嘘壺
人は大きな嘘、小さな嘘をつく。
嘘壺は、嘘をつけばつくほど幸運が溜まるというもの。
それを三日間続け蓋を開けると、期間内についた嘘の分幸運が訪れる。
そんな素敵な話に興味を持たない人間は、嘘をつくことができない人間だけ。
でも、嘘をつけばつくほど溜まる幸運に目が眩むものはいる。
そして、それに最適な人間もこの世には沢山存在する。
お店にチリンと鈴が鳴る。
どうやら今日も店に一人の客人がやって来たようだ。
「古い店だな。おい、ここに嘘壺ってのはあるか」
「ええ、ございますよ」
老婆は棚に並べてある無数の壺から一つを男に差し出した。
「この壺は——」
「説明ならいらねーよ」
それだけ言い残すと男はご機嫌に壺を持って店を出ていく。
壺に値段は存在しない。
つまりはタダということ。
さてさてこの男がどうなるのか見てみましょうか。
「これにサインして契約するだけだから簡単でしょ」
男はいつものように詐欺を働き嘘をつく。
そのため簡単に嘘壺は溜まっていく。
悪い商売をする人にとって、嘘をつくなんて簡単なこと。
そして四日目の朝。
男は何の躊躇いもなく壺の蓋を開けた。
毎日嘘をつき続けてる自分なら、三日もあれば十分。
そう思っていたのだが、蓋を開けてもなんの変わりもなく壺の中もから。
「あのばばあ、騙しやがったな」
男は壺を床に叩きつけると、あのお店に向った。
チリンと響く鈴。
店にはあのおばあさんの姿。
男はドカドカと近づきおばあさんの胸ぐらを掴む。
「おいばばあ! よくも騙してくれたな」
「私は騙して何ていませんよ。もう貴方には壺の効果が出ているはずです」
幸運はこれから来るということなのか、男はおばあさんから手を放すと舌打ちをして店を出ていく。
その瞬間外から聞こえた大きな音に人のざわめき、救急車のサイレンを聞き、おばあさんは口元に笑みを浮かべただ一言つぶやいた。
「ほら、効果が出たでしょう」
嘘壺、それは嘘をつけばつくほど幸運が溜まるというもの。
でも一つ注意点がある。
それは、本当の事を一度も言ってはいけないということ。
幸運があるなら不幸だってあるもの。
人間は嘘だけをつき続ける事なんて出来はしない。
三日間の間に一つでも本当の事を言えば、持ち主に不幸をもたらす。
その不幸は、嘘壺に溜まった嘘の分だけ。
タダより高いものはない。
上手い話には裏があるというが、男は一体どのくらい嘘を溜めていたのか。
もし壺一杯に溜めていたら——。
《完》
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