魔王の考え

 ここは魔界。
 魔族を恐れる人間が足を踏み入れることはない場所。
 だが、そんな魔界に命知らずの人間が一人やって来た。

 魔王の配下達は次々に倒され、遂にその人間、勇者は、魔王城へと辿り着く。
 激しい戦いの末、魔王は敗北し、人間世界へと戻った勇者は英雄として担がれた。

 それがめでたいハッピーエンドというやつなのかもしれないが、魔界にとってはバッドエンドであることを忘れてはいないだろうか。



「はぁ、ようやく復活できた」



 倒された魔王だったが、魔界の者は人間のように軟弱ではない。
 傷の深さや致命傷にもよるが、魔界の者が死ぬ事はない。
 つまりいくら倒されようとも復活するわけだ。

 それは配下達も同じ。
 無事皆が復活すると、魔王は跪く配下達の前で玉座に座っている。



「魔王様、我々はいつまでこのようなことを繰り返すんでしょうか」

「アタチはもう限界なんだわよ」

「何で俺らがあんな人間にヤラれなきゃいけねーんだかわかんねーですよ」



 配下の魔界トップスリー、ネーザ、チーナ、ガルは不満を漏らす。
 それもそのはず。
 配下といえど魔族、勇者であろうと人間である者に負けるはずはない。
 なら何故負けているのか、それは、魔王の指示だから。

 勇者には程々に相手をし、頃合いを見てやられる。
 そんな芝居を何千年と繰り返してきた。
 一体今回で何万回目になるだろうか。

 勇者が村に帰ると英雄として担がれ、勇者が亡くなったあとは悪魔達が再び街を襲い、新たな勇者が魔界にやってくる。
 こんなことになんの意味があるのか、配下達には魔王の考えが理解できない。



「それが、魔界と人間界のあるべき姿だからだ」

「納得できねーですよ」

「そうなのよ! アタチ達が本気をだちて人間界を支配しゅりゅのがあるべき姿なんだわよ」



 納得行かない二人に対し、ネーザだけは黙り込んでいた。
 それが気になったのか、二人はネーザにも同意を得ようと声をかけたが、彼女の考えだけは二人と違った。

 魔王の言うあるべき姿。
 その言葉の意味、自分達のしてきたことを考えてある考えに行き着いたからだ。

 態と負けた魔族達は復活後、勇者が亡くなるまでの間、魔界でひっそりと息を潜めている。
 それはつまり、人間界との関係を敢えてそのままにしているということ。



「魔王様は、我々魔族と人間の世界を保とうとなされていたのですね」

「は? どういうことだよ」

「わかるように説明ちてよ」



 ネーザは魔王の考えを汲み取り、二人にもわかるように説明をした。
 もし自分達魔族が人間界を支配したら、憎しみが憎しみを産み、命を落とす者も現れる。
 魔族は死なないとはいえ、それは長く生きてきたからだ。
 まだ生まれたばかりの魔族はそうはいかない。
 少しの傷程度なら兎も角、心のぞうを貫かれれば死に至る。
 そんな自体を避けるため、勇者に態と負け人間達を安心させ、勇者が亡くなったあとまた人間界を襲う。

 勇者が亡くなったことで人間達の魔界への恐れが再び蘇り、魔界へと攻め込んで来るのを抑える為だ。
 小さな魔族が命を落とすことがないように、こちらから人間達を再び襲い、新たな勇者が現れるように仕向ける。
 そしてやってきた勇者を程よく相手にすれば、こちらの思った通りに勇者が動かせて無駄な犠牲が出ることもない。



「なるほどな。やっぱ魔王様はスゲーです」

「アタチ、小ちゃな魔族の事まで考えてなかっただわよ……」

「魔王様、我々は魔王様のお考えにこれからもついていきます」



 三人は、魔王の方を向き改めて跪く。
 復活した今、勇者が亡くなるのを待たねばならない。
 魔族にとってはあっという間の時。
 各々散らばりその時を待つ。

 一人玉座に残された魔王は、ただ口を閉している。
 ただ人間と仲良くなれる日があるんじゃないかと思い、勇者が来たら気持ちよく勝たせた。
 だが、その後人間がやってくることはなく、勇者が亡くなったあと再び人間を襲う。
 次の勇者は仲良くなってくれるんじゃないかと期待しながら。

 そんな時も何万回と繰り返され、三人には誤解されたわけだが「まあいいか」と思う魔王は、結果今までと何ら変わらないから軽いのか、もしくは、次の勇者とは仲良くなれるんじゃないかと考えているから軽いのか。



「何やら誤解されたが、結果変わらぬならいいか。次の勇者はどうだろうか」



 どうやら両方の意味で軽かったようだ。
 これでも魔王は慕われる。
 誤解されたまま。

 そして魔王は、人間と仲良くなれる未来があることを夢見続ける。
 そんな勇者が現れるのかもわからないまま。


《完》
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