季節外れの紅葉
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高野 千良(たかの ちよ)
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高校生になったばかりの春。
私は中学の頃の友達数名と同じクラスになり、高校生活も上手くいっていた。
そんなある日。
音楽室にノートを忘れてしまった私は一人音楽室へと戻る途中、廊下に響く綺麗な音色に気づいた。
その音色は足を進める事に大きくなっていく。
音楽室の前まで来ると、音色はこの中から聞こえてきているのだとわかる。
扉を少し開け中を覗くと、そこには椅子に座りピアノを弾く男性の姿があった。
その男性が奏でる音色は美しく、私はノートを取りに来たことも忘れ聞き入ってしまってると、持っていた筆箱が廊下に落ち、男性はその音に手を止めた。
私は慌てて筆箱を拾うと扉を開け中へと入る。
「すみません。あまりに綺麗な音色だったので……」
「いえ、構いませんよ。それよりも、何か用事があったのでは?」
男性に言われ、ノートを取りに来たことを思い出すと、私は置いたままになっていたノートを手にすると、次の授業の予鈴が鳴り慌てて音楽室を出る。
「失礼しました」
「廊下は走らないようにね」
結局あの男性が何者なのかわからないまま教室へと戻る。
言われた通り廊下を走らずに戻ったため、勿論授業には遅刻してしまったわけだが、授業が終わると友達が声をかけてきた。
「千良、災難だったね」
「本当だよ。まさか数学だったなんて」
音楽の後は数学であることをすっかり忘れていた私は、もっとも怒らせると面倒な数学の先生にネチネチと説教を食らった。
その先生は、ネチネチと五月蝿いことから生徒達に嫌われている。
「でも、なんでノート取りに行くだけであんなに時間かかったの?」
「うん。なんか、カッコイイ人がいたんだよね」
「カッコイイ人!? 誰誰?」
カッコイイという言葉に食いつく友達だが、私もその男性が何者なのかはわからないため首を振る。
どうやら友達は他のクラスの生徒だと勘違いしているようだが、音楽室にいたのは大人の男性だ。
説明しようとするが、次の授業の予鈴がなってしまい友達に言えぬまま授業が始まる。
授業が終わる頃には男性のことなどすっかり忘れ、何時ものように家へ帰るとその日は終わる。
だが翌日、私はその男性のことを思い出すことになった。
何故なら今、私の目の前にその男性がいるからだ。
「今日から音楽を受け持つことになりました。宍本 光です」
音楽室には昨日の男性がおり、なんとその人は新しい音楽の先生だった。
私の存在に気づいた先生はこちらにニコリと笑みを向け、私の胸は撃ち抜かれてしまった。
「ねぇねぇ、光先生かっこよくない?」
「う、うん、そうだね」
その後私は音楽の授業の間ずっと先生を見つめていた。
先生のピアノの音色は綺麗で、それでいてイケメンともなれば女子生徒が放っておくはずもなく、先生のファンは日を重ねる事に増えていく。
「光先生の人気凄いよねぇ」
「なんかファンクラブもできたみたいだよ」
友達が先生の話で盛り上がる中、私は一人溜息を吐く。
そんな私の様子に友達は「どうかしたの?」と尋ねてくるが「なんでもないよ」と私は笑みを浮かべた。
先生に本気で恋をしてるなど友達にすら話せない。
そもそも先生と生徒の恋愛など許されない。
そんなこと他の生徒だってわかっているからこそファンクラブを作りルールを作ったのだ。
そのルールは、卒業するまで抜け駆けをしないというものであり、それは、卒業後には先生に想いを伝えることが許されるというルールでもある。
卒業すれば先生と生徒という関係はなくなり二人を縛るものは無くなる。
だがそれには抜け駆けをされないためのルールが必要。
そのルールを作ったところで先生に告白する者も勿論出始めたわけだが、先生はその告白を全て断っているようだ。
「A組の子、光先生に告白してフラれたみたいだよ」
「あぁ、あの美人な子」
「そうそう。てか先生と生徒なんだし、先生が断ることわかってるはずなのになんで皆卒業を待てないのかなぁ」
そんなことは決まっている。
先生は生徒を大切に想っているからこそ告白を断っているのだと。
だが、それを口にすることはなかった。
何故なら私も先生に、想いを伝えたい者の一人だから。
「あっ、教室に忘れ物してきちゃった」
「待ってるから取りにいっといでよ」
「悪いから先に帰ってていいよ。じゃあ、また明日ね」
下校時間。
教室へと戻り、忘れ物を鞄に仕舞うと下駄箱へと向かう。
だがその途中、廊下から先生の奏でる音色が聞こえ、気づくと私の足は音楽室へと向かっていた。
「あれ? 音が……」
音楽室に着くまでの間に廊下に聞こえていた音色は止んでしまう。
扉の前まで来ると、中から先生ともう一人誰かの声が聞こえてくる。
扉を少し開け中を覗くと、そこには女子生徒一人と先生の姿。
「なんでダメなんですか!? 私は今がダメでも卒業してから付き合ってほしいんです」
「それはできない。卒業をしてからとかは関係ないんだ。私にとって生徒は、卒業した後も皆大切な生徒なんだ」
先生の言葉に女子生徒は涙を流し扉へと来たため、慌てて隠れる。
走り去るその背を見送ると、私の胸が鈍く痛む。
私が告白しても、きっと同じ言葉を先生は言うとわかるからこそ、女子生徒の気持ちが私にはよくわかる。
痛む胸をぐっと押さえると、音楽室に背を向け下駄箱へと向かう。
その日の帰り道、想いを伝えてもフラれてしまうならと、告白することを諦めた。
最初に音楽室で会ったあの日以来話したことすらなく、先程の女子生徒のような勇気も私にはない。
時間が経てば忘れると思ったその日から一年が経ち、私は二年生となり、今も先生の人気は薄れることなく告白も後をたたない。
「去年の卒業式の日、光先生に卒業生が何人も告白したみたいだけど、きっと来年も凄いんだろうね」
「なに言ってんの、その次は私達の卒業でもっと凄いことになるんじゃない?」
「あぁ、そう言えば、光先生をスッゴい好きな子いたよね」
友達の会話で出てきた、先生のことが大好きな女子生徒というのはかなり大胆、というよりも強引な子。
そのうえグイグイいくため、先生が苦笑いしていたのをよく覚えている。
だが、もう私は先生への想いは諦めると決めたのだから関係ない。
次の授業は音楽。
私は友達と音楽室へ向かう。
先生の事を忘れようとしているのに、いつもある音楽の授業の度に想いが再び込み上げてしまう。