皆の一本道

 いつも歩いてきた学校へ向かう道。
 女の住んでいるところは田舎のため、生徒は小学生から中学生が一緒の教室だ。

 生徒は、小学一年生の男子が二人。
 どちらもまだまだ子供でありやんちゃだ。
 そして三年生の女子が一人。
 大人しくて恥ずかしがりやな可愛らしい子だ。
 更に六年生の男子が一人。
 六年生ということもあり、落ち着きもある子なのだが、見た目が可愛いせいか一年生の二人にはからかわれがちだ。
 そしてこの中で、ただ一人女だけが中学二年生だった。

 教室も一つしかない小さな学校であり、女は一番年上ということもあり皆に頼られ好かれていた。
 だが、そんな子供が少ない田舎にやって来た人物がいたのだ。



「今日から皆と一緒に授業を受ける、風野かぜの 春希はるきくんよ」



 こんな田舎にわざわざ越してくる人などいるはずもなく、初めての転校生に下級生は嬉しそうに騒ぎ出す。

 春希は女と同じ中学二年である男子だ。
 きっと皆から頼られまくられることになるのだろうなと思っていたのだが、春希は皆に対してとても冷たかった。

 一限目が終り下級生が声をかけても無視。
 挙げ句には、無視すんなよと騒ぐ下級生を睨み付ける。
 そんな春希を皆がよく思わず、何とかしなければと、下校時間に女が春希に一緒に帰らないかと声をかけるが、無視して一人帰ってしまう。

 そんな帰り道。
 低学年、とくに一年の二人は文句を言っていた。



「なんだよあいつ」

「嫌な奴だよな」



 学校から女達が暮らす村までは一本道のため、帰りはいつも皆で帰るのだが、今日はやはり空気が悪い。

 何故春希があんな態度をとるのかわからないがこのままにしておくこともできず、女はその日、皆で仲良くなれる方法はないかと考えた。


 そして翌日、何時ものように学校へ向かっていると小さな後ろ姿が見え声をかける。
 すると、嬉しそうに笑みを浮かべおはようと挨拶するのは、三年生の咲波さなみ

 二人一緒に学校に向かい教室の前までついた時、中が何やら騒がしいことに気づく。

 一体どうしたのだろうかと教室に入ると、先に来ていた一年生二人と春希が何やらもめているようだ。



「お前、俺達よりでかいからってバカにするなよ」

「そうだそうだ! そんな睨んだって怖くねぇんだからな」



 そんな一年生の言葉に怒ったのか、鋭く二人を睨むと立ち上がった。

 先程まで大きな口を叩いていた二人も怖くなったのか怯え、咲波も女の後ろに隠れてしまっている。

 これは止めなければと、咲波に少し入り口で待っているように伝えると、女は三人の元へと近づいていく。

 そして、三人に何があったのか話を聞いたのだが、春希は鞄を持つと教室を出ていってしまった。

 そのあと一年生二人から話を聞くと、先に来ていた春希にちょっかいを出したことを話す。

 だがら何の反応もしないため悪口を言っていたというのだが、これは春希だけが悪いとは言えなそうだ。



「今回は二人が悪い」

「えー、でもさあ」

「でもさあじゃない。ちゃんと春希くんに謝りなさい」



 どうやら二人反省したのか頷いたのだが、その日、春希が教室に戻ることはなかった。

 そして翌日。
 昨日のことがあるため不安を感じながらも学校へ向かっていると、今度は大きな背が見え駆け寄り声をかけた。

 すると、やはりその正体は春希であり、女は昨日の二人のことを謝った。
でも、何故無視をするのか尋ねると、春希は先に歩き出してしまい、女はそのあとを追いかける。

 これ以上話しかけたら怒らせてしまうかなと思ったが、このままではまた喧嘩になりそうだと思った女は、春希に再度問いかけた。

 何故無視するのか、答えてくれないのか、同じことを何度も質問していると、春希はその場で立ち止まり口を開く。



「怖がるからだ」

「え?」



 初めて聞く春希の声。
 そして思いもしない言葉に更に話を聞くと、春希は話始めた。

 小さい頃から目付きが悪かった春希は周りから避けられ、中学に入った時には上級生に絡まれていたらしい。

 何度もあった喧嘩だが、春希は一度たりとも手は出していない。
 だが、怪我をしている春希を見れば、何も知らない周りはそうは思わない。

 噂は更に広がり、その話は親の耳や近所の耳にも入り、この村に引っ越してきたのだ。

 引っ越す前、春希は両親に自分はなにもしていないことを話すが、両親は信じなかった。

 そこから春希は誰とも関わらないと決め、この学校に来てから誰とも口を利かなかったという訳だ。

 事情を知った女は、それで何で口を利かないのかと尋ねる。



「俺は誰とも関わりたくねーんだよ」

「そんなの可笑しいわよ。きっとその誤解は、春希くんがちゃんと人と関わろうと、向き合おうとしてこなかったからだと思うもの」



 女の言葉に目を見開く春希だが、口に手を当て笑い出した。

 周りが春希を知らないということは、春希き自信が周りと関わろうとしなかったからであり、もしあのとき誤解を解こうとした自分がいたら、結果は変わっていたのかもしれない。

 だが、今キョトンとして自分を見ている女が面白くて、春希はここに来てよかったのかもしれないと思った。

 二人一緒に学校へ向かう道を歩き教室に着くと、一年生二人が春希に謝る。
 そんな一年生二人に春希は笑みを浮かべ、気にすんなと返すのだった。


《完》
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