季節外れの紅葉
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高野 千良(たかの ちよ)
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授業が終わり友達と教室に戻ろうとしたのだが、先生に呼び止められ、音楽室に二人きりとなった。
最初に出会った日以来、こんな風に二人きりになることもなかったため鼓動は高鳴る。
「すみません。引き留めてしまって」
「い、いえ」
一体なんの用事だろうかと言葉を待つと、先生は思いもしないことを口にする。
それは、女子生徒達の事だった。
未だ続く女子生徒の告白に悩んでいた先生は、どうしたら告白されなくなるのかを相談してきた。
「なんでそんな話を私に?」
「なんて言うのかな。高野さんは他の子より落ち着いてるから、何かいい方法があるかなと思ってね」
授業以外で先生から呼ばれたことのない自分の苗字に、一瞬だが胸がキュンとする。
たかが苗字を呼ばれただけで。
先生なら生徒の苗字くらい覚えているとわかっていても、込み上げてくる嬉しさにそんな言葉は通用しない。
私は先生の相談に応えようと、先ず先生が女子生徒に人気があることを話すが、どうやら本人は無自覚だったらしく驚いた表情を見せる。
それから少し話した後、私は次の授業があるため教室へと戻る。
その時の私の表情はいつもと違い柔らかく、自然と心が弾んでいた。
それから私は音楽の授業がある度に先生と教室に残り相談を聞いていた。
内容は、どうしたら生徒を傷つけずに告白を無くすか。
そんなことは不可能と思えるが、真剣な先生のため一緒に考える。
だが、そんな私と先生のことをよく思わない人物がいた。
「高野さん、少しいい」
それからしばらく経ったある日のことだ。
隣のクラスの森町さんがやってきて、下校時間音楽室に呼ばれた。
森町さんは前に友達が話していた、先生が大好きな女子生徒。
嫌な予感を感じながらも音楽室へいくと、案の定話は先生について。
「高野さんさあ、最近光先生とよく音楽室に残って二人で何か話してるよね」
「うん、そうだけど」
森町さんの纏う空気はピリピリとしていて恐怖を感じる。
元々森町さんは強引な性格のため何をしでかしても可笑しくはない。
「もうこれ以上、先生と話さないでくれる」
「っ……なんでそんなこと森田さんに言われなくちゃ、ッ!?」
森町さんは言葉を遮るように、私の両肩を掴むと壁に押し付けた。
「あんたに拒否権なんてねーんだよ。わかったら大人しくしてろ」
そう言うと森町さんはスッと体を放し「よろしくね」と笑みを浮かべ音楽室を出ていってしまう。
一人になった音楽室で私はピアノに触れると、目に涙が浮かぶ。
「ッ、先生……」
ポツリと音楽室で呟かれた言葉は風に拐われ消えてしまう。
それ以降、私は先生を避けるようになり、二人で話す事はなくなった。
そして時は過ぎ、三年生となった私は明日この高校を卒業する。
「なんか、あっという間の三年間だったよねぇ」
「だねぇ。私達も社会人の仲間入りかぁ」
そんな会話を友達がする中、私は一人暗い表情を浮かべていた。
明日で先生とは会えなくなるのだと思うと、胸が痛み涙が溢れそうになる。
そんな私の気持ちなど関係なく、卒業式の日はやって来た──。
学校の桜も咲き、私達三年生の卒業を祝っているようだが、顔を伏せる私には地面に落ちた桜の花びらしか見えない。
卒業式を終えたあとは教室に戻り、別れの挨拶が終わると皆学校を去っていく。
だが私は帰る前に音楽室へ向かう。
結局叶わなかった恋だが、先生と初めて会った場所を最後に見ておきたいと思った。
音楽室の戸に手をかけたとき、中から声が聞こえ手を止めた。
「先生、好きです」
聞こえた好きの言葉に、少し開かれていた扉の隙間から中を覗けば、そこには先生と森町さんの姿がある。
そう、まさに今、森町さんは先生に告白をしていた。
勿論、先生の言葉は告白を断るものたったのだが、それでも諦めきれない森町さんは先生に抱きついた。
「私、一年の頃から先生が好きだったんです。そんな簡単に諦めきれません」
「そうか。でもすまないが、私は森町さんの気持ちには答えられない。少なくても、高野さんを脅すような子にはね」
その言葉に驚いたのは私だけでなく森町さんもだ。
なんで知っているのかと尋ねる森町さんに「偶然廊下を歩いていたら聞こえてしまったんだ」と口にする先生の言葉からは静かな怒りを感じる。
そしてその怒りは森町さんにも伝わったらしく、隠れる私に気づくことなく森町さんは音楽室を飛び出していく。
「高野さん、いるのはわかっているから入って来てくれるかい」
気づかれていたとは思わず、そっと中へと入る。
「すみません。廊下を歩いていたら声が聞こえてきたので」
「下駄箱は逆方向だけど、何故音楽室に?」
「それは……」
もしかしたら先生に会えるかもしれないと思ったなど言えるはずもなく口を結む。
「もしかして私に、会いに来てくれた、とか? なんて、ッ!?」
先生の視線が私を捉える。
きっと今の私の顔は真っ赤に染まっているに違いない。
冗談で言った言葉が図星であることなど一目で気付かれてしまう。
先生は自分の顔を腕で隠すと、大きく息を吸い込み、何かを決心したかのように私へと向き直る。
「私は高野さんの事が好きでした」
「え……?」
思いもしない言葉に思考が追い付けずにいると「突然こんなこと言われても困るよね」と先生は苦笑いを浮かべる。
その表情がどこか悲しげで、今の言葉が本心なのだと感じ一気に気持ちが溢れ出す。
「私も……私も先生の事が、出会ったあの日から好きでした」
卒業式の日。
それは、私の想いが届いた日であり。
先生の想いが届いた日でもあった。
桜が咲き誇る学校の音楽室で、二人の頬は桜以上に染まり、その色は季節外れの紅葉色に染まっていた。
《完》