Z=8 司帝国の復活者たち
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「なにか用事?」
彼らは見た目いかつい顔なので、見ただけで萎縮する者もいるが、魅真は平然としており、冷静に声をかけた。
声をかけられると、彼らはニヤついた笑みを濃くして、示しあわせたかのように、ゴーザンは麻の糸が入った袋をとると、袋を逆さまにして糸を地面に落とし、ユーキは、麻の糸が入った袋とは反対側に置いてある、つんだ薬草が入ったザルを持ち上げ、地面にたたきつけると、2人はそれぞれ地面にたたきつけた物を、足でぐりぐりと踏みつけた。
突然の乱暴な行動に、魅真は一瞬呆然としたが、すぐに正気になり、目を鋭くさせる。
「………ねえ……」
「「あ?」」
そして、静かに声をかけると、2人と目を合わせず、織り機を横に置いて、ゆっくりと立ち上がる。
「今、何やったの?」
立ち上がると、2人と顔を合わせて、その鋭い目を向けた。
彼らは、魅真が言っている意味がわからず、一瞬呆けるが、すぐにもとに戻った。
「何って、見てわかんねえのかよ?」
「そんなこともわからねぇたぁ、頭大丈夫かよ!?」
そして、2人は魅真を指さしながら、バカにするように、ゲラゲラと下品な笑い声をあげた。
彼らの言い分と笑い声を聞くと、魅真の目は、ますます鋭くなる。
同時に、ちょうど羽京が、坂道を登って、アジトの前までやって来た。
「謝りなさい」
「「はぁ?」」
「今あなた達が踏みつぶした薬草と麻は、どちらも自然の命をつみとった物よ。自然の恩恵にあずかっていることも忘れて、それを嘲笑い、文字通り踏みつけにするなんて、許されることじゃないわ。今すぐ!あなた達が踏みつけにした、薬草と麻に謝りなさい!!」
魅真は先程発した言葉の意味を話すが、2人は理解できず、それどころか吹き出して、再び大声をあげて笑いとばす。
けど、近くで見ていた羽京は、目を大きく見開いて、呆然として魅真を見た。
「バッカじゃねぇのかぁ?たかが植物に謝れだと?」
「脳がイカれてんぜ、こいつ!」
おかしそうに笑う2人は、魅真を指さしてバカにする。
「いいから、謝りなさい」
けど、魅真は少しも動揺することなく、自分の意見をゆずらず、冷静に、再度謝罪を要求した。
そのことで、彼らは切れて、笑うのをやめ、怒った顔で魅真を睨む。
「羽京といい、てめぇといい、マジでナマイキなヤロウだな!!」
「いっぺんわからせてやるぜ!!」
冷静な姿勢を崩さず、淡々と自分の要求のみを述べる魅真に切れた2人は、拳を構えた。
「やっぱり…。羽京にやられたことのストレスを、私にぶつけていただけなのね」
今ので、彼らがいきなりからんできたのは、羽京にケンカを止められたことに対する八つ当たりだと確信する。
「うるせえ!!ナマイキなんだよ、てめぇ!!」
図星をつかれたので、ますます腹を立てたゴーザンは、穴の出入口付近に置かれた織り機をつかみ、上にふりあげると、力強く地面にたたきつけて破壊した。
真っ二つに折れてしまった織り機を見ると、魅真は更に目が鋭くなる。
その様子を見ていた羽京は、自分が原因で、魅真(第三者)が八つ当たりされてひどい目にあっているのと、さすがに殴るのはダメなので、そこから出ていこうとした。
「くたばりやがれっ!!」
けど、羽京が出て行こうとすると同時に、ユーキはその拳を後ろに大きくひくと、まっすぐに突き出した。
しかし、魅真はその拳を、拳があたる直前のギリギリのところで、下にしゃがんでよけた。
それを見た2人と羽京は驚いた。
「てめぇ!!よけてんじゃねえ!!」
驚きはしたが、自分の攻撃をよけられたことの方に腹を立てたユーキは、憤慨して、意味のわからないことを叫びながら、再度殴りかかるが、魅真は今度は、またもギリギリのところで、少し体を横にずらしてよけた。
「(なんて身体能力だ。今の攻撃も、さっきの攻撃も、必要最小限の動きでよけている)」
この騒動を止めようとしていた羽京だが、魅真の動きに見入ってしまい、感心していた。
「クソッ!!またしてもよけやがって!!」
一方、魅真を二度攻撃したユーキは、また意味のわからないことを叫ぶが、魅真は無反応だった。
「おい、無視してんじゃねえぞ!!」
「剣道界のスーパースターだかなんだか知らねえが、調子のるんじゃねえ!!てめえなんざ、ただの女のヒョロガリだろうがよ!!」
魅真が攻撃をよけた上、無反応なので、彼らはますます頭に血がのぼった。
意味のわからない言葉だったが、自分達よりも、見た目弱そうで、ガタイがいいわけではなく、力がすごい強いわけでもないので、それだけで彼らは魅真をナメきっていたが、そのナメていた相手が、あっさりと攻撃をよけてしまったので、腹を立てているのだろうと、魅真は理解する。
「……言いたいことはそれだけ?」
「「あ?」」
「そんなことはどうでもいいから、さっさと謝りなさいよ」
最初よりも、鋭い目で睨みつけ、語気を強くしてしゃべると、ゴーザンとユーキは更に切れた。
「てめぇ!!」
「もう容赦しねえぞ!!」
すると彼らは、今度は2人同時に殴りかかってきた。
先程までは、魅真の動きに感心していた羽京だが、2人同時に殴りかかったのもあり、これはさすがにマズイと思い、今度こそ間に入って止めようととびだした。
だが、魅真は彼らの攻撃を下にしゃがんでよけると、2人の腕の間に立ち上がり、同時に、しゃがんでよけた時にひろいあげた、壊れた織り機を、彼らの首にななめにあてた。
その間わずか3秒ほどなので、男達も、止めようとした羽京も、驚きのあまり目を大きく見開き、動きを止めた。
折れた部分をあててはいないので、特にケガはないが、これが刃物だったら、確実に切れていただろうし、折れた部分だったら、刺さって血が出ているかもしれないくらい、首にピタリとあてられていた。
「石化して、3700年経ったこの世界は、文明が滅んだ原始的な世界。便利な文明の力にあやかってきた私たちには、生きにくい場所…。そんな世界に、いきなり復活して、戸惑っているのかもしれないし、ストレスがたまるのも、無理はないかもしれない…」
魅真は、それ以上は体を動かすことなく、そのままの状態で、淡々と話し始めた。
男達は、動こうと思えば動けたが、魅真の並外れた身体能力に恐れをなしたので、そこから一歩も動くことができなかった。
「だからって、人や物にあたるのは違うでしょ。それにその行動は、司が唱える理念に反することになるわよ」
けど、魅真が前に向けていた顔を、男たちに合わせて上に向け、目をあわせると、2人はなんとか体を動かし、ほぼ同時に後ろにとび退いた。
「う、うるせえ!!司さんの名前を出せば、俺たちが大人しく引き下がると思ってんのか!!」
「ちょっと司さんと面識があったからって、エラそうにしやがってよ!!」
魅真が司の威を借りたり、見下されていると勘違いした彼らは、びびりながらも虚勢をはるが、それでも魅真は動じず、そこから動かなかった。
「なめられっぱでいてたまるかぁ!!」
「この借りはキッチリ返してやんぜっ!!」
魅真に攻撃をよけられたり、動きを止められたり、説教されたりして、更にストレスがたまった彼らは、とにかく、魅真を一発でも殴らなければ気がすまないので、再び、2人同時に殴りかかってきたので、魅真も織り機を地面に放り、攻撃をよけようとする。
「やめるんだ」
その時、いきなり羽京が魅真と2人の間に入り、魅真をかばうようにして立った。
突然羽京が間に入ってきたので、魅真も2人も呆然とする。
「相手は女の子だ。僕が気に入らないんだったら、僕に直接文句を言えばいい。関係のない魅真に、八つ当たりをするのは違うだろう!」
まさか、羽京が出てきた上に、かばうとは思わず、魅真と彼らは、今度は目を丸くした。
「うるせえっ!!もとはといえば、テメーのせいだろうがっ!!」
「そんなに言うんだったら、テメーがカタつけんのかよっ!?」
けど、それは逆効果で、男達はまた羽京に止められたので、腹を立て、今度は羽京に殴りかかりそうな雰囲気だった。
「なにをやってるんだい?」
まさに、一触即発だったが、その時、ゴーザンとユーキの後ろから司がやって来て、魅真達に声をかけたので、ゴーザンとユーキは固まった。
「つ、司さん…」
「これは…その…」
声だけでびびった彼らは、おそるおそるふり返る。
「何があったのか聞いてるんだ。話してくれないか?」
「「は、はい!!」」
司は悠然と構え、優しい口調で話しているが、それだけでも迫力があり、何より、霊長類最強とまで言われている男なので、それだけで、彼らは萎縮した。
「実は、俺らがここにやって来たら、魅真の奴が、いきなり立ち上がって、因縁つけてきたんですよ!」
「そうです。しかも、折れた織り機を、俺たちの首にあてて、脅してきたんです!」
聞かれると、ゴーザンとユーキは、自分達にとって都合のいい部分だけを、やや誇張して、司に説明した。
「違うわよ。先に因縁をつけてきたのは、そっちのゴーザンとユーキよ。羽京にケンカを止められた八つ当たりで、私の治療道具を破壊して、薬草や麻や道具を踏みつぶしたの。自然の恩恵を受けていることを忘れて、薬草や道具を、文字通り踏みつけにしてきたから、謝罪を要求しただけよ。そしたら、彼らがバカにした上に、殴りかかってきたの。確かに、折れた織り機を彼らにあてたし、それはやりすぎだったかもしれないけど、脅してはいないわ。注意をしただけよ」
けど、魅真は羽京の隣に来て、司と顔を合わせると、補正するように、一連の流れを説明する。
「なっ…」
「てめぇ…余計なことを…」
魅真が説明すると、ゴーザンとユーキは、わなわなと体を震わせた。
今の言葉だけで、自分達が言ったことは半分ウソだと言ってるようなものだが、彼らは気づいていなかった。
「魅真が言ってることは本当だ。最初の、道具を破壊するところは見てないけど、2人は魅真に何度も殴りかかり、魅真を殴るまでやめようとはしなかった。織り機を首にあててはいたけど、それ以上のことはしてないよ」
そして、羽京が魅真の無実を証明するように、司に説明した。
「そうか…」
全員が説明すると、司は魅真達の周りを見た。
「うん…。確かに、魅真が正しいだろうね」
「「なっ」」
周りを見ると、再び前を向き、魅真の言い分を信じたので、ゴーザンとユーキはショックを受ける。
「魅真は、道具の扱いは丁寧だし、薬草も愛情をもって育てている。それに、いつも冷静だ。そんな魅真が、癇癪を起こして、自ら、いつも使う道具を破壊するとは考えにくいからね」
司が魅真を信じたのは、魅真の普段の行動や性格もあるが、魅真がいつもすわっている穴の周りには、説明された通り、折れた織り機や踏みつぶされた薬草、他にも治療に関する道具がちらばっているのを見たからだった。
「ゴーザン、ユーキ、魅真に謝るんだ」
「「えっ!?」」
その上、魅真に謝るよう言われたので、ゴーザンとユーキは、びっくりした。
「魅真の言う通りだよ。薬草も、治療に使う道具も、自然の恩恵を受けているものだ。そのことを忘れて踏みつけにするのは、俺の理念に反することだよ」
更には、魅真が言ったことと同じことを口にしたので小さくなる。
「ちっ…。悪かったな」
「もうしねえ」
司に促されると、司に逆らうのは気がひけるので、渋々だが、魅真に謝罪した。
「いいよ。私も、折れた織り機を首にあてたし。ヘタしたら、ケガするかもしれなかったし。ごめんね」
魅真は2人の謝罪を受け入れ、織り機をあてたことを謝罪したので、ゴーザンとユーキは、目を丸くして呆然とした。
「ちっ。行こうぜ」
「ああ。コイツにこれ以上関わっても、時間のムダだ」
けど、すぐに覚醒し、捨てゼリフをはいて、下に行こうとした。
「あ、待って」
「「あぁ?」」
だが、魅真が止めたので、低い声でうなった。
「腕…ケガしてる。手当てした方がいいよ」
魅真が2人を呼び止めたのは、小さなものだが、ケガをしてるからで、呼び止めると、腰の方にあるポーチを動かし、前に持ってきて、手当ての道具を出そうとした。
「けっ。いらねーよ、手当てなんか。こんなちみっちゃいケガ」
「余計な世話だ。誰が、テメーなんかの治療を受けるかよ」
けど、2人は手当てを断った。
断られると、魅真は小さく息をはき、薬草だけ取り出した。
「じゃあせめて、自分で手当てして」
薬草を数枚取り出すと、それを2人に渡す。
「ケンカで負ったケガを治療っていうのは、さすがに気分良くないから、ケンカはあまりしないようにね」
薬草を差し出し、2人が渋々受け取ると、魅真はまた注意をした。
そして、今の魅真の言葉を聞いた羽京は、目を見張り、魅真を凝視した。
「けっ。誰がてめぇなんかの言うことを聞くかよ!!」
「行こうぜ」
司の言うことは聞くが、魅真の言うことを聞く気はない彼らは、もう一度捨てゼリフを吐いて、下へ降りていった。
彼らが下に行くと、魅真はまた小さく息を吐き、今度は司の方へふり向いた。
「司、ありが…」
助けてもらったので、魅真は司に礼を言おうとしたが、司はすでに、魅真に背を向けて歩いていたので、魅真はもう一度息を吐く。
息を吐くと、魅真はしゃがんで、辺りに散らばった薬草や道具を片づけ始めた。
めちゃくちゃになっているのはわかっていたが、改めてその光景を見ると、魅真は嫌な気持ちになったが、このままにはしておけないので、もくもくとひろった。
すると、羽京も周りの薬草や道具をひろい始めた。
「ありがとう。ごめん、手伝わせちゃって…」
「これは僕がやりたくてやってることだから、気にしなくていいよ」
羽京にそこまでしてもらう義理はないのに、手伝わせてしまっているので、魅真は謝るが、羽京は気にしておらず、笑顔を返した。
いつもの貼り付けた笑顔と、少しだけ違うので、魅真は目を見張るが、それは一瞬のことで、すぐに手を動かした。
「あれ?どうしたの、魅真ちゃん」
そこへ、待ち人のゲンがやってきた。
「「ゲン」」
ゲンが魅真に声をかけると、魅真と羽京は、同時にゲンの名前を呼びながら、ゲンに顔を向ける。
「って……どうしたの?これ!何があったの!?」
今来たばかりのゲンは、薬草や道具が散らばっている光景を見ても、状況が読めず、ぎょっとして、魅真に問いかけた。
「ああ、それはあとでゆっくり話すよ」
今は少しでも早く、この状況をなんとかしたいのと、ゲンにしか話せないことがあるのとで、魅真は片づけを優先させた。
ゲンも、魅真の意図していることがわかり、少しでも早く密会の時間を作るためと、1人だけただ見ているだけというのも気がひけるので、片づけを手伝った。
数分間片づけをすると、すべて片づいたので、全員立ち上がり、魅真は荷物を袋の中にまとめて、穴の隅に置いた。
「羽京、ゲン、片づけを手伝ってくれて、本当にありがとう」
「いや、いいんだよ」
「そうだよ~。今日はデートの日だしね」
片づけが終わると、魅真は、再度ゲンと羽京にお礼を言うが、2人は特に気にしていなかった。
「じゃあゲン、片づけも終わったことだし、そろそろ行こうか」
今日はゲンとのデートの日だったのだが、思わぬアクシデントが起こり、遅れてしまったので、少しでも早く行くため、ゲンに声をかけた。
「そうね。行こうか」
「じゃあ羽京、私たち、もう行くから。またね」
「うん。また」
声をかけられると、ゲンは魅真の隣に歩いていき、魅真は羽京に一言断りを入れると、ゲンと一緒に下の方に歩いて行く。
魅真とゲンは、下につくと森の中に入り、アジトから離れるように歩いた。
「なるほどね。あの脳筋達が、魅真ちゃんの道具を…」
「そっ。完全に八つ当たりなんだけどね」
ある程度アジトから離れると、魅真はゲンに、薬草や道具が散らばっていた経緯を話した。
「でも羽京ちゃんがね~。俺も、話には聞いたことはあったけどね。羽京ちゃんが、復活者の争いを止めてるって」
「結構平和主義なとこがあるみたいね。まあ確かに、復活者同士で争って、血ぃ流すってだけでも後味が悪いのに、それで死んだりしたら、やっぱり気分良くはないからね。羽京の気持ちは、わかるといえばわかるかな」
「さすがは、元自衛官ってとこね。俺なんかほら、体力はもやしだし、戦闘力皆無だからさ~。止めるのは無理(リームー)よ。でも魅真ちゃん、大丈夫?手の内なんか見せちゃったりして」
「ん~~…。まあ、あの程度なら大丈夫だと思うよ。手の内って言っても、ただ攻撃を避けたり、壊れた織り機で相手の動きを止めただけで、攻撃したわけじゃないしね。それはさすがに、いろんな意味でまずいし」
「だけって……強者感あるね、そのセリフ」
それだけでも充分すごいと思っているゲンは、さすがは剣道界のスーパースターと言われてるだけはあると、魅真の力を改めて実感した。
「それに、攻撃を避ける時や、織り機をあてる時のスピードも、ただの様子見だったしね。だから実は、あの脳筋たち含め、他の復活者たちも、私のことなめてかかってくれた方が、都合がいいのよね」
「えっ!?なんで??」
普通は、なめてかかられない方が安全だからいいのではないかと思ってるので、今の発言をふしぎに思ったゲンは、魅真に問う。
「なめてかかられた方が、私のこと警戒しないから、情報を集めやすいし、行動しやすいしね。さっきのあいつらの攻撃も、構えてから私のもとに届くまで、およそ5秒ってとこだから、全然余裕でよけられることがわかったし」
「そ…そう…」
まさか、いさかいを起こしていた時も、情報収集していたとは思わず、なめてかかってくれた方がいいという言葉の意味を知ったゲンは、少しばかり頬がひきつった。
そのあと、アジトから2km離れた場所で情報共有をすると、ゲンとはその場で別れた。
数日後のある日のこと、その日はゲンとの密会はないので、魅真は情報収集のために、森の中を歩いていた。
「(あれ?あれって…羽京?)」
しばらく歩くと、その途中で、少し遠いところで羽京を見た。
そこでは、羽京は木にもたれてすわっており、うさぎやリスといった、森の動物とたわむれていた。
「(あんな顔もするんだ)」
動物とたわむれている羽京は笑顔で、普段魅真に見せている、貼り付けの笑顔とは違っていた。
貼り付けの笑顔でも、苦しそうな顔でもないので、魅真は思わず見入ってしまう。
「(動物に笑ってる。やっぱり羽京って、すごく優しいのかな?)」
時折見る、苦しそうで辛そうで悲しそうな顔とは、違う意味で気になり、羽京を凝視した。
その時、足もとで犬の鳴き声がしたので、声がした方を見ると、そこには、まだ生後2~3か月くらいの子犬がいた。
「(かわいい!この森に住んでる子かな?)」
実は動物好きな魅真は、突如現れた子犬に目を奪われ、しゃがむと子犬の頭をなでた。
子犬は自身の頭をなでる魅真の手にすりより、愛情表現をすると、魅真はますますとりこになり、子犬を抱きあげる。
するとその時、近くで動物のうなり声がしたので、顔をあげて、そちらを見た。
「!!」
そこには一匹の狼がいて、明らかに、魅真に敵意を抱いていた。
「(狼?いつの間に…。攻撃しようとしてる?でも、なんで私?)」
敵意を向けられているのは、言葉が通じない動物でもわかったが、それが何故かというのはわからなかった。
「(まさか…この子を狙ってるんじゃ!)」
狙いは、魅真が抱いてる子犬で、子犬を食べようとしているのではないかと思った魅真は、子犬を狼から隠すように抱きしめた。
すると、威嚇をしていただけの狼は、跳躍して、魅真に襲いかかってきた。
しかし魅真は、子犬を抱きながら木刀を抜くと、木刀を横にして、狼の歯と歯の間に入れて防御をした。
だが、その勢いで後ろに倒れてしまい、狼に押し倒される形となった。
その音で、誰かいるのがわかった羽京は、立ち上がり、そちらに目を向ける。
そこには魅真がいて、狼に襲われているのを目にした。
「(なんとしてもこの子を守らなきゃ!もし離したら、狼にやられて死んじゃう!それだけは!!)」
魅真は狼に襲われても、決して離さず、子犬を守ろうとしていた。
一方で羽京は、矢筒に手を伸ばすと、矢を1本手にとった。
「(でもどうしよう。このままじゃ!)」
魅真は防戦一方なので、どうやってこの状況を打破しようか、頭を悩ませていると、子犬は魅真の手から離れようとした。
そして羽京は、手にとった矢を構え、弓を力いっぱいひきしぼる。
「(出たらダメ!!やられちゃう!!)」
魅真は、離れたら狼にやられると思ったので、なんとか子犬を抱き寄せるが、子犬は外に出ようと暴れた。
その時、弓をひきしぼった羽京は、狼に向けて矢を射った。
羽京の手から放たれた矢は、まっすぐにとんでいき、魅真と狼の間をすりぬけると、1人と一匹のすぐ横にある木に刺さった。
いきなり矢がとんできたので、狼は離れ、まさかと思った魅真は、矢がとんできた方に顔を向ける。
「羽京……」
そこには思った通り羽京がいて、羽京は魅真の前に走ってくると、次に狼が襲ってきた時のために、すぐに矢を打てるようにと、また弓をひきしぼる。
今の矢で萎縮してしまった狼は、魅真から離れるが、それでも一定の距離を保ち、威嚇をして、決してそこから離れようとはしなかった。
「(なぜ狼は、萎縮しながらも離れようとしないんだ?そんなに、この子犬にこだわっているのか?) !!」
その姿を見て、どうも変だと思った羽京は、狼が萎縮しても、なおこの場所にとどまる理由を考えると、あることに気がつく。
「(まさかこの子犬!!)」
そして、魅真が抱きしめている子犬を見ると、もう一度狼を見た。
「魅真!!その子犬を離すんだ!!」
「えぇ!?」
「いいから!!」
「わ、わかった…」
子犬と狼を交互に見た羽京は、魅真に指示をするが、何故子犬を離さなきゃいけないのか、魅真は理解できなかった。
しかし、羽京がいつもとどこか違う雰囲気なので、その迫力に押されたのもあり、魅真は言われた通りに子犬を離した。
すると、解放された子犬は、狼のもとへ走っていき、狼もまた子犬のもとへ走っていくと、子犬は狼の足にすりよって甘え、狼は子犬の頭を愛しそうになめ始めた。
「これって…一体…」
「あの子は、子犬に見えたけど、狼の子供なんだ」
「え!?じゃあ、あの子が暴れていたのって、不安や緊張とかじゃなくて、お父さんかお母さんかわからないけど、あの狼のところに行こうとしていたから?」
「そうみたいだね」
「そっかあ…」
ずっと子犬だと思っていたが、実は狼の子供で、事実を知った魅真は、深いため息をついた。
「私…あの子が食べられないようにって思ってたけど、あの子は親のもとへ行こうとしていただけなんだね。そりゃあ狼も怒るわ。だって、狼の視点でいけば、私は子供を奪い取ろうとしている悪者なんだもの…」
ため息をつくと、魅真は見るからに落ちこんだ。
するとそこへ、子犬…もとい子狼が魅真のもとへ走り寄ってきて、魅真の足にすりよると、うれしそうに一回鳴いた。
その様子を、魅真が呆然として見ていると、子狼は親のもとへ戻っていき、親が頭をさげて一回鳴くと、狼と子狼は、魅真達がいる方とは反対側へ歩いていき、姿を消した。
魅真は狼と子狼が見えなくなるまで、手をふっていた。
しかし、二匹の姿が見えなくなると、再び落ちこむ。
「魅真?」
「自分のバカさ加減にあきれる…」
そして、また深いため息をついた。
「羽京は、なんであの子が狼の子供で、あの子と大人の狼が、親子だってわかったの?」
ため息をつくと、羽京に顔を向けて、気になっていたことを聞いた。
「あの子狼と狼の毛の色が同じだったし、犬とは少し違う感じがしたから…」
「それだけ?」
「うん。あとは、子供の方が、逃げようとしているというよりは、狼のもとへ行こうとしている感じがしたからかな…」
「羽京って、観察力すごいね」
「そう?」
「うん。私も、もうちょっと観察力身につけなきゃ。あと注意力も…」
自分自身にあきれたが、魅真は、そのことを今後の課題とした。
「でも、魅真はすごいよ」
「へ?」
「大概の人はさ、人間じゃないからって、見て見ぬふりをするか、放っておくのに、ケガすることも厭わずに、必死に子狼を守っていたんだから。なかなかできることじゃない」
「え…。そう……かな?」
「そうだよ。それに、最後に子狼は魅真の足にすりよってたし、親の狼は頭をさげてた。まるでお礼を言うみたいにね…。きっと、魅真の気持ちが伝わったんじゃないかな」
けど、羽京は魅真をほめた上に、魅真がやったことを全肯定したので、魅真は照れて顔を赤くした。
「優しいんだね、魅真は」
更にほめてきたので、魅真は更に顔を赤くする。
「あ、ありがとう。羽京って、結構褒め上手なんだね」
「ほめる?別にほめてはいないけど…」
「え?」
ベタぼめだったのに、羽京自身はほめてるつもりはなかったので、魅真はすっとんきょうな声を出して、目を丸くしたが、すぐにその意味がわかり、ますます照れて顔が赤くなった。
「でもありがとう。すごくうれしい」
魅真は、自分の行いを肯定してくれた羽京にお礼を言うと、木刀を腰にさし、狼に押し倒されたことで、頭や体についた土をはらう。
「(それにしても、羽京の弓術は、並大抵のものじゃない。あんな…人にあたりそうな状況なのに、隙間を縫うようにして矢を射るなんて…。相当な腕の持ち主だわ)」
土をはらいながら、羽京の弓の腕について考えていた。魅真は弓道をやっていないし、周りにもやっている者はいないので、実際見るのは羽京が初めてだが、素人の目から見ても、羽京が一目見てすごいと思うほどの腕をもっていることはわかった。
そして、考えながら土をはらい終えると、羽京と向かい合う。
「じゃあ、私はここで」
「うん」
お互い特に用事もないので、あいさつをするとそこで別れた。
数日後、ある男が目覚めた。
その男は、名前を氷月といい、復活させるために司が連れてきた手下たちを、一瞬にして倒してしまった。
あまりの強さに、一緒に来ていたゲンは、顔がひきつっていた。
その後、司と氷月とともにアジトに戻り、そこで魅真を見ると、前日に合図を送っていないが、すれ違いざまに合図を送り、急遽魅真を呼び出した。
「そんなに強いの?今日復活した、氷月とかいう人」
「そうなのよ~。もうバイヤーなくらい、ゴイスーに強いんだから」
魅真を急遽呼び出した理由は、氷月が、今までに復活させた人間とは、けた違いに強いからだった。
「司ちゃん情報によると、氷月ちゃんは、尾張貫流槍術という槍の使い手で、司ちゃん並に強いのよ」
「私も通りすぎるとこを見ただけだけど、確かに、今までに復活した人達とは、オーラが違ったわ。肌で感じるくらいの強さがあった。司以外では、一番の要注意人物ってことね」
「まあ、俺もそのくらいしか、今のところわからないから、今後も集めていかないとね」
「そうね」
まだ目覚めたばかりなので、当然だが、氷月のことはわからず、これから氷月の情報を集める必要があった。
氷月はその驚異的な強さで、司帝国の中でも、司とならんでトップに立つほどの地位までのぼりつめ、更には、司、羽京、氷月で、3トップと言われるようになった。
そして、氷月が目覚めてから、数日が経った日のことだった。
「ようやく戦闘員がそろった。うん。これから、以前ゲンが言っていた村を攻めることにする」
そこには、司、氷月、羽京、ゲンをはじめとする、主だった戦力の他に、腕に覚えのありそうな人物がたくさんいた。
そんな中、その部屋の奥の玉座には司がすわっており、司はいよいよ村を攻めることを告げた。
羽京と氷月は無表情、他の戦士達はいよいよ闘いの時だというので、逸る気持ちを抑えきれず、目がギラついており、ゲンは無表情のままだが、心臓がドキドキしていた。
「だが、一度に全員で向かうわけじゃない。千空が本当に生存しているかどうかわからないからね。戦闘員が全員やられてしまう可能性もある。そうなってしまえば、元も子もない。うん。もっとも危険なシナリオだ」
「なに言ってんすか、司さん!ゲンの話によれば、村人は50人もいないってことじゃないですか」
「しかも、文明のぶの字も知らない原始人!!そんな奴ら、俺らが力で押せば、絶対に勝てますよ!!」
司は慎重にことを運ぼうとしたが、ここにいるうちの2人の男…見るからに脳筋といった雰囲気の者達が、司に反対の意見を言った。
「相手がどんな能力を持っているのかわからない上に、地の利もない。一気に全ての戦闘力を投入するのは危険だ。だから、まずは先鋒隊として、10人以下の人数で、村に向かってもらう」
反対意見を言われても、司は冷静で、慎重にいく姿勢を崩さなかった。
「ゴーザン、ユーキ、レン、アカシ、キョーイチロー、モリト、まずは君たち6人で、村の様子を見にいってほしい」
「わかりました!!」
「よぉおーし!!」
「いっちょやってやるぜぇ!!」
「おおおおお!!」
司は、いかにも脳筋といった雰囲気の者達を、6人指名すると、指名された彼らはやる気満々で、雄叫びをあげた。
「ゲン、君は案内役として、彼らと一緒に行ってくれ」
「…了解」
村の場所はゲンしか知らないので、戦闘員ではないが、ゲンも一緒に行くこととなった。
村を攻めるのは、とりあえず6人ということになった。
ゲンは彼らに、「俺が潜入して手引きする」と言い、一足先に出発することとなったが、その前に、魅真には報告しておこうと、魅真のもとを訪ねた。
「え!!じゃあ、いよいよ村を?」
「うん。まあ、まだ様子見といった段階だけどね。千空ちゃんが生きてるかどうかわからない、村の詳しいことはわからないから、まずは6人で行くことになったんだよ。んで、俺は唯一村の場所を知ってるから、案内役としてね。一足先に出発して、潜入して手引きするってことになったんだ。いきなり行ったら、千空ちゃんが対応できないかもしれないからね~」
「そう…」
「だから、しばらくは帰れないかな。それに、まだ他にも行く人間を決めているらしいから」
「気をつけて。無事で帰ってきてね」
「そうね。俺がいないと、司ちゃん帝国の、深いところの情報集めできなくなるもんね、魅真ちゃんも」
「そういうことじゃないよ」
「え?」
「ここの情報とか関係ない。ただ……ゲンに、無事で帰ってきてほしい…。ケガしたり、死んだりしてほしくない。そんなの絶対に嫌なの」
ゲンは、司が指示したことを話していると、魅真に心配されたので、てっきり情報が集めにくくなるとかそういうのかと思ったが、打算などではなかったので、呆然として目を丸くした。
けど、それはほんの数秒のことで、次第にやわらかい笑みになり、魅真を優しい目で見た。
「魅真ちゃんてさ、やっぱいい子だよね」
「え、どこが?」
「そゆとこ」
そして魅真を褒めるが、魅真は意味がよくわかっていなかった。
「じゃあ、俺もう行くね」
「もう?」
「うん。魅真ちゃんにだけはさ、知らせとかないとって思ったからさ」
「そっか」
「なに?俺がいないと寂しい?」
あまり長々と話しているわけにもいかないので、旅立とうとすると、魅真が見るからに落ちこんだので、ゲンは笑いながらからかった。
「うん。寂しい」
からかっただけだが、魅真は素直に、ストレートに返してきた。
「…魅真ちゃんてさあ……本当ストレートだよね」
「そう?」
「そうだよ。まあ、そこがいいところでもあるんだけどさ」
からかわれたわけではないが、気持ちをストレートにぶつけられたので、ゲンは少し照れてしまった。
「じゃあ、今度こそ、本当の本当に行くよ」
「うん。元気で」
気をとりなおして、再度あいさつをすると、ゲンは今度こそ旅立っていった。
魅真は、ゲンの姿が見えなくなるまで、無事を確認するように、見守るように、ずっとそこで見送っていた。
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