第参武将「想いは時を越え」
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海月(みつき)
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「折角食べるように言ってくれてんだからお前も食べろよ、っと」
「んぐっ!?」
才蔵は無理矢理佐助の口に料理を押し込むと、佐助はモグモグと食べたあと怒りだす。
そんな姿を見ていると、まるで昔の二人を見ているようで懐かしい。
そう思ったとき、何故私はこの二人の姿が懐かしいと思ったのか不思議だった。
昔の二人なんて知らないはずなのに。
少しずつかもしれないけど、姫だった記憶やその時の感情が私の中で目覚め始めているのだろうか。
だとしても、肝心なことはわかっていない。
手紙が誰に宛てられたものかさえわければ、ミニ武将達が成仏できるかもしれないのに。
明日がゆっくり回れる最後の日。
明後日には帰らなくてはいけない。
あと一日でわかるのか不安を感じてしまう。
「あんま悩むんじゃねーよ」
「悩むに決まってるよ。私が思い出せば皆……」
才蔵は心配して声をかけてくれたのはわかる。
でも私は、皆を成仏させたいという気持ちとは別に、思い出さなくちゃいけない。
そう思っていた。
理由はわからない。
でも答えはきっと、姫の書いた手紙にあると確信していた。
その日夜私は夢を見た。
前世での私の姿。
それに一緒にいるのは才蔵。
「才蔵、どうしていたのですか? 甲斐に招かれたときも姿がありませんでしたが」
「俺は信長についた」
これは、佐助から聞いた話の続き。
城へ戻って数日が経ったある夜、佐助は姫の城に現れた。
そしてそこで聞かされた言葉、それは甲斐への裏切りを意味する。
姫は才蔵の言葉に驚いた。
才蔵も甲斐皆は確かに仲間だった。
とくに才蔵と佐助はよく張り合って喧嘩もしてたけど、それでも仲がいいことは誰が見てもわかる。
なのに、何故裏切るなんてことをしたのかわからない。
何度尋ねても答えようとしない才蔵。
姫の瞳には涙が浮かぶ。
皆を裏切るような真似、才蔵がするなんて思えない。
そこにはきっと理由があると思った。
だが、結局才蔵はその問いに答えることはせず、その場から姿を消した。
そこで夢は終わってしまい、目を覚ました私の頬には涙が流れていた。
姫の気持ちが痛いほど伝わる。
やっぱり今日、手紙の宛先を知らなくちゃいけない。
そこに書いてある内容も。
きっとそれはミニ武将達にとっても、私にとっても大切なものだから。
「今日はここに行こうと思うんだ」
「歴史展示館?」
美海の話によると、今この展示会では有名な武将達の生前使われていたものが集められて展示されているらしい。
普段は違う県に展示されていたりする品々が期間限定集められ展示される。
展示会の場所もここから近い。
もしかしてこの展示会のためにこの旅館を選んだのではと思い美海に視線を向ければ、ニシシと笑みを浮かべている。
私のためでもあるんだろうけど、確実に美海自身が見たいとその笑みが語っている。
でも、いろんな武将達の物が一箇所に集められるなら願ってもないチャンス。
図書室で資料を見たときみたいに何かを思い出すヒントになるかもしれない。
最近は頻繁に前世の夢を見たりして、なんだか答えに近づいてきている気もする。
兎に角善は急げということで展示会に向かう。
道中美海のテンションが高くて武将や歴史について色々話されたけど、内容はほとんど覚えていない。
いくら実際に武将がいるからって、元々興味ないのだからそれに変わりはない。
私が知りたいの手紙のこと。
そして才蔵のこと。
最初はミニ武将達に早く成仏してもらって、普通の生活に戻りたいだけだった。
でも今はそれよりも、私は真実を知りたいと思ってる。
少しずつだけど、前世と今の私の心がリンクしてきているように感じる。
勿論、いくら生まれ変わりでも私は私だから、前世の自分とは違うけど、それでも、私の心が知りたいと言っているから。
「到着! いざ展示会に出陣」
展示会の前についた途端、美海のテンションはマックス。
完璧に楽しんでるなと苦笑いを浮かべつつも中へと入る。
そしてものの数分で大変なことになった。
美海が消えました。
一人で興奮してどんどん進んでいくんだから。
展示会には結構な人数の人がいる。
きっと、武将アニメやアプリなどの影響できている人もいるのだろう。
展示の物を見て名前を言いながら興奮してる女の子達もいる。
まるで美海みたいだなと思っていたとき、私は何かに呼ばれている気がして、自分でもわからないが足がそちらへと向き引き寄せられていく。
立ち止まった場所には、先程の人だかりが嘘のように誰もいない。
入ってはいけない場所なんじゃないかと思ったとき、私の瞳に苦無が映る。
それを見た途端、私の瞳からは涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
理由はわからない。
ただ悲しくて苦しい。
「どうかしたのか?」
いつの間にか肩に乗っていた才蔵。
私が泣いていることに気づいて鞄から出てきたのだろう。
何でもないから大丈夫だと伝えるが、止まらない涙は大丈夫には見えない。
そんな様子の私の耳に、才蔵の声が届く。
「泣くなって。アンタは笑ってろよ」
その言葉を聞いた瞬間、遠い昔の記憶が蘇った。
それは、前世の私が武将達に猛アプローチをされ、奪い合いの騒動が繰り広げられていた頃のことだ。
とくに困った相手は織田 信長。
彼は私を手に入れるためなら手段を選ばず、あの手この手で私に迫った。
断ればいい話だから、私の国は小国。
怒りをかって戦にでもなれば、この国は跡形もなくなる。
下手に断ることも出来ず悩んでいたある日、一通の文が届いた。
また信長辺だろうと思っていたら、差出人は甲斐の虎と呼ばれる武田 信玄。
甲斐からの誘いは初めてだが、内容はやはり私を欲しいというもの。
これ以上大事にしたくはないが断ることも出来ず、私は甲斐に行くことに決めた。
数日後、私は甲斐を訪れていた。
客人であり、信玄に好かれた私の扱いはとても優遇された。
これは、どこの国に招かれてもいつも同じ。
私に何かあれば周りの者が罰を受ける。
だから城の中の者皆が、まるで私を恐れるように扱う。
とくに酷かったのは尾張。
信長は、私を傷つけたりするものを切り捨てても可笑しくはない人物。
女中のみでなく、家臣でさえも私を慎重に扱う。
思い出しただけでも息が詰まりそうになる。
奥州や越後にも招かれたことが何度かあるが、尾張よりはまだよかった。
でも、私を一人の人として誰一人見てはくれない。
私にだって感情はある。
なのに皆、私を奪い合い傷つけ合う。
遂には家臣にさえ想われて、まるで私は物のよう。
「揃いも揃って恋に落としちまうなんてどんな女かと思えば、暗い表情ばかりの女だな」
信玄から与えられた部屋で一人考えていると、突然声が聞こえ振り返る。
するといつの間にいたのか、誰もいないはずのこの部屋に音もなく姿を現したのは、忍び装束を着た一人の男。
誰なのか尋ねると、男は霧額 才蔵と名乗った。
甲斐忍びであり、幸村に仕える忍びの者の一人。
いろんな武将や家臣さえも恋に落とす私の存在に興味を持ち様子を窺いに来たらしい。
「まさかこんな女一人に武将達が揃いも揃って恋とはな」
「勝手な事言わないでッ! 私は、好きで好かれた訳じゃない。私にだって感情はあるの」
溜め込んでいたものが一気に溢れた。
皆勝手なことばかり。
なのに、なんでこんな風に言われなくてはいけないのか。
「なんだ、感情もない人形かと思ったが、しっかり言えんじゃねーか」
才蔵の言葉に、私はハッとする。
自分が今まで言えなかったことをついに言ってしまった。
でも、何だか心がスッキリしたような気持ちだ。
「まあ、あの武将共にアンタの本心を伝えたところで諦めるなんざしないだろうが、お人形よりはマシだろ」
才蔵の言葉に私は口元を緩め、初めて上っ面ではない笑みを見せた。
その笑みを見た才蔵は私に言ってくれた。
「アンタはそうして笑ってる方がいいぜ」
その日から私は、しっかり本心を伝えるようになった。
とはいえ才蔵の言った通り武将達は聞く耳持たずで、あの文の話になった訳だ。
でも、そんな中でも才蔵とはあの日以来本心で話し合える仲になり、その後、才蔵と佐助が私が甲斐に訪れた際の護衛役に決まった。
よく喧嘩をする二人だったけど、仲がいいからこそだというのは見ていればわかる。
そしてこの三人と過ごす時間こそが、私にとって一番自分らしくいられる場所となっていった。
自分の国以外で、こんなにも安心できる場所はここを置いて他にはないだろう。
それも全ては才蔵のお陰。
だが、その幸せは長くは続かなかった。
武将達の文が私の元に届き、この中から誰か一人を選ばなくてはならないという選択が私に迫られた。