タイムリミット
病室のベッドに横になっている私は、深夜に突然呼吸が苦しくなり死を意識した。
必死に手を伸ばそうとするがナースコールも押せず、一人だけの病室では助けすらいない。
死にたくないと何度も心で叫んで涙を流したとき、私の額に冷たい何かが触れた。
涙で歪む視界。
意識は朦朧としていていたけど、そこに誰かいるのはわかった。
だから必死に助けを求めようと手を伸ばすと、額にあった冷たさが私の手へと移動する。
「キミはもう死にます」
「い……っや、だ」
誰かもわからないその人物の言葉に、私は絞り出すように言葉を発する。
私はまだ死にたくなんてない。
このまま一人苦しみながら死ぬなんて嫌だ。
「生き……た、い」
「わかりました。では、もう少しだけキミに時間を与えましょう」
その言葉を最後に、私は意識を手放した。
私が行くのは地獄か天国か。
死んでしまった今はどっちでもよかった。
私にはまだ生きてやりたい事が沢山あったのに、何でこんな風に死ななくちゃいけなかったんだろう。
眩しい光が暗闇にいる私の意識を呼び起こすと、目を覚ました私は変わらないベッドの上にいた。
「死んだんじゃ、ないの……?」
呼吸も苦しくないしまるであの苦しみが嘘のようにない。
あれは夢だったのか、兎に角私は生きているみたい。
そういえばあの時、誰かが何かを言っていた気がするけど思い出せない。
ただ何故か、額と手に冷たい何かが触れたような感覚がして、私は不思議に思いながらもそれ以上は考えるのをやめた。
それからお昼を過ぎた頃、母が病室に来た。
話しかけてくる母だけど、私は一切口を利かない。
「お花、新しいのに変えるわね」
そう言って持ってきた花を花瓶に入れる母。
そんな母の姿を見ていると、胸の奥がムカムカとしてくる。
こんな足も動かないような身体に産んで、生まれてからずっと病院生活。
心臓に病気まであるから、私の行ける範囲は病院内にある庭だけ。
それ以外の外出は許されないし、足が動かない私に自由なんて最初からない。
こんな生活をするくらいなら、最初から生まないでほしかった。
父は私が物心ついたときにはすでにいなかったから見た事もない。
私が生まれて直ぐに離婚したんだと聞いたけど、それってつまり私のせいってことだ。
こんな身体に生まれたから父は母と離婚して私を捨てた。
そんな私を母も嫌っているに違いない。
「そろそろ帰るけど、何か必要なものがあったら教えてちょうだいね」
優しい声でニコリと笑う母。
それが私をイライラさせる。
今日も母と口を利かないまま、私は夜を迎えた。
窓から見える月は綺麗で、私は瞼を閉じ眠りにつく。
それからどれくらい経ったのか、突然の息苦しさに襲われた。
それはまるで昨夜のように。
ナースコールを押したくても動けず、苦しさで意識が遠退く。
死にたくないと何度も心の中で叫んでいると「時間ですね」と、声がした。
聞き覚えのある声に、朦朧とする意識の中視線だけを向けると、直ぐ横に誰かが立っている。
顔は見えないけど、額に置かれた冷たい何かで私は昨夜起きた事を思い出す。
そう、私は、この人物に昨夜会っている。
そして、生きる時間を与えられたんだ。
「タイムリミットです」
その言葉を合図に意識が遠退く。
死にたくないと願い。
一人で死ぬのは嫌だと願った私。
でも本当はそうじゃなくて、母にお礼を伝えたかった。
父と別れたあとも、母は一人で私のお見舞いに来続けてくれた。
私のせいで父と離婚したのに。
口を利かなかったのだって怖かったから。
母に嫌われていることが本当だったらと思うと怖くて話せなかった。
イライラしていたのは母に対してじゃない。
母に何もしてあげられない自分に対して。
折角の残された時間を、私はまた同じ一日として過ごしてしまった。
母に感謝を伝えられないまま、私は死ぬ。
なんて親不孝な娘なんだろう。
「ごめんね……おかあ、さん」
ありがとうの言葉は伝えられず。
最期口にした言葉は、後悔の一言だった。
《完》
必死に手を伸ばそうとするがナースコールも押せず、一人だけの病室では助けすらいない。
死にたくないと何度も心で叫んで涙を流したとき、私の額に冷たい何かが触れた。
涙で歪む視界。
意識は朦朧としていていたけど、そこに誰かいるのはわかった。
だから必死に助けを求めようと手を伸ばすと、額にあった冷たさが私の手へと移動する。
「キミはもう死にます」
「い……っや、だ」
誰かもわからないその人物の言葉に、私は絞り出すように言葉を発する。
私はまだ死にたくなんてない。
このまま一人苦しみながら死ぬなんて嫌だ。
「生き……た、い」
「わかりました。では、もう少しだけキミに時間を与えましょう」
その言葉を最後に、私は意識を手放した。
私が行くのは地獄か天国か。
死んでしまった今はどっちでもよかった。
私にはまだ生きてやりたい事が沢山あったのに、何でこんな風に死ななくちゃいけなかったんだろう。
眩しい光が暗闇にいる私の意識を呼び起こすと、目を覚ました私は変わらないベッドの上にいた。
「死んだんじゃ、ないの……?」
呼吸も苦しくないしまるであの苦しみが嘘のようにない。
あれは夢だったのか、兎に角私は生きているみたい。
そういえばあの時、誰かが何かを言っていた気がするけど思い出せない。
ただ何故か、額と手に冷たい何かが触れたような感覚がして、私は不思議に思いながらもそれ以上は考えるのをやめた。
それからお昼を過ぎた頃、母が病室に来た。
話しかけてくる母だけど、私は一切口を利かない。
「お花、新しいのに変えるわね」
そう言って持ってきた花を花瓶に入れる母。
そんな母の姿を見ていると、胸の奥がムカムカとしてくる。
こんな足も動かないような身体に産んで、生まれてからずっと病院生活。
心臓に病気まであるから、私の行ける範囲は病院内にある庭だけ。
それ以外の外出は許されないし、足が動かない私に自由なんて最初からない。
こんな生活をするくらいなら、最初から生まないでほしかった。
父は私が物心ついたときにはすでにいなかったから見た事もない。
私が生まれて直ぐに離婚したんだと聞いたけど、それってつまり私のせいってことだ。
こんな身体に生まれたから父は母と離婚して私を捨てた。
そんな私を母も嫌っているに違いない。
「そろそろ帰るけど、何か必要なものがあったら教えてちょうだいね」
優しい声でニコリと笑う母。
それが私をイライラさせる。
今日も母と口を利かないまま、私は夜を迎えた。
窓から見える月は綺麗で、私は瞼を閉じ眠りにつく。
それからどれくらい経ったのか、突然の息苦しさに襲われた。
それはまるで昨夜のように。
ナースコールを押したくても動けず、苦しさで意識が遠退く。
死にたくないと何度も心の中で叫んでいると「時間ですね」と、声がした。
聞き覚えのある声に、朦朧とする意識の中視線だけを向けると、直ぐ横に誰かが立っている。
顔は見えないけど、額に置かれた冷たい何かで私は昨夜起きた事を思い出す。
そう、私は、この人物に昨夜会っている。
そして、生きる時間を与えられたんだ。
「タイムリミットです」
その言葉を合図に意識が遠退く。
死にたくないと願い。
一人で死ぬのは嫌だと願った私。
でも本当はそうじゃなくて、母にお礼を伝えたかった。
父と別れたあとも、母は一人で私のお見舞いに来続けてくれた。
私のせいで父と離婚したのに。
口を利かなかったのだって怖かったから。
母に嫌われていることが本当だったらと思うと怖くて話せなかった。
イライラしていたのは母に対してじゃない。
母に何もしてあげられない自分に対して。
折角の残された時間を、私はまた同じ一日として過ごしてしまった。
母に感謝を伝えられないまま、私は死ぬ。
なんて親不孝な娘なんだろう。
「ごめんね……おかあ、さん」
ありがとうの言葉は伝えられず。
最期口にした言葉は、後悔の一言だった。
《完》
1/1ページ
