逃げる事を辞めた日

「それで目の周りが腫れるほど泣いたんだ? いいきみ。私と藤くんは恋人になったんだから、幼馴染だけの存在のアナタは邪魔しないでね」



 私は本当に馬鹿だ。
 全部自分の都合のいいように考えて、嫌なことは一切考えず逃げてた。

 結菜は私を裏切ったんじゃないとか、もしかしたら告白は上手くいかなかったかもなんて思う気持ちがあった私は本当の馬鹿だ。

 私は立ち上がると結菜に歩み寄り、その頬を引っ叩く。
 何より馬鹿だったのは、こんな相手を親友と思い藤に近づけてしまったこと。
 こんな子と付き合ったって藤が不幸になるだけ。



「おい、何してんだよ」

「藤……」



 声のする方に視線を向けると、そこにいたのは藤だった。
 違うクラスの藤が何で来たのかとか今はどうでもいい。
 それよりもこの状況。
 何も知らない藤から見たら、自分の彼女に暴力をふるった奴にしか見えない。

 瞳をうるうるさせながら藤の名前を呼び、その胸に抱きつく結菜。
 こんなの誰が見たって私が悪者だ。

 気づいたときには教室から走り出していた。
 また私は現実から逃げた。
 本当に馬鹿で弱い自分。

 屋上まで走ってきたはいいけど、藤にはきっと嫌われた。
 でも、好きな相手が他の女と付き合うのを傍で見続けるくらいなら、嫌われて関わらなくなった方が楽だ。
 そんな風に考えてまた逃げる自分が嫌になるけど、そうでも思わないと今にも泣いてしまうから。

 好きだった人に嫌われて、親友だと思ってた人に裏切られて。
 もう私には何もない。

 空っぽの心に突然響いたのは、屋上の扉が勢いよく開く音。
 バッと視線を向ければ、何故か藤がいた。



「なんで……」

「はぁはぁ……。何でじゃねーっつの。昨日も今日も人の話聞かずに消えやがって」



 話を聞かないって、これ以上私に何をしれというのか。
 もう失うものなんてない空っぽの心を、まだ傷つけようというのか。
 聞きたくないと耳を塞げば、藤はお構いなしに近づいてきて私の両手を耳から退けた。



「俺はおまえが好きだ!」

「……え?」



 自分でも間抜けな声が出たと思う。
 私は幼馴染にまで傷つけられようとしてるんだろうか。



「嘘だよ! 藤は結菜と付き合ってるんでしょ!?」

「は!? 誰だよそんなデタラメ言ったのは」



 思考が追いつかない私を見た藤は、昨日の告白からの事を話し始めた。


 その日も私と帰ろうと支度をしていた藤の元に結菜がやって来て、校舎裏に連れられ告白をされた。
 そこまでは私も知っていたけど、それには続きがあった。



「俺、好きな奴いるから」

「何で? あんな子可愛くもないし私のがいいでしょ!?」



 その言葉に藤は怒りを露わにし「アイツと親友のくせに悪口言うのかよ」と吐き捨ててその場を去った。
 自分の親友があんな子だと知ったら傷つくと思い、どう伝えるべきかと考えながら私の教室に来た藤だったけど、既に私は帰った後。

 いつもの時間にもベランダに出てこなかったから電話をしたら、何故か元気がない上に告白されたのを見ていたと聞かされ、直ぐに断ったことを話そうとしたけど私は部屋の中へ入ってしまった。
 だから今日伝えようとしたのに、いつもの時間に私は家から出てくる様子がなく、インターホンを鳴らしたらお母さんが出て既に登校したと聞かされ学校に向かった。

 自分の教室ではなく向かったのは私の教室。
 中を覗いたと同時に、パシッと音が聞こえ。
 そこには頬を叩かれたと思われる結菜と、叩いた本人の私がいた。

 状況が理解できずに声をかけた藤に、結菜は抱きついてきて私はその場から走り去った。
 詳しい事情を聞こうと結菜に聞くと「何もしてないのに挨拶したら叩かれたの」と言われ、藤は結菜を自分から引き剥がした。



「アイツが何もしてねー奴に手を上げるわけねーだろ。二度と俺にもアイツにも声かけてくんじゃねー」



 ギロリと睨まれた結菜はビクッと怯え、藤は私を追いかけてきて今に至る。
 その内容に驚く私だけど、それよりも気になるのは藤の告白だ。



「話の内容は理解したけど、それでなんで藤が私に告白するわけ?」

「しかたねーだろ。おまえ俺の話聞こうとしねーし、つい言っちまったんだよ」



 それは、勢いで言っただけで本心ではないのかと複雑な気持ちが胸の中に渦巻いていると、私のカラダは藤の腕の中に閉じ込められた。
 突然のことに固まる私の耳元で「言った言葉は嘘じゃねーから」と言われ、顔に熱が集まる。

 また逃げ出してしまいそうになる足をぐっと地面につけて「私もずっと好きだった」と伝える。
 一度失ったと思ったものは手に入り、もう一つは失った。
 けれで、一番大切なものだけは今私のそばにあるんだと思うと辛くはなかった。


《完》
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