三途の川の老婆

 私は命を落とした。
 三途の川が見える。
 私が行くのは天国か地獄か。

 三途の川の番をする老婆が、私に手を出す。
 川を渡るための六文銭だ。

 このために私は、家族に私が亡くなったら六文銭を握らせるように伝えていた。

 自分の握られた拳を開けば、そこには六文銭が――。



「ない!? 一文足りない!」



 家族に頼んでいたというのに、どうやら数え間違えたようだ。
 これでは三途の川は渡れない。



「一文まけてくれませんか?」

「ダメだ。船代をケチる気かい」



 ケチるとかではなく、一文無いことを説明するが、それでもまけるわけにはいかんと首を振る。

 どれだけ説得を試みても頷かない老婆に、私は苛つき始め「お金がないのにどうしろってのよ」と逆ギレすると、老婆は仕方がないと、私に手を上げるように言う。

 わけがわからなかったが手を上げると、老婆はハイタッチをして「あとは任せたよ」と言い残し何処かへと行ってしまう。



「え? 私にどうしろってのよ」



 その後私は老婆に代わり、三途の川な番をする。
 次々にくる亡者達から六文銭を受け取り船で向こう岸まで運ぶというのを繰り返す。

 こうして見ているとみんな六文銭を持っていて、私だけがやっぱり持っていないんだと家族を呪いたくなった。


 それからどのくらい経ったのか、ようやく亡者の列も落ち着くと、ひょっこりと老婆が現れた。



「良く頑張ったね。いいだろう。一文まけてあげるよ」

「本当ですか!?」



 私は無事に三途の川を渡ることができ、老婆にお礼を伝える。
 でも、ここからが問題だ。
 天国なのか地獄なのか。



「もう、なるようになれよ」



 私が閻魔大王から受けた判決は天国行き。
 理由は、前世での悪い行いはなかったことと、三途の川の手伝いをした際に、そのまま渡ってしまうこともできたのに真面目に働いたから。

 死んだあともやはり善人であることが大切だ。
 そして家族はしっかり数えて六文銭を握らせよう。


《完》
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