これは良い事

 嘘をつくのは悪い事だと教えられた。
 でも、そう言った大人達は嘘ばかりつく。
 私には、どちらが正しいのかわからなかった。

 まだ幼い私は悪戯をしている子を聞かれ、大人に教えた。
 大人はその子を叱り、私はその子に睨まれた。

 ある時は、大人が悪いことをしている現場を見かけ、別の大人に「何か知っていたら話してちょうだいね」と言われたので教えた。
 私はまた睨まれた。

 正しいことをしているはずなのに、私は褒められるのと同時に睨まれる。
 なら、嘘をついたらどうなるのか。



「うちの子供見なかったかい? ずっと戻らないんだよ」

「海で見たよ」



 私がそう言うと、その人は日が沈みかかった海へと向かう。
 子供の名前を何度も呼ぶが返事はない。

 その大人は何を思ったのか、風が強く波打つ海の中へと入り子供の名を叫んだ。


 数刻後、その大人は海で死人となり発見された。
 既に家に戻っていた子供は母の亡骸にすがりつく。

 その光景を見てわかった。
 嘘をつくと周りは不幸になるけど、私は嫌な顔を誰にもされないということが。

 周りの大人が憐れむようにその光景を見つめる中、私は口角を上げて笑みを浮かべていた。


 それから私は嘘をつき続けた。
 嘘だと知られると周りから叱られたり嫌な顔をされたけど、その事を知ってる人に嘘をついてこの世から消えてもらったら、私を叱る人も嫌な顔をする人もいなくなった。

 でも気をつけないと。
 嘘だって知られるとまた叱られちゃうから、今度は誰にも知られないように。

 もし知られたら、嘘をついてまた消えてもらわなくちゃ。


《完》
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