溢れる器それは罪

 人は皆、本当の自分を隠している。
 苦しいのに、辛いのに笑って平気なふりをする。

 そしてその辛さが自分の中の器から溢れ出たとき、人は――。


 私には大切な人がいた。
 その人は、私が唯一心を許せる相手。
 なのにその彼に裏切られた。

 いいえ違う。
 彼はそんなことをする人ではない。

 彼を奪った私の元親友。
 その親友が、私と彼の関係を壊した。

 そう、全ては元親友のせい。
 だから私は死ぬ。
 元親友に私を自殺に追い込んだ罪を一生背負わせるために。

 今の私にはもう何もない。
 この世に未練もないし、私が死んで悲しむ人間もいない。

 私を自殺に追い込んだ罪を一生背負い続ければいい。
 そう思った。



「本当にそれでいいのかしら?」



 突然聞こえた声に振り返ると、背後には真っ白なワンピースを着た少女の姿。

 ここはマンションの屋上。
 このマンションに住む子だろうか。

 いくら未練はないとはいえ、こんな小さな子に人の死ぬ姿は見せられない。



「屋上は危ないから入っちゃだめだよ」

「そうね。アナタみたいに死のうとする人がいるんだもの」



 クスリと笑う少女はどこか不気味で、何より何故私が今から死のうとしていることがわかったのか。



「アナタは自ら命を断ち、親友に一生の罪を背負わせようとしてる。でも、それは本当に正しいのかしら?」

「なんでそこまで知って……」



 少女は愉快そうに笑うと「親友に復讐したいならもっと相応しい方法があるわよ」と言う。

 それに私が今しようとしていることは何の意味もなさないと少女は話す。
 自ら命を断ったとしても、人の彼氏を奪う様な人間が罪を感じるはずがない。
 私が死んでも親友はのうのうとこれからも生きていく。

 なら、私は一体どうしたらいいのか少女に問う。
 答えは簡単だった――。



「話って何? アンタの彼氏奪ったことなら少しは悪いと――」



 下校時間。
 人がいなくなった学校の階段に元親友を呼び出した私は、親友を階段から突き落とした。

 そう、答えは簡単だった。
 何も私が死ぬことは最初からなかったんだ。
 この女さえいなくなれば、彼は私の元へ帰ってくる。
 そうすればまた、彼は私を見てくれる。

 そのためには、この女を完全に殺さなくてはいけないから。
 だから、止めを刺さなくちゃ――。



「やっぱり、器から溢れた人間は面白いわね。あら、あんなところに」



 一人の男を巡って起こったこと。
 でもそれは、本当に正しいのだろうか。

 少女の視線の先には、二人の女を狂わせた本当の元凶の姿。
 どうやらまた新しい女の子と付き合い始めたようだ。


 本当の罪人は、手を汚してしまったアナタ自身――。


《完》
1/1ページ
    スキ