I watch over you

 私には好きな人がいた。
 優しくて、明るくて、何でもできて、クラスの人気者。
 そんな彼に私は惹かれていった。


 彼の部活はサッカー部で、私はそっと練習姿を見ていた。
 シュートが決まって彼が嬉しそうにしている姿を見ると、私も嬉しくなる。

 もっと近付きたくて、話したい。
 でも私は暗くて目立たない人間だから、彼を見ていることしかできない。


 そんなある日、偶然彼を見かけて鼓動が高鳴った。
 だがその隣には知らない女子。

 クラスの子達が話しているのを聞いたが、どうやら彼はその子に告白されて付き合い始めたようだ。

 悲しくて苦しくて、胸が痛い。
 でも、それが彼の幸せなんだから仕方がない。
 そう思ってた――。



「おい、考え直せよ」

「触んなクズ! アンタとはこれでお別れよ。さようなら」



 私が見たのは彼と彼女が別れる瞬間だった。
 心にそっとしまっていた、憎しみ、怒り、嫉妬が私の中で芽生える。


 その日の夜、私はその子の家のインターホンを鳴らす。
 勿論初対面だったけど、私は彼の事で話したいことがあると言って、その子を人気のない場所へと連れ出した。



「で、話したいことってな――」



 グサリと鈍い音。
 ドロリと生温かい液体が地面にポタポタと落ちその子は倒れる。

 私の手には、真っ赤に染まった果物ナイフ。
 抑えきれずに喉でくつくつと笑う。

 あなたがいけないの。
 あんな素敵な人をクズなんて言ったり、別れたりなんてするから。

 私が欲しかった場所。
 私が手に入れられなかったもの。
 あなたは持っていたのに。


 昨夜未明。
 女性が刺される事件が発生しました。
 人気がなかったことから目撃者はおらず、その日別れた恋人との間にトラブルがあったのではないかと調査を進めるもよう。
 そして何故か遺体には、沢山のナナカマドの花が置かれていたそうで――。



「今朝のニュース見た?」

「見た見た、浮気してたくせに別れられて殺すとかありえないよね」



 生徒達がざわつく声も、私には入ってこない。
 今日彼は警察に呼ばれているみたいで学校へは来ないようだ。
 でも直に容疑は晴れる。



「ふふふ……。大丈夫、あなたは私が守ってあげるから」



 酷く冷静な笑みを浮かべ、呟く言葉はクラスのざわめきで誰にも聞こえない。


 ナナカマドの花言葉「慎重・賢明・私はあなたを見守る」。


《完》
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