この叫び、アナタに届いていますか?
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高野 千良(たかの ちよ)
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私が新選組に入隊したのは最近のことで、副長である土方さんや局長の近藤さんには会ったことはあるが、総長である山南さんにはまだ会ったことがなく、どんな人なのかを知らない。
副長や局長と話すことが多いのは幹部が殆どで、私の様な新入り隊士はなかなか話す機会もなく、私の所属する一番組の沖田さんに尋ねると、真面目で良い人だと話された。
会話の殆どは土方さんへの悪口だったが。
総長のことは数回見かけたことはあるが、まだ話したことはない。
だが、昔から一緒で総長から弟のように可愛がられている沖田さんが言うのだから、きっといい人なのだろう。
そんな事を考えながら、鍛錬を終えた私は手ぬぐいで汗を拭きながら通路を歩いていると、前から来た総長に気づき足を止める。
すると、総長も私の前で立ち止まった。
「君は、最近一番組に入隊した高野 千良さんですね」
「え、どうして私の名を……」
まさか、私の様な新入り隊士の名を覚えていてくれたなど思いもせず驚いていると「ここにいる仲間の事ですから当然ですよ」と、総長は柔らかな笑みを浮かべる。
沖田さんから聞いてはいたが、局長と同じ優しい雰囲気を感じる。
局長以外にもこんな人が居るんだなと思いじっと見詰めていると「どうかしましたか?」と尋ねられた。
人の顔をじっと見るなんて失礼な事をしてしまったことに慌てて謝ると、総長はくすくすと笑う。
「私がそんなに珍しかったですか?」
「い、いえ。ただ、安心するなと思って」
屯所内に局長や総長の様な人は滅多におらず、こうして優しい表情や言葉をかけられると心が落ち着く。
そんな私の気持ちが伝わったのか、総長は口元を綻ばせると、私の頭に手を置いた。
「女隊士だと何かと大変だと思いますが、お話し相手なら何時でもなりますからね」
「はい。有難うございます」
去っていく総長の背を見詰め、嬉しさが心を満たすのを感じていた。
私はこの場所では肩身の狭さを感じており、女だからと他の隊士達と同じに見てもらえない事が嫌だった。
冷たい隊士達からの視線や態度は、私など必要ないと言っているように思えた。
その上、よく隊士達が話す私の事には、決まって沖田さんの名が出された。
沖田さんは私と同じ年であり、女隊士。
だが、私なんかとは比べるまでもなく、刀の腕は斎藤さんに引けを取らない程の実力の持ち主であり、幹部隊士にまでなった人。
女と思わせない程の実力で隊士達から一目置かれており、私とは全てが違いすぎる存在。
隊士達が比べられてしまうのも無理はない。
だが私は沖田さんの様にはなれなくても、仕方がないと諦めてしまうより、努力をして、今よりも強い自分になりたい。
女であっても戦えるのだと。
そう思う私にとって、総長の言葉はとても温かく目頭が熱くなった。
翌日。
私が朝から鍛錬に励んでいると、沖田さんがやって来て「よかったら手合わせをしよ」と誘われた。
勿論返事は決まっている。
実力の差は歴然だからこそ、手合わせをしたいと思った。
強い人がいるからこそ、その人を目標にして更に強くなることができる。
そして私の目標となる人物は、沖田さんなのだ。
「君とは一度手合わせをしたかったんだ。同じ女隊士として興味があったからね」
お互いに竹刀を持ち向き合うと、一気に空気が変わったのがわかる。
まるで、真剣での勝負のようだ。
だからといって怖気づいたりはしない。
私は真っ直ぐに沖田さんを見据えると、右足を踏み出す。
すると突然、今まで自分の手に握られていた竹刀はふっ飛ばされ、床へと落ちた。
一瞬の出来事に何が起きたのか理解できずにいると「握りが甘いよ」と余裕の表情の沖田さんが瞳に映る。
沖田さんの強さを改めて実感した私は、悔しさよりも憧れが増した。
同じ年、同じ女でも、こんなに強くなれる。
今はまだ難しいかもしれないが、努力は自分を成長させてくれるに違いない。
そう思った私は手合わせをした日から、今まで以上に鍛錬に励むようになった。
甘いと言われた握りは勿論、もっと早く動けるように。
そして今日も私は一人竹刀を握り鍛錬をしていたのだが、体力の限界が来てしまい、汗まみれのままその場で仰向けになり倒れ込んだ。
こんなことではまだまだあの人の様にはなれないなと思っていたとき、聞き覚えのある優しい声音に慌てて上体を起こすと、そこには総長の姿があった。
「総長、何故ここへ?」
「この前沖田くんから君と手合わせをした事を聞いたものですから、気になっていたんです」
私の事を気にかけてくれたことが嬉しくて口元が緩む。
総長は誰にでも優しいのかもしれないが、その優しさが私にも向けられると、自分も隊士の一員として認められているんだと思えた。
冷たい視線や態度は今までにも向けられており、私を邪魔に思う者は沢山存在する。
女は足手まといと思うのは仕方のないことで、そう思うのが普通だ。
そんな私を局長は隊士として、仲間として新選組に迎え入れてくれた。
私を女だからと否定せず、一人の武士として見てくれた。
「私、もっともっと強くなります。足手まといなんて思われないように」
そう言った私の言葉に「それは無理ですね」と、総長の冷たい言葉が返ってくる。
その瞬間、私の中の何かが崩れ落ちたような気がした。
私の努力は報われないと言われたようで。
「私が女、だからですか……」
「違いますよ」
総長が違うと否定しても、私にはそう思えなかった。
新選組という場所を局長に与えてもらったのに、その場所は私の居場所ではないと言われているようで、気づけば瞳からは涙が溢れ出し、その涙は頬を伝いポタポタと落ちていく。
私は涙を隠すようにその場から走り去り自室に戻ると、脚から崩れ落ちた。
溢れだす涙は止まってはくれず、私は声を殺し泣き続ける。
一人の武士として、仲間として思ってもらえている、そう思っていた。
誰に認められなくても、誰か一人にでもそう思ってもらえていれば頑張れた。
なのに、優しい言葉をかけてくれた総長の言葉は違うかったのだと知り、局長も同じだったらと思うと胸が苦しくなる。
それからしばらくして夜になり、屯所内が静寂に包まれている中、私は誰にも気づかれないように外へと出た。
行き先などないが、もうここには居られない。
兎に角屯所から離れなくてはと、宛も無く歩く。
脱走した私は局中法度により、捕まれば切腹。
だが、もう私は何も考えたくなかった。
しばらく歩き続け屯所から離れたものの、いつ追手が来るかわからない。
もしかすると、すでに私が居なくなったことに気付き、追ってきているかもしれないがそれでもよかった。
私の居場所は無く、頑張る意味さえ見失ったのだ。
いっそ捕まって楽に、そう考えていたとき、私の腕を誰かが掴み振り返る。
「はぁはぁ……君は、何をして、いるんですか」
そこにいたのは総長で、走って追ってきたのか、肩で息をしながら言葉を発している。