第弐武将「騒がしさは終わりの近づき」
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海月(みつき)
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下校時間。
家も知らないため帰るしかないかと思っていたとき、先生に呼ばれ頼まれたのは、美海の家にプリントを届けてほしいというもの。
なんとか美海の家の住所を手に入れた私は、書かれている場所まで歩く。
そんな私に佐助は、危険だと言い引き留める。
美海の家。
つまりは才蔵だけでなく信長もいる可能性が高い。
これでは、敵の領地にみすみす入るようなもの。
「心配してくれてありがとう。でも、私はそれでも行く」
「はぁ……わかった。アンタが行くなら、護衛を任されてる俺も行くしかないからな」
佐助と共に先生から貰った地図を頼りに歩いていくと、林の前で足が止まる。
地図は林の先を示しており、どうやらこの林の奥に美海の家があるようだ。
足を踏み入れる前に佐助から、用心しろと言われ頷く。
才蔵の気配すらわからない私では用心のしようがないが、警戒しながら進んでいき、ようやく開けた場所に出ると一軒の家が見えた。
とうとう辿り着きインターホンを鳴らそうとするが見当たらない。
どうしようかと家の前でたたずんでいると、背後から名前を呼ばれ振り返る。
するとそこには、薪を持った美海の姿。
そしてその肩には、才蔵の姿もある。
「なんでここに……」
「ちゃんと話がしたくて。それとプリント」
驚く美海だが、薪を置いてくるから待っているように言われ、戻ってきた美海は私を家の中へと上げる。
油断するなよ、という佐助の言葉に頷き案内された部屋に、美海と向かい合う形で座る。
話したいことは沢山あるが、一体何から聞いていいかわからずにいると、美海は話始めた。
自分の家の事や才蔵と何故いるのかを。
美海の家は忍びの家系であり、戦国時代では信長に仕えていた。
そんな家で生まれ育った美海は、存在が不確かである現代唯一の忍び。
ほとんどの忍びの家系は現代では受け継がれていないが、美海の家だけは先祖代々から続いてきた。
そして今は美海が受け継いでいる。
勿論、自分が忍であることは誰にも知られてはならない。
それは孤独でしかなく、現代の人達にももっと歴史や武将などを知ってもらおうと思い始めたのが武将アプリ。
そして私に薦めたあのアプリと出会った。
美海にもメールが届いたが、書かれていたのは私に届いたものとは別の文面。
俺に仕えろ。
ただそう書かれたメール。
不思議に思いつつも、何事もなく眠りに着いた翌朝、美海の前に現れたのは、才蔵と信長、そしてその家臣達。
最初は驚いた美海だったが、私の名が出され話しを聞くと、内容は私が佐助から聞いたものと同じことを聞かされた。
私が戦国時代姫であったこと。
そして、その姫に武将達は恋に落ち文を出した。
だがその翌日、姫は亡くなり、最後に書いていたとされる姫の文は一体誰に宛てたものだったのか。
信玄達は今の私には関係のないことだといっていたが、信長は違う。
姫の生まれ代わりである私をなんとしてでも手に入れようと考えている。
そんな信長には、姫が書いたとされる文が誰に宛てられたものかなどどうでもいいことだった。
姫を自分の物にする、ただその欲望を叶えようとしているだけ。
「いくら昔の事とはいえ、私の家系は信長様に仕えてきた。逆らうことなんて出来なかった」
だから美海は信長の指示に従いあのアプリを私に薦めた。
いつもみたいにスルーしてくれることを心の中で期待して。
でも私は、そのアプリに引き寄せられるかのようにインストールしてしまった。
そのあとも美海は、何も知らない振りをしながらいつも通りに私に接した。
怪しまれないように会話で情報を探り、帰り道、後をつけたのも偵察のため。
やはり美海は私を騙していた。
でも私にとって美海は友達でありそれは変わらない。
美海の手にそっと自分の手を重ね、ありがとうと口にする。
今私の瞳に映るのは、悲しみで歪む美海の顔。
本当に騙そうとしていたなら、そんな顔するはずがない。
美海は瞳に溜まった涙を拭うと、直ぐに帰るように私に言う。
今信長は眠っており、家臣達は信長の傍についている。
目を覚ます前にこの場所から離れなくては、信長は何をするかわからない。
「でも、もしこのことが知られたら……」
「大丈夫、なんとかなるから」
心配ではあるが、美海の思いを無駄にしないためにも、この場から離れようとしたとき佐助が口を開いた。
お前は信長に仕えてるんじゃねぇのか、と才蔵に視線を向けている。
確かに才蔵は信長に仕えている忍。
信長に知らされてしまえば美海が危険だ。
鋭く睨み付ける佐助だが、その心配はないよと才蔵の代わりに美海が答える。
一体どういうことなのか話を聞きたいところだが、そろそろこの場から離れないと信長が目を覚ましてしまうと美海に言われ、その場から離れ家へと帰る。
帰り道。
先程美海が言った言葉を思い出していた。
才蔵が話す心配はないと。
才蔵は信玄達を裏切ってまで信長に仕えた人物。
どうやら才蔵が信玄を裏切ったという件にも何か理由がありそうだ。
家へと帰ってくると、佐助が今日の事を信玄に報告する。
だが、とくに何をするでもなく、今まで通り佐助には私の護衛をするように言うだけだった。
そんな事実があった日でも朝は来る。
翌朝、佐助の護衛と共に学校へ行くと、そこには美海の姿。
教室に入ってくる私に気づくと、いつもと変わらない笑みを私に向けおはようと挨拶をしてきたため、私もいつも通り接した。
家系や生まれ変わりなんて関係ない。
美海は私にとって大切な友達だから。
そんな友達を苦しめないために出来ること、それはただ一つ。
「美海、私を信長達に会わせて」
「昨日のことは知られてないから大丈夫だよ」
「そうじゃないの。このままじゃダメだって思うから」
ミニ武将達が現代に現れた理由が私にあるのなら、このままこそこそなんてしてられない。
怖くないと言ったら嘘になるが、同じ人なら話くらいは通じるはず。
佐助は反対してるけど、これは私が決めたことで、私にしか出来ないこと。
私の決意を曲げることは難しいと判断したのか、佐助は溜息を吐くと、俺も一緒に行くからなと言う。
不安げにする美海に、佐助がいるから私は大丈夫だよと笑みを浮かべる。
美海の肩にいた才蔵が、俺も護衛してやると言ってくれるが、裏切り者の護衛なんて不要だと、佐助は睨みをきかせる。
昨日のことはどうやら信長には話していないみたいだし、才蔵が悪い人には思えない。
もし才蔵が信長に本当に仕えているのなら、何故昨日のことを報告しないのかも疑問だ。
「佐助、才蔵にも護衛を頼も」
「何言ってんだ! アイツは裏切り者で、何を企んでるのかわからないんだぞ」
「そうかもしれないけど、私にはそんな悪い人に思えないから」
私の言葉に佐助は不愉快そうに眉を寄せると、勝手にしろと言う。
なんとか話は纏まり下校時間になると、私達は美海の家へと向かう。
信長達がいる部屋まで案内すると、美海は襖越しに声をかけ戸を開ける。
部屋の畳の真ん中に一人。
その人物の両脇に一人ずつミニ武将が座っていた。
まるで、信玄、政宗、謙信のようだが、雰囲気は全く違う。
張り詰めた空気には、信玄達のようなほのぼのとした雰囲気は微塵もない。
信長は、美海に部屋から去るように言い、部屋には信長達と私、佐助と才蔵が残された。
沈黙が流れる中、話さなくてはと思い口を開く。