地味子とウルフ
やって来た転校生は、綺麗な白銀の髪に青い瞳をしている帰国子女。
その男の名は、大上 ウルフ。
クールな雰囲気とその人目を惹く美しさに転校初日から女子達が騒ぎ出す。
授業が終わる度にウルフくんの回りに女子達が集まり声をかけるが、煩い、と静かに言われた言葉に女子達は離れていく。
そんな様子を全て見ていた私も、ウルフくんに惹かれている女子の一人だ。
名前の通り狼のような見た目と雰囲気。
カッコイイのだが、それ以上に美しいと感じさせる。
だが、自分は他の女子達のように声をかけることが出来ない。
「ねえ、地味子。アンタさっきからウルフくんの事見てるよね?」
「えー、マジ? 地味子なんかとウルフくんが相手にするわけないじゃん」
ケラケラと笑う二人の女子。
二人の言う通り、自分なんか相手にされないとわかっている。
だから声をかけることが出来ないのだ。
自分は地味な女。
皆は面白がり一人が地味子と呼んだ。
そこから地味子というあだ名で皆から呼ばれるようになった。
でもいいのだ。
こうしてウルフくんを見ていられるだけで、心が癒されるのを感じるのだから。
そしてその日の下校時間、一人帰路を歩いていると、白銀の髪を揺らしながら前を歩く人を見掛け、直ぐにウルフくんだと気付く。
自分と帰る方向が同じなんだと思いながら距離を取りつつ歩いていると、ウルフくんは立ち止まり私へと振り返る。
「何でついてくるわけ」
声をかけられ周りをキョロキョロとしていると、ウルフくんは私の目の前まで来て険しい表情を浮かべ「アンタに言ってんだけど」と言う。
ついてきた訳ではなく自分も帰る方向が同じだということを慌てて説明すると、ならこそこそ俺の後ろを歩く必要ないだろと言い、ウルフくんは再び歩き出す。
地味な自分は人より一歩下がってしまう。
だから、その背を見詰めることはできても並ぶことはできず、自分には眩しすぎる存在なら尚更だ。
顔を伏せ立ち止まったままでいると、自分の前にもう一つ影が現れ顔を上げる。
「いつまでそうしてるきだよ。帰る方向が同じなら行くぞ」
静かにそう言ったウルフくんの言葉は温かく、心に一滴の雫が落ちると、先程までの落ち込んだ気持ちが無くなるのを感じる。
歩き出すのを待っていてくれているウルフくんに、私は柔らかな笑みを浮かべ頷くと共に帰路を歩いた。
そしてその翌日。
私とウルフくんが一緒に帰ったことがすでに皆に知られており、私は女子達に囲まれていた。
「地味子のくせにウルフくんと帰るなんて生意気」
「鏡でも見たら?」
悪口の数々を浴びせられた後教室に戻ると、私は席につき視線を落とした。
そんな自分に声が掛けられ、その声音で直ぐにウルフくんだと気付くが顔を伏せたまま静かに「放っておいて」と言う。
すると、何時も私の事をからかっている二人の女子がやって来て「地味子なんて相手にしないで一緒に話そうよ」とウルフくんを誘う。
だが、ウルフくんの発した言葉で、女子二人は黙り込む。
「俺は、地味子なんてバカにしてる女と話すことなんてない。それにお前も、いつまでそうして顔を伏せてる気だよ」
「放っておいてっていってるでしょ」
これ以上女子達に虐められるのが嫌で冷たくすると、ウルフくんは私の腕を掴み立ち上がらせた。
「私に構わないで!」
「それは本当にお前の本心なのか? 今怒ったみたいに、お前をバカにしてる奴等にも言い返せよ」
簡単に言ってくれる。
そんなこと出来るはすがない。
出来ていれば今私はこんな気持ちになっていないのだから。
本当は、地味子なんて呼ばれたくない。
でも、鏡で見る自分は本当に地味で、周りがそう言うのも当然だと思った。
私は静かに「もう構わないで」と言うと席につく。
それから下校時間。
あれからウルフくんが声をかけてくることはなかった。
これで、女子達から目をつけられることもないだろうと安堵していると、帰り道に同じクラスの女子二人が目の前に現れた。
「ほんと、アンタムカつくんだよね」
「アンタのせいで私達が悪者みたいになったじゃない」
結局自分はこうなるのだ。
地味な自分は怒りの的にされるのだと思ったときか「事実だろ」という言葉が背後から聞こえ振り返ると、そこにはウルフくんの姿があった。
ウルフくんは私の横に立つと、私が怒らない分、言い返せない分、その言葉を全て女子達にぶつけ、言い返す言葉がない二人は去っていった。
「私、ウルフくんに冷たくしたのに、なんでこんな地味な奴を助けてくれるの?」
「お前が自分を地味だって思うからあいつらもつけあがるんだ」
そう言われても、自分が地味なのは事実だからと言えば「そんなことねえだろ」と言われても伏せてしまっていた顔を上げる。
少なくてもバカにしてるあいつらよりお前のが何倍もいいと言われ、私の鼓動が音を立てる。
するとウルフくんは、自分も見た目で嫌な思いをしたことがあると話始めた。
綺麗な白銀の髪に纏うクールな雰囲気。
そんな見た目のウルフくんはどこにいても注目されたが、周りが見ているのは外見だけ。
そんな自分と私をどうやら重ねていたらしく、その話を聞いた私は、どんなに綺麗な人でも悩みがあるのだと知り、地味だからと納得し受け入れていた自分が嫌になる。
そして翌日。
教室がざわつくこととなった。
地味子と言われていた私は眼鏡をやめコンタクトにしたのだが、その素顔は地味などではなく可愛かった。
そんな私に「やっぱり地味じゃねえじゃん」というウルフくんの言葉に少し恥ずかしさを感じながらも、ありがとうと笑みを浮かべる。
《完》
その男の名は、
クールな雰囲気とその人目を惹く美しさに転校初日から女子達が騒ぎ出す。
授業が終わる度にウルフくんの回りに女子達が集まり声をかけるが、煩い、と静かに言われた言葉に女子達は離れていく。
そんな様子を全て見ていた私も、ウルフくんに惹かれている女子の一人だ。
名前の通り狼のような見た目と雰囲気。
カッコイイのだが、それ以上に美しいと感じさせる。
だが、自分は他の女子達のように声をかけることが出来ない。
「ねえ、地味子。アンタさっきからウルフくんの事見てるよね?」
「えー、マジ? 地味子なんかとウルフくんが相手にするわけないじゃん」
ケラケラと笑う二人の女子。
二人の言う通り、自分なんか相手にされないとわかっている。
だから声をかけることが出来ないのだ。
自分は地味な女。
皆は面白がり一人が地味子と呼んだ。
そこから地味子というあだ名で皆から呼ばれるようになった。
でもいいのだ。
こうしてウルフくんを見ていられるだけで、心が癒されるのを感じるのだから。
そしてその日の下校時間、一人帰路を歩いていると、白銀の髪を揺らしながら前を歩く人を見掛け、直ぐにウルフくんだと気付く。
自分と帰る方向が同じなんだと思いながら距離を取りつつ歩いていると、ウルフくんは立ち止まり私へと振り返る。
「何でついてくるわけ」
声をかけられ周りをキョロキョロとしていると、ウルフくんは私の目の前まで来て険しい表情を浮かべ「アンタに言ってんだけど」と言う。
ついてきた訳ではなく自分も帰る方向が同じだということを慌てて説明すると、ならこそこそ俺の後ろを歩く必要ないだろと言い、ウルフくんは再び歩き出す。
地味な自分は人より一歩下がってしまう。
だから、その背を見詰めることはできても並ぶことはできず、自分には眩しすぎる存在なら尚更だ。
顔を伏せ立ち止まったままでいると、自分の前にもう一つ影が現れ顔を上げる。
「いつまでそうしてるきだよ。帰る方向が同じなら行くぞ」
静かにそう言ったウルフくんの言葉は温かく、心に一滴の雫が落ちると、先程までの落ち込んだ気持ちが無くなるのを感じる。
歩き出すのを待っていてくれているウルフくんに、私は柔らかな笑みを浮かべ頷くと共に帰路を歩いた。
そしてその翌日。
私とウルフくんが一緒に帰ったことがすでに皆に知られており、私は女子達に囲まれていた。
「地味子のくせにウルフくんと帰るなんて生意気」
「鏡でも見たら?」
悪口の数々を浴びせられた後教室に戻ると、私は席につき視線を落とした。
そんな自分に声が掛けられ、その声音で直ぐにウルフくんだと気付くが顔を伏せたまま静かに「放っておいて」と言う。
すると、何時も私の事をからかっている二人の女子がやって来て「地味子なんて相手にしないで一緒に話そうよ」とウルフくんを誘う。
だが、ウルフくんの発した言葉で、女子二人は黙り込む。
「俺は、地味子なんてバカにしてる女と話すことなんてない。それにお前も、いつまでそうして顔を伏せてる気だよ」
「放っておいてっていってるでしょ」
これ以上女子達に虐められるのが嫌で冷たくすると、ウルフくんは私の腕を掴み立ち上がらせた。
「私に構わないで!」
「それは本当にお前の本心なのか? 今怒ったみたいに、お前をバカにしてる奴等にも言い返せよ」
簡単に言ってくれる。
そんなこと出来るはすがない。
出来ていれば今私はこんな気持ちになっていないのだから。
本当は、地味子なんて呼ばれたくない。
でも、鏡で見る自分は本当に地味で、周りがそう言うのも当然だと思った。
私は静かに「もう構わないで」と言うと席につく。
それから下校時間。
あれからウルフくんが声をかけてくることはなかった。
これで、女子達から目をつけられることもないだろうと安堵していると、帰り道に同じクラスの女子二人が目の前に現れた。
「ほんと、アンタムカつくんだよね」
「アンタのせいで私達が悪者みたいになったじゃない」
結局自分はこうなるのだ。
地味な自分は怒りの的にされるのだと思ったときか「事実だろ」という言葉が背後から聞こえ振り返ると、そこにはウルフくんの姿があった。
ウルフくんは私の横に立つと、私が怒らない分、言い返せない分、その言葉を全て女子達にぶつけ、言い返す言葉がない二人は去っていった。
「私、ウルフくんに冷たくしたのに、なんでこんな地味な奴を助けてくれるの?」
「お前が自分を地味だって思うからあいつらもつけあがるんだ」
そう言われても、自分が地味なのは事実だからと言えば「そんなことねえだろ」と言われても伏せてしまっていた顔を上げる。
少なくてもバカにしてるあいつらよりお前のが何倍もいいと言われ、私の鼓動が音を立てる。
するとウルフくんは、自分も見た目で嫌な思いをしたことがあると話始めた。
綺麗な白銀の髪に纏うクールな雰囲気。
そんな見た目のウルフくんはどこにいても注目されたが、周りが見ているのは外見だけ。
そんな自分と私をどうやら重ねていたらしく、その話を聞いた私は、どんなに綺麗な人でも悩みがあるのだと知り、地味だからと納得し受け入れていた自分が嫌になる。
そして翌日。
教室がざわつくこととなった。
地味子と言われていた私は眼鏡をやめコンタクトにしたのだが、その素顔は地味などではなく可愛かった。
そんな私に「やっぱり地味じゃねえじゃん」というウルフくんの言葉に少し恥ずかしさを感じながらも、ありがとうと笑みを浮かべる。
《完》
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