Z=12 奇跡の洞窟争奪戦
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次の日、魅真はいつものように、墓参りの後に千空と通信した。
特攻のために戦車を作っていること、その戦車があとどのくらいの時間で完成するのかというのと、魅真にまかせてはいるが、念のための対策として、また奇跡の洞窟争奪戦のために作っていること、もし万が一の場合は、それでクロムの牢に突撃特攻することを聞いた。
その後は、毎日の仕事をこなすと、またクロムの偵察に行った。
「(司のことだから、きっと千空が、村の子の奪還のために、牢に突撃するのは読んでるだろうから、罠があるだろうなあ…。まあ、読んでなくても、対策くらいするだろうけど…。罠をはってると見て、まず間違いない。あの子を、すごいみつけやすい場所に幽閉しているし。あんなもの、みつけてくださいと言ってるようなものだしね。おそらくあの子は、人質でもあるけど、撒き餌でもある。あの子自身が罠!)」
偵察をしながら、罠があること、クロム自身が罠であることを見抜く。
「(千空が、どのくらいで準備を終えるかわからない。一応聞いたけど、あくまでも目安だし…。千空のことだから、手を休めずに製作してるだろうから、あまり猶予はない。となれば、決行は今夜。だけど、どうやって助ける?牢の中に入るわけにはいかない。かと言って、私が強行突破で見張りを倒せば、それこそ、大樹と杠が危ない。となれば、科学使いのあの子に、自力で脱出してもらうしかない!)」
魅真は、クロムを助けるのを今夜に決めたので、そのために、どんな道具が必要かを考えた。
その時、見張りの一人が、用を足すために移動するが、突然地面が崩れ、中には先端をけずった木や、ななめに切った竹があった。
「(やっぱり罠があった。まあ、千空が近いうちに来るかもって考えたら、当然のことね。問題は、他にはどこに罠があるかだけど…)」
罠があるのは予測していたが、きっと今の一つだけじゃないだろうから、魅真は準備するのはあとにして、どこにどんな罠があるかを探るために、もう少し見張ることにした。
「そこも!あそこも、そこも!全部、特攻に備えたトラップだ」
「カカカ!んじゃ、バカが人質助けに来ても、いいように全滅だな……!!」
「(あっさりわかっちゃった…。好都合だけど…)」
クロムがいる前で、罠がある場所を、見張りの一人が大声で説明していたので、魅真は彼の言動にあきれていたが、同時に好都合だとも思った。
「(ダメだ。罠だ千空。俺を助けに来てくれちゃ…。千空たちに知らせねえと。誰か……)」
罠を見たクロムは焦り、助けに来るであろう千空達の身を案じていたが、途中でハッとなり、両手で両頬を強くたたいた。
「(ヤベー。何言ってんだ、俺は。『俺を助けに来てくれ』る?『誰か…』?パパママ助けてのガキかよ。違うだろ。俺が助けるんだろが。千空たちをよ……!!脱獄してやるぜ。自力で!!科学の力で!!)」
両頬をたたいたのは、他力本願になっていた自分を奮起させるためで、脱獄することを決意する。
「そうだ。俺は、科学使いクロム…!!!」
クロムは強く真剣な目で、牢の外を見た。
Z=12 奇跡の洞窟争奪戦
クロムは、脱獄するのを決めたのはいいが、持ってた科学グッズを全部没収されて、何もない状態なので、どうやって脱獄すればいいのか悩んでいた。
壁や床は固すぎて掘れないし、石で何日もかけて、牢屋の竹を繋いでる縄を切るのも無理だと思った。
その時、外で人を殴る鈍い音がしたので、ぎょっとしたクロムは、そちらに目をやった。
「はい、ドーン!!」
そこでは、獅子のたてがみのように逆立った髪の男…陽がいて、持ってる警棒で、先程罠を崩した見張りの男を殴っていた。
「しゃーねーって!しゃーねー一発は!!だってお前、落とし穴潰したもん。無罪はねーし!で!もー終わり。はい、チャラ。これで」
「ご…ごめん陽君」
「ごめんとかいらねーから。チャラだから。逆に、お前のこと、これ以上とやかくゆー奴いたら、俺が許さねーから!」
陽が彼を殴った理由は、罠をダメにしたからだが、一発殴っただけで終わらせ、まだ謝罪する男の頭に、警棒をあてて、もう罠をダメにしたことを許した。
「あー、シンプルでいーわ。新世界!!旧世界で俺、先無かったし。リセット万歳だわ、マジで」
見張りの男を殴った陽は、もう使わないので、警棒を左の脇の下にしまった。
「(牢屋の…長的な奴か?あの陽ってのが。ヤベーな、なんか。動きづれえぞ、アレの前じゃ)」
それを見ていたクロムは、容易には動けないのを理解する。
「この石の世界(ストーンワールド)なら!俺、トップ張れるっしょ!?」
その陽は、男とあくしゅをした後、今度は腕を首にかけた。
「今、地球人類はさ、司、氷月、羽京で、3トップ的なノリじゃん?ち・が・うっつの。四天王だろ。この陽君いれて!!だから、ここでビシッとキメて、マウントとらねーと。原始人の捕虜エサにして、千空だっけ?罠にハメて、全滅させる!!」
「(やっぱりそうなのね。急がないと…)」
陽の企みに、魅真は冷や汗をかき、今夜確実に決行しようと決めた。
「これだけは絶対(ぜってー)キメる。絶対(ぜってー)成功させる!!!」
そして陽は、何がなんでも!といった感じではりきっていた。
「いいんスか?いや、策っぽいこと…たぶんアイツに聞こえてますよ」
「ん?別にアリっしょ。仲間に連絡とかムリだし」
策というより野望のようなものだが、男が注意しても、陽はまったく気にとめていなかった。
「気にすんなって。あんなのただの原始人じゃん!」
しかも、クロムのことを、明らかに下に見てバカにしているので、クロムは腹をたてた。
「おぅ、さっきから聞いてりゃ、誰がヒョロガリのアホ原始人だ」
「あれ、そこまで言ってなくね!?」
「後でほえ面かくんじゃねえぞ! (クッソ。見てやがれ、科学の脱獄!)」
腹をたてたクロムは、脱獄してやると、ますますやる気になる。
「(大丈夫かな、あの子…。陽は陽でアレだけど…)」
今のを見ていた魅真は、クロムがあまりにチョロすぎるので、ちょっと心配になった。
けど、陽も陽で、策っぽいこと聞かれてても気にしておらず、クロムを完全に下に見ていて油断しすぎなので、結構どっこいどっこいだと思っていた。
その夜…。魅真は牢がある、外側の道を歩いていた。
外だと罠があるが、罠の場所は把握したし、もし見張りに気づかれても、足の速さには自信があるので、いざという時は走って逃げられる。
だが、中だと確実に姿を見られてしまい、動きが制限されてしまう上に、逃げ場がないので、ヘタしたらつかまってしまい、大樹や杠やニッキー、千空達も危険な目にあうかもしれないし、クロムも脱獄しにくくなるかもしれないからだった。
魅真は、もし行動してるのがバレた時のために、正体が知られないように、服を着替え、黒くて長い、目だけが見えるマントをつけ、正体がバレてしまう可能性があるので、念のために、木刀ではなく、竹の棒を武器として持ってきた。
右手に竹の棒を、左手に、以前回収した、荷物の中に入っていた電池と、皮で包んだ小さな石器のナイフが入った袋を持って、それらのものを、みつからないように、マントの中に隠して歩いていた。ナイフは、電池が使えなかった時のための保険だった。
「(見張りと牢の距離、約5メートル。罠が途切れている場所の前。見張りが並んでいる横の感覚は、約3~5メートル。武器は石器の槍。その長さ、およそ2~2.5メートル。中の見張りは、扉の前に一人。その近くに二人。更には陽が待機してる。外は全員で四人。音をたてたら気づかれる可能性がある。なるべく音をたてずに、素早く牢の前に行き、即行で差し入れを中にいれて、すぐに戻ってくる)」
決行する前に、今日の見張りのシフト、人数、武器などの情報を、頭の中で整理する。
「(よし、行くか!!)」
いざとなれば逃げるが、そうなると、更に警備が厳しくなる。その場合、今後クロムを助けるのが、ますます困難になる。そうなったら、自分だけでなく、仲間が危ないので、魅真はかなり緊張しながら、前に進んでいた。
「(ん?あれは………羽京!?)」
歩いていると、目の前には羽京がいたので、魅真は驚きで、目を大きく見開いた。
「(しかも、中に何か入れてる?)」
羽京がクロムがいる牢の前にいて、しかも牢の中に何か入れたので、更に驚く。
「(まさか…あの子に差し入れ?)」
羽京は牢の前でしゃがんで、牢に向けて手を伸ばしていたので、そのように結論づけた。
「(少し、様子を見た方がいいかも…)」
羽京がいたので、今は動かない方がいいと判断した魅真は、踵をかえして、そこから去っていった。
羽京もまた、魅真の存在に気づいたが、知らないフリをして、魅真とは反対の方向へ去っていった。
魅真は牢から離れると、牢の近くの、背の低い木と背の高い木があるところに、身をひそめた。
それから数秒後に、牢の中からたくさんの男の声と、クロムと陽の声が聞こえてきた。
牢から離れているので、内容はすべて聞き取れなかったが、どうやら、クロムが羽京の差し入れで脱獄しようとしたが、失敗して見張りにみつかった後、何やら笑いものにされて、放っておかれたというのがわかった。
「(この差し入れは不要かな。一応持っておくけど…)」
羽京が差し入れしたので、もう自分の差し入れは不要かとも思ったが、何かあった時のために持っておくことにして、その日の夜は、ずっとそこで身をひそめていた。
そして次の日。
魅真は前日の夜から、ずっとそこにいた。いつクロムが出てくるかわからないため、また、いつクロムが、再び差し入れを必要とするかわからないため、ずっと木の影で待機していた。
「やべーー。檻ん中に熊が出たぞーーー!!」
その時、クロムの叫び声が聞こえてきた。
しかし、洞窟の中に熊が出るなんてありえないので、魅真はすぐにウソだとわかった。
「(あの子、動き出した!?てことは、脱獄が成功したの?)」
同時に、脱獄が成功したのではないかと思い、木の影から出て、アジトの影から少し顔を出して、様子を見てみた。
そこでは、アジトの中から出てきたクロムが、前日に見張りが崩した罠の中にある木の先端に、うまいこと、持ってきた竹の先端をのせて、棒幅跳びをしていた。
更には、罠の間をすりぬけて走っていくが、見張りは陽に殴られるのを恐れているので、追いづらいため、うまく動けなかった。
しかし、その後を陽が追いかけていき、当然クロムも逃げるが、上に走っていくと、その先は行き止まりになっていたため、それ以上は進めなかった。
もう闘うしかないと思ったクロムは、竹で攻撃するが、あっさりとよけた陽に殴られた。
しかし、クロムは途中で吐血して、肺炎にかかってると言った後、陽に向けて、口の中の血をふきつけ、陽がひるんで警棒を落とした隙に、竹で、陽の男性の急所をついた。
この攻撃で、陽は股をおさえてもだえ、その隙に、クロムは下に降りて去っていった。
「(さぁーて、千空たちがいる場所だが、さっぱりわからねえ。とりあえず、スイカが戻ってった方に進んでいって、望遠鏡で見えそうな道歩いてくか)」
来た道を降りていくクロムは、千空達がいる場所がわからないので、わずかな情報とカンを頼りに進もうと思った。
「!!」
だがその時、前から魅真が走ってきた。
「(敵!?)」
すごい勢いで走ってくるし、ここにいるということは敵だろうと判断したクロムは、あわてふためいた。
目の前からは、正体不明の人物がすごい勢いでやって来るし、かといって、上には陽がいるし、その上行き止まりで高い場所なので、どちらにも行くことができず、顔面蒼白になる。
そんなクロムの心情などまったく知らない魅真は、クロムの前にやって来て、走ってきた勢いのままクロムの腕をつかむと、そのままひっぱって、下に走っていった。
「なっ…お、お前…!!」
突然のことにびっくりしたクロムは、混乱した。
「(ヤベーー。なんなんだ、こいつは。なんで俺をひっぱる。どこに連れてく気だ。…まさか、司の手先か!?)」
もしかしたら、司のいるところに連れていかれるか、牢に連れ戻されるかもしれないと思ったクロムは、心臓が破裂しそうなくらいに早く鳴っていた。
「ま、待て…おい!!」
しかも、魅真の足の速さとクロムの足の速さが合わないため、魅真の速さについていけないクロムは、足がもつれた。
「おい、お前一体……おわっ!!」
それだとうまく走れないし、陽や他の見張りに追いつかれるかもしれないので、クロムが魅真に、誰なのかを聞こうとした時、突然魅真はしゃがみ、背中を丸めた。
そして、つかんでいた腕を、強制的に頭の方にひっぱってクロムを背負うと、立ち上がって再び走っていったので、クロムはますます青ざめる。
「(ヤベー。これじゃあ逃げようがねえぞ。せっかく脱獄できたってのに)」
ひっぱられてるだけなら、腕をふりほどくという手段もあるが、背負われると、足をホールドされた状態になるので、ふりほどくのは困難になるため、クロムは更に顔が青ざめ、冷や汗をかいた。
「おい!!誰なんだよ?本当に」
それでも正体を聞くが、魅真は何も答えなかった。
「無視かよ」
無視されたので、クロムは腹をたてるが、魅真はただひたすらに走り続ける。
「(にしても、こいつ足が速い上に、力も強え。コハクみてーだ。つーか、本当にどこに行くんだ?こいつ。司軍のアジトから遠ざかってるし、敵じゃねえのか?)」
アジトからどんどん離れているので、敵ではないかと思い始めたが、敵である可能性もすてきれないため、クロムは緊張したままだった。
走ること数分。
川の前まで来ると、急に魅真は立ち止まり、下にしゃがむと、背負っているクロムを、ゆっくりと地面におろした。
「え…」
突然おろされたので、クロムは更に混乱する。
「お前…敵じゃ……ないのか?」
地面におろしたということは、敵ではないのかもしれないと思い、再度聞いてみるが、それでも魅真は答えず、立ち上がるとマントをとった。
「!! (女…!)」
マントをとると、魅真の素顔が見えた。
一緒に走っている時も、背負われている時も、魅真の姿が見えなかったので、今初めて見る姿に、クロムは目を見張った。
「千空は、あそこに見える、崖の裏側にいる」
「!!?」
しかも、千空の名前を出したので、ますます驚いた。
けど、魅真はクロムの心情など知らず、崖を指さして、淡々と短く説明をした。
「この川にそって歩いていけばたどりつくよ」
「お前…千空のこと……うわっ!」
千空のことを知っているので、また質問をしようとしたが、魅真は手早くマントをたたむと、クロムに渡した。
「悪いんだけど、それ持っていってくれる?あと、この袋も」
マントだけでなく、腰にさげていた、電池とナイフが入った袋も渡す。
朝になって明るいし、司軍にみつかる可能性、それで疑われる可能性があるためだった。
「おい、お前は一体誰なんだ!?」
「…ごめん、急いでるの。だけど、いずれ近いうちにまた会えるよ」
「え!?」
「千空によろしくね」
クロムは再度正体を聞くが、それでも答えず、マイペースに話していた魅真は、それだけ言うと、そこから元来た道を走っていった。
嵐のように現れて、嵐のように去っていった魅真を、クロムは呆然として見送った。
クロムと別れると、魅真は寄り道をして、その後に、石像が置いてある洞窟で、いつもの服に着替えてからアジトに戻り、墓の出入口で大樹達と待ち合わせた。
「人質になっていた村の子が脱獄して、千空のもとに行った。だから、そっちの方は大丈夫」
「おお、そうか」
「すごい、魅真ちゃん」
「私の力じゃない。あの子が自力でがんばったんだよ」
そこにはすでに、大樹、杠、ニッキーがいて、他の司軍の人間に聞こえないように、クロムが脱獄したことを、三人に小声で報告をした。
報告を終えると、墓標の前まで行き、いつものように墓参りをして、少しだけ千空と通話をした。
そして、お参りと通話が終わると、ニッキーに顔を向けた。
「ニッキー、特訓は順調?」
「ああ、もちろんだよ。なかなか筋がいいよ。もう100点満点だ」
ゲンの特訓のことを聞くと、うれしい答えが返ってきたので、魅真達は顔が明るくなる。
「さすがニッキー。じゃあ、もう作戦実行まであまり時間がなさそうだから、今日で一気にいくわよ」
「「「おお!!」」」
うれしそうな顔と声で、気合をいれて声をかけると、大樹達も気合いの入った返事をした。
同じ頃、千空達がいる崖の裏にたどりついたクロムは、自力で脱獄したことに、千空や村の人間に称賛されていた。
「すごいんだよ、科学。脱獄までできちゃったんだよー!!」
クロムが脱獄したことに、村人達はお祭さわぎだった。
「いったい、どうやって竹の牢を破ったのだ?」
「おぅ、それな!大樹たちの助太刀だ。差し入れの電池で、薬品作ってやったのよ!!」
脱獄した方法を、コハクに問われると、クロムは簡潔に説明した。
「ククク。大樹の雑頭で、んな気の利く小細工100億%ねえよ」
けど、大樹をよく知る千空は、クロムの言ったことを否定する。
「では、魅真か杠か!」
「消去法だとな」
大樹ではありえないとなると、残りは魅真と杠なので、もしかしたらと思い、コハクは千空に問うと、千空からは微妙な答えが返ってきた。
「ただ、杠は――極秘ミッションで死ぬほど忙しいはずだ。やるべきことほっぽらかして、勝手に動くような女じゃねえ」
けど杠は、千空が与えたミッションをこなしており、ミッションの内容と、杠の性格を考えると、それはありえないので、杠である説を否定した。
「では魅真か?クロムを助けると言っていたしな」
「たぶんな」
となると、もう残りは1人しかいないので、以前クロムを助けると言っていたのもあり、コハクは魅真だろうと言うと、千空からは、また微妙な答えが返ってきた。
「ところでクロム、ずっと気になってたんだが…」
「なんだよ?」
「その手に持ってる布と袋はなんだ?」
差し入れした人物について、クロムとコハクで推測していたが、話がひと段落すると、千空はずっと気になっていたことをクロムに聞いた。
「おぅ、これな。実は、司軍のアジトからこっちに向かおうとした時、妙な奴に会ってよ」
「「妙な奴?」」
その答えに、千空もコハクも顔をしかめた。
「見張りの長的な奴を倒して、アジトから去ろうとしたら、急にそいつが走ってきてよ、俺の腕をつかんで、強制的にひっぱってったんだ。しかも途中でおんぶまでしてよ。んで、その女、川の前まで来たら、このマントと袋渡して、一方的にまくしたてて、司軍のアジトの方に戻ってっちまったんだよ」
「確かに妙だな」
クロムの説明を聞くと、コハクも変だと思い、顔を更にしかめる。
「そういやそいつ、千空によろしくとか言ってたな」
けど、次に出た言葉に、千空とゲンは目を見開いた。
「その子って、ひょっとして髪長かった?」
「おぅ」
「んじゃ、魅真ちゃんだねえ」
「あ゙ぁ。しかも、男をおぶって走るとか、女でそんな芸当ができる奴は、魅真しかいねえわな」
クロムにいろいろと聞くと、千空とゲンは、すぐに魅真だとわかった。
「たぶん、クロムが迷っていたら、敵にまたつかまっちまうって考えてのことだろうよ。あいつは足速いから、誰も追いつけねえしな」
「魅真さんは、本当に、クロムを助けてくださったんですね」
「正確には、クロムが差し入れ使って、自力で脱獄したんだがな」
「それでも、命をかけて、見ず知らずのクロムを助けようとしてくださったことには、違いはありません」
「…まあな」
ルリは、魅真に感謝をした。
正確には、魅真が助けたわけではないが、それでも命をはりながら、ずっと必死に動いてくれて、この場所の近くまで連れてきてくれたので、ルリが言ったことに、千空は静かに同意した。
「まぁ、いいじゃねえか。助かったんだしよ!」
あまり細かいことを気にしていないクロムは、結果オーライで終わらせた。
すると、後ろから戦車が、すごい勢いで走ってきた。
「オホホー。おかげで可愛い戦車スチームゴリラ号を、ポイしないですんじゃうの~」
「あ゙ぁ。最終決戦場攻め落とすのに、戦車ブチこめんのは、アホほどでけえぞ…!!」
戦車は千空とクロムの前で止まり、運転していたカセキはうれしそうに笑い、見たことのないものに、クロムはぎょっとしていた。
「最終」
「決戦場…!?」
「決戦は、『奇跡の洞窟』争奪戦だ!!なんせ、洞窟に湧く硝酸がありゃ、復活液も作れる!火薬も作れる!」
「!!」
「つまり!その洞窟さえ奪ってしまえば」
「司帝国のみんなは、戦う人増やせなくなって―」
「さらにこっちは、科学の最強武器ゲットってことぉ…!?」
「『科学王国VS司帝国』。このゲームの勝利条件はな、敵の殲滅とかじゃねえ。奇跡の洞窟をおさえた奴が、勝者なんだよ…!!!」
「となれば、司たちも!全兵力を投じてくるぞ」
「でも、むこう100人はいたんだよ…?」
「行けんだろ。千空の妖術…科学の武器がありゃよ!」
「こちらの戦闘員は10数人。あまりに多勢に無勢だ!!」
千空が、決戦場所や勝利条件を話すと、コハク、銀狼、銀狼の兄の金狼、マグマ、スイカで、最終決戦について話し合った。
「ククク。そのために今、メンタリストがガンバってんじゃねえか」
科学王国側は、村の人間と魅真を足しても、戦闘員が少なすぎた。
けど、千空は気にしておらず、千空が顔を向けた先にいる崖の上では、ゲンが、レコードでリリアンの歌を流して、作戦を開始していた。
同じ頃、電話がある千空の墓では、そのレコードの歌が流れていた。
墓には魅真達と、魅真がリストアップしておいた司帝国の人間が何人かいて、レコードの歌を聴いていた。
「この歌……」
「リリアン・ワインバーグだ!!」
「マジモンの………!!」
彼らもリリアンを知っており、リリアンの歌を聞いた彼らは感動して、目を輝かせていた。
「Hi, Y'all! People of Japan,,, Are you listening?(聞いてください。日本の皆さん!)」
歌が流れた後、ゲンがリリアンのモノマネで受話器から話しかけており、その話し方は、以前と変わっていた。
「(いいね。特訓の成果だ。リリアンの微妙な南部訛りまで!100点満点だよ、ゲン!!惚れちゃうね)」
もちろんこれは、ニッキーとの特訓の成果だった。
「アメリカは、既に文明復興してるんです!もう全員助かります!!」
「「「うぉおおおおお!!!」」」
リリアン(ゲン)からのウソの情報に、彼らはすっかり喜び、大樹も一緒に喜んでいるが、杠は後ろめたそうな顔をして、冷や汗をかき、体が震えていた。
「し!声がデカいよ、アンタたち。いいかい、司は旧世界の権力を拒絶してるんだ。復興したアメリカ軍と、仲良しこよしするとでも思うのかい!?」
「いや、拒絶もクソもねえよ」
「もうアメリカ復興してるっつってんだから」
「どんだけ司が最強でもよ、銃持った連中来たら終わりじゃねえか!」
羽京を警戒しているニッキーは、彼らにもう少し声をおさえるように注意するが、興奮状態の彼らは、お祭りさわぎだった。
「はい!!その通りです♪ただ――私たちアメリカ軍の到着までは、多少時間がかかります!司くんの石像破壊だけは、早めに止めておきたいところなので、それまでは皆さん!!千空くんの作戦に、従ってくださいね♪」
そんな彼らに、リリアンを演じるゲンの悪魔の声がささやくが、電話の向こうにいるのが、本物のリリアンだと信じて疑わない彼らは、大興奮で喜んでいた。
「(少し不安はあったけど、案外うまくいくものね。ゲンのモノマネが、前よりもよくなってるっていうのもあるんだけど…。でも、こんな原始的な電話で、アメリカまで通じるわけないし、そもそも、なんで世界トップクラスの歌唱力をもつ、有名人のリリアンが、日本の一高校生でしかない千空の作戦に従えと言ってることとか、どうやって知りあったのかということに、誰も疑問を抱かないんだろう?私が、電話の向こうにいるのがニセモノだってわかってるのもあるけど、やっぱりちょっとふしぎ…。それだけ、精神的に切羽詰まってるとか、今の状況に、不満や不安があったってことかも。まあ、好都合でもあるんだけどね。変に疑われるよりも、素直に信じてくれる方がやりやすいから…)」
興奮する彼らを見た魅真は、いろいろと疑問に思うことがあったが、作戦自体はうまくいってるので、そこは自分の胸一つにしまっておくことにした。
それから、魅真や大樹や杠が、リストアップされてる中で、まだ呼んでいない者達を連れてきては、何度も同じことをくり返した。
歌を聴かせ、ゲンがリリアンの声で語りかける。この効果は抜群で、次々に仲間が増えていった。
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