそうだと思うけど。
ふと、急に白石さんは真剣な顔付きになった。
白「…りんちゃんには言ったんか?」
その問い掛けに小さく首を横に振る。
「…そのことで、お願いがあります」
今日来た本当の理由
それは、たった一つ
「りんのこと、よろしくお願いします」
白「え?」
俺は多分、生まれて初めて人に頭を下げた。
悔しいけど…りんのことを任せるなら、この人がいいと思った。
りんはきっと、気付いてないけど、多分。
二人の間には、俺が入り込めない何かがある。
白「何で俺なんや…?」
嫌だとかそんな聞き返しじゃなくて、ただ不思議だと言うように白石さんは眉を寄せる。
「白石さん、好きなんですよね?りんのこと」
気付いてた、何となくだけど。
だってこの人、りんにはものすごく優しく笑うし。
白「そやな」
素直に頷かれて一瞬ムカッとしたけど、どこか安心もした。
「りんは泣き虫だから、俺がいないって知ったら絶対泣きます。だから、そしたら…傍にいてあげてくれませんか?」
本当は、俺が傍にいたいけど
「怖がりで、本当は甘えたくても、我慢してるところもたくさんあるから」
だから、
「よろしくお願いします」
深く、もう一度頭を下げると、キィと椅子を引く音がする。
ぽんっと頭に手が置かれたことに驚き顔を上げれば、白石さんは優しく笑っていた。
白「任せとき。せやから越前くんは、アメリカで頑張らなアカンで?」
「帰って来たら対戦しよーな」とまた頭をぽんぽん叩かれる。
「…ありがとうございます」
他人にお礼を言うことも滅多にないのに、自然と口から零れてしまった。
何だか自分じゃないようで、目の前でまだ頭に手を置く白石さんにムカついた。
だけど、りんを好きになった人がこの人で良かったって、
この時、強く思った。
家に帰ったら、きっとりんが待ってる。
どんな顔をして会えばいいかわらない。
遠回りして、俺は家路を歩き出した。