Z=7 偽物恋愛関係
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「じゃあ、僕はもう行くよ」
治療をしてもらいに来たのは口実で、治療が終わったのに、あまり長居をしたら疑われるかもしれないので、羽京は横に置いておいた弓を持って立ち上がった。
「そう。また何かあったら言ってね」
「ありがとう。それじゃあ」
羽京が立ち上がると、魅真はあたりさわりのないことを言って見送り、羽京もまた、あたりさわりのない言葉を返して、そこから去っていった。
「(これで、ケガが治るまでは、会う口実を作れた。けど、それからはどうする。あまりケガをしすぎても不自然だ。偶然を装って、ばったり会ったとしても、会話はどうする?魅真は、僕を敵と認識しているだろうから、仲良くするってことはないだろうし…。したとしても、それは表面上で、曖昧に返されるのがオチだろう)」
羽京は歩きながら、これからどうやって魅真のことを探ろうかと考えていた。
「(羽京は、これからも探ってくるかもしれない。その度に、私の情報を知られてしまうけど、こっちも、どんな細かい情報でも手にいれて、闘いを有利に運ばせる。それが、私の役目だもの。とりあえず今日は、羽京の基本的なこととか、今は歩く速さの情報も手に入れた。こうやって、アジトと下を行き来する道の近くで作業していれば、自然と誰かを見ることができるから、少しずつでも手に入れなきゃ)」
それは魅真も同じで、羽京の姿が見えなくなるまで、ずっと羽京のことを見ながら、ギリギリまで羽京の情報を集めていた。
それから数日後。
その日の昼間、羽京は休憩中に、この辺の地理を知るため、行動範囲を広げるために、森の中を歩いていた。
本当は、魅真、大樹、杠の情報を集めなければいけないが、あいにく3人の姿が見えないのと、それだけではダメだと思ったのもあった。
その時、そんなに遠くないところから、空気を切り裂くような、細くて長いものを振り下ろす音がした。
もしかして…と思った羽京は、音をたてないように、そっと音がする場所へと歩いていく。
「!!」
そこで見た光景に、羽京は目を見張った。
「(魅真…。あれは、素振りの練習をしてるのか!?)」
そこでは、魅真が素振りの鍛錬をつんでいたからだ。
「(人知れず鍛錬をつんでるということは、やはり闘いがあるのか。それにしても、木刀を振り下ろす動作が、早くて鋭い。僕も、剣道はやったことないから、詳しくはわからないけど、一目見てすごいというのはわかる。素人すらも、木刀の素振りだけで、すごいと思わせるほどの実力者ということか)」
素振りの鍛錬に集中している魅真は、羽京の存在に気づいておらず、そのまましばらく素振りをしていた。
「(そういえば、司が言ってたな。純粋に剣の勝負なら、魅真には勝てないだろうと…。それが本当なら、戦闘力は、トータルでいけば司が上だけど、魅真の実力も相当のものということ。だから警戒して、見張るように言ったんだ)」
距離があるせいか、未だ羽京に気づいていない魅真は、今度は肉弾戦の鍛錬を始めた。
「(肉弾戦の練習?もしかして、攻撃方法を増やすためか?)」
羽京の推測通り、過去にやっていたといっても、今や護身術程度にしかなっていないが、剣以外にも攻撃方法を増やそうと思った魅真は、肉弾戦の鍛錬もするようになっていた。
それから魅真は、数十分の間鍛錬をしていたが、鍛錬を終えると、近くに置いていた荷物を持って移動を始め、羽京も距離をとってあとをつけた。
「(魅真は、今度は一体どこに行くつもりなんだ?畑の世話なら、もう終わったはずなのに…)」
畑の世話をしていたのは、午前中に、魅真が畑に向かっていったことや、その際に必要な道具を持っていたことでわかったが、今歩いている方向は、アジトとは逆の方向だし、川からは遠ざかっているので、羽京はふしぎに思った。
「(魅真のここでの仕事は、治療だけじゃないのか?治療だけだとしたら、これは裏の仕事。魅真の、内通者としてのミッション?一体何を…)」
しばらく魅真について行くと、やって来たのは、森を抜けた、開けた場所だった。
「(ここは…僕が、初めて司が石像を破壊したのを見た場所!!)」
その場所は、羽京が復活した次の日に、司の石像破壊を見た場所だった。
「(まさか…魅真は…!!)」
魅真は破壊された石像の前で止まると、周りを見回した後に、持っていた荷物の中から袋を取り出し、その場にしゃがむと、壊れてバラバラになっている石像をひろい集め、次々に袋の中に入れていった。
「!!」
その魅真の姿に、羽京は再び目を見張る。
「(まさか……まさか…これって…!!)」
魅真が石像の破片を拾い集めていくごとに、羽京の心音は早くなっていった。
羽京が魅真を凝視していると、魅真は地面に散らばっていた石像の破片を、全部袋に入れ終えた。
その袋の口をひもでしばると、更に布で巻いて固め、別の袋の中に入れ、その袋を持ち上げると同時に立ち上がり、立ち上がると同時に走り出した。
「!!」
魅真のすべての動作は早く、あまりにも早い動きに、羽京は驚いて、魅真のあとを追うために走りだす。
「(速い!!)」
羽京も、自衛官として体を鍛えていたので、決して足は遅くはないのだが、魅真に追いつくことができず、走ってからわずか数秒で、姿が見えなくなってしまった。
もう姿が見えなくなったので、これ以上走っても無意味だと思った羽京は足を止め、肩で息をした。
「(なんて速さだ。50メートルを走る速さが、7秒…いや、ヘタしたらそれ以上だ!それに、走る速さだけじゃない。石片を袋に入れる動作も、荷物を持って立ち上がる動作も、立ち上がってから走り出すまでの動作もかなり早い。魅真は、僕が思ってる以上に鍛えている。それに、石像は重いのに、それでもなお、あのスピードが出せるということは、かなりの力の持ち主!この前、荷物を持つことを提案しても断ったのは、隙を見せないようにというのもあるだろうけど、力が強いからじゃないのか?あとは体力。剣道をやっていたというから、力だけでなく、体力もかなりあるんだろう。それに、この前手をつかまれた時や、ひっぱった時の力が強かったし、さっき鍛えていたから、復活してからも、普段から鍛えているんじゃ!!)」
魅真が走ってから羽京が走りだすまでに、そんなに間はなかった。それなのに、ほんの数秒で引き離され、姿が見えなくなったので、魅真の驚異的なスピードに驚きながらも、冷静に分析していた。
「(それに…)」
そして、魅真が石像を持っていったことで、違う考えが頭に浮かんだ。
「(石像を持ち去っていったということは……もしかして…!!)」
石像を持っていっても、意味も利得もない。最悪司に消されるかもしれない。よくて監禁。そのことは、魅真も想像がつくだろうに、それなのに石像をはこんでいったので、羽京の目には光が宿り、その胸に希望を抱いた。
それから羽京は、魅真を見失ってしまったので、アジトへと戻り、下の階の穴に腰をかけた。
「(そうだ。あんな、司や他の復活者にみつかるようなリスクの大きいことを、わざわざする理由なんてない。ということは、魅真か、もしくは大樹か杠に、石像を直す技術があるんじゃないのか!?)」
アジトに戻り、辺りが暗くなっても、羽京の興奮は未だ冷めず、一筋の希望の光を見出していた。
「服縫ってきます!」
「おお!」
その時、羽京の前で、杠が大樹に声をかけ、別の場所へ移動しようとしているのを見た。
同時に、杠が持っている袋の中から、かすかに音がしたのを聞き逃さなかった。
「(聞こえた。あの杠の袋の中身は――石の破片だ。それも大量に。なんに使う?そんなものを。裁縫で……。まさか……)」
それは、石の破片の音で、気になった羽京は、こっそりと杠のあとをつけた。
羽京の存在に気づいていない杠は、穴の中に入ると、持っていた服の材料を置いた。
羽京は杠にバレないように、こっそりと中をのぞく。
「?!!」
中では、杠が驚異的なスピードで服を縫っていたので、羽京は驚いた。
「よし、終わり…!」
杠は服4枚をあっという間に仕立てると、たたんで部屋の中に置いた。
「(あんなに早いのか!!みんな思ってる。杠は、一晩中服を縫ってるって)」
服を仕上げた杠は、袋を持って立ち上がったので、羽京は隠れてみつからないようにした。
そして、杠は穴を出ると、アジトを出て、別の場所へ歩いていった。
「(それがダミーなら、残った時間で一体何を…??)」
羽京は再び杠のあとをつけ、杠は、アジトから少し離れた場所にある、例の洞窟に行くと、袋を広げた。
「今日のは、いつにも増して地道ですな。大丈夫!慣れてるから。そういうの」
持っていた袋をひろげると、中には石像の石片が入っており、次に、近くに置いてあった袋をひろげ、袋の中から石片を取り出した。
「(まさか、あの石…!)」
その様子を、洞窟前の木の中からこっそりと見ていた羽京は、目を見張った。
洞窟の中で杠が始めたのは、石片の形があった石に、石片を組み立てる専用の接着剤をはけでぬり、組み合わせていくことだった。
最初は自分が持っていた袋。そして次に、最初からこの洞窟の中に置いてあった袋のものを、どんどん組み合わせていき、出来上がったのが、1つの石像だった。
「(あの袋は、魅真が持っていた…。じゃあ、魅真はこの洞窟に…。それじゃあ、やっぱり…)」
杠の極秘のミッションを見た羽京は、興奮して目を輝かせ、更に希望を抱いた。
次の日、羽京はアジトの玉座にいた。
部屋の奥の中央には、石で作られた椅子があり、そこには司がすわっていた。
そこへ、足音が聞こえてきたと思ったら、その足音はこちらに向かってきて、中に入ろうとしたので、羽京はその足音の主の足もとに矢を打ち、その矢は、足音の主の足の前、ギリギリすれすれのところ(地面)に刺さった。
「待って、司ちゃん!!俺だよ!!」
もしかしたら、敵と思われたかもしれないので、足音の主はあわてて止めた。
それは、千空の追跡に行っていたゲンだった。
必死に走ってきたようで、ゲンは出入口の前で体をまげて、ひざに手をつき、全身で荒い息をくり返す。
「司ちゃん……!原始的な村があったよ。その連中とモメて、ちょ~~~っとケガしちゃったんだけどね~」
そこまで話すと、ゲンは顔をあげ、司と顔を合わせる。
「で!そこに、千空ちゃんは―――」
そして本題に入ると、司の目は細められ、鋭くなる。
「千空ちゃんは、影も形もいなかった。死んでるよ~。間違いなくね!」
けど、司の眼力に萎縮することなく、両手で人差し指をたてて、軽い調子で報告をした。
「そうか。だがゲン、君は千空の死体を見たわけじゃない。万が一、どこかで生きていれば、いつか村を見つけて、科学王国を創るだろう。うん…。考えうる、最も危険なシナリオだ」
しかし、ゲンの言葉から、千空の死は絶対ではないと見抜いた司は、100%信じることはなかったので、ゲンは冷や汗をかいた。
「戦闘員が揃い次第、武力で村を制圧する――」
千空の死が絶対でないかぎりは、司は攻撃の手をやめることはない。緊張で口の中にたまった生つばを、ゲンは飲みこみ、その際に、のどを鳴らすゴクリという音が響いた。
その頃魅真は、ちょうど畑の世話を終えて、今はいつものように、いつもの場所で、布を織っていた。
「魅真」
そこへ、羽京がやって来た。
「羽京」
織機に顔を向けていたが、羽京に声をかけられると、魅真は手を止めて、羽京に顔を向けた。
「今日はどんな用事?」
「実は、またケガをしてしまって…。手当てしてもらっていいかな?」
「もちろんよ」
羽京が魅真のもとを訪ねたのは、ケガの手当てのためだったので、魅真は快く引き受ける。
だが、実はこのケガは、魅真を見張り、情報を得るための口実に、自ら傷つけたものだった。
さすがに、数日の間に二度もケガというのはわざとらしいとも思ったが、ただ話をしに来ただけだと警戒されてしまうだろうし、会話の内容も思い浮かばないし、羽京が魅真に近づく特別な用事もなく、自然と魅真に近づいて会話するための手段と言えば、治療のことなので、この手段をとったのだが、魅真は特に気にしていないようだったので、羽京はケガをした左の腕を出した。
「ずいぶんと大きなケガね。どうしたの?これ」
「…今朝、森の中を散歩していたら、鋭くとがっていた木の枝にひっかけてしまってね」
「そう…」
質問に羽京が答えると、魅真はこの前のように、薬草をすりばちとすりこぎですり始めた。
「(なんか…最近、やたら羽京と絡む機会が増えたような気がするな…。せまいコミュニティだからかもしれないけど、それにしたって多い気がする…)」
初めてケガの手当てをしてからというもの、どうにも羽京に、よく絡まれてる気がしてならなかった。羽京も、自分の情報をつかもうとしているのではないかというのは想像がついていたので、魅真は警戒していた。
「(魅真は普段ヘラヘラ笑ってるのに、どんな表情をしていても、まったく隙がない。それなのに、笑顔を見せたり、お礼を言ったり、手当てをしたり、ちょっと読めない。本心なのか、僕をあざむくための演技なのか…。どちらにしても、昨日見た、魅真の鍛錬や、杠のミッションのことを話しても、きっと曖昧に返されるか、うまいこと誤魔化すかのどちらかだろう。それ以前に、こんなこと言ったら、司に報告されるかもしれない。可能性はかぎりなくゼロに近いが、それでもないわけじゃない以上は、不用意に話せない。確実にそのタイミングが訪れるまでは、我慢しないと。僕の計画は、すべてが水の泡となる!)」
羽京は自分の計画を、慎重に進めようとしていた。本当は、昨日のことを魅真に聞きたいが、今行動を起こしては、すべてが台無しになってしまうのはわかっているので、とてももどかしい思いをしていた。
その魅真は、そばに置いておいた桶で布を濡らし、ケガした部分を軽くふくと、薬草をぬり、布をケガしている部分にあて、その上から包帯を巻いた。
「はい、終わり」
「ありがとう。相変わらず手際がいいね」
「あはは。ほめてもなにも出ないよ」
手当てが終わると、羽京は笑顔でお礼を言った。
お礼と褒め言葉は本心だが、それは関係なく、魅真は笑って適当に流した。
「(今の笑顔はウソっぽくない…。やっぱ、よくわかんないや、羽京のこと。そのために探ってるけど、イマイチ読みきれない。けど、心は動きに影響することがあるから、少しでも知っておかないと…。でも、そのことは関係なく…)」
そして、いつものように考えながら、道具の後片づけを始めた。
「(この前見た…羽京の、苦しそうで辛そうで悲しそうな顔が、忘れられない…)」
後片づけをしながら、この前の羽京の表情が、魅真の脳裏に浮かんだ。
「(なんで…あんな顔をしていたんだろう…)」
ミッションとしては、羽京の心情は関係あるが、個人としては関係ないのに、羽京のこの前の表情が気になっていた。
「やあ、魅真ちゃん」
そこへ、今度は違う人物が魅真のもとへやって来て、声をかけた。
声をかけられたことで、顔をそちらに向けると、魅真はとても驚いた。
「ゲン!!」
「おひさ~~」
そこには、千空の追跡に行ったゲンがいたからだ。
ゲンが来ると、魅真は思わず立ち上がり、羽京もつられるように立ち上がった。
「(ゲンが帰ってきた。…ということは、千空と接触した!?)」
ゲンが帰ってきたということは、司に千空の生死を報告しただろうから、魅真は緊張感を抱いたが、対照的にゲンは、いつもの軽い調子で魅真に接した。
「(じゃあ、司に報告を…。でも、それにしては、全然さわがしくない。それに、見張りや休憩以外の時は、司といることが多い羽京が、ここにいるのも、千空のことをなにも言わないのも変だわ)」
けど、ゲンがここにいるということは、千空のことが司に知れたということなのに、誰も何もさわいだりしていないので、違和感を感じた。
「(いや…司は慎重だから、完全に千空を倒せると判断してないだけかも)」
しかし、司の性格を考えると、そうなってないことにも納得できた。
「あっれ~?君、さっき司ちゃんのとこにいたよね」
魅真が緊張してゲンを凝視していると、ゲンは今度は、魅真ではなく羽京に話しかけた。
「西園寺羽京です。君の後に復活した人間で、見張りを担当しています」
「俺はあさぎりゲン。ここで、一番最初に復活した人間で、司ちゃんの敵の、千空ちゃんの追跡をするため、箱根に行ってたんだ」
話しかけられると、羽京は自己紹介をし、羽京が自己紹介をすると、ゲンも同じように自己紹介をした。
「ところでさ~、魅真ちゃん」
「なに?」
羽京とゲンが自己紹介をすると、ゲンは再び魅真に話しかけてきたので、魅真は緊張感を抱きながらも、冷静に返した。
「ちょ~っと話したいことがあるんだけど、俺についてきてくれない?」
「話したいこと?」
「別に、今ここで話せばいいんじゃないの?」
ゲンが魅真を誘うと、魅真は一体何かと思うだけだったが、羽京は、話をするだけなのに、何故わざわざ移動するのかを疑問に思った。
「もお~~。羽京ちゃんてば、野暮野暮!」
「?」
「久しぶりに恋人と会ったんだからさ~。やっぱ2人っきりでいたいじゃん」
その疑問にゲンは答えるが、ゲンの口からはあり得ない単語が出てきたので、魅真はもとより、羽京も驚き、2人は大きく目を見開く。
「恋…人…?つまり、魅真とゲンは、付き合ってるってこと?」
「当然じゃーん」
羽京は確かめるように聞くが、ゲンは変わらず、軽い調子で答えた。
一方、何故か恋人扱いされた魅真は、放心して、半分魂が抜けているような状態になっていた。
「ゲン!」
けど、すぐに覚醒して、ゲンの名前を強く呼ぶが、ゲンは、魅真の言葉を制止するように、魅真の肩を抱きよせる。
「いーからいーから~」
肩を抱きよせると、羽京から引き離すようにして、魅真を連れて、別の場所へ移動するために歩きだした。
ゲンは魅真を連れて、アジトから離れていくが、羽京は羽京で、2人を追いかけることなく、違う場所へ移動していった。
「(ゲンがいなかったのは、千空の生死の確認のため。間違いなく死んでると言っていたが、司の言う通り、千空の死体を見たわけじゃない。何よりも、僕自身が見たわけじゃないから、生きてる可能性は大きい)」
移動しながら、先程のゲンの報告を思い出しており、ゲンの微妙な言葉の言い回しで、千空が生きている可能性が大きくなってきたので、昨日以上に希望を抱いた。
「(本当は、どういうことか知りたいから、2人のあとを追いかけたいけど、これから見張りの仕事がある。ここは我慢だ。あまり、無理のない程度にしなければ…)」
なので、今すぐにでもそのことを知りたいが、見張りの仕事があるし、あまり深追いしすぎても、すべてが台無しになってしまうかもしれないので、羽京は無理に追いかけることはしなかった。
その頃、魅真を連れ立ったゲンは森の中を歩いていた。
魅真は無言でついていき、しばらくの間歩いていくと、アジトから遠く離れたところでゲンが止まったので、魅真はゲンの手を強くつかみ、投げすてるようにして肩からどかした。
「誰が恋人よ!!だ・れ・が!!いつ!私が!あなたと付き合うって言いましたか!!」
誰もいないところに来たので、もういいかと判断した魅真は、先程のゲンの言動に腹を立てていたので、ゲンと向かい合うと、大きな声で怒鳴る。
「魅真ちゃん、ちょっとおちついて!ちゃんと説明するから。てか、どこで誰が聞いているかわからないんだから、なるべく静かに。ね!」
魅真が大きな声で怒鳴ったので、ゲンはあわてて魅真を止めた。
確かに、視認では誰もいないと確認できるが、壁に耳あり障子に目ありと言うし、これ以上さわぎたてるのはまずいと思った魅真は、ゲンの言葉でだまった。
魅真が確認したが、ゲンも周りに誰もいないことを再度確認すると、口を開く。
「実はね~、さっき司ちゃんに、千空ちゃんのことを報告してきたんだよ」
「!」
「原始的な村があった。千空ちゃんは死んでるってね」
「え…」
「でもそれ、半分はウソなのよ」
「ウ…ソ…?」
何故ゲンが、司にウソの報告をするのか、魅真はまったく読めず、困惑したが、余計なことはさわぎたてずに、話の続きを待った。
「原始的な村があったのは本当。でも、千空ちゃんが死んでるのはウソってことよ」
「…どういうこと?なんであなたが、そんなウソをつくの?」
「結果だけ先に言うと、俺が千空ちゃんの側についたからだよ」
「なんで?」
「千空ちゃんはさ、今、その村でサルファ剤…抗生物質を作っているんだけどね。その段階でできた電気を見てさ、思ったのよ。千空ちゃんにつこうって。んで、コーラを作ってくれるって約束と交換条件に、俺は千空ちゃん側について、司ちゃんにウソの報告をしたってわけ」
「それって、ダブルスパイってこと?」
「そうそう」
「本当に?」
口ではなんとでも言えるし、何より、初対面の時から、ゲンの発言はすごく軽くてウソくさいので、魅真は疑っていた。
「本当だよ。それに、千空ちゃんから手紙あずかってきたから」
疑いの目を向けられても、ゲンは動じず、懐から皮の切れ端を取り出して、魅真に渡した。
両端を紐でしばってある皮を受け取ると、魅真は紐をほどいて手紙を読んだ。
「…ゲン……」
「ん?」
短い文章だったので、すぐに読み終えると、魅真はゲンに、静かに声をかける。
「この手紙、ゲンは中身見た?」
「見てないよ。見たらコーラなしって脅してきたんだもん、千空ちゃん」
「ふーん」
魅真が声をかけたのは、手紙の内容を、ゲンが読んだかどうかの確認だった。
「わかった。信じる」
「ジーマーで!?」
ついさっきまで疑っていたのに、その短い質問であっさりと信じたので、ゲンは驚いた。
「いやいや、俺が言うのもなんだけど、今の会話のどこに、そんな信じる要素があったの?」
何故、魅真が信じるに至ったのかまるでわからず、ゲンは疑問をぶつけた。
「この手紙よ」
「手紙?」
「なんて書いてあったと思う?」
「いや……だから知るわけないでしょ。見てないんだから」
「『汗クサ女』」
「え?何それ」
「千空だけが呼んでる、私の呼び名よ。手紙の内容は、『ゲンが仲間になった』。ただそれだけ。その後に、今言った呼び名が書いてあった。つまり、ゲンが手紙を読んでいたなら、その呼び名を聞いた時、今のように眉間にしわをよせて、顔を歪ませたりしない。この呼び名をわざわざ使ったってことは、この手紙は、千空が書いた本物の手紙だという証であり、メッセージでもある」
「なるほど。秘密の暗号みたいなものね」
「そういうこと」
「信頼関係ゴイスーね。それで千空ちゃん、魅真ちゃんに手紙を渡せとか、俺には絶対に見るななんて言ってきたのね」
何故、今の短いやりとりで、ゲンが仲間になったことを信じたのか、ゲンはようやく理解した。
「そうね。あとは、戦闘に関しては、私が一切をまかされてるからっていうのもあるかな」
「確かにね。別に手紙渡すんだったら、大樹ちゃんや杠ちゃんでもいいわけだしね」
「んー…。大樹は無理じゃないかな。余計なことを言いそうだから」
「ああ…」
まだあまり接したことはないが、すでに大樹という人間の性格がわかってきているゲンは、魅真に言われて納得した。
「それよりゲン、ずっと気になっていたんだけど…」
「なに?」
「どうして、千空の追跡に行っただけなのに、そんなケガしてボロボロになってるの?」
道中で、転んでケガをしたにしては、あまりにもボロボロなので、魅真はずっと疑問に思っていたことを、ゲンに聞いた。
「ああ、これね。村の人にやられちゃってさ~」
「えぇ!?」
「なんかね、大樹ちゃん並にガタイのいい、マグマちゃんとかいう男にさ、めったうちにされちゃったのよ。千空ちゃんに協力してた子の話によると、話の通じない、闘いがさけられないような相手だとか言ってたね。全身ボッコボコに殴られた後、お腹を槍で刺されちゃってさ~。まあ、血糊袋でガードしてたから助かったけどね」
かなり悲惨な内容なのに、ゲンは笑いながら話していたので、魅真は引いていた。
「とんでもない村ね。本当に、科学王国に引き入れて大丈夫なのかな?まあ、それでもやるしかないし、千空なら、なんだかんだうまくやるだろうけど」
「本当に、信頼度ゴイスー」
引いてはいたが、司帝国には数で圧倒的に負けているので、何がなんでも仲間に引き入れなければいけないし、千空を信頼しているのもあるが、自分のミッションではないのと、いろんな意味で千空にしかできないので、科学王国作りは千空にまかせることにした。
「それよりすわって、ゲン」
「なんで?」
「手当てよ。服をぬいで」
魅真に促されると、ゲンは言われた通りにすわって服をぬいだ。
「うわぁ…。ひどいわね、これは…」
ガードしたのは槍に刺されたところだけだし、ガードしたといっても血糊袋なので、多少お腹に槍で刺された痕がある上に、顔だけでなく、全身変色してるので、魅真は見たことのないひどいケガに、顔が真っ青になった。
「よく、こんな重傷で、箱根から東京まで帰ってきたわね」
「いや~~。いつ司ちゃんが来るかわからなかったからね」
「まあ、確かに…」
魅真はゲンが言ったことに納得しながら、薬草をすり始めた。
薬草をすると、ケガしてる部分にぬり、その上にガーゼをはり、それをくり返すと包帯を巻いて、治療を完了させた。
「本当は、顔もやりたいんだけど、テープとか、固定するものがないから…。とりあえず、薬草入りのガーゼを渡しとくね。夜寝る前にも持っていくから」
「ありがと魅真ちゃん。気がきくね~」
「ほめてもなんにも出ないよ」
眠る時に横になれば、固定はできなくても顔にのせることはできるので、魅真が薬草入りガーゼを持ってくことを提案すると、ゲンがほめてきたが、魅真は適当に流した。
「ところでゲン、まじめな話なんだけど」
「ん?」
「ゲンは、司帝国の人間でありながら、千空側の人間としてここで生活…つまり、ダブルスパイとして暮らすわけなんだけど…」
「うん」
「当然、私とは情報共有とかをしなきゃいけないし、ゲンに頼むこともあると思うの。でも、あまり頻繁に会っていたら、2人とも司に疑われてしまう。その辺どうしようか?」
「ああ、それに関しては心配いらないよ。もうすでに考えてあるから」
「本当に!?」
ゲンが仲間になったといっても、あまり接触しすぎると疑われる可能性もあるので、悩んでいると、ゲンがすでに案を考えているようなので、魅真は目を輝かせた。
「恋人同士になればいいんだよ~」
「へ…?」
「ほら、さっき羽京ちゃんに、魅真ちゃんとは、恋人だって言ったでしょ?だから、そのまま恋人として過ごせば、頻繁に会っても、そうそう疑われないと思うんだよね」
「んー…。でも、それだと逆に、ゲンがダブルスパイだってバレる可能性もあるよ」
ふりとはいえ、魅真と付き合うということは、魅真に司帝国の情報を流すとも捉えられるので、魅真はそのことを心配した。
「大丈夫よ。その辺考えてあるから」
「え、本当?どんな?」
けど、すでにゲンには考えがあるようで、魅真は再び目を輝かせる。
「それはね、俺が、魅真ちゃんをだましてるってことだよ」
「だます?」
「魅真ちゃんは、俺のことを本気で好き。本当に、純粋に付き合ってると思ってる。でも俺は、魅真ちゃんが好きじゃないけど、魅真ちゃんから千空ちゃんの情報を引き出すために付き合い、愛をささやく。魅真ちゃんを利用している。それなら、普通に付き合ってるって言うよりは、まだ疑われないんじゃないかな?」
「うわっ!!サイッテーー!!女の敵!!」
ゲンの策を聞くと、魅真はドン引きして、ゲンに軽蔑の目を向けた。
「でっしょー。正直さ、俺もどうかと思うんだけどね~~」
「でもいいわね、それ。それでいこう。採用」
「ジーマーで!?」
ドン引きしたが、あっさりとその案を採用したので、ゲンは驚くばかりだった。
「いやいや、いいの?魅真ちゃん」
「なにが?」
「なにがって、かなりドロドロな設定よ。しかも、女の子の魅真ちゃんには、かなり屈辱的でしょ」
「まあ、確かにそうだけど…」
「けど?」
「今ゲンが言った設定でも、周りはすぐに信用しないだろうし、他にもいろいろと疑われるだろうけど…。それでも、純粋に付き合ってるって設定よりは、まだ危険が少ないじゃない?それで、もし疑われたら、私だけでなく、千空も、大樹も、杠も、それに、ゲンや村の人だって危ないかもしれないでしょ?みんなの安全にくらべたら、私のプライドなんて、どうでもいいことだよ」
その設定を受け入れた理由が、魅真や千空達の安全だけでなく、ゲンの安全も入ってるので、ゲンは更に驚き、目を大きく見開いた。
「え…。その安全の中に、俺も入ってんの?」
「あたりまえじゃない」
まだ付き合いがないに等しいのに、身を案じてくれているので、ゲンは驚きながらも魅真に問うと、魅真はあっさりと返したので、ゲンはその顔に笑みを浮かべる。
「魅真ちゃんてさ、結構いい女だよね」
「え?どこが!?」
「そーゆーとこ」
いきなりゲンに、いい女扱いされたので、魅真はわけがわからず、理由を聞いてみるが、答えを聞いてみても、やはりわからなかった。
「じゃあ、さっそく魅真ちゃんとの関係を、司ちゃんたちに報告しようかな」
「ちょっと待って!」
ゲンは、魅真との関係を司達に話しに行こうとしたが、魅真に止められた。
「どしたの?」
「もうちょっと待っててくれる?大樹が知ったら、余計なこと言いそうだから。先に、大樹と杠に報告しときたい」
「ああ、なるほど」
杠なら、驚いても、察して何も言わないでいてくれそうだが、大樹はあの大きな声で叫び、作戦を台無しにしそうな気がするので、お願いをすると、ゲンはあっさりと納得をした。
「あともう1つ」
「なに?」
「いくら恋人関係になったといっても、手ぇ出したらダメだから」
「え!?」
「えって何?まさかゲン、周りに恋人同士だって思わせてるのをいいことに、いやらしいことする気じゃ…」
「いやらしいことはしないけど、さすがになにもなしってのは無理(リームー)じゃない?恋人なんだからさ」
本当は、いくら恋人のふりをするといっても、ベタベタされるのが嫌な魅真だったが、ゲンにつっこまれてしまう。
「大丈夫よ。私、プラトニックラブ希望だから」
「プラトニックラブ希望でも、なにもなしだったら、周りに疑われちゃうでしょ」
「それなら、ゲンがうまいこと、周りに言ってくれればいいんじゃない?」
「でもね、論より証拠っていうかね、やっぱ見た目も大事でしょ」
けど、ゲンに説得されると、一理あると思ったので、思わず黙りこんでしまった。
「…じゃあ、手をつなぐのと、腕を組むのと、肩を抱くこと。それぐらいまでなら我慢する。あとはダメ」
「我慢って…ドイヒ~~」
「ひどくないでしょ。あたりまえでしょ。私は、そういうのは、本当に本気で好きになった人とって決めてるんだから!いくら目的のためとはいえ、好きでもない男性と、手をつないだり、腕組んだり、肩を抱かれたりっていうのも、本当は嫌なんだからね!」
「魅真ちゃん、結構乙女ね」
いくら目的のためとはいえ、よくそんなので、ドロドロ設定の偽の恋人関係を受け入れたものだと、ある意味感心していた。
「だから…もしそれ以上のことをしたら…」
「したら?」
まだ続きがあるようで、魅真は小刻みに体を震わせながら、ゆっくりと話した。
「絶対に許さないっ!!」
「!!」
かと思うと、語気を強くして言い放ち、しかも目が血走っているので、その声と顔の迫力に、ゲンは血の気が引き、顔が真っ青になった。
こうして、ゲンが科学王国の仲間となり、情報共有のために、魅真とゲンは、偽の恋人関係となったのだった。
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