自暴自棄少女
ヒロインの名前
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練習が終わって時刻は21時を指そうとしている。夏は準優勝と悪くない結果で幕を閉じたが、常に勝利への飢えがあるので満足はしきれていない。冬こそは全国制覇したい。その思い故にハードな練習で時間がいつもより遅くなってしまった。
抜かりない俺は事前に親に遅くなる旨報告済だ。帰ったら風呂に入って明日はこのトレーニングメニューをして…と頭の中で予定を組み立てていると、薄いピンク色の可愛らしいふわふわワンピースに身を包んだ、見慣れた顔の女の子がぽつんとホテル街の隅に佇んでいるではないか。
名前は二階堂 エリナ。クラスでは大人しくて基本的に休み時間も1人で本を読んでいて、友達といる所は何度か見た事あるのでぼっちと言う訳ではないが、何処か人と距離を置いているような…狭く浅い関係を築いているように思えた。
自分の家は別の帰り道からでも帰れるが、ホテル街を横切ると5分程早く着くので時々この道を利用していたが、まさかクラスメイトに遭遇するとは思っていなかった。何となく俺の中の悪戯心が芽生えたのか建物の壁にこっそり潜み、様子を見る事にした。
暫くすると、白髪が多めの柔らかい笑みを浮かべた推定年齢50代の男性が彼女に声を掛け、手を繋いで歩き出した。
「エリナちゃん、行こうか」
「ふふ、待ちましたよ。何処にします?」
そう言ってネオンライトが怪しく光る街へと姿を消した。
年齢的には子供だがこれから2人がナニをするのかは分かる。家計が厳しいのか、割の良いバイト感覚なのかは定かではないが、もし教師にバレたら退学させられる可能性だってあると思う。お節介かもしれないが、明日は二階堂にそれとなしに話し掛けてみようか。そんな事を考えながら、明日の部活は少し遅れると神にLIN●を送った。
******
「二階堂、少し時間いいか?」
「……別に、いいけど」
昨夜あまり眠れなかった俺は目の下に薄らクマを付けて登校した。サーフィンをやってるので褐色肌だから其処まで目立っていない物の、神みたいに色白だと心配されるだろう。
欠伸を噛み殺しながら授業を受けて放課後になって1人の彼女の机の上に手を置き、話し掛けると目を丸くしたが直ぐに真顔に戻り、席を立った。勿論、此処で話す内容ではないので俺達は屋上へ向かう。二階堂もそれを悟ったのか、あっさりと着いて来てくれた。
ドアを開けると冷たい風が頬をなぞる。
俺がドアを背にして、向かいに二階堂がいる状態。俺の事を見詰めているが何故だか、その瞳には違う物が映っているような不気味な感じがした。
「…部外者の俺が口出す事ではないが、…その、援…交は程々にな」
「無駄な忠告どうも。話はそれだけ?」
眉一つ動かさず、否定したり知らない振りをする訳でもなく、あっさり吐き捨てるように呟くので拍子抜けした。
微妙な返答に納得いかない俺は、それじゃあね、と言って横を通る二階堂の肩を掴んだ。その肩を細くて少し力を入れれば折れてしまいそうだった。
「…無駄な忠告って事は、またするのか?」
「さあ?早く練習行けば?強豪校のバスケ部主将がこんな帰宅部の女と関わる時間が勿体無いでしょう?」
「別に、勿体無いなんて思ってない。俺はーーーっ!」
チクリと針を刺すような痛みが走り、視線を手元に移すと、俺の手に形の整った綺麗な爪を立てていた。痛みに顔を歪めた俺はその瞬間、力が緩んだ。その隙にローファーを鳴らして足早に逃げて行った。屋上には、ドアの閉まる音と「迂闊だった…。」と言う独り言が吐く息の白さのように空気に飲み込まれて消えていくのであった。
俺は一体、何をやってるんだろうな…。彼女でもなければ友達でもないのに。否、人を助ける事に繋がりの深さなんて無意味であろう。例えそれが鬱陶しくても、目障りでも…好意を寄せていると言うよりは、先刻見た瞳に映る先を知りたい気持ちの方が大きかった。自分の中の探究心が高まっていくのを、体温が下がった身体から沸々と感じていたんだ。
それから部活の練習終わりに昨日よりやや早い時間にホテル街前へと辿り着いた。案の定、二階堂は昨日と同じ場所で今度は別の男と話していたが、様子が昨日と異なった。
「写真より実物の方が可愛いじゃん」
「やめて下さい!貴方とは関わりたくありませんっ!」
抵抗しても力で敵う筈もなく、男が無理矢理腕を掴み、拒む二階堂。誰がどう見ても彼女が困っているように見える。
その時、俺は反射的に飛び出して男の手に力を込めて握っていた。
「…すみません、先約がいますので」
「は?何だよ、空いてるって言ってたのに」
不満そうに睨むが10cm以上高くガタイの良い男の無言の圧力に圧倒されたのか、大きめの舌打ちをして、覚えてろよ、なんて漫画で聞いた事のあるあり触れた捨て台詞を吐いてその場を離れた。認めたくないが、実年齢より高く見える顔なので風格があったのかあっさり引き下がってくれたので、揉め事にならずに済んだ事をこの時ばかりは老け顔も役に立つ日がくるんだなと、しみじみ思っていたら二階堂が口を開いた。
「…ありがと。あの客、既婚者だからブロックしたけど垢変えて別人に成りすましてたみたいで…。その、助かったわ…。」
「…ふっ」
「なっ!何で笑うのよっ」
人が折角謝ってんのに…とぶつぶつ唇を尖らせて怒る姿に新しい一面が見れた喜びと、昨日の屋上で見た冷静且つ無愛想な口振りから同一人物と思えなくてそれでつい、口元が緩んでしまった。
こうして見ると普通の女子高生なのに、もっと平穏な楽しいスクールライフを送れない物かと考えつつも言葉を紡いだ。
「はは、すまん。これに懲りたら明日からちゃんとしたバイトを探すんだな」
「…嫌よ。数時間で何万も稼いでたのが数千円前後になるなんて」
「何でそんなに金がいるんだ?」
「…お金はあるにこした事ないし若い今しか出来ないから」
もう良いでしょ、と腕を振り払うも力が強くて敵わないし爪を立てようとしても同じ手は喰らわず、手首の上を掴まれた。
「俺に一つ借りがあるなら、その代わりに話してくれないか?」
自分でも狡いやり方だなと思ったが、こうする他にベストな聞き方は生憎持ち合わせていない。
二階堂は困惑しながらも、暗い話で良ければ…と言うので立ち話もあれなので成り行きでホテルに入る事になった。
慣れた手付きでタッチパネルを操作し、出てきた紙を千切って鍵を持ち、部屋に入った。その動作だけで何人もの男と関係を持っている事を物語っているようにも見えた。
初めて来た場所に何となくそわそわして周りを見渡した。ガラス張りのお風呂に天井は鏡になっていて何となく恥ずかしくなって自分の手元に目を向けた。
「飲む?ミネラルウォーター」
「ありがとう。頂くよ」
ペットボトルの蓋を開けて少し渇いた喉を潤すと、二階堂が目を伏せて話し始めた。
一定の感情で静かな声で生い立ちから今を語り出したが、その話の内容が重かった。表情変えずに涙も流さず話し続ける。
彼女の父はアルコール依存症で酒癖が悪く、仕事や日常の些細なストレスを全て性的暴行で発散していた。母は他に男を作って蒸発し、学校に相談しても真剣に聞いてくれず適当に流されていた。そんな中、父が重い病気で命を絶って1人になった。
「……死んだ父によく言われたよ。『お前は身体を使う以外価値がない女だ』って。だから、愛が分からない。こうして誰でも良いから抱かれる事で存在意義を見出してたの」
「……。」
「軽蔑した?馬鹿だなって思った?」
「そんな事はないが……重い話をさせて申し訳なく思う。色々苦労したんだな…。」
もっと優しい慰めの言葉を掛けたいのに、浮かんでくるのはいつも違う何かを見詰めているような瞳だった。その“何か”の正体が漸く判明した。
恐らく、彼女は過去の出来事が無数の糸のように絡まり抜け出せず、どれだけ相手の目を見て話していてもその視線の先には昔の自分が映し出されていたに違いない。
華奢な体躯で支えきれない物を持っていたと思うと此方の涙腺が緩みそうになる。俺はその身体に手を伸ばして、気が付けばすっぽり胸の中に彼女を収めていた。
言葉で伝えられなくても行動で“貴方が心配です”と言う気持ちが分かって貰えればいいななんて思ったんだ。
「愛が分からないなら俺が教えるよ」
「…ふふ、このままエッチな事するの?」
顔は見えなかったが、いつもの飄々とした余裕の顔付きで話しているのは容易に想像出来た。
「しないさ。それ以外にも多くの種類の愛が存在する」
「へぇ」
「だから…もう自分の身体を売るのはやめろ」
「…考えとくわ」
何だか煮え切らない答えだが、「やめない」と言われるよりはマシなのでまあ…良しとするか。
それから連絡先を交換して夜道が危ないので家まで送った。
「また明日、学校でな」
踵を返そうとしたが、その前に二階堂にネクタイを掴まれてグイッと引き寄せられる形になる。
まだ何かあるのかと困惑していると頬に柔らかくて温かい感触がしてキスだと分かるのに少し時間が掛かった。
「これだけで赤くなるなんて…初心で可愛いのね」
「あのなぁ…。」
ふぅ…と溜息を吐いて軽く説教しようとしたが、俺の声を聞く前に玄関の鍵を開けたドアノブを握っていない方の手でひらひら振り、バタンと閉められた。
…もしかしたら翻弄されてるのは自分なのではないかと苦笑しながら夜道を歩いた。
人間味のある表情と、余裕のある何事にも動じない素振り。一緒にいて飽きないな…。
それでいて愛を受けずに育って、自暴自棄になり、放っておくとシャボン玉のように儚く消えてしまいそうな存在でもある。どうか、少しでも楽しく笑って欲しいなと…そして、片隅でも良いから俺を映して、いつかは真ん中に立っている日が来ると良いななんて願ったんだ。
*END*
あとがき
此処まで読んで下さってありがとうございました。
当初書こうと思ってた話よりも何だか段々暗くなって重い話ですね…。2人の今後を書けたら書こうかなと思ってます(書くとは言っていない)
抜かりない俺は事前に親に遅くなる旨報告済だ。帰ったら風呂に入って明日はこのトレーニングメニューをして…と頭の中で予定を組み立てていると、薄いピンク色の可愛らしいふわふわワンピースに身を包んだ、見慣れた顔の女の子がぽつんとホテル街の隅に佇んでいるではないか。
名前は二階堂 エリナ。クラスでは大人しくて基本的に休み時間も1人で本を読んでいて、友達といる所は何度か見た事あるのでぼっちと言う訳ではないが、何処か人と距離を置いているような…狭く浅い関係を築いているように思えた。
自分の家は別の帰り道からでも帰れるが、ホテル街を横切ると5分程早く着くので時々この道を利用していたが、まさかクラスメイトに遭遇するとは思っていなかった。何となく俺の中の悪戯心が芽生えたのか建物の壁にこっそり潜み、様子を見る事にした。
暫くすると、白髪が多めの柔らかい笑みを浮かべた推定年齢50代の男性が彼女に声を掛け、手を繋いで歩き出した。
「エリナちゃん、行こうか」
「ふふ、待ちましたよ。何処にします?」
そう言ってネオンライトが怪しく光る街へと姿を消した。
年齢的には子供だがこれから2人がナニをするのかは分かる。家計が厳しいのか、割の良いバイト感覚なのかは定かではないが、もし教師にバレたら退学させられる可能性だってあると思う。お節介かもしれないが、明日は二階堂にそれとなしに話し掛けてみようか。そんな事を考えながら、明日の部活は少し遅れると神にLIN●を送った。
******
「二階堂、少し時間いいか?」
「……別に、いいけど」
昨夜あまり眠れなかった俺は目の下に薄らクマを付けて登校した。サーフィンをやってるので褐色肌だから其処まで目立っていない物の、神みたいに色白だと心配されるだろう。
欠伸を噛み殺しながら授業を受けて放課後になって1人の彼女の机の上に手を置き、話し掛けると目を丸くしたが直ぐに真顔に戻り、席を立った。勿論、此処で話す内容ではないので俺達は屋上へ向かう。二階堂もそれを悟ったのか、あっさりと着いて来てくれた。
ドアを開けると冷たい風が頬をなぞる。
俺がドアを背にして、向かいに二階堂がいる状態。俺の事を見詰めているが何故だか、その瞳には違う物が映っているような不気味な感じがした。
「…部外者の俺が口出す事ではないが、…その、援…交は程々にな」
「無駄な忠告どうも。話はそれだけ?」
眉一つ動かさず、否定したり知らない振りをする訳でもなく、あっさり吐き捨てるように呟くので拍子抜けした。
微妙な返答に納得いかない俺は、それじゃあね、と言って横を通る二階堂の肩を掴んだ。その肩を細くて少し力を入れれば折れてしまいそうだった。
「…無駄な忠告って事は、またするのか?」
「さあ?早く練習行けば?強豪校のバスケ部主将がこんな帰宅部の女と関わる時間が勿体無いでしょう?」
「別に、勿体無いなんて思ってない。俺はーーーっ!」
チクリと針を刺すような痛みが走り、視線を手元に移すと、俺の手に形の整った綺麗な爪を立てていた。痛みに顔を歪めた俺はその瞬間、力が緩んだ。その隙にローファーを鳴らして足早に逃げて行った。屋上には、ドアの閉まる音と「迂闊だった…。」と言う独り言が吐く息の白さのように空気に飲み込まれて消えていくのであった。
俺は一体、何をやってるんだろうな…。彼女でもなければ友達でもないのに。否、人を助ける事に繋がりの深さなんて無意味であろう。例えそれが鬱陶しくても、目障りでも…好意を寄せていると言うよりは、先刻見た瞳に映る先を知りたい気持ちの方が大きかった。自分の中の探究心が高まっていくのを、体温が下がった身体から沸々と感じていたんだ。
それから部活の練習終わりに昨日よりやや早い時間にホテル街前へと辿り着いた。案の定、二階堂は昨日と同じ場所で今度は別の男と話していたが、様子が昨日と異なった。
「写真より実物の方が可愛いじゃん」
「やめて下さい!貴方とは関わりたくありませんっ!」
抵抗しても力で敵う筈もなく、男が無理矢理腕を掴み、拒む二階堂。誰がどう見ても彼女が困っているように見える。
その時、俺は反射的に飛び出して男の手に力を込めて握っていた。
「…すみません、先約がいますので」
「は?何だよ、空いてるって言ってたのに」
不満そうに睨むが10cm以上高くガタイの良い男の無言の圧力に圧倒されたのか、大きめの舌打ちをして、覚えてろよ、なんて漫画で聞いた事のあるあり触れた捨て台詞を吐いてその場を離れた。認めたくないが、実年齢より高く見える顔なので風格があったのかあっさり引き下がってくれたので、揉め事にならずに済んだ事をこの時ばかりは老け顔も役に立つ日がくるんだなと、しみじみ思っていたら二階堂が口を開いた。
「…ありがと。あの客、既婚者だからブロックしたけど垢変えて別人に成りすましてたみたいで…。その、助かったわ…。」
「…ふっ」
「なっ!何で笑うのよっ」
人が折角謝ってんのに…とぶつぶつ唇を尖らせて怒る姿に新しい一面が見れた喜びと、昨日の屋上で見た冷静且つ無愛想な口振りから同一人物と思えなくてそれでつい、口元が緩んでしまった。
こうして見ると普通の女子高生なのに、もっと平穏な楽しいスクールライフを送れない物かと考えつつも言葉を紡いだ。
「はは、すまん。これに懲りたら明日からちゃんとしたバイトを探すんだな」
「…嫌よ。数時間で何万も稼いでたのが数千円前後になるなんて」
「何でそんなに金がいるんだ?」
「…お金はあるにこした事ないし若い今しか出来ないから」
もう良いでしょ、と腕を振り払うも力が強くて敵わないし爪を立てようとしても同じ手は喰らわず、手首の上を掴まれた。
「俺に一つ借りがあるなら、その代わりに話してくれないか?」
自分でも狡いやり方だなと思ったが、こうする他にベストな聞き方は生憎持ち合わせていない。
二階堂は困惑しながらも、暗い話で良ければ…と言うので立ち話もあれなので成り行きでホテルに入る事になった。
慣れた手付きでタッチパネルを操作し、出てきた紙を千切って鍵を持ち、部屋に入った。その動作だけで何人もの男と関係を持っている事を物語っているようにも見えた。
初めて来た場所に何となくそわそわして周りを見渡した。ガラス張りのお風呂に天井は鏡になっていて何となく恥ずかしくなって自分の手元に目を向けた。
「飲む?ミネラルウォーター」
「ありがとう。頂くよ」
ペットボトルの蓋を開けて少し渇いた喉を潤すと、二階堂が目を伏せて話し始めた。
一定の感情で静かな声で生い立ちから今を語り出したが、その話の内容が重かった。表情変えずに涙も流さず話し続ける。
彼女の父はアルコール依存症で酒癖が悪く、仕事や日常の些細なストレスを全て性的暴行で発散していた。母は他に男を作って蒸発し、学校に相談しても真剣に聞いてくれず適当に流されていた。そんな中、父が重い病気で命を絶って1人になった。
「……死んだ父によく言われたよ。『お前は身体を使う以外価値がない女だ』って。だから、愛が分からない。こうして誰でも良いから抱かれる事で存在意義を見出してたの」
「……。」
「軽蔑した?馬鹿だなって思った?」
「そんな事はないが……重い話をさせて申し訳なく思う。色々苦労したんだな…。」
もっと優しい慰めの言葉を掛けたいのに、浮かんでくるのはいつも違う何かを見詰めているような瞳だった。その“何か”の正体が漸く判明した。
恐らく、彼女は過去の出来事が無数の糸のように絡まり抜け出せず、どれだけ相手の目を見て話していてもその視線の先には昔の自分が映し出されていたに違いない。
華奢な体躯で支えきれない物を持っていたと思うと此方の涙腺が緩みそうになる。俺はその身体に手を伸ばして、気が付けばすっぽり胸の中に彼女を収めていた。
言葉で伝えられなくても行動で“貴方が心配です”と言う気持ちが分かって貰えればいいななんて思ったんだ。
「愛が分からないなら俺が教えるよ」
「…ふふ、このままエッチな事するの?」
顔は見えなかったが、いつもの飄々とした余裕の顔付きで話しているのは容易に想像出来た。
「しないさ。それ以外にも多くの種類の愛が存在する」
「へぇ」
「だから…もう自分の身体を売るのはやめろ」
「…考えとくわ」
何だか煮え切らない答えだが、「やめない」と言われるよりはマシなのでまあ…良しとするか。
それから連絡先を交換して夜道が危ないので家まで送った。
「また明日、学校でな」
踵を返そうとしたが、その前に二階堂にネクタイを掴まれてグイッと引き寄せられる形になる。
まだ何かあるのかと困惑していると頬に柔らかくて温かい感触がしてキスだと分かるのに少し時間が掛かった。
「これだけで赤くなるなんて…初心で可愛いのね」
「あのなぁ…。」
ふぅ…と溜息を吐いて軽く説教しようとしたが、俺の声を聞く前に玄関の鍵を開けたドアノブを握っていない方の手でひらひら振り、バタンと閉められた。
…もしかしたら翻弄されてるのは自分なのではないかと苦笑しながら夜道を歩いた。
人間味のある表情と、余裕のある何事にも動じない素振り。一緒にいて飽きないな…。
それでいて愛を受けずに育って、自暴自棄になり、放っておくとシャボン玉のように儚く消えてしまいそうな存在でもある。どうか、少しでも楽しく笑って欲しいなと…そして、片隅でも良いから俺を映して、いつかは真ん中に立っている日が来ると良いななんて願ったんだ。
*END*
あとがき
此処まで読んで下さってありがとうございました。
当初書こうと思ってた話よりも何だか段々暗くなって重い話ですね…。2人の今後を書けたら書こうかなと思ってます(書くとは言っていない)
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