夜に溶け込む漆黒の瞳

 それは、ある日の学校でのことだった。
 私の親友である、立木たちき 麻耶まやが学校に来ておらず、ホームルームが始まっても来ることはなかった。

 先生は「立木は欠席っと」なんて言っていたが、放課後、麻耶の近所に暮らす生徒が、麻耶は昨日の夜から行方不明だと話していたのが聞こえてくる。
 一体どういうことなのか聞き耳を立てていると、どうやら昨夜麻耶は、誰かと会うために夜に家を出たっきり帰ってきていないらしい。
 騒ぎを大きくしないために、この事は大人によって伏せられているようだ。

 すでに警察が動いて捜索していると聞き、私は一人胸がざわつく。
 そんな私の元にやって来たのは、私と麻耶の幼馴染である奏音かなと



「さっき女子達が話してるの聞いたんだけどさ。麻耶、無事だといいな」

「うん……」



 心配そうな表情を浮かべる奏音を見ていると、私の心は更に激しくざわつく。



「そんな顔するなよ。アイツのことだし大丈夫だって」

「そうだよね」



 奏音に元気づけられ、何とか今日一日を乗り切るが、今日は何処を歩いても麻耶の噂話ばかりだった。

 聞きたくないのに聞こえてくる。
 麻耶の声も一緒になって聞こえだす。
 家に帰っても未だ聞こえる麻耶の声。



「麻耶……麻耶は死んだの、もうこの世にいないの!」



 私は自室から飛び出すと、少し離れた林の中に入る。
 昨夜掘り起こした土だけ他と違う。

 そう、麻耶はここに眠ってる。
 私がこの手で殺したから。
 だってズルいでしょ。
 奏音は二人の幼馴染なのに、何で奏音は麻耶が好きで、麻耶も奏音が好きなんていうの。

 昨日、麻耶の気持ちを知りたくて呼び出した。
 きっと麻耶は私の気持ちをわかってくれてると思ってたのに「私、奏音が好きなんだ。昔からずっと」なんて言って。
 私だってずっと好きだったのに。

 このままじゃ、いつかお互いの気持ちに気づいて二人は結ばれる。
 そうさせたくなくて、私はひっそり隠し持っていた果物ナイフで麻耶を刺した。
 しばらくいきがあった麻耶は「ど、うし、て……」なんて言ってたけど、そんなのわかるよね。
 私達は親友なんだから。



「麻耶、私達はずっと親友だよ」



 笑みを浮かべると、麻耶は涙を流して息を引き取った。
 だからここに埋めたのに。
 警察が動いてるって聞いて胸がざわついたけど、奏音が元気づけてくれたから少しは楽になった。

 なのに、麻耶の死に際の顔や声が耳から、脳裏から離れない。
 私は麻耶のぶんまで奏音と幸せにならなくちゃいけないのに、何で麻耶は死んだ今もわかってくれないの。



「麻耶、私頑張るからね」



 土に掌をおき、私は決意する。
 私の奏音への思いは本物だから。


《完》
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