同じ二人が出会ったら

 姫に生まれた私だが、何故か城の者達から変わり者と言われている。

 城で木に登って景色を眺めようとすると、女中達に必死で止められた。

 高い所から外を眺めたいなら城から眺めれば早いが、私は木の上から見える景色を知りたかった。

 城下へいったときも、畑を耕している民を見て私も手伝おうとしたら、おつきの者に止められた。

 作物は私だって食べる物。
 それを私が手伝って何がいけないのかわからない。
 そんな私の行動に、城の者達は変わり者と噂する。

 私は変わっているのだろうかと思っていたとき、ふと城の女中が話していたことを思い出す。

 尾張の織田おだ 信長のぶながは、私と同じ変わり者らしい。
 そして、血も涙もない冷酷な人物であるようだが、同じ変わり者と言われる信長様がどんな方なのか少し気になる。



「お父様、どの様な御用でしょうか」



 突然の呼び出しに、また私の行動に対してのお叱りを受けるのだろうと思っていたのだが、その内容は私の考えとは全く違った。

 お父様が言うには、天下人に最も近いと言われている信長様から文が届いたらしく、その内容が、姫を見てみたいというものだった。

 信長様との面識も関わりもないこんな小国を滅ぼしに来るとも思えないし、そもそも私を見てみたいとはどういうことなのかお父様にもわからないようだが、兎に角失礼がないようにと言われ頷く。

 またいつもの様に私がおかしな行動をすれば、信長様の怒りを買うかもしれないからだ。


 数日後。
 信長様が城へやって来た。

 目的はわからないが、私は信長様と初対面を果たす。

 私と同じく変わり者と言われている信長様には興味があったため、正直一度お会いしてみたいと思っていた。



「この度は、この様な小国の国にお越し下さりありがたき幸せでございます」

「お前が姫か。すまぬが、俺と姫以外の者はここから退室してもらおう」



 お父様の去り際の目が、余計なことはしないようにと私に言っていた。

 この空間に二人きり。
 本当に信長様は何を考えているのかわからない。



「姫、お前は変わった姫らしいな」

「城の者からはそう言われております」



 まさか信長様の耳にまで入るほどに私は変わり者だったのだろうか。
 自分ではそんな風に思ったことはないというのに。



「お前と似たことを俺もしたことがある」

「え? 信長様もですか?」



 そこから私と信長様は、自分達がしてきたことをお互いに話した。
 するとなんの偶然なのか、お互いの行動、そしてその行動の理由が同じだった。

 気づけば笑い合いながら話していた。
 今まで私は変わり者という目でしか見られてこなかったというのに、初対面の相手とまさかこの様な話ができるなど思ってもみなかった。

 噂では血も涙もない冷酷な人物だと聞いていたが、私にはとてもそんな人には思えない。



「もう夕刻か」

「あら、本当」



 あっという間の楽しい時間。
 いつぶりにこの様に楽しく人と会話しただろうか。

 その日信長様は城に泊まり、翌日私は信長様を城下へと案内する。



「それでこちらが茶屋であちらが――」



 私が町のお店を教えていると、突然信長様は笑い出す。
 笑われるようなことはしていないつもりなのだが。



「すまぬな。あまりにもお前が嬉しそうに話すもので」

「す、すみません」



 一人ではしゃいでしまっていた自分が恥ずかしくなり、私は少し顔を伏せる。



「いや、よい。愛らしいと思っただけだ」



 その言葉に胸がきゅっと締め付けられた。
 愛らしいなど、幼き頃に言われた以来だ。


 小国の城下の案内は直ぐに終わり、そろそろ城へ戻ろうとしたときだった。
 走ってきたわらべが信長様にぶつかったのだ。

 勢いでお尻を地面についた童に、私は怪我をしてないか尋ねる。
 その童の顔は今にも泣きそうで、恐怖を表していた。

 その視線を追い、私も体が固まる。
 信長様の冷たい瞳。
 それは、殺気。



「信長様、お許しくださいませ。まだ幼い子のしたこと」

「ああ、わかっておる。童、これにこりたら気をつけろ」



 童は泣きながら帰っていき、私と信長様は城へと向かう。
 その帰り道、私は無言だった。

 話に聞いた血も涙もない冷酷な人物。
 それは、童さえも手にかけると言うことだったんだと思うと、信長様が怖くなる。



「あの童、あれで無闇に人中を走らぬようになるだろう」



 そう漏らした言葉で気づいた。
 先程のあれは、あの童のためにしたことなのだと。

 本当はただ優しい人なのに、誤解されてしまう人なんだとわかったら、やはり噂なんてあてにならないと思えた。

 変わり者だって構わない。
 私は私に変わりない。

 私達は変わり者だけど、だからこそ仲良くなれる。
 そんな気がした茜空の帰り道。


《完》
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