青い瞳に魅入られて《修正中》
名前変更
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高野 千良(たかの ちよ)
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「素敵な場所ですね。風も気持ちがいいですし」
「緑は心を落ち着かせてくれますからね。政宗様のお気に入りの場所なのです」
「そうなんですか?」
「ああ。それにこの場所は、夜に来ると夜空がとても美しく見えるからな」
美しく見えるという言葉とは裏腹に、何故かまた、政宗の瞳が悲しく揺らいだことに気づく。
だが、今はその理由を聞いてはいけない気がし、千良は視線を再び前に戻す。
こんな素敵な場所は、千良がいた未来ではあまりない場所だ。
この時代だからこそ、こんなにも美しく空気もすんでいるのだろう。
しばらく泉で癒された後、城へと帰る道中、またも政宗の馬に乗せられ帰ることとなった。
折角この時代に来て初めて癒されたというのに、城に着いた時には千良はヘロヘロとなっていた。
「はぁはぁ……っ、怖かった」
「だらしのない女だな」
「あんな速度で走られたら、こうもなるわよ!!」
まるで古くからの友人のように話す二人の姿に、小十郎はふっと笑みを溢すと、お昼にしましょうと言い、二人を部屋へと促す。
もうそんな時間になっていたことに気づいた政宗は、またも千良を担ぐと部屋へと連れていく。
「だから、担いで連れてくのをやめてってば」
「こうでもしなければ、お前は逃げ出しそうだからな」
「うっ……。それはそうかもしれませんが」
否定できないまま政宗の部屋に着くと、女中が膳を運んできてくれた。
こうして二人で向かい合いながら食事をするのは、まだ数回目だというのに、既に受け入れてしまっている自分がいる。
きっと、言わずともわかっているのだろう。
自分がどれだけ何を言っても、自分が政宗の物である事実は変わらず、聞き入れてもらえないと。
「食べていて思うけど、ここで出される料理って美味しいよね」
「当たり前だ、腕のいい女中に作らせているからな。だが、俺の料理はこれ以上に美味いぞ」
「え?政宗って料理できるの?」
「ああ。料理を作るのは楽しいからな」
男、それも政宗。
一国の主君が料理など本当に出来るのだろうかと思っていると、そんか千良の考えに気づいたのか、政宗はムッとした表情で、お前、信じていないなと一言言う。
すると、事実であることを証明すべく、今夜の夕食は政宗が作ると言い出した。
「今夜の夕餉を楽しみにするんだな。俺の作ったものが食えるなど、小十郎の他にはいないのだからな」
それから部屋に戻った千良はというと、一体どんな料理が出されるのだろうかと、期待と不安な気持ちで夜を待つ。
すると、襖越しに声をかけられ返事をすると、小十郎が部屋の中へと入ってくる。
「政宗様からお聞きしました。今日の夕餉は政宗様の作った物を食べられるそうですね」
「はい。なんだか会話の流れでいつの間にかそうなっていました」
苦笑いを浮かべながら答えると、小十郎はポツリと言葉を漏らした。
「もしかすると貴方なら、政宗様の傷が癒せるかも知れませんね」
「え?あの、それは一体__」
どういう意味なのか尋ねようとしたが、小十郎はスッと立ち上がると、今日の夕餉は有り難く召し上がってくださいねと言い残し、部屋を出ていってしまう。
結局、小十郎の言った言葉の意味はわからないまま夜を迎えると、襖が勢いよく開かれ、いつになく機嫌の良い政宗が千良を担いで部屋へと連れていく。
「今日は騒がないのだな」
「もう担がれるのに慣れました」
諦めたように答えると、政宗の部屋まで連れてこられ、やっと足は畳につく。
おろされた千良の目の前には、何品かの料理が置かれており、本当に政宗が作ったのかと尋ねると、当たり前だと言われ、座るように促されてしまう。
二人向かい合い座ると、政宗の視線が千良へと注がれる。
「食べてみろ」
「うん」
こうもじっと見詰められていると食べにくいが、お吸い物の入った器を手に取ると口につけ、ゆっくりと傾け一口飲む。
「美味しい!!」
「そうだろう」
食材は同じものの筈なのに、女中と政宗が作るだけでこんなにも変わるものなのだと感心する。
満足げに頷く政宗の姿が、何だから親に褒められた子供を見ているようで、笑みが溢れてしまいそうになる。
それから二人夕餉を済ませるが、政宗の許可がない限り部屋に戻ることはできないため、千良はまだ部屋に留まっていた。
どうしたらいいのかと考えていると、政宗に手招きをされたため近づく。
すると、伸ばされた手が千良の腕を掴み、前の様に千良の体は政宗の胸に引き寄せられてしまう。
顔を上げれば、前と同じ美しい夜空が広がっている。
そんな夜空を眺めていると、悲しげな声音が耳に届いた。
「俺の瞳は青く、気味の悪いものだ」
「え?」
夜空から政宗に視線を向けると、その瞳はまたも切なく揺らいでいる。
その悲しげな瞳を見つめ、政宗が話す言葉を静かに聞く。
政宗の瞳は生まれつき青く、周りから気味悪がられていた。
女中達が政宗に直接言うことはなかったものの、政宗様と呼び、笑みを向ける裏では、陰でひそひそと話しているのを幼い政宗は知っていた。
それから月日が経つにつれ、政宗の瞳の色は更に深くハッキリとした青へと染まっていくと、両親が自分の瞳を気味悪がっていることを知ってしまったのだ。
そんな政宗は誰にも心を開かなくなり、ある日、政宗は気味の悪い自分の瞳を刃物で傷つけた。
幸い、その光景を目撃した小十郎に止められ、右目を失うだけですんだ。
それからだ、政宗が珍しい物を集めるようになったのは。
「自分の様な珍しい物を集めることで、心にできた隙間を埋めたかっただけだった」
両親も亡くなった今。
この城の主となった政宗だが、瞳を悪く言う者は少なくとも存在する。
こうして夜空を見上げては、星や月の輝きで消されてしまう、深く青い夜空は綺麗ではないのだと胸を痛めた。
そのため、夜空を眺める政宗の瞳はこんなにも悲しみを孕んでいたのだ。
「俺の瞳は醜く、月や星の様にはなれない。だが、天下をとれば何かが変わるんじゃないかと思った。だが、なんと馬鹿馬鹿しい考えだったんだろうな。天下をとったところで、俺のこの醜い瞳は変わらない……ッ、あの時、この左目も無くしていれば」
苦し気に政宗の口から吐き出された言葉。
まるで、自分の存在を嫌っている様な言葉に、千良は政宗の両頬を手で挟み自分へと向かせた。
「貴方の瞳は醜くなんかない!!星や月になれない?そんなのになんてならなくても、貴方という存在はここにいる!!青い夜空だってそこにちゃんとある!!だから……だから、そんな悲しいこと言わないでよ……」
千良の言葉に、政宗は驚きに目を見開くと、その目は細められ、初めて見る優しい笑みを千良に向けた。
すると、千良の後頭部に手が回され、政宗は自分の胸に千良の頭を抱き寄せる。
「何故お前が泣きそうなんだ。やっぱり変わった女だな」
呆れた様に笑う政宗の瞳には、沢山の星や月の輝きが宿っており、政宗を照らす月明かりさえも政宗を輝かせている。
こんなにも眩しく美しいというのに、醜いなど思うはずがない。
「貴方の瞳は、星や月さえも霞んでしまうほどに綺麗なんです。他の誰が何を言おうと、私は貴方の、政宗の瞳が好きです」
「そうか、それも悪くないな」
「え?」
「お前が好きだと言うこの瞳なら、俺も好きになれそうだ」
笑みを浮かべる政宗を前に、千良は政宗から嫌われることなど既に考えてもいなかった。
何故なら、千良は気づいてしまったからだ。
自分は、この青く美しい瞳に魅入られてしまったのだと。
もしかすると、最初にこの瞳を見た瞬間から、千良はすでに政宗から目が逸らせなくなっていたのかもしれない。
もうこの人に嫌われることなどできるはずがない。
この青い瞳は、星や月さえも霞んでしまうほどに美しい。
星や月にはなれない夜空だが、そんな夜空を照らしているのが星と月であり、夜空がなければ、星や月が輝くことはできない。
そして夜空も、星や月がなければ、輝くことができない。
お互いにお互いを必要とする存在。
きっと政宗にも、そんな星や月の存在があるのだろう。
政宗の傍らにいる小十郎という一つの星。
そして、千良という、政宗を一番輝かせる存在である月。
そんな二人の存在があれば、きっと夜空は輝ける。
《完》