草花は毒にも薬にも
女が好きなのは花。
理由は、綺麗だから、なんて女性らしいものではなく、薬になるから。
薬は草花から作れる。
女が愛しているのは、そんな沢山の人を救う薬ができてしまう草花。
「先輩、持ってきましたよ」
「遂に見つけたのね。でかしたわ山本 くん」
「いや、山倉 です」
山倉の名をなかなか覚えない女は、入手させた花の研究を始める。
その花の名は、桜輝華 。
今では無くなってしまったが、昔は桜と呼ばれる花が存在した。
その桜の変化体が、この桜輝華と呼ばれる花。
今までなかなか手に入らず研究できなかったのだが、とある場所にあるという情報を入手し山倉に取りに行かせた。
そしてようやく手に入れた桜満月。
女は機械にその花を一つ入れる。
「何かわかりましたか?」
「そうね。資料で見た通り、昔日本にあったとされる桜のデータと似た数値が桜輝華にも微量に出てるわね」
熱心に研究を始める女の姿を眺める山倉は、パックの牛乳をストローで飲む。
女が今まで研究してきたこと、それは、昔咲いていた花のこと。
今は文明が進み科学が発達し、昔の面影なんて残っていない。
植物も全て科学、研究で作られたもの。
例えば昔あったとされる朝顔だが、今は研究などにより朝夜という花になったとされている。
何故昔の花達は姿を変化させられてしまったのか。
それは、人類が進化したがためのことだ。
花の美しさは一生続かない。
そしてその美しさにも限られた時間が存在する。
そこで、いつでも美しく、枯れることなく咲けるように作られた花達が、今この世界で咲いている花々だ。
とはいっても、全ての花には元の花の成分が含まれ作られているため、発達した今の機械で調べれば、昔の花のデータがすぐにわかり、資料と照らし合わせればどの花の変化体かも直ぐにわかる。
「本当に、科学だけ発達させてどうするのかしらね。今の花は人の手により作られたもの。昔の本物とは違うわ」
いくら技術や科学が発達して薬が簡単に作れるようになったとはいえ、それだけではどうにもならないことはある。
それも、今の花は観賞用に作られたものばかり。
昔の、人の手が加えられていない花でなければ薬を作ることはできない。
何故なら、人の手により作られた花は元の花の成分と、人が作り出した科学の成分で出来ている。
つまり、見た目はどれも違うが全て同じ成分で作られてしまっているということ。
「同じ成分で作られたものをいくら使ったってどうにもならない。だって、同じ成分から他の薬が作れるはずないんだもの」
だから女は、昔の花の成分だけをその変化体の花から抽出し、そこから薬を作るために研究をしている。
成分をパーセントに表すと、作られた成分が九十パーセント。
元々の花の成分は十パーセントとなる。
その十パーセントを抽出して薬の研究をする。
それが、二人が今まで続けてきた二人の研究。
今回は桜輝華だが、この花は他とは違う。
何故ならこの花には未知の可能性が隠されているから。
昔、桜があった頃、枝を折ってはいけないとされていた。
日本の象徴の桜だからとも思えるかもしれないが、実は違う。
昔から桜には、色々な不可思議が起きていた。
例えば、桜の木の下で告白をしたカップルは成功する。
桜は人の心を癒やすなど様々。
そんな桜には、もしかしたら昔ではわからなかった凄い力があるのではないかと、女は今まで桜の変化体を探した。
そして遂に見つけることができ、これから桜の研究が始まろうとしている。
変化体の桜も木なのだが、流石に木をまるごと持ってくることは不可能のため、今回は地面に落ちていた桜の花をいくつか入手してきた。
これではまだ足りないだろうが、桜の最初の研究には十分だろう。
「そういえば先輩、桜輝華の近くにこれがあったんですけど」
そう言いながら山倉が袋から取り出したのは、四葉のクローバー。
科学が発達した今、雑草と四葉のクローバーは昔と変わらずに唯一存在する。
「四葉のクローバーって見つけるといいことがあるっていうけど、これは昔から言われてることなのよね」
「そうなんですね。じゃあ、先輩にあげます」
山倉は女の手に四葉のクローバーをそっと握らせると笑みを浮かべた。
女は「ありがとう」と言うと四葉のクローバーをポケットに入れ研究を再開する。
昔からある四葉のクローバーの研究はもう済んでいるため必要ない。
それなのに珍しくない四葉のクローバーを持ってきたのは、女が草花を好きだからという理由ではない。
「先輩が好きなのは草花だけですか……」
ポツリと呟いた言葉は、研究に集中している女には届かない。
どこか切なく、どこか恐ろしくあるその言葉の意味は、山倉と四葉のクローバーだけが知っている。
四つ葉のクローバーの花言葉は「幸運・私のものになって・約束・復讐」。
この恋が叶わないとき、その愛は憎さに変わり復讐へと変わる。
山倉の心が少しずつ黒く染まり始めていることに誰も気づかない。
それは、山倉本人にも知り得ないこと。
《完》
理由は、綺麗だから、なんて女性らしいものではなく、薬になるから。
薬は草花から作れる。
女が愛しているのは、そんな沢山の人を救う薬ができてしまう草花。
「先輩、持ってきましたよ」
「遂に見つけたのね。でかしたわ
「いや、
山倉の名をなかなか覚えない女は、入手させた花の研究を始める。
その花の名は、
今では無くなってしまったが、昔は桜と呼ばれる花が存在した。
その桜の変化体が、この桜輝華と呼ばれる花。
今までなかなか手に入らず研究できなかったのだが、とある場所にあるという情報を入手し山倉に取りに行かせた。
そしてようやく手に入れた桜満月。
女は機械にその花を一つ入れる。
「何かわかりましたか?」
「そうね。資料で見た通り、昔日本にあったとされる桜のデータと似た数値が桜輝華にも微量に出てるわね」
熱心に研究を始める女の姿を眺める山倉は、パックの牛乳をストローで飲む。
女が今まで研究してきたこと、それは、昔咲いていた花のこと。
今は文明が進み科学が発達し、昔の面影なんて残っていない。
植物も全て科学、研究で作られたもの。
例えば昔あったとされる朝顔だが、今は研究などにより朝夜という花になったとされている。
何故昔の花達は姿を変化させられてしまったのか。
それは、人類が進化したがためのことだ。
花の美しさは一生続かない。
そしてその美しさにも限られた時間が存在する。
そこで、いつでも美しく、枯れることなく咲けるように作られた花達が、今この世界で咲いている花々だ。
とはいっても、全ての花には元の花の成分が含まれ作られているため、発達した今の機械で調べれば、昔の花のデータがすぐにわかり、資料と照らし合わせればどの花の変化体かも直ぐにわかる。
「本当に、科学だけ発達させてどうするのかしらね。今の花は人の手により作られたもの。昔の本物とは違うわ」
いくら技術や科学が発達して薬が簡単に作れるようになったとはいえ、それだけではどうにもならないことはある。
それも、今の花は観賞用に作られたものばかり。
昔の、人の手が加えられていない花でなければ薬を作ることはできない。
何故なら、人の手により作られた花は元の花の成分と、人が作り出した科学の成分で出来ている。
つまり、見た目はどれも違うが全て同じ成分で作られてしまっているということ。
「同じ成分で作られたものをいくら使ったってどうにもならない。だって、同じ成分から他の薬が作れるはずないんだもの」
だから女は、昔の花の成分だけをその変化体の花から抽出し、そこから薬を作るために研究をしている。
成分をパーセントに表すと、作られた成分が九十パーセント。
元々の花の成分は十パーセントとなる。
その十パーセントを抽出して薬の研究をする。
それが、二人が今まで続けてきた二人の研究。
今回は桜輝華だが、この花は他とは違う。
何故ならこの花には未知の可能性が隠されているから。
昔、桜があった頃、枝を折ってはいけないとされていた。
日本の象徴の桜だからとも思えるかもしれないが、実は違う。
昔から桜には、色々な不可思議が起きていた。
例えば、桜の木の下で告白をしたカップルは成功する。
桜は人の心を癒やすなど様々。
そんな桜には、もしかしたら昔ではわからなかった凄い力があるのではないかと、女は今まで桜の変化体を探した。
そして遂に見つけることができ、これから桜の研究が始まろうとしている。
変化体の桜も木なのだが、流石に木をまるごと持ってくることは不可能のため、今回は地面に落ちていた桜の花をいくつか入手してきた。
これではまだ足りないだろうが、桜の最初の研究には十分だろう。
「そういえば先輩、桜輝華の近くにこれがあったんですけど」
そう言いながら山倉が袋から取り出したのは、四葉のクローバー。
科学が発達した今、雑草と四葉のクローバーは昔と変わらずに唯一存在する。
「四葉のクローバーって見つけるといいことがあるっていうけど、これは昔から言われてることなのよね」
「そうなんですね。じゃあ、先輩にあげます」
山倉は女の手に四葉のクローバーをそっと握らせると笑みを浮かべた。
女は「ありがとう」と言うと四葉のクローバーをポケットに入れ研究を再開する。
昔からある四葉のクローバーの研究はもう済んでいるため必要ない。
それなのに珍しくない四葉のクローバーを持ってきたのは、女が草花を好きだからという理由ではない。
「先輩が好きなのは草花だけですか……」
ポツリと呟いた言葉は、研究に集中している女には届かない。
どこか切なく、どこか恐ろしくあるその言葉の意味は、山倉と四葉のクローバーだけが知っている。
四つ葉のクローバーの花言葉は「幸運・私のものになって・約束・復讐」。
この恋が叶わないとき、その愛は憎さに変わり復讐へと変わる。
山倉の心が少しずつ黒く染まり始めていることに誰も気づかない。
それは、山倉本人にも知り得ないこと。
《完》
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