意気地なしな私
ヒロインの名前
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「やはり、有名人はモテますなぁ〜」
私は紙袋に入った沢山のチョコを持ってぽつりと呟いた。
空は暗くなり、無数の星が私達を照らし始めている。そんな中、明るい光が漏れている体育館のドアを開けば、淡々と練習する幼馴染の宗君がいた。宗君とは、小学生の時からの付き合いの神宗一郎だ。呼び方は恋人同士かと誤解されがちだが、唯の友達、幼馴染。
ひょこっと顔を出すと丁度、綺麗なシュートフォームで投げ終え、リングに吸い込まれるようにボールが入っていく所だった。いつ見ても、見惚れてしまう。
バスケの知識なんて、実技テストで覚えた程度の浅い物だけれど、そんな私が当たり前のように彼に近付けるのは幼馴染の特権かもしれない。
「エリナ。待ってたんだ?」
「明日、提出の課題が残ってたから図書室で終わらせてたの。それに、渡す物があるから」
「渡す物?何か貸してたっけ?」
「違うよ。バレンタインでしょ?はい」
白い大きな紙袋には可愛らしいラッピングの袋が何十個と入っていて、少し重かった。女の子達の愛の重さ並みに…って言うのは冗談だけど。
“バレンタイン”の言葉にゆっくり反応した宗君は、「ああ、そっか。ありがとう」と呑気に返事をして受け取る。
「全部食べたら鼻血ぶーだね」
ふふふと小さく笑う。紙袋の中身を確認しながら、宗君は口を開く。
「全部は食べ切れないから、他の人にも協力して貰うよ」
「そうだよね、腐らせたら勿体無いし」
それにしても、どれも美味しそうだったなぁ。ガトーショコラにトリュフ、クッキー。恐らく、本やネットのレシピを調べて作ったのだろう。健気だよねー。なんて思っていると、細長い腕が伸びて来て私の手を掴む。
「まだ貰ってないけど?」
「?チョコなら渡したけど」
「エリナから貰ってない」
「私、チョコ持ってないよ」
「は?」
顔を上げると私にしか知らない、しかめ面な宗君が私を睨んでいる。下唇を噛み、眉間に皺も寄る。試合の時ですら、こんな険しい顔しない癖に。
ファンの子達が見たら幻滅したりして。彼女達のイメージでは、優しさの塊の白馬に乗った爽やかな王子様だもんね。
「チョコの一つや二つで怒らないでよ」
「…別に怒ってないけど、毎年貰ってたから」
唇を尖らせて不満げな横顔が可愛くて、彼とは対照的に、私の唇は緩み、ニヤニヤしてしまう。欲しい物が手に入らなかった子供のように悔しがる姿に近かった。
「冗談。市販のだけどラッピングは私がしたから」
無地のセロファンの口を少し折ってマスキングテープで貼った物を鞄から出す。
カカオ量が多めのビターチョコを幾つか入れたそれを満足げに受け取って、早速中身を開け始めた。
「今食べるの?」
「500本まで後少しだからさ。息抜きに糖分摂取」
絶対チョコよりスポーツドリンクの方が良いでしょ、と野暮な言葉は使わなかった。何故なら、包み紙を開けて口に入れるのと同時に“糖分摂取”だなんて言うもんだから。
「…苦」
少し困ったように笑いながらも美味しそうに食べる顔。ああ、これは嬉しい時に見せる顔だ。なんて思いながら私も自然と笑顔になる。
ファンの子って、知ってそうで知らないんだよね。宗君が甘いチョコが然程好きじゃないの。カカオ70%のビターチョコの方が好みなのも。ま、知ってても私は言わないけど。
教える義理もないし、其処までお人好しでもないから。それに、周りに関係を話す時は友達だの幼馴染だの言うが、私自身が宗君に彼女が出来たら面白くないと感じる自分がいる。だからと言って、告白して彼女になる勇気もない意気地なしな自分に溜息しか出ない。だから、表面上では精一杯友達面をして恋愛感情を漏らさないように細心の注意を払って接して来た。
勿論、この想いは誰にも吐き出した事がなく、自分の胸の奥に施錠している。
私とは反対に、ファンの中には、何日も前から何を作るか調べて、前日の夜に何度も試行錯誤しつつも焼き上げたお菓子も作った人もいるかもしれない。それが手作りですらないチョコの詰め合わせの方が先に胃袋に入るなんて、同情すら感じる。
「手伝おうか?シュートの練習」
「いいの?悪いね」
「いいって!いつもお疲れ様」
私がボールを渡して、宗君は外す事なく、淡々と決める。
間も無く、シュート練習を終えて、後片付けを終わらせる。
自転車通学の宗君は歩きの私に合わせて自転車を押す。さり気なく、車道側を歩いてくれるので少し嬉しかった。
「…来年からチョコ受け取るのやめようかな」
「え?」
何か話す訳でもなく、帰り道を並んで歩いていると、突拍子もない事を言うので思わず、顔を覗き込んだ。
薄暗い街灯がチカチカしているだけなので表情はハッキリとは読み取れない。
声には迷いがなく、強く決心したように感じる。ファン達のチョコを渡さなくて良いんだとも捉えられるが、それ即ち私もチョコを渡せないではないか。心の中が不安に染まっていくが、宗君は次にとんでもない言葉を紡いだ。
「エリナから貰えるなら、他のチョコなんていらないなって思ってさ」
「大したのあげられないよ?私よりも手作りで美味しいお菓子作れる子なんて沢山いるし」
「例え、有名パティシエが作ってもエリナのチョコじゃないと頑張れないんだよ」
それは…小学生の時から陰で応援してたから?情が湧いたとか?それとも…恋愛対象として見てるから…?
脳内では様々な憶測が飛び交い、宗君の深層心理を知りたくて、何故に私でないと頑張れないのかと意味を考える。
「…鈍いのか鋭いのか、エリナって本当分からないよね」
「へ?」
「エリナが異性として好きなんだよ。って言っても分からない?」
「異性と、して…て事は」
彼も私と同じ気持ちだった…?
すると、見る見る内に頬は紅葉して、触れなくても熱を帯びているのが分かる程に暑かった。季節的にまだ寒い日が続くと言うのにそれに反発するように、内側から熱くなる。
「俺と付き合って下さい」
差し出された手。細長い雪のように白くて美しい指と彼を交互に見詰め、夢ではないか。でもそれにしては胸の高鳴り、アスファルトを踏み締めた感触がリアル過ぎる。つまり、現実なんだと示している。
月夜が私達を優しく照らし見守っている中、「…はい」と呟いてそっと手を握り締めれば、ゆっくり顔を上げて頬を緩めている。
「わっ」
ぎゅっと強く抱き締められて目を見開いた。幸い、人気が無くて見られる心配はなかったけれど、それでもこそばゆさと嬉しさがせめぎ合い、気が動転する。
間も無くして、身体は離れて宗君の顔を見上げれば、月を背景にして穏やかな笑みを浮かべていた。
「帰ろっか。明日も早いし」
「うん…。」
その日の晩は、リラックス効果のあるハーブティーを飲んでもドキドキが止まらなくて睡眠時間が殆ど得られなくて授業中、眠気との戦いになるのであった。しかし、それとは反対に心は何処か満たされた気持ちだった。
*END*
あとがき
久々の夢です!バレンタインまでに間に合って良かったです…!
私は紙袋に入った沢山のチョコを持ってぽつりと呟いた。
空は暗くなり、無数の星が私達を照らし始めている。そんな中、明るい光が漏れている体育館のドアを開けば、淡々と練習する幼馴染の宗君がいた。宗君とは、小学生の時からの付き合いの神宗一郎だ。呼び方は恋人同士かと誤解されがちだが、唯の友達、幼馴染。
ひょこっと顔を出すと丁度、綺麗なシュートフォームで投げ終え、リングに吸い込まれるようにボールが入っていく所だった。いつ見ても、見惚れてしまう。
バスケの知識なんて、実技テストで覚えた程度の浅い物だけれど、そんな私が当たり前のように彼に近付けるのは幼馴染の特権かもしれない。
「エリナ。待ってたんだ?」
「明日、提出の課題が残ってたから図書室で終わらせてたの。それに、渡す物があるから」
「渡す物?何か貸してたっけ?」
「違うよ。バレンタインでしょ?はい」
白い大きな紙袋には可愛らしいラッピングの袋が何十個と入っていて、少し重かった。女の子達の愛の重さ並みに…って言うのは冗談だけど。
“バレンタイン”の言葉にゆっくり反応した宗君は、「ああ、そっか。ありがとう」と呑気に返事をして受け取る。
「全部食べたら鼻血ぶーだね」
ふふふと小さく笑う。紙袋の中身を確認しながら、宗君は口を開く。
「全部は食べ切れないから、他の人にも協力して貰うよ」
「そうだよね、腐らせたら勿体無いし」
それにしても、どれも美味しそうだったなぁ。ガトーショコラにトリュフ、クッキー。恐らく、本やネットのレシピを調べて作ったのだろう。健気だよねー。なんて思っていると、細長い腕が伸びて来て私の手を掴む。
「まだ貰ってないけど?」
「?チョコなら渡したけど」
「エリナから貰ってない」
「私、チョコ持ってないよ」
「は?」
顔を上げると私にしか知らない、しかめ面な宗君が私を睨んでいる。下唇を噛み、眉間に皺も寄る。試合の時ですら、こんな険しい顔しない癖に。
ファンの子達が見たら幻滅したりして。彼女達のイメージでは、優しさの塊の白馬に乗った爽やかな王子様だもんね。
「チョコの一つや二つで怒らないでよ」
「…別に怒ってないけど、毎年貰ってたから」
唇を尖らせて不満げな横顔が可愛くて、彼とは対照的に、私の唇は緩み、ニヤニヤしてしまう。欲しい物が手に入らなかった子供のように悔しがる姿に近かった。
「冗談。市販のだけどラッピングは私がしたから」
無地のセロファンの口を少し折ってマスキングテープで貼った物を鞄から出す。
カカオ量が多めのビターチョコを幾つか入れたそれを満足げに受け取って、早速中身を開け始めた。
「今食べるの?」
「500本まで後少しだからさ。息抜きに糖分摂取」
絶対チョコよりスポーツドリンクの方が良いでしょ、と野暮な言葉は使わなかった。何故なら、包み紙を開けて口に入れるのと同時に“糖分摂取”だなんて言うもんだから。
「…苦」
少し困ったように笑いながらも美味しそうに食べる顔。ああ、これは嬉しい時に見せる顔だ。なんて思いながら私も自然と笑顔になる。
ファンの子って、知ってそうで知らないんだよね。宗君が甘いチョコが然程好きじゃないの。カカオ70%のビターチョコの方が好みなのも。ま、知ってても私は言わないけど。
教える義理もないし、其処までお人好しでもないから。それに、周りに関係を話す時は友達だの幼馴染だの言うが、私自身が宗君に彼女が出来たら面白くないと感じる自分がいる。だからと言って、告白して彼女になる勇気もない意気地なしな自分に溜息しか出ない。だから、表面上では精一杯友達面をして恋愛感情を漏らさないように細心の注意を払って接して来た。
勿論、この想いは誰にも吐き出した事がなく、自分の胸の奥に施錠している。
私とは反対に、ファンの中には、何日も前から何を作るか調べて、前日の夜に何度も試行錯誤しつつも焼き上げたお菓子も作った人もいるかもしれない。それが手作りですらないチョコの詰め合わせの方が先に胃袋に入るなんて、同情すら感じる。
「手伝おうか?シュートの練習」
「いいの?悪いね」
「いいって!いつもお疲れ様」
私がボールを渡して、宗君は外す事なく、淡々と決める。
間も無く、シュート練習を終えて、後片付けを終わらせる。
自転車通学の宗君は歩きの私に合わせて自転車を押す。さり気なく、車道側を歩いてくれるので少し嬉しかった。
「…来年からチョコ受け取るのやめようかな」
「え?」
何か話す訳でもなく、帰り道を並んで歩いていると、突拍子もない事を言うので思わず、顔を覗き込んだ。
薄暗い街灯がチカチカしているだけなので表情はハッキリとは読み取れない。
声には迷いがなく、強く決心したように感じる。ファン達のチョコを渡さなくて良いんだとも捉えられるが、それ即ち私もチョコを渡せないではないか。心の中が不安に染まっていくが、宗君は次にとんでもない言葉を紡いだ。
「エリナから貰えるなら、他のチョコなんていらないなって思ってさ」
「大したのあげられないよ?私よりも手作りで美味しいお菓子作れる子なんて沢山いるし」
「例え、有名パティシエが作ってもエリナのチョコじゃないと頑張れないんだよ」
それは…小学生の時から陰で応援してたから?情が湧いたとか?それとも…恋愛対象として見てるから…?
脳内では様々な憶測が飛び交い、宗君の深層心理を知りたくて、何故に私でないと頑張れないのかと意味を考える。
「…鈍いのか鋭いのか、エリナって本当分からないよね」
「へ?」
「エリナが異性として好きなんだよ。って言っても分からない?」
「異性と、して…て事は」
彼も私と同じ気持ちだった…?
すると、見る見る内に頬は紅葉して、触れなくても熱を帯びているのが分かる程に暑かった。季節的にまだ寒い日が続くと言うのにそれに反発するように、内側から熱くなる。
「俺と付き合って下さい」
差し出された手。細長い雪のように白くて美しい指と彼を交互に見詰め、夢ではないか。でもそれにしては胸の高鳴り、アスファルトを踏み締めた感触がリアル過ぎる。つまり、現実なんだと示している。
月夜が私達を優しく照らし見守っている中、「…はい」と呟いてそっと手を握り締めれば、ゆっくり顔を上げて頬を緩めている。
「わっ」
ぎゅっと強く抱き締められて目を見開いた。幸い、人気が無くて見られる心配はなかったけれど、それでもこそばゆさと嬉しさがせめぎ合い、気が動転する。
間も無くして、身体は離れて宗君の顔を見上げれば、月を背景にして穏やかな笑みを浮かべていた。
「帰ろっか。明日も早いし」
「うん…。」
その日の晩は、リラックス効果のあるハーブティーを飲んでもドキドキが止まらなくて睡眠時間が殆ど得られなくて授業中、眠気との戦いになるのであった。しかし、それとは反対に心は何処か満たされた気持ちだった。
*END*
あとがき
久々の夢です!バレンタインまでに間に合って良かったです…!
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