死神の仕事

 死神は人に恐れられる存在だ。
 人に死神の姿は見えないが、まれに死に近づく者で見える者がいる。
 そう、今自分を見詰めるこの少女のように。

 弱りきった少女の寿命はあと一月。
 死に近づけば近づくほど、少女は死神の姿がハッキリと見えるようになっていった。



「あなた、死神さんなんだね」



 死神だと教えれば、少女はニコリと笑みを浮かべ言う。

 自分が死ぬことが、小さな少女にはまだわからないのだろう。
 そもそも、死自体わかっているのか怪しいものだ。

 死神は、少女の命が尽きるのを待った。
 家のベッドで寝たきりの少女の元に通う医者。
 いつも部屋を出ていくと、少女の両親と話している。

 話す内容は少女の死。
 もってあと一週間と告げられると、少々の両親は声を殺し泣いていた。
 だが、死神にとってこの光景は珍しくない。

 死神の仕事は、無事に魂をあの世に送ることだ。
 こんな光景は数えきれないほど見てきた。

 まだ10歳の少女は、来年を迎えることはできずにこの世から去る。
 それがこの少女の運命であり、決められたものだ。



「死神さん、死ぬのってどんな感じなの?」

「さぁな」



 少女はそれから毎日死について尋ねてきた。
 でも死神は何も答えずさぁなと言うだけ。

 死について死神が話せることは何もない。
 何故なら、死神は死ぬこともないまま人の魂をあの世に送り続けるだけなのだから。

 人の命が尽きるのを今まで見続けてきた死神だが、そんな死神が一番死を知らない。

 だからこそ不思議だった。
 人が死に近づく度に、泣いたり笑ったり怖がったりすることが。



「お亡くなりになりました」



 医者が口にした言葉に、少女の両親が泣いている。
 目覚めることのない少女が眠るベッドで泣く両親。

 そんな光景を眺める死神の手には、少女の魂が掴まれている。

 死神にはやはりわからない。
 死ぬ直前、少女は死神に言ったのだ。
 傍にいてくれてありがとうと。

 仕事でいるだけだというのに、死神の姿が見える人は死に際に決まって礼を言う。

 不思議だが、その言葉を聞くと口許に笑みが浮かぶ。
 理由はわからない。



「よし、次の仕事だな」



 そして今日も死神は次の仕事へ向かう。
 手に持つのは死ぬ者のリストと、今日回収した魂一つ。


《完》
1/1ページ
    スキ