一筋の光
名前変更
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高野 千良(たかの ちよ)
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私は姫で、彼は忍び。
決して結ばれることのないこの想いは、伝えることすら許されない。
姫である私は、有名な武将との婚約の話が出ていた。
相手は甲斐の虎とも呼ばれている武田 信玄。
家臣は槍の使い手である真田 幸村。
そして、真田率いる真田十勇士。
天下を取るのは、尾張の織田 信長、奥州の伊達 政宗、甲斐の武田 信玄ではないかと噂されている。
そんな武将の一人と今回の話、母上も父上も大喜びで受けた。
私の気持ちなど関係なく。
皆私が信玄様と結ばれることを望んでいる。
私の我儘ではどうにもならない現実だ。
この国の姫である私は、自分の幸せなど考えてはいけない。
だからそっとこの気持ちに蓋をする。
「佐助、佐助」
「んな何度も呼ばなくても聞こえてますよ」
どこから現れたのか突然部屋に現れた佐助。
彼は私が呼べば、いつでもどこでも駆けつけてくれる。
少しぶっきらぼうだけど、本当はとても優しくて誰よりも大切な私の想い人。
「で、何の御用ですか」
「佐助の顔が見たくなっただけよ」
そんなことで呼んだんですか、と溜息を吐かれしゅんとしてしまうと、頭をポンポンと撫でるように叩かれ、顔を上げれば、んな落ち込むことないでしょう、と優しい言葉をかけてくれる。
その時、廊下から女中の話し声が微かに聞こえてきた。
内容は明日の事だ。
私と信玄様の初の顔合わせ。
もしこれで上手くいけば、私は信玄様と祝言を挙げ、共に甲斐のお城で暮らすことになる。
女中達は、羨ましいわよね、なんて話していたが、代われるのなら代わってほしいのが本音だ。
だが、その本音は口に出してはいけない。
「明日上手くいけば、私は甲斐の姫になるのよね。そうなれば、佐助も私の世話係兼護衛をしなくて済むのだから楽になるわね」
「そうですね。これで俺は、このお役目から開放されるわけですし」
嬉しそうに言う佐助に胸がチクリと痛む。
少しでも寂しがって引き止めてくれたら。
そんな夢のようなことを考えてしまう自分が嫌になる。
この気持ちには蓋をしたのだ。
望んではいけない。
そもそも佐助が私の事など妹くらいにしか思っていないことは知っている。
それでも、痛む胸まではどうすることもできない。
「佐助、城下に行きたいわ」
「姫さん、アンタ自分の立場わかってますか?」
立場なんて生まれたときから決まっていたのだからわかっている。
でも、もし明日上手く話が纏まれば、佐助と会うことも出かけることも出来なくなってしまう。
話が纏まらなかったとしても、そろそろ私も身を固めなくてはならない。
父上が別の方との話を持ってくるのは目に見えている。
だからこそ、今佐助と居るこの時を大切にしたい。
だが、そんなこと佐助に言えるはずもないため、明日信玄様にお会いするのだから、新しい髪飾りを見に行きたいのです、と適当な理由をつけ渋々承諾を得た。
一緒に馬に乗ると、背中に佐助の体温を感じる。
忍びのため正体を隠さなければならず、お城以外ではいつも変装をする佐助。
でも今日は女装ではないため、忍び装束から男物の着物に変え、普段上で一つに結っている髪を下で結んでいるだけだ。
女装の際は、キレイに化粧をほどこし、女物の着物を着て髪をおろしている。
そして、香り袋を忍ばせているため完璧な変装だ。
外見だけでなく香りにまで気をつける。
流石優秀な忍び。
いつも一緒にいるため忘れがちだが、佐助は忍びの中でもかなり腕の立つ人物。
今は私のお世話係兼護衛をしているが、私が祝言を挙げる方の元へ行けば、佐助は再び忍びとしての任務につくことになる。
そんなことを考えている間に城下につき馬から降りると、二人髪飾りの売られているお店へ向かう。
本当は適当な口実だったのだけど、折角なので、信玄様にお会いするのだからしっかりとした物を選んでおくことにしようと、並べられている髪飾りを眺める。
複数ある髪飾りの中で目に止まったのは、桜の飾りがついた簪。
手に取り値段を尋ねると、とても今の私では支払えない金額だ。
仕方なく別のを選んだが、こちらのが良かったかもしれない。
甲斐の人達の甲冑は赤備えのため、私が購入した椿がついた簪とは赤揃い。
明日の縁談が上手く纏まることを祈ると同時に、少しの心残りを感じながらお城へと帰る。
翌日。
私は信玄様と初対面を果たしていた。
朱色の着物に身を包み、髪には昨日購入した椿の簪。
そして目の前に座る信玄様も赤色の着物を着ている。
先程までは、信玄様の家臣である幸村様と、私の母上と父上もいたのだが、信玄様が二人きりで話したいと言ったため部屋を出ていってしまった。
初対面の相手と二人きり。
一体どうしたら良いのかわからず押し黙ると、信玄が口を開く。
「お主の着物に簪、全て赤じゃな。それは、わしに気に入られようとしてのことか」
その言葉に私は首を横に振り否定した。
確かに簪は、信玄様に気に入っていただけるかもしれないと思ったことは事実。
だが、着物は父上が用意した物。
正直このようなことで、もし好いてもらえたとしても、それは私を好いたことにはならない。
物で着飾ることは簡単かもしれないが、私はありのままの自分を好いてくれる人がいいと話したところでハッとする。
信玄様を前にしてなんてことを言ってしまったんだと後悔し謝ろうとしたとき、信玄様は笑い声を上げた。
突然の事に唖然としていると、今日は帰らせてもらうと言い残し、信玄様は去ってしまった。
その夜自室にて私は、今日のことを後悔していた。
確実に断られる。
そう思ったが、心はいつもより穏やかになっていた。
きっとそれは、もうしばらく佐助と一緒にいられるという安心からなのだろう。
想いが溢れてしまわないように、胸の前で両手をぎゅっと握る。
ずっと思い続けていた相手。
誰よりも特別で大切な人。
もし私が姫でなかったら、なんて考えてしまう。
でも、姫だから佐助と出会えた。
だからそんなことを思ってはいけない。
瞼を閉じ、一人考えながら眠りへと着く。
それから二日後のこと。
父上と母上に呼び出され、また別の縁談を持ってきたのだろうと、暗くなりそうな気持ちをぐっと耐え部屋へと入る。
すると、話は思いもしないものだった。
駄目だと思っていた信玄様から、是非私を貰いたいと文が届いたというのだ。
父上と母上は大層喜ばれていた。
私も笑みを浮かべたが、内心は笑えるはずもない。
数日後には甲斐のお城で暮らすことになるため、それからの城内は慌ただしくなった。
そして私はというと、出立の準備をしていた。
葛籠の中に必要なものを詰め、溜息を一つ吐く。
「これから幸せな未来が待ってるってのに溜息ですか」
振り返ればそこに佐助の姿があった。
相変わらず物音一つ無いためどきりとする。
佐助の言う通り。
私は信玄様と結ばれて幸せになる。
溜息なんて吐いてはいけないのだ。
信玄様の話は女中が噂しているのを聞いたことがあるが、とても良い方らしい。
この前対面したとき、笑顔の裏に何か隠しているような気がしたが、帰る際には本心からの笑みを私に向けてくれた。
まだ信玄様の事はわからないけれど、これから共に過ごすうちわかっていけるはずだ。