四年後にまた
いつも準備中の喫茶店。
たまに前を通るが営業しているところを見たことはなく、もしかしたらすでに閉店してしまっているのかもしれない。
外から中を覗いてみたことがあり、とても雰囲気が良さそうで、一度入ってみたかったのだが残念だ。
そんな事を思っていた日から数年後の夜。
あの喫茶店の前を通りかかると、お店に明かりがついていた。
そっと扉を押すと、カランコロンというベルの音が鳴る。
店内を見るが、お店の人どころかお客さんもいない。
やっぱり帰ろうと思ったとき、カウンターから人が出てきた。
「いらっしゃいませ。どうぞカウンター席へお座りください」
「は、はい」
ニコリと微笑まれ、言われるがままに座ると、お店の人にメニューボードを手渡される。
思った通り良い雰囲気のお店。
それに、まさかお店の人が私と同い年くらいのイケメンさんだとは思わず、ついじっと見てしまっていると、お店の人と目が合い、私は慌ててメニューボードを開く。
何だか見たことのないメニューばかりでどれを注文したらいいのかわからない。
「お飲み物でしたら、こちらのウルーティーがオススメですよ」
メニューボードとにらめっこしていると、伸ばされた指先が一つのメニューを指す。
顔を上げれば目の前にお店の人がいて、慌てて「それでお願いします」となんとか注文は出来たが、ウルーティーとは何だろうかと少しワクワクする。
カウンター越しでお店の人が淹れると、その香りがお店中に広がっていく。
目の前に淹れたばかりのウルーティーを差し出され「どうぞ」と言われると、私は「いただきます」と一言言ったあと、カップに手を伸ばす。
カップのふちに口を付け傾けると、紅茶が体の芯まで温めてくれる。
少しスーとした香りがして、それなのにどこか甘く、でも甘過ぎず丁度いい。
「よければこちらもどうぞ」
そう言われ目の前に置かれたのは、紅茶のケーキだろうか。
生地に葉が入っているようだ。
「頂いてしまってよろしいんですか?」
「はい、是非召し上がってみてください」
そう言われ一口食べてみると、今飲んだウルーティーと近い味わいを感じた。
くどくは無く、それどころかこの紅茶によく合う。
今までにも紅茶を飲んだことはあるが、こんなに美味しく感じたのは初めてだ。
「お口に合いましたか?」
「はい、とっても」
ニコリと笑みを浮かべると、お店の人も嬉しそうに笑ってくれる。
こんなに紅茶もケーキも美味しいのに、何故お客はいないのか。
それに、いつも準備中なのは何故なのか尋ねてみると、それはこのお店が2月29日の夜にしか営業していないからだった。
きっと毎日営業していれば、人気に違いないため勿体無い。
こんな素敵なお店なら、私だって毎日でも通いたいのに。
「何故四年に一度なんですか?」
「そうですね。お店を開いているのに四年に一度なんておかしいですよね。でも私は、その一度を素敵なモノにしたいんです」
このお店には思いが込められていた。
四年に一度だからこそ、その一度を素敵な時間にする。
この日の為に考え、いつもメニューを新しくしているそうだ。
でも、毎日準備中で夜だけの営業では誰も来ないんじゃないかと思っている、カランコロンとベルが鳴る。
お店に入ってきたのはお年寄りの女性。
お店の人はその女性が来店すると、紅茶を淹れてその人の座る席へと運ぶ。
「ウルーティーです」
お礼を口にして女性は紅茶を飲むと「今日もとても美味しいわ」と柔らかな笑みを浮かべる。
どうやらこの女性は今回が初めてではないようだ。
お店の人も女性の注文を聞かずに紅茶を淹れていたし、女性の「今日も」という言葉は以前にも来ているとわかる。
先程までは人なんて来るのだろうかと思っていたのに、少し経つと店内には数名の人の姿。
「普通に営業するよりお客様は少ないかもしれません。でも、私は四年に一度のこの時間がとても幸せなんですよ」
お店の人は本当に幸せそうにお客さんの姿を眺めていた。
私も改めてお客さんの姿を見てみると、皆とても幸せそうだ。
きっと私はまた四年後にここへ来る。
そしてまた、次の四年後にも――。
《完》
たまに前を通るが営業しているところを見たことはなく、もしかしたらすでに閉店してしまっているのかもしれない。
外から中を覗いてみたことがあり、とても雰囲気が良さそうで、一度入ってみたかったのだが残念だ。
そんな事を思っていた日から数年後の夜。
あの喫茶店の前を通りかかると、お店に明かりがついていた。
そっと扉を押すと、カランコロンというベルの音が鳴る。
店内を見るが、お店の人どころかお客さんもいない。
やっぱり帰ろうと思ったとき、カウンターから人が出てきた。
「いらっしゃいませ。どうぞカウンター席へお座りください」
「は、はい」
ニコリと微笑まれ、言われるがままに座ると、お店の人にメニューボードを手渡される。
思った通り良い雰囲気のお店。
それに、まさかお店の人が私と同い年くらいのイケメンさんだとは思わず、ついじっと見てしまっていると、お店の人と目が合い、私は慌ててメニューボードを開く。
何だか見たことのないメニューばかりでどれを注文したらいいのかわからない。
「お飲み物でしたら、こちらのウルーティーがオススメですよ」
メニューボードとにらめっこしていると、伸ばされた指先が一つのメニューを指す。
顔を上げれば目の前にお店の人がいて、慌てて「それでお願いします」となんとか注文は出来たが、ウルーティーとは何だろうかと少しワクワクする。
カウンター越しでお店の人が淹れると、その香りがお店中に広がっていく。
目の前に淹れたばかりのウルーティーを差し出され「どうぞ」と言われると、私は「いただきます」と一言言ったあと、カップに手を伸ばす。
カップのふちに口を付け傾けると、紅茶が体の芯まで温めてくれる。
少しスーとした香りがして、それなのにどこか甘く、でも甘過ぎず丁度いい。
「よければこちらもどうぞ」
そう言われ目の前に置かれたのは、紅茶のケーキだろうか。
生地に葉が入っているようだ。
「頂いてしまってよろしいんですか?」
「はい、是非召し上がってみてください」
そう言われ一口食べてみると、今飲んだウルーティーと近い味わいを感じた。
くどくは無く、それどころかこの紅茶によく合う。
今までにも紅茶を飲んだことはあるが、こんなに美味しく感じたのは初めてだ。
「お口に合いましたか?」
「はい、とっても」
ニコリと笑みを浮かべると、お店の人も嬉しそうに笑ってくれる。
こんなに紅茶もケーキも美味しいのに、何故お客はいないのか。
それに、いつも準備中なのは何故なのか尋ねてみると、それはこのお店が2月29日の夜にしか営業していないからだった。
きっと毎日営業していれば、人気に違いないため勿体無い。
こんな素敵なお店なら、私だって毎日でも通いたいのに。
「何故四年に一度なんですか?」
「そうですね。お店を開いているのに四年に一度なんておかしいですよね。でも私は、その一度を素敵なモノにしたいんです」
このお店には思いが込められていた。
四年に一度だからこそ、その一度を素敵な時間にする。
この日の為に考え、いつもメニューを新しくしているそうだ。
でも、毎日準備中で夜だけの営業では誰も来ないんじゃないかと思っている、カランコロンとベルが鳴る。
お店に入ってきたのはお年寄りの女性。
お店の人はその女性が来店すると、紅茶を淹れてその人の座る席へと運ぶ。
「ウルーティーです」
お礼を口にして女性は紅茶を飲むと「今日もとても美味しいわ」と柔らかな笑みを浮かべる。
どうやらこの女性は今回が初めてではないようだ。
お店の人も女性の注文を聞かずに紅茶を淹れていたし、女性の「今日も」という言葉は以前にも来ているとわかる。
先程までは人なんて来るのだろうかと思っていたのに、少し経つと店内には数名の人の姿。
「普通に営業するよりお客様は少ないかもしれません。でも、私は四年に一度のこの時間がとても幸せなんですよ」
お店の人は本当に幸せそうにお客さんの姿を眺めていた。
私も改めてお客さんの姿を見てみると、皆とても幸せそうだ。
きっと私はまた四年後にここへ来る。
そしてまた、次の四年後にも――。
《完》
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