兄さん

 いつからだろう、兄さんが私に冷たくなったのは——。

 同じマンションに住む三つ上の兄さん。
 一緒に遊んだり頼りになる兄さんを、私は本当の兄のように慕っていた。

 学校も同じで、友達からはなんでお兄ちゃんって呼ぶのって言われたけど、兄さんは兄さんだったから。

 中学生になった兄さんとはスレ違いばかりになった。
 私が中学生になれば兄さんは高校生。
 同じマンションだから自分から会いに行こうともしたけど、中学生の頃は高校のために勉強。
 高校生になってからは就職などで会うことは出来ず、気づけば六年という年月が経ち私は高校生となった。

 兄さんと同じ高校。
 六年間あるこの学校では、兄さんは四年目。
 学校の中だけでも会えればと思い兄さんのクラスを覗くと、そこには、私が知っている姿より成長した姿の兄さんがいた。

 六年前とは違う兄さん。
 私は嬉しくて兄さんを呼ぶ。
 気付いた兄さんは私の元へ来ると、ただ一言を私に言う。



「もう俺と関わるな」



 それだけ言うと教室に戻ってしまった。
 六年という年月が兄さんを変えてしまったんだろうか。

 それからも私は兄さんのいる教室をそっと覗いた。
 そこには皆と楽しそうに笑う兄さんの姿。
 私に見えてくれていた笑顔と変わらない。


 教室の扉からそっと覗く日々を繰り返していたある日、兄さんと目が合いこちらへと近づいてきたかと思うと私は腕を掴まれ人気の少ない場所まで引っ張られた。



「もう関わるなと言った筈だ」

「兄さん、なんで!?私兄さんに何かした?」



 視界が歪む。
 六年間も会えなくて、同じ高校に合格して、ようやく昔みたいになれると思ってたのに。

 なんで兄さんは変わってしまったのかわからなくて、悲しくて。
 涙が頬を伝うと、伸ばされた指が涙を掬う。



「すまない。ただ、お前と会いたくなかったんだ。兄さんと呼ぶお前に」

「それって、どういう意味?」

「俺がお前を好きって意味だ」



 好きな相手に兄さんなんて呼ばれたら、相手にとって自分がどんな存在なのか嫌でもわかってしまう。
 だから兄さんは私に冷たくしたり、六年間理由をつけては避け続けた。



「こんなこと言われても困るよな」

「私にとって兄さんは兄さんだよ。でも、私が兄さんって呼ぶ理由は——」



 最初は年上の人への尊敬や憧れだった。
 でも、私が兄さんって呼ぶようになった理由は、幼い私が恋を知らずにつけた、身近に感じる恋の呼び方だったから。


《完》
1/1ページ
    スキ