普通じゃない日々《修正中》
名前変更
名前変更夢主(主人公)のお名前をこちらで変えられます。
【デフォルト】
高野 千良(たかの ちよ)
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「こんな物しかできませんでしたけど、どうぞ」
「汁物か。ん? これはなんだ」
「目玉焼きです」
「めだまやき……」
↓以下未修正↓
信長さんは目玉焼きを箸で持ち上げると、目の前でヒラヒラと揺らしている。
目玉焼きって戦国時代になかったのだろうかと思いながら醤油差しを手に取ると、信長さんへと差し出す。
「この醤油をかけて食べてみてください」
「ふむ」
信長さんは一度皿の上に目玉焼きを戻すと、その上に醤油をかけ、しばらく見つめた後、再び箸で掴み口へと運ぶ。
「これは美味だな。何を使っておるのだ?」
「卵ですよ」
「卵にこのように食す方法があったとは……。でかしたぞ娘」
「私が考えた訳ではないんですけどね」
卵一つで驚かれ、味噌汁も、戦国時代とは味が違うらしく、気に入ってもらえたようだ。
朝食を済ませた後、私は食器を片付ける前に、信長さんが外に出ていったり家の中をうろつかないようにテレビをつける。
するとやはり信長さんはテレビに興味を示し、今のうちに片付けを済ませた。
数分で食器も洗い終わると、改めて信長さんが昨日この世界に来たときのことを詳しく聞く。
だが、昨日話していた以上のことはわからず、今わかっているのは、信長さんが桜の木に登って降りたらここにいたということだけだ。
「もしかしたら、同じことをすれば戻れるかも」
「うむ、試してみる価値はあるかもしれぬな」
同じことをするには外に出る必要があるわけだが、信長さんの着物では目立ってしまうため、家にあった紳士物の服へと着替えさせ、桜の木がある場所へと向かう。
近くにはないため、少し離れた場所へと二人で向かうが、今は桜も時期外れで咲いてはおらず、桜の木は緑の葉へと姿を変えている。
これで上手くいくかはわからないが、丁度周りには人の姿はなく、信長さんに今のうちに桜の木へと上がってもらう。
「信長さん、昨日のように降りてみてください」
「うむ」
信長さんは桜の木から飛び降りると、見事地面に着地する。
だが、普通に飛び降りただけであり、目の前には信長さんの姿がまだ存在する。
「やっぱり、桜が咲いてないとダメなんですかね。それとも、同じことをしてもダメなのか……」
暖かくなってきたと言ってもまだ桜が咲くには早い時期だ。
仕方なく別の方法を考えることにし、今日はもうお昼になってしまったため、近くのスーパーで買い物をして帰ることにする。
お昼は仕方なく外ですませ、買い物も終え、家へと帰って来たときにはすでに日が沈みがかっていた。
今から今度は晩御飯を作らなければいけないのだが、疲れきってソファへと倒れ込んでしまう。
お昼は外で食べようと店へ入ると、信長は珍しがり、なかなか大人しく座ってくれず、スーパーへ行くとフラフラと突然いなくなり探したりと、こんなに疲れる買い物は初めてだ。
少し休んでから作ろうとテレビの電源を入れると、画面には満開の桜が映しだされていた。
「信長さん、ありましたよ! 桜!」
ニュースでは、今年だけ何故か一本早く咲いた桜の木の紹介がされていた。
場所は家から近いため、人目がなくなった頃の今日の深夜にその場所へと行くことに決める。
ニュースでもやっていたなら人もいるだろうし、深夜の遅い時間なら、あの辺は街灯もなく暗いため誰もいないに違いない。
だが、まだ夜には時間があるため、私と信長さんはお風呂と食事を済ませると深夜になるのを待つ。
リビングのソファに信長さんは座り、もう1つのソファに私も座ると、不意に信長さんが口を開く。
「貴様との時間は短かったが、俺はお前と過ごした時間が今までで一番楽しく感じた」
「信長さん……」
もし信長さんがこれで戦国時代に戻ってしまったら、寂しい、なんて感じてしまうのだろうか。
最初は驚いたり、俺様な感じにイラつきもしたが、この短い時間ではある中、信長とのこの生活が続いたら、なんて思っている私がいたのかもしれない。
「この先、貴様と過ごした時間以上に大切なものはないだろう」
真剣な瞳で真っ直ぐに見据えられ、私の鼓動が小さく音をたてる。
「もう時間だな」
「そうですね」
寂しさを感じながらも、私と信長さんは桜の木がある場所へと向かう。
家から近かったため、電車やバスは必要なく、歩いて15分でついてしまった。
その15分、私は信長さんと何を話したらいいのかわからず、気づけば無言のまま目的の場所まで着いていた。
空からはひらひらと花びらが舞い降り、まるで信長さんが来た日を思い出す。
「本当に満開だ」
目の前には、ニュースで見たとおり満開の桜の木がある。
「登る前に聞いておきたいことがある」
「何ですか?」
「貴様の名だ」
突然名前を尋ねられ、考えてみれば一度も、自分の名を名乗っていないことに気づく。
もう別れるだけだというのに、私は自分の名を信長さんに教える。
「高野 千良か、良い名だ。最初は薄汚い娘だと思ったが、今は手放したくないとさえ思う」
「信長さん……薄汚いは余計です」
信長さんの目が細められたかと思うと、私に背を向け桜の木へと登っていく。
高いところまで登っていくと、信長さんは私を見下ろし口を開いた。
「千良、また会おう」
笑みを浮かべ信長さんが言うと、その瞬間、飛び降りた信長さんの姿は途中で消えてなくなり、地面に音が響くことはなかった。
悲しい気持ちをグッと堪え、桜の木に背を向け家へ帰ろうとしたとき、突然ドンッという音が響き振り返ってみると、そこには信長さんともう一人男の姿がある。
「信長さん!? なんで、帰ったんじゃ」
「帰ったことは帰ったのだが、こっちの時代のが面白い物がいっぱいあるんで戻ってきたのだ」
「で、そちらの男性は?」
「それがだな、元の時代に戻ったはいいんだが、向こうでは時間が全く進んでなかったのだ。それでこの秀吉に追いかけられながら木に登ったまではよかったんだが、秀吉まで登ってきてしまい一緒に落ちてしまってなぁ」
笑いながら話す信長さんの前で私は、滲んでいた涙を手で拭う。
確かにまた会おうとは言われた。
私もまた会えたらと思ったが、でもこれは。
「早すぎだーッ!!」
結局信長さんの他に秀吉さんまで増えてしまい、今思うことはただ一つ。
この人達が帰る日はいつくるのだろうか、ただそれだけだ。
《完》