兄の記憶
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*りんside*
『はぁ、はぁ…』
たくさんたくさん走って、気付いたら…もうコートからずいぶん離れた所まで来ていた。
『……』
゙君のこと知らないんだけど゙
さっき言われた言葉が、頭から離れない。
『……う…』
泣いちゃ駄目だと思っても、涙が瞳にじわりと溜まる。
「りんちゃん?」
突然聞こえた声に勢いよく振り返ると…
『し、白石さん!』
(何でここに?)
驚きすぎて声が上ずってしまった。
白「飲み物でも買お思うて来たんやけど、偶然やなぁ」
『本当、ですね』
小さく笑い返すと、何か言いにくそうに頭に手を置く白石さん。
不思議に思い首を傾げれば、あーと頭を掻く。
白「ホンマはな、りんちゃんが歩いとるの見て追ってきたんや」
『?』
何か用事でもあったのかなと思ったら、「せやから」と呟く。
白「りんちゃんと話したくてな」
『え…』
白「ほら、焼肉屋でもあんまり話せんかったし」
そう言って笑う白石さんは、驚いている私に向かってゆっくり近付いて来た。
泣きそうな顔を見せたくなくて思わず俯いていると、そんな様子に気付いたのか白石さんは首を傾げた。
白「?どないしたん」
なかなか顔を上げない私を見つめ、覗きこむようにしてくる。
白「りんちゃ『だ、大丈夫です…っ』
バッと顔上げると、心配そうな表情をした白石さんと目が合った。
(あ…れ、)
その顔を見たら、何故だか涙が溢れそうになって。
白「…何かあったんか?」
伸ばされた手は、そっと私の頬に触れる。
『……えと、』
声を出した瞬間、ポロポロと流れる涙。
絶対泣いちゃ駄目なのに、心配かけちゃうのに。
白石さんだって、困るに決まってる。
白「…何があったかわからんけど、俺で良かったら話聞くで?」
思っても見なかったことを言われ、頬に添えられていた手はいつの間にか頭に置かれていた。
『お、お兄ちゃんが…』
白「うん」
『私のこと…知らないって…記憶喪失だから、忘れて当然だけど、でも…すごく悲しくて、それで…』
白「…うん」
今まで我慢していた涙が一気に溢れ出てくる。
本当は、信じたくない。
お兄ちゃんの中に私はもういないんだって思うと、胸が押し潰されそうなほど痛い。
『忘れちゃやだよ…やだ…』
泣きじゃくる私を、白石さんはただ黙って聞いていてくれた。
今どんな顔をして見てるのか、わからないけれど。
白「…落ち着いたか?」
『…はい』
自販機から少し離れたベンチに座りぼーっとしていると、白石さんがほいとファンタを差し出した。
『あ、ありがとうございます…』
白「どういたしまして」
遠慮がちに渡されたファンタを飲むと、泣き付かれた喉を潤してくれた。
(な、何だか…急に恥ずかしくなって来ちゃった)
さっきまで白石さんの前で泣いていたのだ。
思い出したら、カーっと顔に熱が溜まった。
今更ながら1人で慌てていると、白石さんが持っていたジュースをベンチに静かに置いた。
白「りんちゃんって、ホンマは泣き虫やんな」
『…!』
バチッと目が合い、更に顔が熱くなる。
白「…必死で泣かんようにしとるみたいやけど、そんなんすることないで?」
「泣きたい時は泣けばええ」そう言って、また私の頭に手が置かれた。
『…は、い』
小さく頷くと優しく頭を撫でられる。
よしよしと宥めてくれているみたいで、すごく安心した。
白「でもな、今しなきゃアカンことがある」
撫でていた手を止め、真剣な表情になる。
『しなきゃいけないこと…』
白「そや。りんちゃんしかできんことや」
(私にしか、できない…)
それは、記憶のないお兄ちゃんの為にできる、精一杯のこと。
『…私、』
少し考えた後、すくっと立ち上がる。
『いってきます…っ』
大事なことに気付いたよ。
真っすぐに白石さんを見つめると、ふっと小さく笑った。
白「頑張ってな」
その言葉だけで、すごく勇気がもらえる。
『はい!』
大きく返事をして、コートへと走りだした。