無口で大胆な彼
ヒロインの名前
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クリスマス。多くの恋人達が互いの時間を共有する特別な日ーーー。ブランドの香水を付けて、ヘアアイロンでカールした髪を指で弄りながら鏡の前でチェックする。
「よし」
小さく呟いて玄関の扉を開ける。
それなりに賑わった商店街。緑と赤で彩られていて、チキンやケーキの予約しているであろう人達の行列を尻目に、私は待ち合わせ場所で一際目立つ姿に手を振った。
「お待たせ」
「ん」
片手を上げて短く返事をするのは付き合って1ヶ月の彼氏、流川楓だ。周りからは痛い程、視線が突き刺さり、唯でさえデカくて目立つのに整った容姿がプラスされるのだから尚更だ。私が見付ける前に逆ナンされている可能性もある。恐らく、彼の場合はガン無視するか気付いていないかのどちらかだと思うが。
「ひゃー、寒いねー。もし、追試だったら一緒にクリスマス過ごせなかったかもだよ?」
ニヤニヤしながら見上げたら、少し唇を尖らせてむぅ…と不服な顔をする彼。
友達から聞いた話なんだけど、流川君は勉強が苦手で赤点4つ以上あって、インターハイ出場も危うかったんだって。だから、成績がクラスで10番以内に入る私が得意な科目だけでもと、図書室や放課後の教室で一緒に勉強した。
私が苦手な科目は部活のマネージャーの彩子さんや晴子さんに教わったらしい。
「それにしても、クリスマスの日に補修があるなんてやってられないよね。チキンの味が分からなくなりそう」
こんな事言うと、今頃テスト用紙と睨めっこしている生徒達に嫌味に聞こえるかもしれないが、クリスマスなんて糞食らえと感じているのではなかろうか。外へ出れば幸せな人で賑わう街中を歩くのすら億劫になりそうだ。
そんな事を考えていると頭上から声がした。
「…エリナには感謝してる」
「おお…。流川君…やけに素直だね」
試合では見た事ない鼻先を赤くした彼と目が合ったが、恥ずかしくなったのか向こうの方から視線を外した。
お互い、家で晩御飯を済ませた後に待ち合わせした為、お腹は空いていない。今日の目的は、2人でカップルならではのあの場所へ行く事になったのだ。そして、もう直ぐ着く予定。
暫く歩くと綺麗なイルミネーションのアーチが見えて来た。沢山のイルミネーションライトで施され、光る輪っかの真ん中に小さなサンタクロースやトナカイ、雪だるまが入っていて所々に飾られていて可愛らしい。
スマホで写真を撮る人、恋人と手を繋いでアーチを潜る人。多くの人で賑わいを見せていた。
「あら、カップルですか?」
「え?は、はい」
アーチの側でティッシュ配りをする女性が「初々しいチャーミングなお2人ですね」とニコニコ話し掛けて来た。人通りの多い通りだからか、段ボールには残り半分を切ったティッシュが顔を覗かせていた。
「では、可愛いカップルにいい事教えます!このアーチを手を繋ぎながら潜って奥にあるツリーの前でキスすると、永遠に愛が続くんですよ!」
「へ?キ、キス?」
「私、3年前の今頃にやったんですけど、そしたら今もバカップルって言われる程、ラブラブなんですよー。」
「へー、そうなんですね!」
ジンクスって、こうして人が試して実際に起こったから生まれるのかもしれない。そんなジンクスは初耳だ。
それから、「楽しんで下さいね」と、背後に声を浴びて歩き出した。今の人、惚気たかっただけじゃないの?と野暮な事は胸の中へ仕舞い、ライトアップされた道へと一歩ずつ歩き出した。
「……。何か、普段は唯の道なのにそうと思えない程、緊張しちゃうね」
ぎこちない、ロボットみたいにカクカク歩いていないか心配になる私とは対照的に、いつも通り顔色変えずに歩く楓のメンタルの強さが羨ましく思う。
緊張とは無縁そうだもんね。
「…も、もしかしたらバージンロード歩く時もこんな気持ち、なのかな?」
思わず口にした時、ハッとして頬を染めた。やだ、私ったら…付き合って1ヶ月で手を繋ぐまででキスすらした事ないのに、結婚って飛躍し過ぎてでしょ。1人で舞い上がって羞恥した私は、「ごめん、今の無し」と言ったが、ぎゅっと手を強めに握られた。
「……駄目」
「へ?」
「…取消とか、させねぇ…。」
「楓…。」
言葉は少なくても、彼の行動で私に対する想いを感じ取れる。ぷいっと私から顔を離したが、ほんのり赤く染まった耳が丸見えで可愛いなぁと思ってしまう。
これって、遠回しのプロポーズと捉えていいのかな?そう言うと恐らく、こくんと頷くだけなんだろう。
朝からグッと気温が下がりますと天気予報で伝えられていたから、朝から寒い寒いと言いながら洗顔したのに、今はカイロなんて貼っていないのに身体の内側からじんわり温まってきて心が熱くなる。
クールな人なのに、心を情熱的にする…不思議な人…。否、彼が不思議ではなく、これが人を好きな気持ちだ。
長らく忘れていた幼少期の頃の初恋の時代。好きな子に陰で「あいつ、暗くて何考えてるか分からないから気味悪くて」と友達と話しているのを聞いて、それから人を好きになるのが怖かった。
勿論、楓から告白された時も信じられなかった。だって、他校のファンやファンクラブが結成される人気者だよ?勉強教えてるからそのお礼?それとも罰ゲーム?どうせ陰で私の悪口を言っているんだとネガティブな考えが頭を過ぎる。
「何、黙り込んでやがる」
アーチを抜けて、目の前にはオーナメントが吊るされたツリーがある。わ、どうせなら楽しい事思いながら潜り抜けたら良かったと少し後悔した。
そう思っていたら、楓が私の顎をクイッと持ち上げて、形の良い唇が重なる。
ちゅっ、と甘い効果音が出そうな触れるだけのキス。凄く柔らかくて、気持ち…良かった。
「…変な顔」
「ひゃっ」
むにっと頬っぺを摘まむ彼が、クスリと小さく笑って「よく伸びる」と言うので「もう!」と照れ隠しに彼の手を離した。
「…何考えたのか知らねぇが、エリナを離す気なんてねぇ」
「楓…ありがとう」
頬にキスすると少し目を見開いたが、直ぐに真顔に戻る。
その後、ジンクスを教えてくれた女性が笑い掛けて、「お幸せに」と言って裏に結婚式場の会社の宣伝が入ったポケットティッシュを配られた。意外と商売上手な人だ…。
それから何十年か経った日に、ポケットティッシュの広告に書かれた式場に足を運ぶ未来が訪れる事になるのをこの時は誰も想像出来なかった。
*END*
あとがき
少し早いですが、クリスマス夢が書けて良かったです😊
「よし」
小さく呟いて玄関の扉を開ける。
それなりに賑わった商店街。緑と赤で彩られていて、チキンやケーキの予約しているであろう人達の行列を尻目に、私は待ち合わせ場所で一際目立つ姿に手を振った。
「お待たせ」
「ん」
片手を上げて短く返事をするのは付き合って1ヶ月の彼氏、流川楓だ。周りからは痛い程、視線が突き刺さり、唯でさえデカくて目立つのに整った容姿がプラスされるのだから尚更だ。私が見付ける前に逆ナンされている可能性もある。恐らく、彼の場合はガン無視するか気付いていないかのどちらかだと思うが。
「ひゃー、寒いねー。もし、追試だったら一緒にクリスマス過ごせなかったかもだよ?」
ニヤニヤしながら見上げたら、少し唇を尖らせてむぅ…と不服な顔をする彼。
友達から聞いた話なんだけど、流川君は勉強が苦手で赤点4つ以上あって、インターハイ出場も危うかったんだって。だから、成績がクラスで10番以内に入る私が得意な科目だけでもと、図書室や放課後の教室で一緒に勉強した。
私が苦手な科目は部活のマネージャーの彩子さんや晴子さんに教わったらしい。
「それにしても、クリスマスの日に補修があるなんてやってられないよね。チキンの味が分からなくなりそう」
こんな事言うと、今頃テスト用紙と睨めっこしている生徒達に嫌味に聞こえるかもしれないが、クリスマスなんて糞食らえと感じているのではなかろうか。外へ出れば幸せな人で賑わう街中を歩くのすら億劫になりそうだ。
そんな事を考えていると頭上から声がした。
「…エリナには感謝してる」
「おお…。流川君…やけに素直だね」
試合では見た事ない鼻先を赤くした彼と目が合ったが、恥ずかしくなったのか向こうの方から視線を外した。
お互い、家で晩御飯を済ませた後に待ち合わせした為、お腹は空いていない。今日の目的は、2人でカップルならではのあの場所へ行く事になったのだ。そして、もう直ぐ着く予定。
暫く歩くと綺麗なイルミネーションのアーチが見えて来た。沢山のイルミネーションライトで施され、光る輪っかの真ん中に小さなサンタクロースやトナカイ、雪だるまが入っていて所々に飾られていて可愛らしい。
スマホで写真を撮る人、恋人と手を繋いでアーチを潜る人。多くの人で賑わいを見せていた。
「あら、カップルですか?」
「え?は、はい」
アーチの側でティッシュ配りをする女性が「初々しいチャーミングなお2人ですね」とニコニコ話し掛けて来た。人通りの多い通りだからか、段ボールには残り半分を切ったティッシュが顔を覗かせていた。
「では、可愛いカップルにいい事教えます!このアーチを手を繋ぎながら潜って奥にあるツリーの前でキスすると、永遠に愛が続くんですよ!」
「へ?キ、キス?」
「私、3年前の今頃にやったんですけど、そしたら今もバカップルって言われる程、ラブラブなんですよー。」
「へー、そうなんですね!」
ジンクスって、こうして人が試して実際に起こったから生まれるのかもしれない。そんなジンクスは初耳だ。
それから、「楽しんで下さいね」と、背後に声を浴びて歩き出した。今の人、惚気たかっただけじゃないの?と野暮な事は胸の中へ仕舞い、ライトアップされた道へと一歩ずつ歩き出した。
「……。何か、普段は唯の道なのにそうと思えない程、緊張しちゃうね」
ぎこちない、ロボットみたいにカクカク歩いていないか心配になる私とは対照的に、いつも通り顔色変えずに歩く楓のメンタルの強さが羨ましく思う。
緊張とは無縁そうだもんね。
「…も、もしかしたらバージンロード歩く時もこんな気持ち、なのかな?」
思わず口にした時、ハッとして頬を染めた。やだ、私ったら…付き合って1ヶ月で手を繋ぐまででキスすらした事ないのに、結婚って飛躍し過ぎてでしょ。1人で舞い上がって羞恥した私は、「ごめん、今の無し」と言ったが、ぎゅっと手を強めに握られた。
「……駄目」
「へ?」
「…取消とか、させねぇ…。」
「楓…。」
言葉は少なくても、彼の行動で私に対する想いを感じ取れる。ぷいっと私から顔を離したが、ほんのり赤く染まった耳が丸見えで可愛いなぁと思ってしまう。
これって、遠回しのプロポーズと捉えていいのかな?そう言うと恐らく、こくんと頷くだけなんだろう。
朝からグッと気温が下がりますと天気予報で伝えられていたから、朝から寒い寒いと言いながら洗顔したのに、今はカイロなんて貼っていないのに身体の内側からじんわり温まってきて心が熱くなる。
クールな人なのに、心を情熱的にする…不思議な人…。否、彼が不思議ではなく、これが人を好きな気持ちだ。
長らく忘れていた幼少期の頃の初恋の時代。好きな子に陰で「あいつ、暗くて何考えてるか分からないから気味悪くて」と友達と話しているのを聞いて、それから人を好きになるのが怖かった。
勿論、楓から告白された時も信じられなかった。だって、他校のファンやファンクラブが結成される人気者だよ?勉強教えてるからそのお礼?それとも罰ゲーム?どうせ陰で私の悪口を言っているんだとネガティブな考えが頭を過ぎる。
「何、黙り込んでやがる」
アーチを抜けて、目の前にはオーナメントが吊るされたツリーがある。わ、どうせなら楽しい事思いながら潜り抜けたら良かったと少し後悔した。
そう思っていたら、楓が私の顎をクイッと持ち上げて、形の良い唇が重なる。
ちゅっ、と甘い効果音が出そうな触れるだけのキス。凄く柔らかくて、気持ち…良かった。
「…変な顔」
「ひゃっ」
むにっと頬っぺを摘まむ彼が、クスリと小さく笑って「よく伸びる」と言うので「もう!」と照れ隠しに彼の手を離した。
「…何考えたのか知らねぇが、エリナを離す気なんてねぇ」
「楓…ありがとう」
頬にキスすると少し目を見開いたが、直ぐに真顔に戻る。
その後、ジンクスを教えてくれた女性が笑い掛けて、「お幸せに」と言って裏に結婚式場の会社の宣伝が入ったポケットティッシュを配られた。意外と商売上手な人だ…。
それから何十年か経った日に、ポケットティッシュの広告に書かれた式場に足を運ぶ未来が訪れる事になるのをこの時は誰も想像出来なかった。
*END*
あとがき
少し早いですが、クリスマス夢が書けて良かったです😊
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