一羽の鳥は二羽となる《修正中》
名前変更
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【デフォルト】
高野 千良(たかの ちよ)
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「先程城下で姫様とおられるのを見て驚きましたが、あの時の殿は心から楽しそうに笑みを浮かべておられました」
「それが変化、ですか?」
「はい。些細なことかもしれませんが、あのように穏やかに笑う殿を見たのは初めてのことです」
そんな話をしながら散歩を終えると、小十郎に自室まで送ってもらい、千良は一人窓の外を眺めていた。
ここからはお城の庭しか見ることができず、自分が城で過ごしていたときと何も変わらなく思えてしまう。
結局千良はあの城から出ても、またここでも城の中なのだと溜息を吐く。
「政宗様も、私と同じなのかしら」
そんなことを考えていると、突然思いきり襖が開かれ、一体何事かと視線を向けると、そこには政宗の姿がある。
そして廊下からは足音がこちらへと近づいてくる。
「殿!!姫様の部屋に声もかけず入るなど……!」
政宗の後に続き現れたのは小十郎で、またも政宗は小十郎にお叱りを受けている。
「俺の妻になるかもしれぬ女を訪ねて何が悪い」
「まだ仲を深めるというだけであり、婚姻を結ぶかは決まっておりません」
訳がわからず二人を交互に見ていると、小十郎が話している途中にもかかわらず、政宗は千良を姫抱きにした。
「きゃッ!?」
「殿!!」
「仲を深めるのだろう?ならば、肌を重ねれば早い」
そう言うと政宗は、千良を抱きかかえたまま小十郎から逃げるように部屋を飛び出した。
「殿!!」
「政宗様!?」
「お前を楽しませてやるから安心しろ」
千良と政宗の後を小十郎が追ってくるが、政宗のが早くなかなか追い付かれずにいた。
そんな騒がしい音が廊下に響き渡っていたため何事かと、部屋を出てきた和京の横を政宗が通り過ぎる。
「姫様!?」
和京も加わり政宗の後を小十郎と和京が追ってくるが、曲がってすぐの部屋に政宗が入ると、二人は気づくことなくその部屋を通り過ぎてしまった。
「行ったみたいだな」
何故だかわからない、でもこのとき千良は楽しくてつい笑みが溢れてしまった。
「笑ったな」
「え?」
「お前、城下で会ったときもそうだったが、ずっとつまらなそうな顔をしていただろ。俺もずっとつまらなかった。城で過ごす生活がな……」
「政宗様……」
政宗も自分と同じ気持ちだったのだと知り、何だか安心してしまう。
姫に生まれたくて生まれた訳じゃない自分と同じ様に、政宗も主君に生まれたくて生まれたわけではないのだ。
生まれてから決められた運命、そんな運命が、千良は嫌で仕方なかった。
「政宗様は、こんな運命は嫌だと思ったことはありませんか?」
尋ねると、政宗はゆっくりと口を開いた。
政宗は、幼少気から天下をとる男として育てられ、今ではこの手で何人もの人を斬ってきた汚れた手だ。
城下へ出るさいにも家臣を連れなければならず、一人で自由にできる時間などはなく、政宗はそれが嫌で仕方がなかった。
眉を寄せ、悲しげに、苦しげに話す言葉を聞いて、やっぱり政宗も自分と同じだと感じた。
「だが、今ではそうは思わない」
「何故ですか?城からも出られず、勝手に決められた道だというのに」
千良は、政宗様と自分を重ね合わせてしまい、何故政宗は受け入れられるのかわからなかった。
だからこそ知りたいと思ったのだ、自分と似たこの人が、何故こんな運命を受け入れたのか。
「俺はこの国が好きで、小十郎や家臣を守りたいからだ」
その言葉を聞いた瞬間ハッとし気づいた。
千良は姫であり、国を守らなければいけない。
そしてその国の中には、自分の好きな和京や皆がいるのだと。
国のためになんて自分にはわからないが、和京や大切な人達の笑顔を自分も守りたい。
「私は、今まで城に閉じ込められる日々がつまらなく退屈なもので、逃げ出したいと感じていました。奥州に来たのだって、父上が勝手に決めたことで、結局何処へ行っても、城に閉じ込められる毎日は変わらないのだと……」
「それは違うな」
その言葉に、伏せていた顔を上げると、政宗の手が千良の顎を掴み自分へと向ける。
重なる視線に鼓動が高鳴り、その瞳には千良を映している。
「俺の妻となる女に退屈なんてさせねぇさ」
「ま、まだ婚約するかは決まっておりませんから!」
「俺はもう決めた。お前と祝言をあげるとな」
驚きのあまり言葉が出ず固まっていると、千良の体は畳へと押し倒され、簡単に唇を奪われてしまう。
慌てて政宗の胸を両の手で押すがびくともせず、ようやく唇が放されると、口角を上げ笑みを浮かべる政宗の姿が瞳に映る。
「言っただろ、肌を重ねれば早いってな」
「祝言もあげていないのに、このようなこと……!」
「そんなのは関係ねぇさ。お互いに想いがあるならな」
「わ、私は、政宗様のことを好いてなどっ……」
そこまで言うと、千良は言葉を呑み込んだ。
好いてなどいないとハッキリ伝えなければならないのに、それができないのはきっと、政宗に惹かれている自分がいるからだ。
この人なら、退屈な城に閉じ込められているだけの日々を変えてくれるような、そんな期待を感じてしまう。
「好いてないとでもいうつもりか?今この状況で顔を真っ赤にしてるのに」
「ッ……!!」
「まぁ、お前が好いてなかろうが、これから惚れさせてやるから安心しろ」
千良を見つめる瞳はどこまでも真っ直ぐで、政宗は適当な気持ちではないのだと感じる。
「政宗様は、私のことを好いておられるのですか……?」
「自分は言わねぇくせに俺に聞くとはな。好きでもねぇ女にこんなことしねぇさ」
そのとき、小十郎が言っていた言葉が脳裏に過った。
政宗は女人に興味を示したことがない。
そんな人が今自分を押し倒し、こんなに真っ直ぐに見つめてくれている。
それが一番の答えなのかも知れない。
「まだわからねぇって言うなら、今からたっぷりその体に教えてやるよ」
政宗の手が千良の頬を撫で、その手は首筋へと滑らされる。
それだけで体は跳ね上がり、触れられたところが痺れたような感覚になる。
「姫様はこういったことが初めてみたいだな。だが、好きな女を前にして、抑えられるほど甘くはないぜ?」
政宗の唇が千良の首筋へと近づくと、噛みつくように口付けられ、つい声が漏れてしまう。
「紅い華が首筋に咲いたな。お前の白い肌によく似合う」
このままでは雰囲気に流されてしまいそうだと思ったそのとき、足音が廊下から聞こえてくる。
その足音はこの部屋で止まると、勢いよく襖が開かれ和京が姿を現した。
「姫様ッ!!」
「ご無事ですかッ!!」
襖が開かれ現れたのは、和京と小十郎だ。
二人はずっと探してくれていたらしく息をきらしながら入ってきたが、千良と政宗の姿を見た二人は目を見張る。
「殿ッ!!なにをしておられるのですか!!」
小十郎に叱られ、政宗が渋々千良の上から退くと、心配した和京が千良へと駆け寄る。
「姫様ッ!!大丈夫ですか、って、どうされたのですか!?首が紅く……!!」
先程首に付けられてしまった跡を、和京に見られてしまい隠そうとするが、すでに遅かった。
「殿ッ!!祝言もまだだというのに姫様になんということを!!」
そんな騒動もあった後、自室へと戻った千良は和京が傍につくこととなり、政宗は小十郎が監視することとなった。
それでも政宗は小十郎の監視から逃れては、夜な夜な千良の部屋へと訪れ、その度に千良と政宗は二人に気づかれぬようにお互いの想いを育んでいった。
そんな日々を繰り返し、無事二人は祝言を挙げることになるのだが、それはもう少し先のお話。
《完》