2人の距離
ヒロインの名前
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「ふふ、慌てなくてもクレープは逃げないよ」
「だって、凄く美味しいんだもん!」
「エリナちゃん、美味しそうに食べるから元気出たよ」
「え?そ、そうかな!?」
ペロリと平らげて、指に付いたクリームを舌で舐め取ると、じーっと見られていたらしく、恥ずかしくなって視線を下げた。
まだ半分くらい残ってる植草君に、がっつき過ぎて引かれてる可能性もあったのに、『元気が出たよ』なんて、嬉し過ぎる感想を貰って頭から湯気が出そうだ。
ちらりと彼の顔を見ると美味しそうに食べる姿に、試合の時の緊迫した空気の中、真剣な顔で取り組む面影がなくて、可愛いと思った。こんなにクレープが似合う男子っているだろうか、いや、いない。反語が出来てしまう。バスケ部は背が高い人が多いのに平均的な身長で切磋琢磨し練習する様子も愛おしくて。
口には出さない想いを心の中で呟いていると、頬に何かが触れる感触があった。
「わっ、な…何?」
「ん?クリーム、付いてたからさ」
紙ナプキンで優しく口元を拭い、綺麗に折り畳む一連の動きがもう…出来る男感が滲み出てる。まだ高校2年生なのに大人の男性顔負けのエスコート振りに毎回、ドキドキと初恋の時を想起させる感覚に陥るので後戻り不可能な程に根強く彼を想っているのだと今更ながら、再確認する。
「もー、恥ずかしいし自分で取れるよっ」
「ふふ、そう?」
可笑しそうに笑う植草君に翻弄される私。
残りを口に放り込み、包み紙をゴミ箱へ捨てて私達は立ち上がる。
ふと、全体を見渡せば殆どがカップルだった。同じ年頃の他校の生徒があーんとしていたり、人目も憚らず、イチャイチャ2人の世界にいるのを見て少し羨ましく思う。私も、バカップル程ではないが、人目を気にせず手を繋いで身を寄せ合って笑い合いたいし、食べ比べとかしてみたい。今は無理だけど、そんな日が来る未来であって欲しいな、と細やかながら願っている。
「他に寄る所なかったら帰るけど、いい?」
「うん!明日も練習あるし、長居は良くないもんね」
駅の改札口で電子カードを押し当ててピッと機械音が鳴る。
それから、電車に乗って同じ最寄駅へと向かい、改札を出ればサラリーマンやOLが多くて、仕事で疲労した顔をしていた。近くを歩いていた高めのヒールを履いたOLはメイクが少し崩れていて、目の下に薄らクマが出来ていた。内心、激務お疲れ様です…と思う。
私達は人混みから出て、人気の少ない住宅街へと歩を進める。空には烏が鳴きながら山の方へ向かって飛んでいるので1日の終わりを告げているように見えた。
「今日はありがとう。また、気になるお店あったら教えてね」
「ううん、お礼を言うのは私の方だよ。植草君も気になるお店あればご一緒するからね!」
「うん、ありがとう。エリナちゃん!」
それから、何か話す訳でもなく沈黙が2人を包み込む。静かな間が好きではない私だが、今の空気は不思議と緊張感はなくて、悪い気はしなかった。寧ろ、好きかもしれない。
まるで、長年愛し合い、連れ添った熟年夫婦のように言葉にしなくても分かり合える、沈黙ですら愛おしくなる感じだった。
明日も無事、平和に過ごせると良いなぁ…。
勿論、このままずっと友達関係でいる気はないが、今は恋人関係になりたいと言うより、植草君の夢を隣で応援していたい。
全国へ連れて行って欲しい…。と、某野球漫画のヒロインみたいな事を考えている自分に笑いそうになる。
『好きです、付き合って下さい』と一言、言えば気持ちが収まるのだけれど、今は伝えなくていい。伝わらなくていい。
周りには誰も人がいなくて、綺麗な茜色の夕焼けが私達を照らし、影が縦に伸びる。私は半歩後ろに下がり、手を伸ばすと身体には触れていないのに影だけ見ると手を繋いでいるように見える。それを見て、くすりと小さく微笑み、いつか物理的な距離も影の距離も0になる日が来ると良いな、なんてまだまだ先の未来を描きながらいつもの帰り道を歩くのであった。
*植草side*
俺は君が好き。背中まで伸びた長い茶髪を黒ゴムで纏め上げてポニーテールにしている髪型も、可愛らしい容姿なのに鼻に掛けないで、一つずつ丁寧に着実に業務をこなす様子も、ネイルされていない形の良い爪も。
第一印象は、可愛い子だった。でも、うちの部活はマネージャー業も中々ハードで、部員にお近付きになりたい理由で入部した人は何人かいたが、どの子も3ヶ月以内に退部届を出していると聞いた事がある。どうせ、駄目だろうなと失礼ながら思っていた。
けれど、辞める所か日に日に上達し、何かあれば小さな事でもメモを取って、雑用を押し付けられても嫌な顔せず笑顔で対応し、一生懸命取り組む姿にいつの間にか釘付けになり、好きになっていた。
エリナちゃんは兎に角モテると思う。クラスメイトもエリナちゃんの話題をしているのを何度か目撃した事があり、大半は「可愛いよな」「彼氏いるのかな?」なのも知っている。
それを聞いて焦る俺は、告白する勇気もない意気地なしかもしれない。けれど、今はバスケに向き合いたい思いが強い。全国へ行きたい。
微力ながらも、陵南バスケ部の一員として支えていき、ダークホースとしてチームを引っ張っていきたい。そんな自分が恋愛と部活を器用に両立出来る余裕がないのは一番分かっている。
だから、未来の話にはなるけれど、必ず…全国の切符を掴んだら、想いを伝えようと思う。
今日は、帰りにクレープを食べに行ったけれど、これくらい許してよ、と思いながら小さな声で「そう言う所も好きだけど」と呟いた。頭に?を浮かべて首を傾げるのを見て、ふふふと笑い、チョコのほろ苦さと甘いクリームが広がった。
エリナちゃんは余程美味しかったのか、栗鼠みたいに頬張って食べている。その姿が愛おしくて抱き締めたくて堪らなかった。でも、中途半端な事をしたらきっと後悔するのでバレないようにこっそり自分の腕を抓って我慢した。
それから、帰路へと向かう中、天を仰げば夕焼け空が浮かんでいて俺達2人を包み込んでいるようだった。
明日も、こうして肩をな並べて歩いて帰って、何気ない幸せを感じながらお喋りして楽しめると良いな、と思いながら。
*END*
「だって、凄く美味しいんだもん!」
「エリナちゃん、美味しそうに食べるから元気出たよ」
「え?そ、そうかな!?」
ペロリと平らげて、指に付いたクリームを舌で舐め取ると、じーっと見られていたらしく、恥ずかしくなって視線を下げた。
まだ半分くらい残ってる植草君に、がっつき過ぎて引かれてる可能性もあったのに、『元気が出たよ』なんて、嬉し過ぎる感想を貰って頭から湯気が出そうだ。
ちらりと彼の顔を見ると美味しそうに食べる姿に、試合の時の緊迫した空気の中、真剣な顔で取り組む面影がなくて、可愛いと思った。こんなにクレープが似合う男子っているだろうか、いや、いない。反語が出来てしまう。バスケ部は背が高い人が多いのに平均的な身長で切磋琢磨し練習する様子も愛おしくて。
口には出さない想いを心の中で呟いていると、頬に何かが触れる感触があった。
「わっ、な…何?」
「ん?クリーム、付いてたからさ」
紙ナプキンで優しく口元を拭い、綺麗に折り畳む一連の動きがもう…出来る男感が滲み出てる。まだ高校2年生なのに大人の男性顔負けのエスコート振りに毎回、ドキドキと初恋の時を想起させる感覚に陥るので後戻り不可能な程に根強く彼を想っているのだと今更ながら、再確認する。
「もー、恥ずかしいし自分で取れるよっ」
「ふふ、そう?」
可笑しそうに笑う植草君に翻弄される私。
残りを口に放り込み、包み紙をゴミ箱へ捨てて私達は立ち上がる。
ふと、全体を見渡せば殆どがカップルだった。同じ年頃の他校の生徒があーんとしていたり、人目も憚らず、イチャイチャ2人の世界にいるのを見て少し羨ましく思う。私も、バカップル程ではないが、人目を気にせず手を繋いで身を寄せ合って笑い合いたいし、食べ比べとかしてみたい。今は無理だけど、そんな日が来る未来であって欲しいな、と細やかながら願っている。
「他に寄る所なかったら帰るけど、いい?」
「うん!明日も練習あるし、長居は良くないもんね」
駅の改札口で電子カードを押し当ててピッと機械音が鳴る。
それから、電車に乗って同じ最寄駅へと向かい、改札を出ればサラリーマンやOLが多くて、仕事で疲労した顔をしていた。近くを歩いていた高めのヒールを履いたOLはメイクが少し崩れていて、目の下に薄らクマが出来ていた。内心、激務お疲れ様です…と思う。
私達は人混みから出て、人気の少ない住宅街へと歩を進める。空には烏が鳴きながら山の方へ向かって飛んでいるので1日の終わりを告げているように見えた。
「今日はありがとう。また、気になるお店あったら教えてね」
「ううん、お礼を言うのは私の方だよ。植草君も気になるお店あればご一緒するからね!」
「うん、ありがとう。エリナちゃん!」
それから、何か話す訳でもなく沈黙が2人を包み込む。静かな間が好きではない私だが、今の空気は不思議と緊張感はなくて、悪い気はしなかった。寧ろ、好きかもしれない。
まるで、長年愛し合い、連れ添った熟年夫婦のように言葉にしなくても分かり合える、沈黙ですら愛おしくなる感じだった。
明日も無事、平和に過ごせると良いなぁ…。
勿論、このままずっと友達関係でいる気はないが、今は恋人関係になりたいと言うより、植草君の夢を隣で応援していたい。
全国へ連れて行って欲しい…。と、某野球漫画のヒロインみたいな事を考えている自分に笑いそうになる。
『好きです、付き合って下さい』と一言、言えば気持ちが収まるのだけれど、今は伝えなくていい。伝わらなくていい。
周りには誰も人がいなくて、綺麗な茜色の夕焼けが私達を照らし、影が縦に伸びる。私は半歩後ろに下がり、手を伸ばすと身体には触れていないのに影だけ見ると手を繋いでいるように見える。それを見て、くすりと小さく微笑み、いつか物理的な距離も影の距離も0になる日が来ると良いな、なんてまだまだ先の未来を描きながらいつもの帰り道を歩くのであった。
*植草side*
俺は君が好き。背中まで伸びた長い茶髪を黒ゴムで纏め上げてポニーテールにしている髪型も、可愛らしい容姿なのに鼻に掛けないで、一つずつ丁寧に着実に業務をこなす様子も、ネイルされていない形の良い爪も。
第一印象は、可愛い子だった。でも、うちの部活はマネージャー業も中々ハードで、部員にお近付きになりたい理由で入部した人は何人かいたが、どの子も3ヶ月以内に退部届を出していると聞いた事がある。どうせ、駄目だろうなと失礼ながら思っていた。
けれど、辞める所か日に日に上達し、何かあれば小さな事でもメモを取って、雑用を押し付けられても嫌な顔せず笑顔で対応し、一生懸命取り組む姿にいつの間にか釘付けになり、好きになっていた。
エリナちゃんは兎に角モテると思う。クラスメイトもエリナちゃんの話題をしているのを何度か目撃した事があり、大半は「可愛いよな」「彼氏いるのかな?」なのも知っている。
それを聞いて焦る俺は、告白する勇気もない意気地なしかもしれない。けれど、今はバスケに向き合いたい思いが強い。全国へ行きたい。
微力ながらも、陵南バスケ部の一員として支えていき、ダークホースとしてチームを引っ張っていきたい。そんな自分が恋愛と部活を器用に両立出来る余裕がないのは一番分かっている。
だから、未来の話にはなるけれど、必ず…全国の切符を掴んだら、想いを伝えようと思う。
今日は、帰りにクレープを食べに行ったけれど、これくらい許してよ、と思いながら小さな声で「そう言う所も好きだけど」と呟いた。頭に?を浮かべて首を傾げるのを見て、ふふふと笑い、チョコのほろ苦さと甘いクリームが広がった。
エリナちゃんは余程美味しかったのか、栗鼠みたいに頬張って食べている。その姿が愛おしくて抱き締めたくて堪らなかった。でも、中途半端な事をしたらきっと後悔するのでバレないようにこっそり自分の腕を抓って我慢した。
それから、帰路へと向かう中、天を仰げば夕焼け空が浮かんでいて俺達2人を包み込んでいるようだった。
明日も、こうして肩をな並べて歩いて帰って、何気ない幸せを感じながらお喋りして楽しめると良いな、と思いながら。
*END*
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