Z=12 奇跡の洞窟争奪戦
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「うおお。すごいぞー!リリアン説得大作戦。どんどん仲間が増えていく!!」
「ああ、順調すぎて怖いね、少し」
今電話を聞かせていた者達がいなくなると、作戦がうまくいってるので、大樹は興奮するが、ニッキーはそうではなかった。
「人間なんでも、慣れてきて油断したころが、一番危ないからさ―――」
「そうだね。このまま何も起こらなきゃいいけど…」
ニッキーだけでなく、魅真も、今の状況に不安を感じていた。
そうやって三人で話していると、今度は杠が、別の司軍の人間を何人か連れてきた。
作戦通り、彼らにも歌を聴かせると、彼らも大興奮で、楽しそうにしていた。
同じ頃、そこからそう遠くない、岩の柱の上には羽京がすわっており、下に向けていた顔を急にあげると、千空の墓がある方角へ向けた。
千空の墓では、リリアンの歌と声を聴いた彼らが、楽しそうに笑っていた。
「楽しそうだね」
すると、出入口の方から羽京がやって来て、そこにいる者達に声をかけた。
「聞かせてほしいな、その電話。僕にも」
「「「!!!」」」
危惧していたことが起こってしまったので、魅真と大樹とニッキーは冷や汗をかいた。
しかし、魅真達にかまうことなく、羽京は電話の方へ歩いていく。
「羽京… (マズい…。マズいよ。羽京の耳だけは…)」
「(どうしよう。羽京に電話のことがバレてる以上、ごまかしようがない!)」
大ピンチに陥ったので、魅真もニッキーも、これはヤバいと思った。
特に魅真は、この前の深夜の出来事や、前日のクロムへの差し入れの件もあり、羽京が敵なのか味方なのか、未だ不明だからというのもあった。
「つっても、もう行くしかねえ、このまま!」
「だね~…。ガチファンのニッキー先生に、満点もらった、俺のモノマネVS羽京ちゃんの聴力で、一か八かの勝負…!!」
けど、もうこれ以上はどうしようもないので、一か八かで電話を聞かせることにした。
「どちら様でしょうか?こちらはリリアン・ワインバーグです……!!」
ゲンが、リリアンのモノマネで羽京に話しかけると、受話器から聞こえてくる声を、羽京は集中して聞いた。
「…すごいね。本当にリリアンだ。普通なら、僕の負けだったかもしれない」
「(普通なら…!?)」
リリアン(ゲン)の声を聞くと、何やら意味深なことを言ったので、魅真は疑問と警戒心を抱く。
すると、羽京は小さく笑った。
「However, there is no vibration of the voice(でも――人間が熱唱した直後の) after singing enthusiastically,(微妙な声のゆらぎがない) which is hard for you to imitate(そこは、歌えない人には、再現不可能かもね) ゲン」
その後で、日本語ではなく英語で、リリアンではなくゲンに話しかける。
「(英語!?なんで…。ていうか、今…ゲンって…)」
英語で話した羽京を、魅真は更に疑問に思うが、最後にゲンの名前を呼んだことで、全てを理解し、何かあった時のために、いつでもとび出せるように、木刀に手をかけて、構えをとった。
「!! クッソ。んなとこで…」
「あ゙あ゙あ゙あ゙。やっぱし無理(リームー)だった」
一方、崖の上にいる千空とゲンも、あっさりと、しかも常人では気づかないようなところで見抜かれたので、冷や汗をかいた。
だが、ゲンはなげいていたが、途中であることに気がついた。
「ちょ~~と待って、千空ちゃん。今、なんで羽京ちゃん、わざわざ英語で言った?できれば周りの連中に、聞かれたくなかったからでしょ……??羽京ちゃんの妙な行動。兆候はあったのよ、ジーマーで。墓場で俺らを見つけた時、司ちゃんたち仲間に知らせもせずに、たった一人で追ってきた―」
「…ククク。良~~くみてんじゃねえか、メンタリスト。ゲンVS羽京、1勝1敗ってとこだな…!!」
ゲンが気付いたのは、魅真と同じことだった。
ゲンから情報を聞くと、今度は千空が受話器をとった。
「クロムに電池差し入れたのは、羽京、テメーか??」
「……アハハ。すごいな。さすがに早いね、飲み込みが。あのままだと千空、君が死んでたからね」
今のゲンの情報で、千空はクロムへの差し入れの犯人がわかったので、羽京に問いかけると、羽京は落ちついた様子で、不敵に笑いながら答えた。
「勘違いしないでほしい。僕は別に君の味方じゃない」
「あ゙ー、だろうな。味方なら、最初からクロムとっ捕まえねえよ」
「僕も、探り探りなんだ。君たちが、どういう人間なのか…?話を聞きたい。僕は見たんだ。君たちの、とんでもない、極秘ミッションを――」
それは以前見た、杠の、司に破壊された石像を組み立てるミッションのことだった。
「信じがたいことだけど、僕の予想が正しければ―。狂気だ。君たちは、この状況で、まだなお、世界全人類を救おうとしてる。科学の力で……!!!」
去年見た、杠のミッションを思い出し、自分の予想を話すと、羽京は高揚し、目を輝かせた。
「石化した連中が司にブチ壊されても、立体パズルみたく噛み合わしときゃ、全員救えるかもしんねえ……!!ククク。だったらどうする。司先生に言いつけっか??」
「いや、千空、僕は、君たちに協力してもいいと思ってる。条件次第ではね」
「「!!!」」
極秘ミッションは見られていたが、羽京は司に報告するのではなく、千空に協力を申し出た。
「(そりゃ~、耳ゴイスーの羽京ちゃんが手ぇ貸してくれるなら、ジーマーでありがたいけど……) 条件ね~」
交渉しようとしている羽京に、ゲンは自分の得意分野なので、ニヤリと笑う。
「変わろっか、千空ちゃん。駆け引きなら、メンタリストのお仕事かな」
「探り合いは時間のムダだ。結論から言え。なんだ、条件っつうのは」
「ウワァアオ。それ、交渉で一番やっちゃ、バイヤーな奴!」
「…」
しかし、千空は駆け引きなどせずに、ド直球に羽京に聞いたので、ゲンは頭をかかえて涙を流し、羽京は苦笑いをした。
「OK、分かった。僕の条件はたった一つ――」
けど、羽京も交渉をやめて、先程言った条件を話しはじめた。
「誰も死なないこと」
その条件を話した羽京は、とても真剣な目をしていた。
逆に条件を聞いた千空は、怪訝な顔をした。
「?? (英語だからさっぱりわからん!)」
一方、千空と羽京の会話を聞いてる、大樹をはじめとする周りの者達は、千空も羽京も英語で話してるので、なんの話をしているのかまったく理解できていなかった。
「ククク。いまいち腹読みきれねえな、羽京。テメーはよ。単純に、超絶お優しい理想家か、それとも――」
「理想家?どころか僕は、一番の卑怯者だよ」
羽京の条件に、千空はそのように結論づけるが、千空の答えを聞いた羽京は、自嘲の笑みを浮かべた。
「初めて司が石像を壊すのを見て、僕は、ただ悲しかった…。『なぜ…?』、『どうして…?』って…!!それでも、復活者の殺し合いだけは、絶対避けたかった。そのためなら、司の石像破壊も許容した。『石像は現状ただのモノだ』、『蘇らせないことは殺人じゃない』。そんな、吹けば飛ぶような理論武装でね。救い難いほど卑怯なのは分かってる。でも、僕はただ――」
羽京は、復活してからのことを話すと、石化前、被災した土地で、救助活動をして、子供を助けた時のことを思い出す。
「目の前の誰にも、死んでほしくないだけなんだ」
話しているうちに、今までおさえてきた感情が、はりつめていた思いがあふれだし、羽京は目に涙を浮かべた。
「こんな世界で!それが人としての!最後の砦じゃないのか……!?」
続けて話した羽京の言葉に、千空とゲンは、どこか感傷的な顔をしていた。
「犠牲者ゼロを約束してくれるなら、君たちに協力する。だけど、もし、一人でも殺したら、その時は――」
「ククク。面白ぇ、乗ってやる!!」
「!!」
「問題ねえ。あわよくば、無血開城っつってたじゃねえか、元からよ。理想から絶対に変わっただけだ」
「相当キビシーバトルよ、それ…!?」
羽京の条件を千空はのむが、バトルのハードルがあがったので、ゲンは冷や汗をかいた。
千空の答えに、羽京は大きく開いた目を潤ませる。
「ありがとう――」
そして、目を閉じて、笑顔を浮かべながら、静かにお礼を言った。
まるで、すべてから解放されたように、その閉じた目からは、またかすかに涙があふれ出した。
「おかげで今、一つ確信したことがある。氷月が、君たちの村を攻めた時、こう報告したんだ。『手下たちは、千空の謀略で死んだ』。違う!犯人は君じゃない。氷月だ!!司と氷月は同じ最強でも、まるで違う生き物だ。もう日和見はできない。いつか必ず、血が流れる――」
「そうか…」
羽京は涙をぬぐうと、去年の秋に、村を襲撃した時の、氷月の司への報告の内容を、千空に話した。
その話を聞いた千空は、静かに返事をする。
「羽京、魅真を呼べ…」
「え?うん…」
そして返事をすると、魅真を呼ぶよう、羽京に指示をした。
指示をされると、羽京は立ち上がり、後ろにいる魅真と顔を合わせた。
羽京と目があうと、魅真は更に警戒をする。
「魅真」
「?」
「千空が呼んでる」
「!!」
羽京は今まで、英語で千空と話していたが、それをやめて、今度は日本語で、魅真に声をかけた。
羽京の話し方が日本語に戻り、羽京の口から千空の名前が出ると、魅真は大きく目を見開く。
呼ばれた魅真は、構えをといて、けれど警戒を怠らず、墓標に向かって歩いていき、羽京の隣の受話器の前まで来ると、しゃがんで受話器に顔を近づけた。
「もしもし…。千空?」
そして、静かに千空に声をかける。
その時の魅真は、いつものポーカーフェイスでも、笑顔でもない、とても真剣な顔をしていたので、見たことのない別人のような表情に、隣で見ていた羽京はドキッとした。
「よぉ、魅真。つーわけで、羽京が仲間んなったぞ」
「やっぱりね。途中から羽京が英語で話しはじめたし、受話器から聞こえた千空の声も、英語だったからね。羽京を使って、わざわざ私をご指名ってことは、羽京が私達の仲間になったってことのアピールかな?」
「ククク、大正解。100億点だ」
「ところで、一つ質問なんだけど」
「ん?」
「クロム…だったけ?人質になってた村の人。その子、そっちにちゃんとたどりついた?」
「あ゙ぁ、ちゃんと無事だ」
「よかった」
本題に入る前に、クロムのことを確認すると、ちゃんと千空のもとに行ったらしいので、魅真はほっとした。
「それで、私を呼んだってことは……いよいよ?」
「あ゙ぁ、そうだ。察しがよくて、実におありがてえ」
「まあ、あまり悠長にもしていられないし、リストアップした人間は、半分以上も仲間になった。欲張りすぎれば、司や氷月に気づかれてゲームオーバー。このくらいが頃合いでしょ。それに、千空の準備も整ったみたいだしね」
「そういうこった。今俺たちは、テメーに言われた通りに、アジト正面の崖の裏に陣を敷いてる」
「そこに、私と大樹と杠、司帝国の人間は、別々のルートから行った方がいい。表向きでは敵同士だし、仲良しこよしで全員連れ立って歩いて、そこを、司や氷月、他の仲間にしてない司帝国の人間に見られたら、アウトだしね」
「あ゙ぁ、だからすぐに来い」
「了解!」
長く話していてもいけないので、魅真はそこで通話を終わらせて立ち上がり、羽京も同じように立ち上がると、魅真は隣にいる羽京に顔を向け、羽京と向かい合った。
「あの…魅真…」
魅真と向かい合うと、羽京はどこか気まずそうに、魅真に声をかける。
「今まで…ごめん。君たちが、石像を直してることや、科学王国のために動いてることは分かってた。本当は、もっと早く打ち明けて、君たちを助けたかったけど、司や、他の司軍の人間に知られるわけにはいかなかったから、ずっと知らないふりをして、君たちのことを探っていたんだ。本当にごめん…!」
羽京は目的のために、ずっと魅真達とは敵対しているふりをしていたので、そのことを謝罪する。
「でも僕は、誰にも死んでほしくなくて…。だから…」
謝罪した後、続けて話したことに、魅真は口もとをゆるめた。
「いいよ、全然。気にしてないから。羽京には羽京の事情があったんだし、仕方ないことだよ」
「魅真……」
「それより、仲間になってくれてありがとう。羽京が仲間になってくれて、すごく心強い」
そして、羽京が仲間になったことのお礼を言うと、やわらかい笑顔を見せた。
その笑顔は、今まで見たものとは違うものだったので、羽京は驚いて目を丸くしたが、次第に羽京も、魅真と同じように、やわらかい笑顔になった。
羽京に微笑みかけると、今度は出入口付近にいる、大樹と杠とニッキー、先程通信を聞かせていた司帝国の人達のもとへ歩いていき、羽京も魅真の後ろに続いて歩いていく。
「「魅真!」」
「魅真ちゃん!」
魅真と羽京がやって来ると、大樹、杠、ニッキーは、魅真のもとへ歩いてきた。
「千空に呼ばれた」
「「「!」」」
「おおっ!じゃあ、いよいよ決戦の時か!」
「うん。千空の準備も整ったみたいだし、あまり欲張りすぎても、司たちにバレる可能性がある。だから、これから、これまでに仲間にした司軍の人たちと一緒に、千空のいる、アジト正面にある崖の裏に向かう」
ついに闘いが始まるので、杠は緊張して、生つばを飲みこんだ。
「ただし、仲間にした司軍と私たちで、連れ立って歩くと、司たちに怪しまれる可能性がある。だから、私と大樹と杠は、アジトから向かって右側から、司軍のみんなは、このリストに書いてある人たちも連れて、左側から行きましょう」
魅真の指示はそれだけで、羽京とニッキーを含む司軍が去った後、魅真と大樹と杠は墓全体を清掃した後で、墓参りの足跡をつけてから崖に向かい、羽京達司軍の人間は、これまでに仲間にした人間が待機している場所に行くと、彼らに声をかけてから崖に向かった。
そして、魅真達が向かっている崖の裏では、千空が、完成した戦車の試運転をしていた。
「うぉおおおおお!!!」
完成した戦車が走行する姿に、村人は興奮していたが、ゲンは白目をむいていた。
「楽しい紙工作戦車の爆誕だ。唆るじゃねえか……!!」
けど、反対に千空は、子供のように興奮し、楽しそうにしていた。
「撃てるの、こんな大砲!?火薬もないし…」
「皮製の、ラプチャーディスク(破裂板)を使う!!」
「ラプ…なに??」
戦車といっても紙でできているので、ゲンが疑問を口にすると、千空は丸い皮を取り出して説明をした。
「水をブクブク電気分解しまくって、わき出た水素&酸素ガスが、破裂板をパンッパンに膨らましたら、着火!!」
「おぅ、なるほどな!今のは俺でも仕組み分かったぜ!!―って、一発撃ったら、破けて終わりじゃねえか!」
「あ゙ー、いいんだよ。それで」
大砲について説明をすると、普段は千空の説明をあまり理解できないクロムも理解できたのだが、別のことにも気づいたので、ノリツッコミをするが、千空は気にしていなかった。
「戦車でドカーン!来たら、現代人なら一発で、100億%戦意喪失だ」
「あ~…。それはたしかに…!!」
最初は大砲のことで疑問を抱いていたゲンだが、次の千空の説明には納得していた。
「犠牲者を出さずに制圧となると、勝負はその最初の砲撃直後、電撃速攻が全てだな……!!」
「あぁ――。奇跡の洞窟争奪決戦、戦闘開始わずか数十秒に、科学王国の、全兵力を投入する!!!」
コハクが自分の考えを言った後、千空は今回の作戦を軽く説明した。
「奴が必要だ!!チートパワーの、タフネスNo.1男がな……!!」
そして、千空がそう言うと、タイミングよく、千空の後ろから人がやって来た。
「「!!!」」
突如やってきたその人物に、コハク達は目を見張る。
「不思議だ。初めて会うのに、私は君の名を知っているよ。大樹―――」
そこに現れたのは大樹で、大樹の姿を見た千空は、うれしそうに笑った。
大樹はまっすぐに千空のもとへ歩いていくと、いつものように思いっきり抱きしめようとしたが、それを読んでいた千空は下にしゃがんでよけると、抱きしめるポーズのままの大樹の肩を、拳でたたいた。
そして、大樹の後ろにいた、魅真と杠の方へ歩いていくと、2人に笑顔を向け、魅真と杠もまた、千空に笑顔を向ける。
「(あれが…千空の武力カードの魅真…。確かに、オーラが全然違う…!!)」
初めて魅真を見たコハクは、悠然と構えているが、全身からオーラがあふれ出ている魅真に、目を見張った。
「(あいつは…あん時の…!)」
クロムもまた、今朝この場所の途中まで連れてきてもらったので、コハクとは別の意味で、特に目を見張っていた。
「久しぶり、千空」
「おう」
その魅真は、にこにこと笑いながら、千空と、拳と拳を合わせて、再会のあいさつをしていた。
「お久~、魅真ちゃん」
「ゲン!!」
そこへ、ゲンが魅真のもとへやって来た。
「ゲン、無事だったんだね。よかった…」
「いやいや、今までも電話で話していたでしょ」
「そうなんだけどね。でも、声だけだったから…。村を攻める時、氷月と一緒だったでしょ?だから、ずっと心配してたの。けど、今こうして、元気で無事な姿を見たら、なんだかほっとした…」
ゲンの無事を喜んでいる魅真は、本当にうれしそうに笑っていた。
「…魅真ちゃんてさ、本当にいい子だよね」
「え!!どこが?」
「そうゆうとこ」
「?」
ゲンは、自分が無事でいたことを、魅真が心から喜んでいたので、魅真をほめるが、魅真はゲンが言ったことの意味が、よくわかっていなかった。
「(あれが魅真ちゃんかぁ。かわいい…)」
魅真とゲンとの会話を近くで見ている銀狼は、魅真の顔が好みだったみたいで、顔を赤くしていた。
その魅真は、ゲンとの会話を終えると、ゲンの後ろにいる、自分を凝視しているクロムに気がついた。
「久しぶり」
「お、おぅ」
クロムの視線に気がついた魅真は、ゲンの横を通りすぎて、クロムに話しかけるが、クロムはうまく返事ができなかった。
「クロム君……だっけ?」
「おぅ。お前が魅真か?」
「そう。千空の友達」
けど、魅真は構うことなく話しかけると、クロムも魅真と話した。
「今朝はごめんね。一方的に連れて来て、まくしたてちゃって。どうしても行かなきゃいけない場所とか、やらなきゃいけないこととかあったからさ」
「いや、結果的に助かったから全然いいぜ。それと、千空から聞いたんだが、俺を助けるために動いてくれたんだってな…」
「え?まあ…」
「ありがとな。おかげで助かったぜ」
いろいろと情報を集めてはいたが、差し入れすらできなかったし、羽京の差し入れがあるといっても、結果的にはクロムが自力で脱獄していたのに、お礼を言われたので、魅真は目を丸くする。
「だけど、結果的には、クロム君が、自力で脱獄したでしょ。私は何もしてないよ」
「んなことねーって!警備がヤベー中動いててくれたんだろ?それだけでうれしいからよ。お、そうだ。これ、返しとくぜ」
話している途中で、今朝あずかったものを思い出したクロムは、持っていたマントと袋を渡した。
「あぁ、これ…。ありがとう。でも、今回の作戦には、あんま必要ないかな」
ものがものなので、持っていても邪魔になるだけだと判断した魅真は、クロムから荷物を受け取り、袋から石器のナイフだけ取り出すと、杠の方へふり向いた。
「杠、悪いんだけど、これ持っててくれる」
「わかった」
声をかけられると、少し離れたところにいた杠は、魅真のもとへ歩いてきた。
杠が来ると、ナイフ以外は必要ないので、魅真は杠にマントと袋を渡した。
「おぅ、そういえば、それなんなんだよ?」
特に中身を見ていなかったクロムは、ふしぎそうに、魅真に問いかける。
「昨日の夜、クロム君に差し入れをするために使ったものよ。正体がわからないようにするマントと、差し入れの、縄を切るための小型のナイフに、クロム君が持っていたであろう電池」
「電池!?一体どこで…」
「電話を見つけた日に、ゲンやクロム君の足跡を追跡してたら、木の枝の茂みの中でみつけてね。役に立つかもしれないから回収したの。結局使わなかったけどね」
「(足跡を追跡!?ヤベーこいつ)」
魅真はクロムの質問に答えながら、ナイフをポーチにしまい、答えを聞いたクロムは、プロのような行動をとっていた魅真に対して、すごいと思いながら、身震いしていた。
「おう魅真、再会トークたけなわんとこ悪いがな、そんな悠長にもしてらんねえぞ」
「あ、そうだったね。ごめん」
いつ司と氷月に気づかれるか分からないという時に、ゲンと話し、クロムとも話していたので、クロムの後ろから、千空が刀を1本持って歩いてきて、キリがよさそうなところで声をかけた。
「それで魅真、こいつを渡しておく。テメーの武器だ」
そう言って、持っていた刀を渡した。
「何これ?レプリカ?」
「んなわけねえだろうが。真剣だ、真剣!」
「真剣!?本物!?」
「だからそう言ってんだろ」
「今まで、木刀か竹刀しかにぎったことのない私に、マジモンの日本刀!?」
「テメー剣道やってんだろ。んなもん、居合道と変わんねえだろうが」
「剣道と居合道は全然違うけど!」
本物の日本刀を渡されたので、びっくりして、千空が言うことにつっこんだ。
「これから闘いに行くんだぞ。敵は氷月みてえに、刃のついた武器を持ってるって話だ…。んな奴ら相手に、木刀は厳しいだろう。それは、テメーが一番よく知ってるはずだ」
「それはそうだけど…。でも…」
「んじゃあ、その木刀、お守りがわりに持っとけ」
何がなんでも日本刀を持たせる気の千空に対し、魅真は躊躇していたが、言ってることは一理あるし、これ以上話している余裕はなさそうなので、刀を受け取った。
受け取ると、包帯を適当な長さに切り、鞘の上と下の部分につけると、つけた包帯を体の前で結び、柄を右側にして、上半身にななめにかけた。
「それで魅真、これから奇跡の洞窟に行くわけだが…。そこの情報を教えろ」
「了解」
魅真が日本刀を受け取ると、千空はさっそく、魅真から情報を聞こうとした。
「これから奇跡の洞窟に行く奴も聞いとけ!!奇跡の洞窟の情報だ」
千空の声に、奇跡の洞窟に行く、大樹やゲン、村人、魅真達が話している間にやって来た司軍のメンバーも、魅真と千空の近くに来た。
「まず、今日の見張りの数は、外が7人で、中が4人。合計で11人。武器は、石器の斧を持った人が1人。持ち手は40cmで、斧の部分は、縦が25cm前後で横は15cmほど。司が持ってるのよりも、小ぶりな石器の剣を持った人が1人。持ち手が30~40cmで、刃の部分は縦が50~60cm、横幅は最大で20cm弱くらい。あとの10人は、10~20cmくらいの刃がいくつか横についた、刃渡り20~30cmくらいの長さの、石器の槍を持っている。身長は、全員のを総合してだけど、180cm前後くらい。ただし、定規があるわけじゃないし、目視だから、大体の目安。それと、数日前から罠を作っていたわ。クロム君が閉じこめられていた牢の前にあった、先のとがった木と竹が敷きつめられた落とし穴がね。その落とし穴は、洞窟の前から、約10メートルくらい前に3つある。ただ、そんなに長いこと見張ってられなかったから、他には、どこに、いくつあるかまではわからないけど…。あと他にもあるけど、あまり必要なさそうだし、時間もないから省くけど、大体こんなところ」
「あぁ、十分だ。それで」
こんな危険な状況で、そこまで調べていたとは思わず、しかもまだ他にもあるらしいので、千空以外全員が驚いていた。
「それじゃあ行くぞ、テメーら!!作戦開始だ!!」
「「「「「おおっ!!」」」」」
いよいよ作戦を開始することになり、千空の声で、洞窟に行く全員が、気合の入った声をあげた。
千空の合図で移動を始めると、魅真、大樹、ゲン、クロムと、村の戦闘員と司帝国の者達は、奇跡の洞窟の道中で、千空から今回の作戦を聞いた。
司軍の人間は、洞窟の周辺で、他の司軍が来ないかどうかの見張りと、来た場合の対処、倒した者を束縛する役割で、千空、ゲン、クロムは戦車で、魅真と大樹と村の戦闘員は、洞窟に突撃特攻をすることとなった。
その奇跡の洞窟では、円柱型の器に、硝酸が少しずつ落ちてたまっていた。
洞窟の前には、屈強そうな男が何人もいて、厳戒態勢で見張っていた。
それこそ、人が入る隙間がないくらいに、出入口の前に立っており、離れた場所で、正面から見ている千空たちは、緊張した顔で、洞窟を見ていた。
「奇襲キメても、敵が衝動的に、『やべぇ、逃げてぇ!』ってパニクってくれんのは、最初の20秒間だけだ。ハーバード大心理学者、ショーン・エイカーの研究によれば、人間の衝動が保つのは、わずか20秒。それを過ぎたら、敵も冷静になって反撃がくる。斬り合えば、必ず死人が出る!」
「つまり、20秒間で、敵を全員なんとかしなきゃいけないってことね」
「あぁ」
「皆、腹を括れ!!この20秒で、全人類の命運が決まるのだ……!!!」
コハクの言葉が合図のように、戦車は大砲を打ち、大樹は盾を持ち、他の者達は各々武器を持って、茂みからとび出し、奇跡の洞窟へ走っていく。
.