Z=7 偽物恋愛関係
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羽京の姿を見た魅真は、見ない顔に、すぐに警戒心を抱くが、あくまでも表面上はなんてことないように、ポーカーフェイスを貫いた。
「(この人……見ない顔だわ。あっ……)」
目の前の人物に警戒するが、すぐにどういう人物なのかわかった。
「もしかして、司が復活させた、新しい復活者の人?」
ここにいる知らない人物ということは、もうそれしか答えがないので、魅真は羽京に聞いてみた。
「そうだけど…」
「そうなんだ。私は真田魅真といいます。あそこでは、おもに治療を担当してます。よろしくお願いします」
羽京が肯定すると、魅真は、表面上は笑顔であいさつをした。
魅真が名乗ると、司に、魅真が一番の要注意人物だと言われたのを思い出した羽京は、ハッとなった。
「僕は、西園寺羽京です。おもに見張りをまかせられました。よろしくお願いします」
「!! 西園寺……羽京…?」
今度は羽京が名乗ったが、魅真は羽京の名前を聞くと、呆然として固まった。
「あの…僕の名前がなにか…」
魅真が呆然としたのはわかったが、何故そうなるのかわからないので、羽京は魅真に聞いてみた。
「え?あ…なんでもないの。ごめんね」
聞かれたが、魅真は適当に誤魔化した。
曖昧に返されたが、羽京はそれ以上はつっこむことはせずに、その話題を終わらせた。
「そう。じゃあ、僕はこれで」
特に魅真と話すこともないので、あいさつを終えた羽京は、早々にそこから去っていく。
その去っていく後ろ姿を、魅真は羽京の姿が見えなくなるまで、ジッと見ていた。
「(服の上からでもわかる、華奢だけど、全身についた、鍛えられた筋肉。スポーツか、格闘技をやってきた者、もしくは、体力に関係する仕事についていた者の証。弓矢を持ってるから、実力のほどはわからないけど、少なからず、戦える人物…)」
見ていたのは、また1人、新しく復活者が増えたので、相手のことを見極めようとしたからだった。
「(名前は覚えた…。あとは、彼の性格や能力、他の詳細な情報を手に入れないと)」
羽京を見たことで、体力系ではないかということはわかったので、あとはいつものように、相手のことを調べて情報を得ようと思った。
特に弓矢を持ってたので、戦える人物だというのがわかり、余計に、いろいろな情報を得なければいけない。そう思ったのだった。
Z=7 偽物恋愛関係
羽京が復活して、次の日のこと。
千空の墓参りをすませ、畑の世話をするために、道具を持って道の近くまで来ると、魅真はとても驚いた。
「(あれは…昨日復活した、西園寺羽京とかいう…。もう司と一緒にいるの!?)」
それは、このアジトの下の階にある玉座から、司が羽京を連れ立って歩いていたからだった。
「(あの、西園寺羽京…。やはり、なんらかのプロフェッショナルとみて、間違いなさそうね)」
まだ復活したばかりなので、名前と武器以外はなんの情報も得られていないが、いくら人が少ないといっても、昨日復活したばかりの人間を連れて歩くというのは、結構な実力者ではないかと魅真は睨み、同時に、羽京のことを更に警戒した。
本当はついていきたいところだが、司は気配を読むことができるので、もしみつかってしまった場合、更に警戒されるのは目に見えているため、断念して海に行った。
一方羽京は、司の2~3歩後ろを歩いていた。
「(こんなところに来て、何をするつもりなんだろう)」
司には、ついてくるように言われただけで、他には特に何をするとか言われていないので、わざわざ自分を連れてきたことに疑問を抱いた。
「(もしかして護衛?僕が、元自衛官だから?霊長類最強の高校生なら、そんなもの必要ないだろうに…)」
自分を連れてきたことを推測するが、どうにもしっくりこなかった。
その時、固いものを破壊する音が聞こえたので、そちらの方へふり向いた。
「!!」
そこでは、司が石像を破壊していたので、羽京はショックで固まった。
「(なんで…)」
司の周りには、破壊された石像の破片が落ちており、それを見た羽京は、悲しみで打ち震えた。
「……司…」
「ん?」
その悲しみで、のどがしめつけられ、うまく声を出せない状態で、羽京は司に声をかける。
羽京に名前を呼ばれると、司は顔だけ羽京に向けた。
「君は…なんで、今石像を殺したの?」
質問を投げかけられると、司は顔がこわばり、まるで獲物を狩る肉食獣のような目つきになる。
その目に、羽京は冷や汗をかきながらも、司から目をそらさず、司の答えを待った。
「昨日言ったはずだよ。金と権力の欲望にまみれた、心の汚れた年寄りではなく、純粋な若者だけを復活させると…」
「(だからって…殺すのか!?どうして…!!)」
復活液のことは、昨日司から聞いていた。
なので、復活液をかけないかぎりは、石像達の石化は解けることはない。それなのに、破壊するという行為をしていた。わざわざそんなことをするなんて意味がわからないし、それ以前に、今の行為は、実質殺人と変わらないので、羽京は顔面蒼白になり、口をおさえた。
「どうした?羽京」
そんな羽京の心情など露知らず、司は無表情で、羽京に問いかける。
「……いや…なんでもないよ」
今ここで本心を見せるのはまずいと、瞬時に悟った羽京は、口から手を放すと、表面上は笑顔で答えた。
「そうか。なら行こうか」
「…ああ…」
羽京が答えると、司は羽京に背を向けて歩き出し、羽京も司のあとに続いて歩き出した。
司が背を向けると、羽京は歯を強く嚙みしめ、両方の拳を強くにぎりしめた。
一方魅真は、海から川に向かっていた。
海に行ったのは、肥料のもとの貝殻を集めるためで、ある程度採集すると、今度は川に水をくみに行くために移動をしていたのだった。
その途中で、まだ畑にはない薬草をみつけたので、魅真はゆっくり丁寧に、薬草の周りの土を掘り起こすと、持っていた袋の中に入れて、周りの隙間を埋めるように土を入れると、枝の部分を軽く紐でしばった。
「(新しい薬草がみつかるなんてラッキー!貝殻もたくさんとれたし、今日はついてるかも)」
薬草を持ち上げると、再び歩き出し、見たことのない薬草を採集したので、魅真はうれしそうに笑っていた。
その頃、司と別れた羽京は、川にほど近い森の中に1人でいた。
そして、目の前の木を、両手で力いっぱいたたくと、荒々しい息をくり返した。
羽京は興奮状態で、のどがしめつけられており、うまく息ができず、今にも過呼吸を起こしそうなほどだった。
「(獅子王司…。なんであんなこと…!!異常だ。相手は、もとは生きていた人間だ!!あの石像が、司になにかしたのか!?そうでないなら……いや…そうでなくても…なんで!!)」
それは、先程の司の石像破壊が、どうしても許せなかったから。司の言い分に、納得できないからだった。
「(他の者達は知ってるのか?司のあの暴走を…。人を選んで殺していることに…。もし知ってるとしたら、誰も疑問を抱かないのか?受け入れてここにいるのか!?自分のボスが、人殺しだということを、なにも感じないのか!?自分じゃないからいい。この世界で生きていくためには、司に従うしかない。だから仕方ないって?それとも、石像だから、『殺す』んじゃなくて、『壊す』という表現が正しいと思っているのか?だとしたら、もはや狂気だ…。司も…ここにいる者達も…!
本当は、司を止めたい。でも…僕では、司を止めることはできない。実力に差がありすぎる。司はきっと、自分の理想に理解を示す前提で、石像を起こしてるんだ。力のある者を…。自分の国に役立つ人間を!!そして、もし万が一反逆されたとしても、制圧できる者を…)」
そして、眉間に深いしわをきざみ、歯を強く噛みしめると、今度は指先で木をひっかく。
「(今日、僕を連れて歩いたのは、牽制のためもあるんだろう…。目の前で石像を殺すことで、逆らうとこうなると…。つまり僕は…司に選ばれた、生かされている命ということだ…)」
羽京は、司が自分を連れて歩いたことをようやく理解するが、理解したところで、どうしようもなかった。自分には、司をどうにかできる力がないからだ。
「(……っ…!! なんでだ…。なんで!!僕が自衛官になったのは、目の前の命を守りたいからなのに!!それなのに、まったく逆の、人を殺すことをしている!直接手をくだしているのは僕じゃなくても、その手助けのために働くことになる!!)」
それだけでなく、石化前にしてきたこととは、まったく逆のことを、間接的にだが、その手助けをされそうになっているので、とても悔しそうで、悲しそうで、苦しそうな顔になる。
「(いや…もうすでに、そうしているか…)」
けど、手助けされそうになっているのではなく、もうすでにしていることに、途中で気づく。
「(あの石像達を、僕は見殺しにした!!)」
それは、いきなりのこととはいえ、司の石像破壊を見ても、非難するでもなく、止めるでもなく、ただ司についていっただけだからだ。
未だ興奮状態にある羽京は、石像を見殺しにした悔しさで、右の拳を後ろにひくと、今度は勢いよく木を殴りつけた。
そのことで、手の皮膚が破けてしまい、血がしたたり落ちたが、羽京はそれどころではなかった。
「(殺された石像は、なんとか直す方法はないのか!?他にも殺した石像があるのか!?だとしたら、その殺した石像は?今はどこにあるんだ!?)」
破壊された石像を、なんとか直したいと思うが、考えてる途中であることに気づき、表情が暗くなる。
「(でも…たとえわかったところで、僕に直す術はない。方法がわからない。どうしたら…)」
それは、直す方法もわからないし、わかったとしても、できるかどうかわからない。ヒントすらない。それに気づいたからだった。
「(僕はただ、目の前の誰にも死んでほしくないのに。ただ…それだけなのに!!)」
そのことに気づくと、羽京は余計に苦しくなり、目尻に涙を浮かべる。
「(それなのに、司を止めることはできないし、石像を直す方法もわからない。でも、本当は声をあげたい。石像を殺すなと…。けど、声をあげたら、たちまち消されるだろう…。この状況を打破する方法を、考えることさえできなくなる!石像を直す方法。せめて、それさえわかれば…)」
涙は目にどんどんたまると、突然崩壊したように、頬をつたって下に流れ落ちた。
「(でも、司に対抗する術がない以上は、この世界では、司に従わざるをえないし、これからも、石像を見殺しにすることになる!!そんなのは嫌だ!!でも…僕には無理だ。どうしようも…!!)」
羽京は心に感じる苦しみで、両手をにぎりしめ、その感情を表すように、破裂しそうなくらいに、拳に強い力を入れていた。
けど、ずっと興奮状態にあったが、ゆっくり、深く息を吸って、呼吸を整え、徐々におちつきを取り戻す。
「(…いや…おちつけ…。おちついて、今できる最善の方法を考えるんだ。まずは、今ここに復活した者たちの命を、最優先で守る。復活者の殺し合いだけは、なんとしてもさけたい!!目の前で、血が流れるのは…絶対に嫌だ!!)」
まず自分がすべきこと。それは、司の石像破壊を止めるのではなく、復活者の殺し合いをさけることだった。
「(そう…。復活した者たちは、石像とは違う。生身の人間なんだ。それこそ、血を流して死んだら、もうそこで終わりなんだ。そのためには、司の怒りを買わないようにしないと!逆らって、石像を殺すのを止めたら、僕が殺されるか、よくて監禁されるだろう。今は従順なふりをして、機をうかがうんだ!生身の人間である、復活者の殺し合いだけは、絶対にさけなければ。僕は、人の命を…国を守る自衛官なんだから!今生きている命を守ることを優先しよう。石像はその後だ)」
なので、今生きている者の命を優先することにして、あんなに嫌悪していたはずなのに、石像のことは後回しにした。
「(………だが、本当にいいのか?石像を殺すのを、本当に止めなくていいのか?今生きてる者を優先するということは、石像を見殺しにするということだ。石像といっても、もとは僕と同じ、生きていた人間なんだ。目の前で殺されてるというのに、見て見ぬふりをするというのか!?)」
しかし、やはり石像のことがすぐに気になり、迷いが生じた。
「(いや、現実を見ろ。確かに見殺しにすることにはなるが、僕が司に敵うわけがないんだ。肩書きも実力も、どうしたって司の方が上なのだから。まずは生きてる命を守る。争いごとは極力なくす。これが最善なんだ!!)」
けど、すぐに考えが戻り、今生きてる者の命を、優先的に守ることを、再び決意する。
「(司にも、周りの復活者にも、絶対に疑われないようにしないと…。そのためには、なんでもない顔をしてふるまう。絶対に悟られないようにする。石像破壊を止めたら、監禁されてしまうだろうから、司が何をしても、何を言っても、さわがず、動じず、ポーカーフェイスを崩さないようにするんだ!司が石像を破壊しても、見て見ぬふりをしよう。そうでないと、まっさきに疑われるから…。
大丈夫だ。石像は動かない。司に壊されたのが、今は石像だというのが、不幸中の幸いだ。石像である以上、死んでるも同然なんだから!それなら、石像は、現状ただのモノだ。蘇らせないことは、殺人じゃない。司は石像を『殺してる』んじゃない。『壊してる』んだ!!)」
まるで、自分に言い聞かせるように、先程司に言ったのとは、真逆のことを考えた。
けど、不本意なことなので、のどがしめつけられるように痛み、うまく息を吸うことができなかった。
「(僕は…とんだ卑怯者だ!!)」
いくら、現実を解決する力がないといっても、嫌悪していることを許容してしまったので、羽京の目からは、再び涙が流れた。
悲しみで顔をうつむかせると、涙は頬をつたって地面に落ち、小さなシミを作っていく。
そうして、何分か涙を流すと、おちつきを取り戻し、冷静になった羽京は、腕で涙をぬぐうと、とても真剣な目をして前を向いた。
「(泣いていても仕方がない。それよりも、次の手だ。復活者を守りつつ、同時に情報収集だ。ここの状況、復活者達の性格、関係性、構成員の人数、パワーバランス、能力、ありとあらゆる情報を探るんだ。もっとも愚かなのは、無策で動くこと。今は機をうかがって、様子を見よう。自分が進むべき道を見定めつつ、石像を直せる人物、もしくは直す術をみつける!!
この国の王である、司の力の証明が武力なら、いつか必ず限界がくるはず。それは、歴史が物語っている!!
その限界値を冷静に見極めて、慎重にいこう。見張りなら、僕だけが手に入れられる情報もあるだろうし、情報操作もできる。突っ走って崖の下に落ちないように。確実に、現状を打破するために!そのためだったら、どれだけでも耐える!!)」
そして、現状をどうにかするために、情報収集をしようと心に決めた。
「(……けど、うまくいく保証も、石像を直す術がみつかる保証もないし、僕1人では、どうしようもない。それに、機会もないかもしれない…。現状を打破する術。そんなもの…一体どこに…?)」
しかし、すぐに不安が羽京の心を覆った。
けど、それでもあきらめたくないので、なんとか石像を直す方法だけでもわかればと思っていると、突然、小枝を踏む小さな音がしたので、そちらに勢いよく顔を向けた。
「魅真……」
そこにいたのは魅真だった。
「え…。羽京…?」
魅真は羽京の存在に気づいておらず、羽京に名前を呼ばれると、ようやく羽京の存在に気づき、いきなり名前を呼ばれたことにびっくりして、目を丸くした。
「(え…。今のが聞こえたの?私との距離、50メートルくらいあるのに…)」
びっくりしたのは、いきなり羽京に名前を呼ばれただけでなく、結構な距離があるのに、ほんの小さな音が聞こえたみたいだからだった。
「ごめんね。のぞいてたわけじゃないの。たまたま通りかかって。そしたら、いきなり羽京の声がして…」
「そう…」
声にしなければ気づかなかったかもしれないのに、羽京がわざわざ魅真の名前を呼んだのは、もしかしたら、魅真が羽京をのぞき見していると勘違いされたと思ったからで、魅真は羽京のもとへ歩いていきながら、事情を話す。
けど、事情を知っても、羽京の口から返ってきたのは、なんともそっけないものだった。
というのも、羽京は今、それどころじゃないからだ。
「(それにしても…この人…)」
羽京の心情を知らない魅真は、羽京に顔を向けると、羽京の顔を凝視した。
「僕の顔に、何かついてる?」
近づいてきたと思ったら、今度は顔を凝視されたので、羽京は静かに問う。
「え!?ごめん。なんでもないの。ただ…」
「ただ?」
「ただ…すごく苦しそうで、辛そうで、悲しそうな顔をしているから…」
「!!」
魅真の前では、ポーカーフェイスをしていたつもりだったが、今の心情を見抜かれたので、羽京は驚き、目を大きく見開く。
「…君の気のせいじゃないかな」
「え?あ、そう?気にさわったなら、本当にごめんね」
けど、羽京は適当に誤魔化した。
魅真自身は、変なことを言ったつもりはないが、羽京にとってはすごく嫌なことだったのかと思った魅真は、あわてて謝った。
「あっ」
「?」
「羽京、手ぇケガしてるじゃない!」
「え?あ…」
だいぶ前から、手から血が流れていたが、羽京は特に気にとめておらず、むしろしばらくの間忘れていたので、魅真に言われると、思い出したように、ケガをした右手を見た。
「こっち来て」
すると、魅真は右手で持っていた薬草を左手に持ち変えると、右手で、ケガをしていない、羽京の左手をつかんで歩き出した。
「え…。いきなりなに?」
「いいから!」
何故、いきなり手をつかまれたのか、どこに連れていくつもりなのかわからず、頭がこんがらがったが、魅真にひっぱられるままに歩いた。
1分ほど歩いて来たのは川だった。
「魅真、一体ここで何を…」
「ケガの手当てよ。まずは傷口を洗うの」
何故川まで来たのかわからず、質問すると、答えはすぐに返ってきた。
その答えで、魅真がここまで連れてきた理由はわかったが、何故ケガの手当てをするのかはわからなかった。
治療担当だと昨日言ってたし、同じ司のもとにいる人間ではあるが、魅真は千空という男の側の人間であり、司が一番の要注意人物だと言っている人間だからだ。
言ってみれば、魅真にとって、羽京は敵に分類される。
だというのに、なんの迷いもなくケガの手当てをすると言ってきたので、羽京は困惑した。
「なんで…僕の傷の手当てを?」
「へ?」
その疑問を口にすると、魅真から返ってきたのは、すっとんきょうな声だった。
「なんでって……なんで?」
しかも、質問に質問で返される始末である。
「いや…。質問に質問で返されても…」
魅真にとっては素朴な疑問だが、羽京にとっては答えになってないことを言われたので、ますます困惑した。
「ケガをしてる人がいたら、普通手当てするでしょ?小さなケガが、命とりになることだってあるのよ。特にこの、ストーンワールドではね。だから手当てするの。何か問題?」
素朴な疑問に納得していないようだったので、その理由を説明すると、羽京は呆然とした。
「さ、すわって。まずは、破傷風にならないように、水で洗うから」
「………」
特に手当ては必要ないと思ったが、断る理由も特にないし、魅真の強引さに負けたので、羽京はそれ以上は何も言わずに、大人しく魅真に従った。
「少し痛むかも。でも我慢して。破傷風って、最悪死ぬこともあるから」
魅真は話しながら、羽京の右手を川に入れて洗いはじめた。
「うん。知ってる」
「羽京って…お医者さんなの?」
破傷風のことを知ってるというので、もしかしたら医者かと思った魅真は、羽京に問う。
「まさか、自衛官だよ。破傷風のことは、知識として知ってるだけ」
「自衛官……」
羽京から返ってきた答えに、魅真は呆然とした。
「どうしたの?」
「え?な、なにも」
昨日、初めて会った時も呆然としたので、何事かと思ったが、またしても曖昧に返されたので、羽京はふしぎに思った。
しかし、魅真との関係は、敵か味方かでいえば敵だし、魅真もそのことはわかってるだろうし、たとえ味方であっても、昨日会ったばかりの人物に、すべてをオープンにして話す人間などまずいないだろうから、これが普通かとも思いはじめる。
魅真は、羽京の旧時代での職業を知ると呆然としたが、すぐに我にかえり、羽京の右手を念入りに洗った。
そして、何分か洗うと、持ってた布で水気を拭き取り、いつも後ろにつけているポーチを前にもってきて、ポーチの中から、小さなすり鉢とすりこぎを取り出した。
次に薬草を取り出すと、すり鉢の中にいれて、すりこぎですりつぶし、そのすりつぶしたものを、木でできた小さなヘラで、羽京のケガしている部分にぬりつけると、ガーゼをあてて、最後に包帯を巻いた。
「これでよし」
ガーゼを隠すように包帯を巻くと、ポーチに入れていたナイフで包帯を切り、きつすぎずゆるすぎない強さで包帯をしばる。
「どうかな?」
手当てが完了すると、魅真は羽京と向かい合い、手当ての具合いを聞いてみた。
「うん。ちょうどいい感じだ」
聞かれると、羽京は右手をにぎったり開いたりして、包帯の加減を確かめる。
「ありがとう。君は、医者か看護師なの?」
「まさか。ただの趣味よ。薬草を育てるのも、手当てするのもね」
魅真こそ、医療従事者かと思ったが、予想外の答えに、羽京は目を丸くした。
「え…。じゃあ、あの薬草の畑は、司のじゃなくて、君の?」
「そうよ」
羽京が目を丸くしたのは、あの薬草畑は、てっきり司のものだと思っていたからだった。
いくら需要があるといっても、まさか司が、敵である魅真の趣味を許すとは思わなかったからだ。
「羽京も必要なら、勝手に畑からとっていっても構わないから、好きに使って」
「ありがとう…」
「あ、でも!最上階にある、薬草室には入らないでね。採集したものを種類別にわけてあったり、いろんな道具を置いたりしているから、踏み入られたくないんだ」
「そう、わかったよ」
羽京が返事をすると、魅真はにこっと笑い、片づけをした。
「でも、うまくいってよかった。実は、ここで手当てするの初めてなんだ」
「え…。こんなにいい感じなのに?」
「変な言い方だけど、ここにいる人たちって、今のところ、誰もケガしないからね。みんな結構頑丈みたい」
手際もよかったし、とても綺麗に包帯が巻かれているのに、初めてだというので、羽京はびっくりした。
話しながら道具をしまっていると、出している物の数がそんなに多くなかったため、すぐに片づけは終わったので、魅真は桶に水をくむと、今くんだ水が入っている桶と、すぐそばに置いておいた荷物と薬草を持って立ち上がった。
「じゃあ、私はもう戻るね。羽京はどうするの?」
「……僕も一緒に行くよ」
「…そう」
羽京に一声かけると、羽京は一瞬迷ったが、魅真と一緒にアジトに戻ることにして、横に置いておいた弓を持って立ち上がった。
「荷物持つよ」
「いいよ。申し訳ないし。このくらいの荷物、いつも持ってるから平気よ」
歩き出すと、羽京は、魅真が持ってる荷物が多いので、荷物を持とうとするが、魅真はやんわりと断った。
「そう…」
「でも、気持ちはうれしい。ありがとう」
けど、羽京の気持ちをくんで、魅真は笑顔でお礼を言うと、羽京は目を丸くして、魅真を凝視した。
「私の顔に、何かついてる?」
「いや…なんでもないよ」
突然凝視されたので、何かあるのかと思ったが、羽京は適当に流す。
「(羽京…。なんで私と一緒に戻るなんて言ったんだろ。偶然といえば偶然かもしれないけど…。もしかして、私のことを探ろうとしている?)」
「(魅真…。隙を見せないと思ったら、次の瞬間には笑顔を見せるなんて…。昨日会ったばかりだからあたり前だけど、まったく読めない)」
今ので魅真は、羽京が自分のことを探ろうとしているのではないかと思い、羽京は、魅真が隙がないのかあるのかわからず、少し困惑していた。
「(だけど、これは羽京のことを知るチャンス。さっきは、羽京が自衛官だったという情報を手に入れた。自衛官ということは、今いる復活者の中では、きっと一番の実力の持ち主だということは想像できる。それだけでも貴重な情報だけど、他にも、なにか知ることができるかも…。自分に相手を知るチャンスがあるということは、逆に、相手にも私を知るチャンスがあるということ。慎重に行動と受け答えをして、少しでも多く、羽京の情報を集める!!)」
「(でも、絶対にあきらめない。少しの間忘れていたけど、司は、魅真の友人の、千空という男を殺したと言っていた。武力最強の司が、わざわざ殺さなきゃいけない人間…。ということは、千空が、司がもっとも恐れる人物に違いない。それに、僕を見張り役に任命したということは、警戒するものがあるから。敵が来る可能性があるからだ。そして、その敵とは、十中八九千空だ!そうなったら、いずれ闘いになるだろう…。千空が生きていて、闘いになると仮定すると、いずれ、連絡がくるはずだ。そして、連絡をとるのだとしたら、戦えない大樹や杠ではなく、まず間違いなく、武力のある魅真だ!)」
「(他の人と同時進行で、羽京を注意深く探る。性格、癖、能力、利き手や利き足、行動パターン、他にもいろいろと…。どんな小さなものも、見逃さないようにしよう)」
「(よく考えてみたら、千空が生きてると仮定した場合、魅真達は司のもとには来ないだろうし、魅真のように武力に優れている者が、無策で、武力最強の司のもとに来るとは考えにくい。恐らく、魅真達は内通者。そして、司に対抗する、なんらかの術を持ってる。もしくは、千空がその対策をしているということだ。でも、すぐにはできないだろう…。けど、いずれなんらかのアクションがあるはず!僕が見張りに任命されたのは、好都合だ。こうなったら、根性の勝負だ。個人的にも魅真を見張って、魅真の情報、大樹と杠の情報、司や復活者の情報、現状を打破する術、どんなに時間をかけてでもみつけよう…)」
けど、そんな考えは、2人の頭からすぐに消えて、今後のことを、いろいろと考えていた。
「「(絶対に、いろんな情報を集めてみせる!!)」」
そして、2人同時に、相手を知るチャンスだと心の中で思い、あらゆる情報を集めることを決意する。
次の日。魅真はいつものように、朝食をとり、千空の墓参りと畑のお世話をすませると、いつもすわっている、玉座から2つ隣の穴の出入口部分にすわり、布を織っていた。
「魅真…」
すると、そこへ羽京がやって来た。
「羽京」
羽京がやって来て、目の前で止まると、魅真は手を止めて顔をあげた。
「どうしたの?見張りのお仕事は?」
「見張りだからって、ずっと同じ場所にいるわけじゃないよ。それに、どこにいても、全然問題ないから」
「(どこにいても全然問題ない?ということは、視力以外のもので、何かを察知するっていうこと?)」
魅真は今の羽京の言葉で、さっそく情報のヒントをみつけた。
「隣、いいかな?」
「え?うん。どうぞ」
今のが、情報のヒントになってしまったことを知らない羽京は、一言断りを入れる。
魅真は、特に拒む理由はないので、了承すると、羽京は魅真の隣に腰かけた。
「昨日はありがとう、手当てしてくれて」
「ああ、そのこと」
なんで声をかけてきたのかふしぎに思ったが、羽京がお礼を言ったことで、すぐにわかった。
「別に気にすることないよ。それが私の仕事だしね。羽京って、結構律儀だね。改めてお礼言うために来るなんて」
「そんなことないよ。それで、今度はお願いがあるんだけど…」
「お願い?」
「包帯を変えてもらっていいかな?」
「もちろん」
魅真が快く承諾すると、羽京は魅真がいる方に、すわっている向きを変えて、魅真が手当てをしやすいように、ケガをした右手をあげた。
魅真も織機を横に置いて、手当てをしやすいように、体の方向を羽京の方に向けると、ポーチから手当ての道具を出して、昨日と同じように手当てをした。
「これでよし。また何かあったら、いつでも言ってよ」
「ありがとう。助かるよ」
羽京がお礼を言うと、魅真は笑顔で返して、道具を片づけた。
「(昨日手当てをした時、ケガをしたところに、わずかにごく微小の木くずがついていた。そして、あのケガの具合い。たぶんだけど、木を殴ったあと。右で殴ったということは、右利き?それに、木といえば、私が踏んだ小さな枝の音を、50メートルくらい先から察知した。さっきは、どこにいても問題ないって言ってたし…。ひょっとして羽京って、聴力に優れてるんじゃ?)」
道具を片づけながら、魅真は昨日と今日の羽京の言動をふりかえり、能力などのことを見極めていた。
「(そういえば魅真は、司が石像破壊をしているのを知っているのだろうか。知っていてここにいるのか?まだ復活したばかりの、敵側の僕の手当ても率先してするほどの人間が、司の石像破壊を許容しているのか?治療係だからといえば、そこまでだけど…)」
魅真が手当てしたのを見て、昨日のことを思い出した羽京は、そのことを疑問に思った。
「ところで、魅真はこんなところで何をしていたの?」
疑問に思っていると、魅真の片づけが終わったので、羽京は魅真に質問をした。
疑問に思っていたのとは関係のないことだったが、それを口にするわけにはいかないので、情報収集のため、別の、あたりさわりのないことを聞いたのだった。
「布を織ってたのよ。包帯とガーゼに使うためにね」
質問されると、治療をするために横に置いておいた、布を織るための木の枠を羽京に見せた。
「手作り…だよね」
「そうよ。この木の枠に、縦に糸をはって、上と下交互に、横に糸をはっていくの」
「すごい地道だね」
「電動の機械がないからね。根性の勝負だよ」
「そんなに大変なのに、たくさん使わせてごめん…」
「別に、全然気にしてないよ。使うために作ってるんだもの」
あまりにも地道すぎる作業なので、布の作り方を聞いた羽京は申し訳なさを感じたが、魅真はまったく気にしていなかった。
「(真田魅真。旧時代では高校生。大会で連続優勝する記録保持者。雑誌や新聞にも掲載され、剣道界のスーパースターとまで言われた女の子。中肉中背で、身長は大体160cm前後。ここでは、治療や薬草の栽培を担当。治療した際に見えた手の平には、剣道をやる者にできる竹刀だこがあった。少しゆったりとした袖だから、腕はわからないが、足は筋肉でしまってる。普段から鍛えているのか?)」
魅真と話しながらも、羽京は魅真の基本的な情報を頭にたたきこんでいた。
「(西園寺羽京。もと自衛官。海か陸か空かは今のところ不明。年齢は20歳前後くらい。少なくとも18歳以上。中肉中背。身長は、千空と同じか、少し高いくらいの、大体170~175cmで、体重はおよそ60~65kgくらい。足のサイズは、靴の先がとがってるから少しわかりにくいけど、25~27cm。横幅はそんなに大きくはない。歩幅は、大体50cmか、もうちょっと広いくらい。歩く速さは、速くもなく遅くもない。ただし、状況によって変わってくるから、あくまで参考程度。利き手はたぶん右。武器は弓矢。身体能力で優れているのは聴力。まだ確証はないけど…。全体的な強さは知らないけど、自衛官というくらいだから、体は鍛えていただろうし、それなりに、相手を制圧する術ももっているはず。見張り担当というくらいだし、一番私たちのことを探ってくるかも)」
一方魅真も、同じように、羽京の情報を頭にたたきこんでいた。
「じゃあ、治るまで、包帯変えてもらっていいかな?」
お互い、同時に相手の情報をたたきこんでいたが、その間わずか10秒ほどだった。
これからも情報を得るために、羽京は自然な言葉を選んで、その顔には貼り付けの笑顔を見せていた。
魅真はその笑顔を見ると
「(ウソくさい…)」
と思っていたが、それは心の中にとどめておいた。
「もちろんいいよ」
けど、そのことを表には出さずに、魅真は羽京が言ったことを承諾した。
「ありがとう」
魅真が承諾すると、羽京はお礼を言う。
「(大人だから、愛想笑いをするのかな。それとも、もとから誰も近寄らせないタイプ?それとも、昨日見せた、苦しそうで辛そうで悲しそうな表情と、なにか関係があるの?)」
承諾すると、羽京が愛想笑いをする理由を考えた。このことも、羽京のことを知る手がかりになるかもしれないし、もしかしたら、戦況を左右するものになるかもしれないからだ。
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