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二つの思いと一つの想い

「熱は無さそうだけど」

「何をする小娘。気安く俺様に触れるな」



 反応も普段と変わらない魔王。
 単なる気まぐれかなと納得して、二人家を出る。
 一体何処に向かっているのかと思えば、ついた先は何時も買い物に来るデパート。



「えっと、食材ならまだあるけど」

「そんなことは知っている。お前は黙って俺様についてこい」



 歩き出してしまう魔王の後をついていくと、道中でも感じる視線が増す。
 買い物の度に、魔王へ注がれる女性からの視線には慣れている。
 私も最初は見た目だけで好きになったキャラだけど、リアルを前にしたら、見た目だけではフォローしきれない俺様性格に何度怒りが蓄積されたことか。
 こんな男、いくら見た目が良くても好きにはなれないと思っていたはずなのに、アニメの中の彼を好きだった頃よりも、今の方が胸がときめいている。
 明らかに好きを超えたこの感情が、恋なのだと自覚すると頬が熱くなる。

 自分の気持ちを理解したと同時に、魔王の足が止まる。
 伏せていた顔を上げれば、デパート内にある女性人気のお店。
 その場に立ち尽くしていると「早く来い」と呼ばれ、二人で店内へ。



「選べ」

「え?」

「聞こえなかったのか。欲しいものを選べと言ったんだ」



 全く状況が理解できずにいる私に、痺れを切らした魔王は「選べないのなら俺様が選んでやる」と一言。
 真剣な表情で手にした一つの商品を購入すると、店内を出たあと無造作に私へと差し出す。



「くれてやる」

「え、いいんですか?」

「いいからやるといっている」



 受け取った袋の中身はネックレス。
 理由はわからないけれど、魔王が自分から動いてプレゼントしてくれたことが嬉しい。
 早速ネックレスを身につけ「似合いますか?」と尋ねれば「俺様が選んだ品だ。当然だろう」と得意気。
 いつもの俺様発言も、今はイラッとしない。
 それどころか、首元で光るネックレスが嬉しくて心が弾む。


 帰り道、歩く魔王の姿を横目で見る。
 先程は嬉しさで思考が鈍ったけれど、何故いきなりプレゼントなんてしてくれたんだろうか。
 視線に気づいた魔王が「なんだ」と声をかけてきたので尋ねたけれど、返答はなく無言で歩き続けている。
 単なる気まぐれだったのかもしれない。
 横からチラリと見えた頬が、ほんのり色づいているように見えたのは気のせいだろう。

 家についた魔王はソファに座り、私は二人分のお茶を注ぐ。
 何時もなら「茶を淹れろ」と魔王が言い出してからイヤイヤ淹れるのだが、お店でのことを思い出すと口元に笑みが浮かんでしまい、今日だけはいいかなと思えた。



「何をニヤついている」

「別にー」



 魔王の前にお茶を置き、私もソファへと座りテレビをつける。
 特集されていたのはバレンタイン。
 今まで縁がなかったからすっかり忘れていた。
 現在夕方、今から材料を買いにいき作るのは難しいので、諦めるしかなさそう。



「皆さんも、好きな人に想いを伝えたり、感謝を伝えてくださ──」



 テレビの言葉を遮るように電源が切られ、魔王はリビングを出ていってしまう。
 どうしたんだろうと思ったとき、テレビの電源が切られる直前の言葉を思い出しハッとする。



「もしかしてこのネックレスって、魔王からのバレンタイン!?」



 バレンタインで女性にアクセサリーをプレゼントするなんて、もしかして魔王も私を好きだったりして。
 なんて、テレビでも言っていたように感謝という意味もありえる。
 魔王に聞いたところで答えてくれるはずもなく、私は一人悩み続けるしかなかった。


《完》
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