温かい冬

 仕事でお偉いさんの元へ行くことになり、今日は先輩と一緒にとある会社に来ていた。

 ビルを出た頃には外が暗くなっていて、寒さで吐く息が白い。
 このまま家へ帰っていいことになっているので、途中まで帰りが一緒の先輩と並んで歩く。



「お前はクリスマス予定あるのか?」

「先輩、それって嫌味ですか? 私にそんな相手いないこと知ってるくせに」



 ムッとする私の瞳には、ニシシと笑みを浮かべる先輩が映る。

 もう直ぐクリスマスだというのに、彼氏がいない私はいつも一人寂しく過ごす。
 そんな私とは真逆に先輩はモテるから、今年もクリスマスは忙しいに違いない。



「先輩の女性関係は興味ないですが、このままだと痛い目見ますよ」

「クリスマスが血に染まるってか? ありそうだよな」



 何人もの女性と付き合う先輩。
 相手の女性は皆そのことを知っていて付き合っている。
 中には自分だけを見てほしいと言い出す人もいたみたいだけど、そういう女性とは関係を切ってしまうのが先輩。

 だが不思議なことに、関係を切られた女性は全く先輩を恨んでいない。
 それどころか、先輩と別れたあとは新しい彼氏を作って幸せになっている。

 そんなことを考えながら、冷たくなった手に息をかけ温めていると、突然首元が温かくなり見てみると、先輩のマフラーが巻かれていた。



「これで寒くないだろ」

「私は寒くないですから先輩が巻いてください」



 こういうさりげない優しさに女性は落ちてしまうのかもしれないけど、私には効かない。

 マフラーを突き返そうとすると「鼻先をそんな真っ赤にしてよく言うよな」と先輩は笑う。
 後輩に風邪なんて引かれたら俺の責任だからなと言われてしまい、私はマフラーをこのまま借りることにする。
 先輩から借りたマフラーは温かく、幸せな気持ちになる。



「お! 自販機発見。なんか温かいもんでも買ってきてやるから待ってろよ」



 そう言って戻ってきた先輩に手渡されたのはホット珈琲。
 二人で近くのベンチに座り飲む珈琲は、体の中から温めてくれる。

 先輩の行動一つ一つが思いやりと優しさに溢れていて、モテるのもわかる。
 でも、それが私に効かないのは、すでに私も先輩に恋をしてしまっているから。

 空を仰ぐと無数の星々が輝いている。
 寒いはずなのに、先輩と一緒にいると温かい。
 それは珈琲のせいなのかマフラーのせいなのか、それとも別の何かなのか。



「よし、帰るか」

「そうですね」



 先輩のマフラーをキュッと握り、私は口元を緩める。
 こんなに温かい冬は初めてだ。


《完》
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