迎え人

 私には、人の死が見える。
 見えると言っても、正確に何で亡くなるのか、何時なくなるのかはわからない。
 ただ人の、迎え人が見えてしまうだけ。
 そう、それは、私達がいうところの死神。

 フードを被る真っ黒な姿。
 その手には鎌が持たれており、人の想像通りの死神。
 そんな死神が見えるようになったのは今年に入ってすぐだった。

 最初は驚いたし周りにも話したけど、誰一人としてそんな者は見えなかった。
 友達には「受験勉強で疲れてるんじゃない」なんて言われてしまう始末。
 これは疲れからくるものじゃないのは私自身がわかってる。

 誰に話しても信じてもらえないし、両親には病院に連れて行かれるしで、私はこの話を誰にもしなくなった。
 周りに聞かれても、もう見えないと嘘をつく。
 本当はしっかり見えているのに。


 下校時間。
 帰路を歩いていると、前から来る一人の男性の背後に死神の姿。
 慣れてしまった私はこのまま無視するだけ、そう思ってたのに、横から突然トラックが男性めがけて突っ込んだ。

 私はただ死神が見えるだけという考えだったが、そうじゃなかった。
 死神の姿が見えるということは、その人の死すらわかってしまうということ。

 目の前で起きた光景に、ただ私は固まっていた。
 次第に周りが騒がしくなる中、私の瞳に映っていたのは、男性の体から抜け出た魂を掴み姿を消す死神。


 翌朝。
 学校の近くだったということもあり、あの事故の話題はクラスで飛び交っていた。
 私がその現場にいたことも知らない皆の言葉は、私に昨日の光景を思い出させる。

 見たくなんてないのに、知りたくなんてないのに、それからも私は死神の姿を見ることになった。
 この人は何時亡くなるのか、そんな事ばかり考えてしまう。
 また目の前であの時みたいなことが起きたらと思うと怖い。


 それから数ヶ月が経ったある朝。
 洗面所で顔を洗っていると、目の前の鏡に死神の姿が映り、私は悲鳴を上げる。
 それを聞きつけたお母さんが慌てて来たので、私は体調が悪いから今日は学校を休むとだけ伝えて部屋に戻った。

 布団を頭から被り、チラリと隙間から見れば、そこに死神はいる。
 私も近いうちに死ぬんだろうか。
 もしかしたら今日かもしれない。
 恐怖で学校に行く事もできずに布団の中にいると、いつの間にか眠っていたらしい。
 息苦しさで布団から出ると、部屋は黒い煙と燃え盛る火に包まれていた。



「なに……何がどうなってるの?」



 訳がわからず立ち尽くす私の頭上から、炎で焼け落ちた天井が落ちてくる。
 重い柱の下敷きになった私が最後に見たのは、フードから覗く口元がニヤリと笑った死神の姿だった。


《完》
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