Z=18 あの日、あの時、あの瞬間…
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千空達が乗る気球は、天文台がある場所にゆっくりと下降していき、魅真達と村人が全員集まった。
「お帰りーー!!」
「千空ーー!!!」
龍水がおろしたロープを、天文台の屋根に登ったコハクがとって、上部の棒にくくりつけ、千空がおろしたロープは、魅真がとって、気球が上昇しないようにひっぱった。
千空の姿が見えると、数ヵ月ぶりに会ったので、村人はうれしそうに出迎えた。
着陸して、バスケットから降りると、子供達は千空のもとに駆け寄り、千空は、駆け寄ってきた子供の頭に手を置いた。
「千空、久しぶり」
「おぅ」
そこへ、魅真がやって来て千空にあいさつをすると、千空は短く返した。
「私が寝泊まりしてるところ、千空の天文台にしてるんだけど、問題ないよね?」
「別に1mmも問題ねえよ」
魅真は、天文台に寝泊まりしていることを、一応千空に確認するが、千空はまったく気にもとめていなかった。
「本当に気にしないんだ…」
「ったりめーだろ。こいつと間違いが起こるなんて、天地がひっくり返っても、100億%ありえねぇわ!」
「魅真と同じことを言っているな」
細かい言い回しは違うが、言ってる意味は同じなので、まったく気にしていない様子の千空に、羽京はある意味ですごいと思っていた。
Z=18 あの日、あの時、あの瞬間…
そして夜になると、魅真達と村人全員が、居住区にある同じ家に入った。
「感謝するぜ!美女たちのもてなしに」
家に入ると、村人が食事の準備をしていたので、龍水は指を鳴らし、感謝の意を示した。
「いやだあ。美女だってよぅ、アタシらに」
もう結構な年なのに、美女と言われたので、隠居の女性は、軽く流すように返す。
「ヤベェエエ。なんだこれ。豪華すぎんだろ、飯!!」
「宴だからな。千空の石神村凱旋だ」
食事を見ると、クロムは目を輝かせ、よだれをたらし、興奮して叫んだ。
「ほう……!!」
豪華というので、龍水はフランス料理のフルコースを思い浮かべた。
だが、目の前にあるのは、焼き魚、焼き魚のスープ、焼き魚のサラダ風、焼き魚のデザート、焼き魚のなんかだった。
どこを見ても魚一色だったので、龍水は顔がひきつって固まる。
何はともあれ宴はスタートして、それぞれ好きな料理をとって、宴を楽しんだ。
「ジャスパー、ターコイズ、テメーら二人だけで守れてたか?ジジババ共をよ」
「戦闘なんかゼロよ!逆に熊でも出てくれたら、肉獲れたけどね!!」
「ここ数か月、ずっと毎食魚だな」
「千空、俺たちは、いつまでこの村で過ごす?」
千空が、ルリの護衛役であるジャスパーとターコイズと話していると、横から龍水が、真剣な顔で話しかけてきた。
「あ゙?さぁな。石油見つかるまで、一年か二年か…」
質問して、返ってきた千空の答えに、龍水は冷や汗をかき、歯を強く噛みしめる。
「はっはーー。見つけるぞ、食料も!!空からな。絶対に絶対に絶対に絶対に絶対にだ!!!」
「ものっすごい断固たる決意だね。最近気づいたんだけど、こういう世界だと、欲張りって悪いことじゃないよね」
「あ゙ー、実におありがてえ。バリバリ頼むぜ、パイロット…!!」
龍水の異様な雰囲気と断固たる決意に、羽京はどこか引いていたが、千空は笑っていた。
次の日、魅真、羽京、クロムは地上から、千空、龍水、コハクは気球に乗って上空から、新しい地図を作ると同時に、石油+食料を探すことになった。
「わぁああああああ。私は今、本当に、本当に空を翔んでいるぞ…!!!」
千空は六分儀を使って探しており、コハクはバスケットの中に入らずに、バスケット下部の足の部分にぶらさがり、空を翔んでいることに感動していた。
「いつまでも、ガキみたくはしゃいでんじゃねえぞ、雌ライオン。とっとと働け」
「ははは、はしゃいでなどいない!そして、雌ライオンじゃない。久々だな、それ!!」
けど、千空が悪態をつくと、コハクは顔を真っ赤にして反論する。
そして、反論したあとにバスケットの中に入ると、千空の隣にならんで立った。
「おぅ、そうだぞ。コハクの視力頼みなんだからよ!!じゃなきゃ、俺だって乗りたかったぜ、もっと!」
「私も乗ってみたかった…」
「地上探索チームも大事だよ」
気球に乗れなかったクロムは文句を言い、魅真がうらやましそうにしていると、隣から羽京が、なだめるように声をかけた。
「探しているその石油とやらは、空から見れば、すぐ見つかるのか?」
「可能性ゼロじゃねえがな。まぁ、運に期待は科学じゃねえ。携帯電話で地上チームと連携して、地道に地形測りながら、お目当ての相良油田に迫ってく!俺らはこの目で、新世界の、ワールドマップを作るんだよ………!!!」
「!!!」
千空が、今回の目的を話していると、コハクはさっそく何かを発見した。
「む!あの林はもしや…」
「食料か!?」
コハクがバスケットに手を置き、身を乗り出して林を見ると、龍水がすごい勢いでくいつき、千空の顔を押しのけて、林に注目した。
コハクが林をみつけると、クロムが六分儀で確認する。
「おぅ、杉林だな。素材王に任しとけ!ルートも分かるぜ、あそこなら!!」
「建築材の宝庫だね」
そして、クロムが杉林を確認すると、隣にいる羽京が、紙に地図を書いていった。
「ゲームのマップ作るノリで、地図にお宝ポイントガンガン入れてくぞ!!」
「ハ!なかなか楽しくなってきたな。クロムに相談しつつ、鉱山も探すか」
「フゥン。それもいい!それもいいが食料を――」
とにかく食料にこだわっている龍水は、何かないか探していた。
するとその時、崖の向こうに何かを発見した。
「なんだ、動いているぞ。野生動物の群れか!?当たるぜ、船乗りのカンは…!」
龍水がそう言うと、今度は羽京が、動物の足音を聞き取った。
「老いてはぐれたらしい個体を、近くに一匹見つけたよ。野生化したヤギの群れだ―――!!」
音がした方向…龍水がみつけた崖の上には、一匹のヤギがいた。
「ごめんな。偽善と言われようと、感謝して、残らず食べるから」
羽京は、地図を書いた紙を魅真に渡すと、矢を射ってヤギを仕留めた。
そして、ヤギを射る時の羽京の言葉に、魅真はドキッとして、頬をわずかに赤くした。
ヤギを仕留めると、魅真達は川で血抜きをして、そのあとで、下降してきた気球のロープを三人でひっぱった。
それから村に戻ると、地上探索チームと空中探索チームで、情報を照らし合わせて、地図を作った。
「おおおおお。これは……!!!」
「初めて見るな。こんなにも詳しい地図は!」
その地図を見た村人達は、細かくて詳しい地図を見て、感嘆の声をあげた。
「はっはー!どうだ、空の情報量は。食糧マップを作れば!!今後は貴様らも、魚だけなんていう無粋な食事とは…」
彼らの声に、龍水は自信満々で、肉を食べながら肉で人をさすという、行儀の悪いことをしながら、無神経なことを言う。
「本当に素敵だねえ、科学は。こんなものがあれば、この先誰も、飢えて死んだりせずに済むのかもしれないねえ」
けど、あるみは怒るのではなく、涙を流して、目の前の食事に感謝をしていた。
「…もう長いこと、不漁になったことなどないじゃないか」
「よしてよ。食事中に辛気くさい!!」
かなり深刻な話になったので、さすがの龍水も、それ以上は何も言わず、千空とともに、真剣な目をしていた。
次の日の朝。
また新しい地図を作るために、空中探索チームと地上探索チームとに分かれて、行動をすることとなった。
「石神村の連中が、人類の生き残りが、これ以上増えなかった理由は――食糧問題だ。違うか??」
「私が生まれる前、村は今よりもめっぽう大きくて。だが、不漁の年に、大勢が亡くなったのだ。ターコイズの家族たちも皆―――。そう聞いている」
「狩猟はどっかで限界が来る。さらに増えたきゃ農耕しかねえ!ククク。それこそが、増えたい植物様の陰謀。人類の奴隷化だったなんつう話もあるくらいだがな」
「フゥン!人類が目指すべきは、増えることか?生き物は皆、増えるために生まれたのか??そんなことは神しか知らん!そして神などどうでもいい!」
気球に乗った、千空、龍水、コハクは、昨夜のことについて話し合っていた。
龍水は話している途中で、バスケットに、音がするくらいに勢いよく片足をのせた。
「俺はただ、美女たちの涙を見たくないだけだ。世界一欲張りな男だからな!!この空からタネを見つけ出す!!始めるぞ、千空。農耕を……!!!」
龍水の、周りの人を思いやる発言に、千空もコハクも、口もとをゆるめる。
「あ゙ー。なんせ、農耕始めりゃ、食糧市場の爆誕で、テメーの金が火ィ吹くからな!」
「フゥン。気付いていたか」
けど、すぐに千空と龍水が、いい言葉を台無しにすることを言ったので、コハクはドン引きした。
「善人なのか悪人なのか。ゲンも大概だったが、龍水はそれ以上だな」
「ただの世界一の欲張りだ。単純に、何一つ諦めたかねえんだろよ。自分のことも、人のこともな―」
ドン引きしながら話すコハクの横で、龍水は、気球を上昇させるために炭をくべていた。
その後、コハクがあるものを発見して、地上探索チームに電話をかけると、クロムが背負っている、地上探索チームのケータイが鳴った。
「なんか、沿岸部に生えてるとか言ってんぞ」
「生えてる?」
「何が……??」
電話がかかってくると、魅真達は気球が飛んでる方へ歩き出し、コハクが言っていた沿岸部へ向かった。
そして、沿岸部につき、気球に乗っている千空達の姿が見えると、三人は手をふった。
「龍水、テメーが吠えねえでも、どうせ要るんだよ。地球の裏まで船に積める、軽くて長持ちの飯。アホほど量作んなきゃなんねえからな!」
「そこに生えているぞ。金色に輝く猫じゃらしが!!」
「!!!」
「ヤギの群れがいるほど肥えた一帯だぞ。空から探しまくりゃ、自生してんのがソッコー見つかるわ。潮風にも負けねえ、ムギのド根性なめんな」
「小麦。パン作りか―――!!」
そこに生えていたのは、たくさんの小麦だった。
「すごいたくさんある!」
「ここから先は、食糧を育てて創り出すんだ。人類の手で………!!!」
小麦の群生をみつけると、しばらくして、千空達が乗っている気球が降りてきたので、魅真とコハクで刀を使って、持てる分だけ小麦を刈り取った。
「保存食料の王様、パンを作る!!『パンが無ければ麦から作ればいいじゃない』っつぅ話だ……!!石化光線の発生源探ろうっつう、はるばる大航海時代の長旅だ!保存食がアホほど大量にいるぞ。パンが作れなきゃ、話にならねえ!!」
小麦を刈り取ると、丸太ほどの大きさでしばる。
「パンかあ…。旧時代ではよく食べたな。ストーンワールドでも食べれるなんて、最高だね」
「へぇ…魅真、パン好きなんだ?」
「うん、大好き!」
「そうなんだ。僕も大好きだよ」
「同じだね」
「そうだね」
小麦の束を作っている時に、魅真は石化前のことを思い出して、懐かしそうにしていると、羽京がくいついてきて、お互い好物が同じということで会話がはずみ、楽しそうにしていた。
そして、いくつか小麦の束を作ると、全員で村に持ち帰り、脱穀する。
脱穀が終わると、突然龍水が指を鳴らした。
「ブリオッシュ!!スフォリアテッラ!!パン・オ・ショコラ!!」
これからパンを作るので、目を輝かせて、自分が欲しいパンの名前をあげた。
「なんだそれは。必殺技の名前か?」
「誰が焼けんだ、んなセレブパン。保存食だっつってんだろ。乾パンだ、乾パン」
「はっはー!それもこれも、全部作ればいい。俺は世界一の欲張りだからな!!」
いきなり難易度が高そうなパンを提案してきたので、千空はつっこむが、龍水は無理とは言わず、指を再度鳴らしながら、作る気満々だった。
「まず材料とかないでしょ」
「そこまでは、小麦の量ねぇぞ」
「だからこその農耕だ!!」
たくさんパンを作るには、とってきた小麦の量があまりないので、クロムが指摘するが、龍水はまた指を鳴らして、これから何をするかを話す。
「ハ!面白い。人間が種を蒔いたりと、植物の面倒を見ることで、科学の力で増やそうというわけか…!」
「この村の近辺に種を蒔くの?」
「さすがに山間部すぎんだろ。水はけも厳しい。畑作んなら、関東平野だ。大樹たちゴリラチームが火ィ吹くぞ………!!」
小麦を育てるのは、大樹達がいる司帝国に決まり、脱穀した小麦を、コハクが司帝国まで運んでいった。
次の日…。いかに驚異的なスピードをもつコハクといえど、徒歩では2日はかかるため、その日はコハクぬきで、油田探しをすることとなった。
「いよいよ農耕が始まるんだね。パン作りが楽しみ」
「僕もだよ。魅真はどんなパンが好きなの?」
「チョコクロワッサンとかコーンパンとかすごく好きだけど、基本は結構なんでも好きかな」
「僕もだよ。パン類は、全般的になんでも好きなんだ」
「お、おぅ。2人が何話してるか、全然わかんねえぜ」
地上探索チームは、今は崖と川の間の道を歩いていた。
現代人組で、パン好きな魅真と羽京は、パンの話で盛り上がるが、生き残り組のクロムは、全然ついていけてなかった。
「パンっていう、現代の食べ物の一つなんだけど、ふわふわですごくおいしいんだよ。遠征にも持ち歩けて、すごく便利なの」
「さすがに、チョコクロワッサンとかコーンパンとかは無理だけど、食パンに近いものは食べれるんじゃないかな?」
そんなクロムに、魅真と羽京が説明するが、クロムはまったく理解できていなかった。
「この一年半、狩猟で、鹿とかキノコとか中心だったから、パンを食べられるなんて夢みたい!石化前は、よくうちでも作ってたな…」
「すごいね。本格的だね!」
「いや…そんな大したものじゃ……」
それでもなお、パン談義は続いていたが、魅真は話している途中で、視界に映ったモノを見ると、話すのをやめて、そちらを凝視した。
「魅真?」
「どうしたんだよ?」
上の方を見て凝視したまま、動きが止まってしまったので、羽京とクロムは、何事かと思って声をかける。
「ごめん。ちょっと…そこで待ってて!!」
「「え?」」
言うや否や、2人の返事を待たずに、魅真は前に走っていき、すぐ近くにある木の前で止まると、今度は木の前にある崖をよじ登っていった。
いきなり、垂直に近い崖を素手で登っていったので、2人はぎょっとした。
魅真は、あっという間に崖の上につくと、腕を地面に、足を崖のでっぱっている部分にのせている状態で、崖の上にあるモノを見た。
「!」
そこにあるのは石像で、目の前の石像を見ると、悲しそうな顔をした。
その時、足もとの崖が崩れ落ち、体全体が浮いてしまったので、魅真はとっさに崖をつかんだが、落下時の勢いで指先をかするだけで、体が宙に浮く形となり、顔が青ざめた。
「「魅真っ!!!!!」」
下でその様子を見ていた羽京とクロムも、魅真が落下する場面を見て、顔が真っ青になる。
地面から約10mもあるので、受け身がとれないと判断した魅真は、なるべく急所をガードし、体がこわばらないようにして、下にある木をクッションにしようとした。
魅真の思惑通り、魅真は途中で、下にある木の枝に両足をぶつけた。
そのことで、落下速度が落ちたので、それはよかったのだが、枝は今の衝撃で折れてしまい、魅真は再び下に落ちた。
地面には、足から着地でき、着地した瞬間に体を転がしたので、それもよかったのだが、勢いで川の方へ転がっていき、不運なことに、その先にあった小さな岩に体をぶつけた。
それでも勢いは止まらず、岩にぶつかると、空中で何度か回転して、川に落ちた。
「ぷは!!」
けど、幸運なことに、川は魅真の足の関節くらいの深さだったので、魅真は溺れずにすみ、すぐに顔を出した。
「魅真!!」
「大丈夫かよ!?」
そこへ、心配した羽京とクロムが、魅真のもとへ走ってきた。
「…あはは…。やっちゃった…」
2人が来ると、魅真は川の中にすわったまま、2人を見上げて、はずかしそうに笑う。
「どこかケガはしてない?」
「大丈夫だよ。どこもケガなんて…」
魅真は羽京の問いに答えながら、そこから立ち上がろうとした。
「!!!!!!」
だが、足に力をいれた瞬間、強烈な痛みが魅真の足に走ったので、魅真は立ち上がることができず、尻もちをついた。
「魅真?」
「どうかしたのか?」
「うぅん、なんでもない。少しよろけただけ…」
本当は足が痛かったのだが、2人に心配かけまいと、ウソをついた。
そして、立ち上がるために力をいれたのは右足だったので、右がダメなら左と、今度は左の足で立ち上がろうとした。
「!!!!!!」
しかし、左足にも強烈な痛みが走ったため、またしても立ち上がることができず、再び尻もちをつく。
「おい、やっぱヤベーんじゃねえのか?スゲー高さから落ちたんだ。平気なわけねえだろ!」
「だ、大丈夫だよ、本当に…。今は、うまく力が入らなかっただけで…」
クロムが心配するが、それでも魅真はごまかした。
すると、羽京が背負っている荷物を地面に置いて、靴もぬがずに、そのまま川の中に入ってきた。
「羽京?」
羽京は川に入ると、魅真の前まで歩いてきて、魅真は羽京を、そのままの体勢で見上げた。
すると、羽京はその場にしゃがんで、魅真に可能なかぎり近づいた。
「魅真、僕の首に、両手をまわして」
「え?」
近づくと、羽京は魅真に指示をするが、魅真はなんでそんなことを言うのか、理解できなかった。
「早く」
「え?うん…」
けど、羽京に促されると、魅真は言われた通り、羽京の首に自分の腕をまわした。
「しっかりつかまっててね」
すると、羽京は魅真の足の裏と背中に腕をまわして、そのまま魅真を抱き上げた。
所謂、『お姫様だっこ』というものをされたので、魅真は驚いた。
「(顔近っ!!)」
その上、羽京の首に腕をまわしているので、自分の体が羽京の体に密着する形となり、顔もすぐ目の前にあったので、魅真は顔を真っ赤にする。
羽京は魅真を抱きあげると、川から上がり、木の近くにある岩の上に、魅真をすわらせた。
「魅真、靴をぬがすよ」
「う…ん…」
岩の上におろされても、魅真はまだ、抱きあげられていた時の熱が冷めず、ドキドキしていた。
羽京は魅真に許可をとると、右の靴をぬがした。
「「!!?」」
靴をぬがすと、魅真の足が全体的に変色していたので、羽京とクロムはぎょっとして、顔が青ざめる。
「ごめん、ズボンも少しまくるね」
「わかった」
もしやと思った羽京は、また魅真に許可を得て、ズボンをひざのあたりまでまくると、更に顔を青くする。
魅真の足は、変色しているだけでなく、パンパンに腫れあがっていたからだ。
そして、左足に力を入れても立てなかったので、羽京は再び許可をとると、左も靴をぬがせて、ズボンをまくった。
案の定、左足も同じように変色し、腫れあがっていた。
「これじゃあ、しばらく探索は無理だね」
「だな。一度戻るしかねえな」
「え!?」
これでは、魅真は探索に行くのは無理なので、羽京とクロムは、魅真を休ませるために村に戻ろうとした。
羽京とクロムの言葉を聞くと、魅真は焦った。
「だ、大丈夫だよ。まだできるよ。包帯でガッチガチにしばっておけば…」
「でも、悪化するかもしんねえぜ」
「どちらにしろ、魅真がこんな状態だって知った以上、僕は、これ以上魅真が探索するのは、許可できないよ」
「そんな……」
魅真が焦ったのは、探索ができなくなってしまったからで、なんとか加わろうとするものの、2人にあっさりと却下されてしまう。
「とにかく、一旦村に戻ろう」
「その方がいいな」
「それなら、私一人で戻るよ。こっからそんなに離れてないし」
「それこそ許可できない。距離が短いといっても山なんだ。どんな危険があるかわからない」
「おぅ、そうだぜ。みんなで一緒に戻るぞ!」
「でも!!」
これ以上は迷惑をかけたくない一心で、せめて一人で戻ろうとしたが、それすらも却下されたので、魅真は落ちこんだ。
「魅真」
すると、羽京が静かに…それでいて、優しい声で魅真の名前を呼んだので、魅真は羽京を見た。
「ケガをしてる時は、人に甘えていいんだよ」
優しい声と、優しい瞳と、やわらかく優しい笑顔で話す羽京に、魅真は頬を赤くそめる。
「わかった…」
羽京に諭されると、魅真は3人で一緒に、村に戻ることにした。
「じゃあ魅真、僕におぶさって」
魅真が了承すると、羽京は魅真に背を向けてしゃがみ、手を後ろに出して、おんぶをする時の体勢をとる。
「クロム、魅真を僕の背中に」
「おぅよ!まかせとけ!」
けど、両足をケガしていて、立ち上がるのも困難だったので、羽京はクロムに、魅真を背中によりかからせるように頼んだ。
「え……。さすがにそこまでは…。羽京だって荷物あるし…私の荷物も…」
「それならよ!俺が、羽京と魅真の荷物を持ってくぜ!」
「けど、クロムは携帯運んでるでしょ?」
「俺は探索王だ。ガキん頃から、重い荷物背負って山超えるのなんか、しょっちゅうだったかんな。まったく問題ねえ!」
「けど、荷物もあるけど、私川に落ちたから、全身ずぶぬれだよ」
「なんだ、そんなことか」
「え?」
「もうぬれてるから大丈夫だよ」
大きな荷物を持っているだけでなく、全身ぬれてしまっているので遠慮するが、魅真を川から運ぶ時に、もう川に入って、半身がぬれているので、羽京はまったく気にすることなく、優しく微笑むと、魅真はまた頬を赤くした。
「魅真、さっきも言ったけど、ケガをしてる時は、人に甘えていいんだ。今魅真がすることは、僕達に甘えることだよ」
「……じゃあ…お願いします……」
荷物はそれなりの重さがあるのに、遠距離じゃないとはいえ、クロムが全員の荷物を持ち、羽京に背負ってもらうのは、申し訳ない気持ちの方が強かったのだが、羽京とクロムに説得されると、魅真は2人の提案を受け入れた。
魅真は両足を痛めているので、クロムが魅真の体を支えて羽京の背中まで運び、羽京は、魅真が背中に密着して首に手をまわすのを確認すると、魅真の足に手をまわして、ゆっくりと立ち上がった。
「魅真、しっかりとつかまってるんだよ」
「うん…」
背負われたことで、また顔が近くなり、更には羽京の背中に密着したので、魅真は更に顔を赤くした。
そして、クロムは魅真と羽京の荷物を持つと、背中に携帯を背負ったまま、前の方に二人の荷物をもってきた。
準備が整うと、羽京とクロムは、村に向かって、元来た道を歩き出す。
「本当にごめんね、2人とも。でも、正直助かったよ。ありがとう」
「おぅ、どうってことねえって!」
「これからは、変に意地はっちゃダメだよ」
「はい……」
2人が歩き出すと、魅真はお礼を言った。
クロムは気にしていないようだったし、羽京も特に気にしていないが、痛いところを指摘してきたので、魅真は小さくなった。
「でも、羽京がこんなに力があるなんて、意外…」
「いや…ほら、僕これでも、自衛官だったから…」
何気に失礼なことを言う魅真だが、羽京はさほど気にすることなく答えた。
「そっか。そういえばそうだったね」
見た目が華奢なので、あまり力があるようには見えないが、羽京に言われ、羽京が自衛官だったことを思い出すと、納得をした。
「………自衛官に助けられるのは、人生これで二度目だよ…」
「…そうなの?」
「うん。9歳の頃なんだけどね…。当時小4の頃、その時住んでた地域で、大きな地震が起こって…私はちょうど家にいたんだけど、倒壊した家に閉じこめられてしまったの…」
「それってヤベーじゃねえかよ」
「そう…。特に子供の頃だったからね。その時は、家に私一人だけだったっていうのもあって、すごいパニックになって、どこにも出口がない場所で、一人で泣いてたんだけど…。そしたら人の声がして、しばらくしたら、家に穴をあけて、助けてくれた。それが、自衛官の人だったの」
「っつーか、自衛官ってのは、一体なんなんだよ?」
「自衛官っていうのは、国の安全と平和を守る人のことで、災害時に助けてくれたりするの」
「へぇ~。それで、魅真はその自衛官ってのに助けられたのか。でもよ、倒壊した建物に閉じこめられるとか、すっげえ恐怖じゃねえか」
「うん。だから、死ぬかもしれないってあの時は思ったんだけど、恐怖で震えてる時に、自衛官の人が助けに来てくれて…。それから自衛官は、私にとってはヒーローになったんだ」
「な、なんか…照れるね…」
魅真が昔のことを話し、自衛官をヒーローと崇めているのを聞くと、羽京は照れくさそうにした。
「それで、その助けてくれた人に、避難場所まで、今みたいにおんぶして連れていってもらって、避難場所に着いて、その人と別れる時、すごくうれしくて、その人の名前を聞いたんだ」
「どんな奴だったんだ?」
「若い男の人で、結構めずらしい名前だってのは覚えてるんだけど…。何しろ、3700年以上前のことだから、顔も名前も覚えてないんだ…」
断片的には覚えているが、詳しくは覚えていなかった。
それでも魅真は、あの時のことを、なんとか必死に思い出そうとしていた。
魅真の脳裏には、あの時助けてくれた自衛官の顔が、逆光で見えなくなっているように映っていた。
「えっと……確か、その人の名前は…」
魅真の脳裏に映る自衛官は、まだ顔も思い出せず、別れ際、魅真に名前を名乗るが、声も聞こえていない状態なので、やはり思い出せなかった。
助けてくれた自衛官を思い出そうとしていると、現実世界では、風になびいた羽京の短い髪の毛が、魅真の顔にあたった。
「!!」
その時、魅真の脳裏に、今度は、あの頃自衛官に背負われていた時の光景が蘇り、その後再び、別れ際に名前を聞いた時のシーンに戻った。
再びそのシーンに戻ると、今度ははっきりと、その自衛官の顔が映り、名前を名乗ってる時の声が、魅真の頭の中に鮮明に響く。
「………その人の……名前は………」
二つのシーンを思い出すと、魅真は驚愕して、信じられないながらも、続きを話した。
「西園寺……羽京……」
魅真が驚愕したのは、あの時助けてくれた自衛官の名前を思い出したから。そして、あの日助けてくれた自衛官というのが、羽京だからだった。
魅真の口から出てきた名前に、クロムはもとより、本人である羽京が一番驚愕し、その場に立ち止まると、目を大きく見開いて、背中にのっている魅真の方に顔を向けた。
「あの時私を助けてくれたのは………羽京……あなただった…!!」
助けてくれた自衛官の名前を思い出した魅真は、頬を赤くして、目を輝かせていた。
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