温かい卵粥
ヒロインの名前
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季節は冬へと近付き、煩いと感じていた蝉の声もピタリと無くなって公園にはイチョウの木から落ちた銀杏の独特な臭いが漂い、子供と拾う親御さんや清掃員が拾ったりとしている。
そんな中、私はクリアファイルに入った数枚のプリントと睨みっこしながら地元でも目立つ高い高層マンションの前に立っていた。
勿論、セキュリティーもしっかりしてるので誰でも入られる訳ないがプリントに記載されたパスワードを使って入る。事の始まりは終わりの会だった。
「…さて、滅多に休まない牧が風邪を引いたそうだ。プリント届けられる人は……確か二階堂、家が近いよな?悪いがプリント渡してくれないか?」
「えっ」
私の返事を聞く前にクリアファイルを差し出す。明らかに断れない雰囲気に小さく溜息して渋々受け取った。
「最近、季節の変わり目で体調崩し易いので各自気を付けるように」
その言葉を最後に各自席を立ち、掃除当番の人はモップや箒を取り出して部活動に励む人は部室へと足を運び、帰宅部は家へと帰る。いつもなら家へと帰るが面倒事を押し付けられてそうはいかず。
「…大体、クラスが同じだけで挨拶を交わす程度の仲なんだよね…。」
正直、お互いの事は顔と名前くらいしか知らない。否、彼自身は有名人だからバスケが上手くてサーフィンが趣味とか風の噂で知ってはいるが。此方には一方的に情報が届いてるが、私は特にこれと言って秀でた才能も無ければ成績も中の中。オマケに取り柄もこれと言ってないのないない尽くしなので、そんな私が足を踏み入れて良い領域なのかとさえ思えてくる。
しかも、彼は高級タワーマンションで私は築20年の古いアパート。学校は同じなのに此処まで差が広がるのかと思ってしまい、住む世界所か建物の種類自体が異なる。しかし、決して裕福な家庭ではないが両親が共働きで稼いだお金の仕送りのお陰で、週一のバイトでも生活は成り立っているから不満を言うとバチが当たるので、文句は言えない。
「えーと……部屋番号は此処で合ってるよね?」
ドアに書かれた番号とプリントの番号を交互に見合わせて一致したので恐る恐る手を伸ばして、人差し指でインターホンを押下した。
暫くすると「はい、牧ですが」と声が聞こえたので、私は「プリントを届けに参りました」と緊張してるからか、敬語で出前を届けに来た人みたいな言い方になった。心の中で何やってんのよ私!と突っ込んでいるとインターホン越しに笑い声が聞こえて、立ち話もなんだからと上がるように促された。
何気に異性の部屋に入るのは初めてだ…。室内は高そうな家具や大きなテレビ、サーフボードにバッシュ、スポーツ雑誌が置かれている。きちんと整理整頓されていて自分の部屋は狭いし物で溢れていて散らかっているのが少し情けなくなった。
「あまり見られると恥ずかしいんだが…。」
「へっ?あ、ごめん…男の子の部屋って新鮮で…。体調はどう?」
「熱は下がったが、まだ身体が怠くてな…。食欲もないから今晩はゼリーだけにしとこうかと思ってるよ」
「ゼリーだけじゃ栄養偏るしなぁ…。あ!良かったら私が何か作ろうか?」
透明の買い物袋を顔の横にぶら下げて、ニコッと笑う。
丁度、家の卵と野菜と苺ミルクが切れていたので駅前のスーパーに寄って買っていた。お米と調味料さえあれば卵粥が作れる。冬の選抜が控えているバスケ部はよりハードな練習に明け暮れているので、そんな中部員達はキャプテンの復帰を待ち望んでいるに違いない。身体に優しく美味しいお粥を提供して貢献するべきだ。…と、バスケ部員でもマネージャーでもない単なるクラスメイトの癖に何様なんだろうと思う。
自分で言っておいてあれだが、いきなり然程仲良くないクラスメイトがキッチンを借りて料理を作るなんて出過ぎた真似をしている。
返事が返ってこないので、引かれたかなと思い牧君の顔を見た。しかし、彼は引いてる様子はなく、ほんのり顔を赤らめて目を見開いているではないか。
「あれ?どうしたの。顔赤いけど…また熱が出てきた?」
「…いや、大丈夫だ。作ってくれるなら有難いよ。キッチンは其処にあるから好きに使ってくれて構わない」
「…え?分かった。牧君は大人しくしてて!」
まさかの承認に瞬きを繰り返し、こうなったら独り暮らしで鍛えた料理の腕前を存分に振るうかと、袖を捲って冷蔵庫の扉を開けた。
炊いたお米は冷蔵庫のタッパーにあったので取り出し、材料を並べて沸騰したお鍋に材料と調味料を混ぜ合わせて完成したのでお皿に盛る。
白い湯気が出て出汁の匂いに涎が出そうになる。最後に青葱と海苔を散らせば出来上がり。
「出来たよ」
「おー、悪いな」
牧君の前に差し出そうとしたが、テレビが付いている画面ではなく私の下半身に目がいっていて、視線の先を辿るとスカートが捲れ上がって苺柄のパンツが丸出しである事に気付く。
「苺が本当好きなんだな。苺ミルク買ってたし」
「わーー!見ないで!」
おぼんをテーブルの上に乗せて直ぐ様スカートを整えた。いつからこの状態だったんだろう。て言うか、気付いてたのなら早く言ってよと悪態を吐きながら椅子を引いた。
「大丈夫、家に来た時は捲り上がってなかったから。俺の部屋にいる間に何かの拍子で引っ掛かったんだろう」
「あ、それなら良かっ…て、良くない!」
「はは」
「…牧さん、楽しんでるね」
むうーと唇を尖らせて頬杖を付いて軽く睨んだが、お粥をふうふう冷まして美味しそうに食べる姿を見ると半分どうでもよくなった。
それから食べ終わったお皿とお鍋を洗い終えて、窓から見える空は薄暗くなっていた。
プリントを届けるだけの筈が、随分時間が経ったんだなと感じた。鞄を取りに行き、牧君の方に視線を向ければ、数人座れそうな大き目のソファに座った彼が隣の空いてる座席をポンポン叩いて此方を見詰めている。そして私は隣に座った。
「今日は本当に助かったよ。久し振りに人の手料理が食べられて良かった」
「いえいえ!今まで家族以外料理を振るう事がなかったから、面白かったよ」
「俺の事…図体でかいし怖いと思ってたろ?だから、率先して料理を作ってくれたのは意外だった」
「そんな事ないよ!優しくてクールで頭良くて…素敵だし。牧君は陰気で地味な女だと思ったでしょ?クラスでも目立たないし…。」
す、素敵って…言っちゃった。しかも本人の前で。実際、事実ではあるが本心を素直に伝える事に慣れていない私は何となくこそばくて、俯いた。掌からは手汗がじんわり浮かび上がっていて、スカートの裾をぎゅっと握り締めた。多分、今の私の顔は紅葉のように真っ赤だろう。咄嗟に自虐ネタに走ったが、ネガティブな女って印象を与えたよね…?
幸い、彼の表情はゆっくり波が揺蕩う海のように穏やかで、言葉を紡いだ。
「…ありがとう。素敵だなんて言ってくれて嬉しいよ。…顔が赤いが、熱でもあるのか?」
「もし移っていたら大変だ」と言って彼は大きな掌で私の後頭部を押さえて額同士をくっ付けて測る…少女漫画やドラマでしか見た事ないやり方をしてきた。
ふ…普通に体温計を出してくれれば良いのに!ナチュラルにこんな事されたら大抵の女の子は勘違いしちゃうよ…。と心の中で叫んだが届く筈なくて。牧君って、天然女たらしなのだろうか。プリントを届けて卵粥を作っただけなのにドッと気疲れがしたが、不思議と心地良い疲労な気がした。
それから私達は他愛のない話を1時間程して、時刻は19時を回ろうとしていたのでお開きとなった。話していて思った事は、今まで遠慮して話せなかったが、実は互いに気に掛けていたのである。友達と話していたらつい聞き耳を立てたり、テスト勉強で困ってる事がありそうな時は話し掛けようか迷っていたらしい。そんな事露知らずだった過去の自分に申し訳なくなる。
「じゃあ、明日学校で」
「ああ。…もし、二階堂が良ければご飯作ってくれないか?」
「卵粥以外も食べてみたくて…。」と少しそわそわした様子で私の反応を確かめる彼が小さな子供みたいで可愛らしかった。大人っぽくて渋い人がやるとギャップ萌えなのか胸がキュンとときめいた。
「勿論!次は何が食べたい?リクエストがあれば聞くけど」
「そうだな…。チキン南蛮とか食べたいな」
「OK!」
スーパーで購入した物が傷まないように冷蔵庫に入れていた食材を鞄に詰めて、玄関へ向かう。
ローファーをトントンと鳴らして手を振ろうとすると腕を掴まれて、手の甲に柔らかい感触が当たった。
牧君が優しいキスを落として微笑み、楽しみにしている、と呟いた。それは挨拶を交わすような…あまりにも自然な動作で前世は王子様だったの?なんて単純な考えになる自分に苦笑いだ。いや、それ以上に此処は日本よ!?海外ドラマのワンシーンのような出来事に手の甲から唇が離れて数分経つのに、未だに熱を帯びていて冷める気配がない。それどころか、全身が湯船に浸かった時みたいに温かくなった。
「二階堂?固まってるがどうかしたか?」
「ううん!何でもないの!バイバイ!」
ペコリと頭を下げて街灯が照らす道に足を進めた。冷たい風が、キスで上がった体温を冷ましてくれるので心地良くて自宅に着いてからも暫く鼓動の音が煩かった。
それからお風呂に入って、スマホでチキン南蛮のレシピを片っ端から吟味した。次はもっと美味しい料理を振る舞うんだと目標を掲げて。
*END*
そんな中、私はクリアファイルに入った数枚のプリントと睨みっこしながら地元でも目立つ高い高層マンションの前に立っていた。
勿論、セキュリティーもしっかりしてるので誰でも入られる訳ないがプリントに記載されたパスワードを使って入る。事の始まりは終わりの会だった。
「…さて、滅多に休まない牧が風邪を引いたそうだ。プリント届けられる人は……確か二階堂、家が近いよな?悪いがプリント渡してくれないか?」
「えっ」
私の返事を聞く前にクリアファイルを差し出す。明らかに断れない雰囲気に小さく溜息して渋々受け取った。
「最近、季節の変わり目で体調崩し易いので各自気を付けるように」
その言葉を最後に各自席を立ち、掃除当番の人はモップや箒を取り出して部活動に励む人は部室へと足を運び、帰宅部は家へと帰る。いつもなら家へと帰るが面倒事を押し付けられてそうはいかず。
「…大体、クラスが同じだけで挨拶を交わす程度の仲なんだよね…。」
正直、お互いの事は顔と名前くらいしか知らない。否、彼自身は有名人だからバスケが上手くてサーフィンが趣味とか風の噂で知ってはいるが。此方には一方的に情報が届いてるが、私は特にこれと言って秀でた才能も無ければ成績も中の中。オマケに取り柄もこれと言ってないのないない尽くしなので、そんな私が足を踏み入れて良い領域なのかとさえ思えてくる。
しかも、彼は高級タワーマンションで私は築20年の古いアパート。学校は同じなのに此処まで差が広がるのかと思ってしまい、住む世界所か建物の種類自体が異なる。しかし、決して裕福な家庭ではないが両親が共働きで稼いだお金の仕送りのお陰で、週一のバイトでも生活は成り立っているから不満を言うとバチが当たるので、文句は言えない。
「えーと……部屋番号は此処で合ってるよね?」
ドアに書かれた番号とプリントの番号を交互に見合わせて一致したので恐る恐る手を伸ばして、人差し指でインターホンを押下した。
暫くすると「はい、牧ですが」と声が聞こえたので、私は「プリントを届けに参りました」と緊張してるからか、敬語で出前を届けに来た人みたいな言い方になった。心の中で何やってんのよ私!と突っ込んでいるとインターホン越しに笑い声が聞こえて、立ち話もなんだからと上がるように促された。
何気に異性の部屋に入るのは初めてだ…。室内は高そうな家具や大きなテレビ、サーフボードにバッシュ、スポーツ雑誌が置かれている。きちんと整理整頓されていて自分の部屋は狭いし物で溢れていて散らかっているのが少し情けなくなった。
「あまり見られると恥ずかしいんだが…。」
「へっ?あ、ごめん…男の子の部屋って新鮮で…。体調はどう?」
「熱は下がったが、まだ身体が怠くてな…。食欲もないから今晩はゼリーだけにしとこうかと思ってるよ」
「ゼリーだけじゃ栄養偏るしなぁ…。あ!良かったら私が何か作ろうか?」
透明の買い物袋を顔の横にぶら下げて、ニコッと笑う。
丁度、家の卵と野菜と苺ミルクが切れていたので駅前のスーパーに寄って買っていた。お米と調味料さえあれば卵粥が作れる。冬の選抜が控えているバスケ部はよりハードな練習に明け暮れているので、そんな中部員達はキャプテンの復帰を待ち望んでいるに違いない。身体に優しく美味しいお粥を提供して貢献するべきだ。…と、バスケ部員でもマネージャーでもない単なるクラスメイトの癖に何様なんだろうと思う。
自分で言っておいてあれだが、いきなり然程仲良くないクラスメイトがキッチンを借りて料理を作るなんて出過ぎた真似をしている。
返事が返ってこないので、引かれたかなと思い牧君の顔を見た。しかし、彼は引いてる様子はなく、ほんのり顔を赤らめて目を見開いているではないか。
「あれ?どうしたの。顔赤いけど…また熱が出てきた?」
「…いや、大丈夫だ。作ってくれるなら有難いよ。キッチンは其処にあるから好きに使ってくれて構わない」
「…え?分かった。牧君は大人しくしてて!」
まさかの承認に瞬きを繰り返し、こうなったら独り暮らしで鍛えた料理の腕前を存分に振るうかと、袖を捲って冷蔵庫の扉を開けた。
炊いたお米は冷蔵庫のタッパーにあったので取り出し、材料を並べて沸騰したお鍋に材料と調味料を混ぜ合わせて完成したのでお皿に盛る。
白い湯気が出て出汁の匂いに涎が出そうになる。最後に青葱と海苔を散らせば出来上がり。
「出来たよ」
「おー、悪いな」
牧君の前に差し出そうとしたが、テレビが付いている画面ではなく私の下半身に目がいっていて、視線の先を辿るとスカートが捲れ上がって苺柄のパンツが丸出しである事に気付く。
「苺が本当好きなんだな。苺ミルク買ってたし」
「わーー!見ないで!」
おぼんをテーブルの上に乗せて直ぐ様スカートを整えた。いつからこの状態だったんだろう。て言うか、気付いてたのなら早く言ってよと悪態を吐きながら椅子を引いた。
「大丈夫、家に来た時は捲り上がってなかったから。俺の部屋にいる間に何かの拍子で引っ掛かったんだろう」
「あ、それなら良かっ…て、良くない!」
「はは」
「…牧さん、楽しんでるね」
むうーと唇を尖らせて頬杖を付いて軽く睨んだが、お粥をふうふう冷まして美味しそうに食べる姿を見ると半分どうでもよくなった。
それから食べ終わったお皿とお鍋を洗い終えて、窓から見える空は薄暗くなっていた。
プリントを届けるだけの筈が、随分時間が経ったんだなと感じた。鞄を取りに行き、牧君の方に視線を向ければ、数人座れそうな大き目のソファに座った彼が隣の空いてる座席をポンポン叩いて此方を見詰めている。そして私は隣に座った。
「今日は本当に助かったよ。久し振りに人の手料理が食べられて良かった」
「いえいえ!今まで家族以外料理を振るう事がなかったから、面白かったよ」
「俺の事…図体でかいし怖いと思ってたろ?だから、率先して料理を作ってくれたのは意外だった」
「そんな事ないよ!優しくてクールで頭良くて…素敵だし。牧君は陰気で地味な女だと思ったでしょ?クラスでも目立たないし…。」
す、素敵って…言っちゃった。しかも本人の前で。実際、事実ではあるが本心を素直に伝える事に慣れていない私は何となくこそばくて、俯いた。掌からは手汗がじんわり浮かび上がっていて、スカートの裾をぎゅっと握り締めた。多分、今の私の顔は紅葉のように真っ赤だろう。咄嗟に自虐ネタに走ったが、ネガティブな女って印象を与えたよね…?
幸い、彼の表情はゆっくり波が揺蕩う海のように穏やかで、言葉を紡いだ。
「…ありがとう。素敵だなんて言ってくれて嬉しいよ。…顔が赤いが、熱でもあるのか?」
「もし移っていたら大変だ」と言って彼は大きな掌で私の後頭部を押さえて額同士をくっ付けて測る…少女漫画やドラマでしか見た事ないやり方をしてきた。
ふ…普通に体温計を出してくれれば良いのに!ナチュラルにこんな事されたら大抵の女の子は勘違いしちゃうよ…。と心の中で叫んだが届く筈なくて。牧君って、天然女たらしなのだろうか。プリントを届けて卵粥を作っただけなのにドッと気疲れがしたが、不思議と心地良い疲労な気がした。
それから私達は他愛のない話を1時間程して、時刻は19時を回ろうとしていたのでお開きとなった。話していて思った事は、今まで遠慮して話せなかったが、実は互いに気に掛けていたのである。友達と話していたらつい聞き耳を立てたり、テスト勉強で困ってる事がありそうな時は話し掛けようか迷っていたらしい。そんな事露知らずだった過去の自分に申し訳なくなる。
「じゃあ、明日学校で」
「ああ。…もし、二階堂が良ければご飯作ってくれないか?」
「卵粥以外も食べてみたくて…。」と少しそわそわした様子で私の反応を確かめる彼が小さな子供みたいで可愛らしかった。大人っぽくて渋い人がやるとギャップ萌えなのか胸がキュンとときめいた。
「勿論!次は何が食べたい?リクエストがあれば聞くけど」
「そうだな…。チキン南蛮とか食べたいな」
「OK!」
スーパーで購入した物が傷まないように冷蔵庫に入れていた食材を鞄に詰めて、玄関へ向かう。
ローファーをトントンと鳴らして手を振ろうとすると腕を掴まれて、手の甲に柔らかい感触が当たった。
牧君が優しいキスを落として微笑み、楽しみにしている、と呟いた。それは挨拶を交わすような…あまりにも自然な動作で前世は王子様だったの?なんて単純な考えになる自分に苦笑いだ。いや、それ以上に此処は日本よ!?海外ドラマのワンシーンのような出来事に手の甲から唇が離れて数分経つのに、未だに熱を帯びていて冷める気配がない。それどころか、全身が湯船に浸かった時みたいに温かくなった。
「二階堂?固まってるがどうかしたか?」
「ううん!何でもないの!バイバイ!」
ペコリと頭を下げて街灯が照らす道に足を進めた。冷たい風が、キスで上がった体温を冷ましてくれるので心地良くて自宅に着いてからも暫く鼓動の音が煩かった。
それからお風呂に入って、スマホでチキン南蛮のレシピを片っ端から吟味した。次はもっと美味しい料理を振る舞うんだと目標を掲げて。
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