青春男子走ります

 私は走り出した。
 間に合わないかもしれないけど、諦めきれなくて。

 だって好きだから。
 諦めたらそこで終わってしまうけど、諦めさえしなければいつか手が届くもしれないから。



「限定メロンパンに……」

「メロンパンかよ!!」



 刹那気な表情を浮かべながら語る女の話を、真剣な表情で聞いていたのは同じクラスの新谷あらや
 恋愛かと思い真剣に聞いていたことがバカバカしくなり、新谷は溜息をつく。

 そんなことお構い無く限定メロンパンへの思いを今も語っている友人女子に「もうメロンパンの話はいいっつの!」とツッコミをいれる。



「新谷は気にならないの? 販売後即完売の駅限定メロンパン」

「気にならねーよ。俺、おまえと違って甘いもん好きじゃねーし」



 興味がないといった感じで頬杖をつく新谷に「アンタ人生の九十%以上損してるよ」と言う女に対して「メロンパンが俺の人生みてーじゃねーか」とすかさずツッコむ。
 前に女と話したときは、生クリームを単体で食べると言われ、新谷は聞いただけで気分が悪くなったことを思い出す。

 甘い物好きな女だが、見る限り太っていないから不思議だ。
 他の女子達なら気にしてそんな風には食べられないだろう。



「おまえ、人間か?」

「失礼だな!」



 こんなやりとりをした翌日。
 新谷が登校して席に座ると、隣の席に座る女が机に突っ伏しているのが視界の端に映る。
 あからさまに聞いてほしそうに大きな溜息をついているので正直声をかけたくはなかったが、溜息がうるさ過ぎて渋々ながらにどうしたのか尋ねた。

 すると待ってましたと言わんばかりに顔を上げ「よくぞ聞いてくれた若造」と言ってきたんで即座に会話をぶったぎりたくなった新谷。



「それがさ、私に運命があったんだよ」

「またメロンパンか」

「違うよ! 今日も駅のメロンパンが売り切れてて愕然としていた私に、その運命はやって来たの」



 まさか本当に今度こそ恋でもしたのかと、少し興味がわいて話に耳を傾ける。
 内心胸がざわつく事は無視して話を聞いていると、どうやら限定メロンパンの売り切れで愕然としていた女に声をかけてきたのはその店の店員だったようだ。

 その店員に恋でもしたというのか。
 新谷の胸が先程よりざわつく。



「その店員さん、私が毎日メロンパン目当てに来てた事を知っててね、覚えられてたんだ」

「ふ、ふーん」



 興味ないふりをしながら凄く興味がある新谷。
 手にはぐっと力が入り、カラダは女の方に少し傾いている。

 その店員は、女を見かけるうちに興味を持ち始めて惹かれていったなんて漫画みたいな展開になったんじゃないかと考えると心臓に悪い。



「でね、言われたんだ……」



 頬をほんのり色付かせる女の様子にムッとしながらも「何言われたんだよ」と拗ねたように聞けば、女は笑みを浮かべ答える。



「限定メロンパンのチョコ味が出て、これから並べるところなんでどうですかって! あ、これがその限定メロンパンね」



 そう言いながら鞄から出したチョコのメロンパン。
 またしても新谷は気持ちを弄ばれ「バカヤロー!!」と叫び教室から走り逃げていく。

 甘い物に恋する女。
 そんな女に秘かに思いを寄せる新谷の振り回される日々はまだまだ続きそう。


《完》
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