Z=9 電話ごしの再会
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ゲンが旅立ってから数日後…。氷月とほむらと手下たちが、司の玉座から出てきた。
「(あれは…氷月とほむら!?)」
いつものように、玉座近くの穴の出入口の部分にすわって布を織っている時、氷月達が玉座から出てくる姿を目にした魅真は、驚きで手が止まり、大きく目を見開く。
「(もしかして…あの2人が、新たに選抜された、村に行くメンバー!?)」
玉座から出てきたのと、チームで動くなら、強いリーダーが不可欠だと理解しているのと、ゲンが旅立つ前に教えてくれたメンバーの手下達が、氷月とほむらの後ろにいるのとで、魅真は、もしや氷月とほむらが、新たに、村に行く先鋒隊のメンバーなのではないかと察した。
「(だとしたら…これはまずいかも…)」
司でもやばいが、氷月もまたやばいので、魅真は冷や汗をかいた。
「(千空……ゲン……)」
氷月の強さを見たことがある魅真は、千空とゲンの無事を祈った。
Z=9 電話ごしの再会
氷月とほむらが村に旅立ってから数日後…。
魅真はいつものように、薬草の畑にまくための水を持って歩いていると、アジトに続く坂道の前で、氷月の姿を目にした。
「(氷月!!帰ってきたの?)」
しかも、そこにいたのは氷月だけで、一緒に行ったはずのほむらや、先に旅立ったはずのゲンや、手下達6人の姿はなかった。
「(でも、氷月だけ?ほむらと脳筋たちと、なによりゲンがいない。まさか…)」
嫌な予感がした魅真は、冷や汗をかいた。
本当は話を聞きたいが、みつかったら疑われるので、断念して、予定通り畑へ行った。
一方氷月は、玉座に入ると、司と向かい合った。
「…ゲン君の報告は、全て出鱈目です。村は既に、強大な科学力を持っていました。生きていたんです。千空クンが―」
司の数メートル手前で止まった氷月は、村で起こったことを報告した。
司の横に控えていた男性は、何気なく司を見ると、恐怖で固まった。それは、司が目を大きく見開き、見たこともないような、恐ろしい顔をしていたからだった。
「そして、一緒に行った手下たちは、千空クンの謀略で死にました」
「「!!」」
だが、次に氷月の口から出た報告には、司は驚きで固まってしまう。
それは、司だけでなく、この場所にいた羽京もだった。
「(そんな…。しかも、千空の!?)」
以前、千空の仲間の杠が、石像を直しているのを目にした羽京は、千空に対して、どちらかというと、良いイメージをもっていた。
それだけに、今の氷月の報告には、かなり動揺した。
氷月の報告はそれで終わり、玉座を出た羽京は、1人アジトの周りを歩いていた。
「(復活者の中から、とうとう死人が出てしまった。そんな…。僕は、誰にも死んでほしくない。そのために、復活者の間で、ケンカが起こる度に仲裁に入ったのに。僕がやってきたことは、一体なんだったんだ。しかも、彼らを殺したのが千空!?)」
羽京のショックは依然として抜けておらず、全身が震えていた。
「(けど、杠が石像を直していたというのは、おそらく千空も知っているはずだ。魅真だって、石像をひろい集めていたんだから…。それなのに、彼らを殺した!?千空は、本当に人殺しなのか?どうにも信じがたい。確かめたい。今すぐにでも…!!)」
手下の男達が死んだのは間違いないだろうが、それが、千空の手によるものだとはどうしても信じられない羽京は、下の方に降りていった。
その頃、魅真は畑の前でしゃがんで、ぼんやりとしていた。
水はまき終わったが、考えごとをしていたからだ。
「(氷月が1人だけで帰ってきたということは、千空が生きてるのがバレたということ。ゲンもいなかったから、ゲンが裏切ってるのもバレたんだ。おそらくほむらは、監視のために残った。だけど、他の手下がいないのはどういうこと?言っちゃなんだけど、あの脳筋たちが、監視をできるとは思えない。他の、何か重要な任務でもあるの?)」
それは、今回のゲンや氷月の任務のことだった。
ゲンの裏切りがバレたのはわかったし、ほむらのことも想像はついたが、男達のことはよくわからなかった。
「(となれば、私達が内通者だって、すでにバレているでしょうね。それでも、科学王国が勝つためには、これまで通り、素知らぬフリをして、司帝国に潜入していなくてはいけない。司の性格を考えると、簡単に攻めてきたりはしないだろうから、そこを利用しよう。それに、千空だって、次の手をうつために、何かしら準備をしているはず。その時がくるまで、私は私のミッションをこなす!!)」
情勢はいいとは言えないが、それでも千空のことを信じて、魅真は来たるべき時のために、自分がするべきことを、再度決意する。
「(そろそろ戻ろう。考えごとなら、他のことをしながらでもできるから。時間がもったいないし)」
決意をすると、そこから移動するために立ち上がろうとした。
だがその時、立ち上がるために、足に力を入れようとすると、急に頭上が暗くなった。
なんだろうと思いながら、しゃがんだまま後ろへふり向くと、そこには氷月が立っており、その細く鋭い目で、睨むように魅真を見下ろしていた。
「(氷月!!)」
まさか、氷月がこの場所に現れるとは思わず、魅真の心臓は、早く鳴り響く。
目の前にいる氷月は、鋭く、冷たい、恐ろしいほどの目で、魅真を見ていた。
「…なにか…用事?」
今まさに考えていた人物が現れたが、魅真は冷静に、ここに来たわけを聞いた。
「薬草をもらいに来たんですよ」
わけを聞くと、答えは意外なもので、意表をつかれた魅真は目を丸くした。
「道中ケガをしてしまいましてね。傷にきく薬草をいただきたいのです」
氷月は証拠を見せるように、右腕にできた傷を見せる。
「あ…それなら…」
鋭い目で睨んでいたので、てっきり、今回の任務のことで、何か言われるのかと思ったが、違ったので、驚きつつも、畑から薬草を3枚とり、その場を立ち上がると、氷月と向かい合った。
氷月は薬草をもらいに来たと言ったが、相手はあくまで氷月なので、魅真は警戒を怠らなかった。
「これを使うといいよ」
「ありがとうございます」
そして、氷月に薬草を渡そうと手をのばし、氷月も薬草を受け取るために手をのばした。
すると、薬草を受け取るために手をのばした氷月は、薬草をとるのではなく、魅真の腕をつかんだ。
腕をつかまれると、魅真の指が離れ、手ににぎられていた薬草が、ゆっくりと宙を舞い、下に落ちる。
「氷月?」
腕をつかまれたが、ある程度想定内だったので、そんなには驚いてはいなかった。
「話があります。ついてきてもらえますか」
そう言うと、氷月は魅真の腕を離し、踵をかえして歩きだす。
氷月に誘われると、魅真は警戒しながらも、氷月のあとについていった。
氷月のあとについていくこと数十分。アジトからある程度離れた森の中で、氷月は立ち止まったので、魅真も同じように立ち止まる。
立ち止まった氷月は、背を向けていた魅真と向かい合った。
「話ってなに?」
向かい合うと、会話を切り出したのは魅真だった。
「千空クンのことですよ」
話を切り出されると、いきなり核心をついてきたので、魅真は心臓が大きく鳴った。
「知っているでしょうが、私は、以前ゲン君が言っていた、原始的な村を攻めるための先鋒隊として、箱根へ行ってきました」
「(やっぱり……内通者だってバレてる…?)」
核心をつかれ、次に出てきた言葉で、魅真は、もしや氷月に、内通者だとバレてるのではないかと思った。
「そこには千空クンがいました。村はすでに、強大な科学力を持っており、一緒に行った手下たちは、千空クンの謀略で死にました」
「え…?」
氷月の口から出てきた、手下が千空の謀略で死んだという言葉にかなり驚き、氷月を疑った。
「(ウソね。村が強大な科学力を持ってるというのは本当だろうけど、手下たちが、千空の謀略で死んだのは大ウソだわ。確かに千空は、下衆で、合理的すぎて、たまに最低なところはあるけど、人を傷つけるような言動はとらない。ましてや殺すなんて…。手下が死んだというのは本当だろうけど、たぶん氷月がやったんだ)」
千空は、親友でもあり、幼馴染でもあった。
昔からの付き合いで、よく知ってるので、あっさりと氷月のウソを見抜いたのだった。
「(魅真クンは…おそらく、私のウソに気づいている。千空クンの親友ですからね)」
だが、氷月もまた、自分が言ったことがウソだと、魅真が見抜いていることはわかっていた。
「それともう1つ…。ゲン君が裏切りました。千空クンについたのです」
「え…ゲンが? (やっぱり!)」
今度はゲンの話になり、ゲンが裏切ったと言われると、確認するように返すが、そんなことは最初から知っていたし、先程氷月を見た時、ゲンがいなかったので、ゲンの裏切りがバレたのだということは、容易に想像がついたため、内心は驚いていなかった。
「ほむらクンは、監視のために村に残りました」
「(なにが言いたいんだろう。千空の生存と、ゲンの裏切りを知ったのなら、右腕のほむらが監視に残ったのなんて、容易に想像がつく。それなのに、この確かめるような話し方は、一体なに?)」
自分が内通者だというのは、きっと氷月も知ってるだろうに、そうでなくとも、千空の生存とゲンの裏切りで、容易に想像がつくのに、だというのに、確認するように話し、なおかつ魅真に責め問いをするでもなく、攻撃するでもない氷月に、疑問を抱いた。
「そこでです。私につきませんか?魅真クン」
「は?」
箱根で起こったことを話したと思ったら、いきなり氷月の部下になるように誘われたので、魅真はすっとんきょうな声を出す。
「ほむらクンがいない今は、ここでの私の部下はいません。だからといって、その辺の有象無象では話になりません。ちゃんとした人でないと。君は、剣道の大会で何度も優勝したことのある実力者。ちゃんとした人間だ」
「(やっぱり、内通者だってバレてる)」
魅真は、今の氷月の発言で、自分が内通者だと知られていることを、完全に確信する。
「(それに氷月…その言葉はね、自分はこの司帝国で、なにか企んでますって言ってるようなものなのよ!)」
同時に、氷月が自ら、野心を持った人間だと暴露したことも理解した。
「(でも、なんでこんなこと…。氷月流に言えば、氷月はちゃんとした人間なのに…。私がいなくても、どうとでもできるだろうに…。第一、ほむら以外の人間を信用していない氷月が…なぜ私を?)」
しかし、疑問もまた生まれた。
ほむら以外の人間を信用していない氷月が、なぜ自分を誘うのか。なぜ、司とならんでる実力者の氷月が、内通者ではないかとわかってるだろうに、そのことを責めることもせずに、わざわざ自分を誘ったのか。魅真はふしぎでならなかった。
「お断りよ」
疑問に思うことはあったが、魅真ははっきりきっぱりと断った。
「あなたが、どんな意図で私を誘ったのかはわからないけど、私はあなたの下にはつかない」
「君はゲン君にだまされていた。裏切ったんですよ。君はずっと、ゲン君に利用されていた」
「確かに、一緒に村に行ったはずのゲンがいないということは、そういうことなんだろうけど…。私は、ゲンとは純粋に付き合ってた。ゲンが私をだましてるなんて知らなかったわ」
氷月は魅真の心を揺さぶるが、魅真は動じることなく、最初の設定を貫き通した。
「(あくまでも、ゲン君にだまされていたとは、知らないことを通すのですか。そのことで、自分だけでなく、千空クンと大樹クンと杠クン、ゲン君や、村の人間をも守ろうとしている。実にいいですね。とてもちゃんとしている)」
最初の設定を貫き通すと、氷月はますます魅真を気に入ったようだった。
「(これだけちゃんとしていれば、私にとっては利得でしかない。捨て駒にするには惜しい人材だ)」
氷月は魅真を仲間にするために誘っていたが、仲間と言っても駒扱いだった。
「話はそれだけ?じゃあ、私は用事があるから」
これ以上探られても面倒だし、たぶん、話はもう終わりだろうと判断した魅真は、強制的に話を終わらせて、そこから去っていくが、氷月は魅真を追うことはしなかった。
魅真は氷月と別れると、無言で森の中を歩いていき、アジトから離れていった。
そして、先程氷月といたところから、数キロ離れた場所まで歩いて行くと、近くにあった岩の上にすわる。
「(やっぱり思った通りだった。千空が生きてるとバレてたし、ゲンが裏切ってることもバレてる。そして、きっと…私のことも…。これからどうするかを、ちゃんと考えなきゃ)」
ミッションをこなすのはもちろんのこと、このことは近いうちに、司帝国の人間全員に知れ渡るだろうし、魅真と大樹と杠に対する警戒と、警備が更に厳しくなるだろうから、こちらもちゃんとした手立てを考えなくてはいけなかった。
「(でも……それはそれとして、あの人たち……死んだんだ…)」
しっかりしなくてはいけない。そう思ったが、魅真はふいに、氷月と一緒に村に行った手下たちが亡くなったと言われたのを思い出し、目から涙があふれた。
あの男達に、思い入れはまったくなかった。敵だからというのもあるが、魅真が剣道の大会で何度も優勝してると知っても、ただの女のヒョロガリと見下して罵倒してきたので、いい思い出なんてないからだ。
けど、そんなことはまったく関係なく、魅真は誰が…ではなく、人が亡くなったという事実にショックを受け、目からたくさんの涙が流れ、頬を伝った涙は、地面に落ちてシミを作った。
その様子を、木の上から、羽京がこっそりと見ていた。
千空の生存とゲンの裏切りは、遅かれ早かれ魅真の耳にも入るだろうから、何か動きがあるかもしれないのと、氷月の報告の内容が気になり、どういうことなのか知りたいので、魅真を見張っていれば、何かしら情報が得られるかもしれないからだった。
「(はっきりとした答えは得られなかったが、魅真と氷月の会話の雰囲気からして、千空は悪い人間ではないだろう。けど、まだ予想だ。100%確実だとわかるまで、油断はできない。これからも、もっと情報を集めて、その時を待つ!千空が生きてるとわかった司が、そんなに長く放っておくわけがない。だからといって、闘いがどれほど長引くかわからない以上、今すぐに攻めることはしないだろう。おそらく、決戦は冬があけてからだ。その前に、なんらかの連絡が、魅真達にあるはず!これからも、魅真を中心に、3人を見張る!)」
思った通りの情報を得ることはできなかったが、羽京は予想をたて、これからの身のふり方を考えた。
「(千空が生きていたことは、僕にとってはプラスだ。これで、状況を打破できるかもしれない。けど、これはあくまでも、周りの人間からの情報だ。僕自身が、千空がどういう人間かを見極めるまで、安心はできない)」
そして、千空が生きていたことに希望を抱くが、それでも今の状況を打破できるかどうかは、正直言って五分五分なので、まだ油断はしないようにしようとも思った。
羽京が木の上にいることも、羽京がそのようなことを考えているとも知らない魅真は、まだ岩の上にすわって泣いていた。
その時、突然空が大きく鳴ったので、魅真は空に顔を向けた。
空は、先程まで快晴だったのに、急に暗くなり、天気が悪くなる際の、ゴロゴロという音が鳴り響いた。
「(雨がふるかもしれない。そろそろ帰らなきゃ)」
空で音が鳴ったからといって、必ずしも雨がふるとは限らないが、可能性はあるので、魅真はその場を立ち上がり、アジトに帰ろうとした。
「(遠くに来すぎたから、もしかしたら、少しぬれるかも…)」
この世界に傘はないし、途中で雨が降るかもしれないので、多少ぬれるかもしれないことを予想する。
「(でも、雨がふれば、涙の痕も見えなくなる。この、周りがほぼ敵しかいない中で、涙を見せるわけにはいかない。敵は必ずそこをつくし、大樹と杠にも心配をかけてしまう)」
けど、雨がふるのは、ある意味では好都合だとも思っていた。
「(でも、それだとアジトに戻らず、ある程度時間が経つまで、外にいた方がいいかな)」
涙を袖でふいて、どうしようかと考えていると、頬に水があたった。
空を見上げると、黒い雲が広がっており、雨が次々にふってきて、雨脚も強くなった。
それだけでなく、遠くの方で、雷が落ちる大きな音も響いた。
「(ぬれた上に、外にいるのはまずいかも。多少のリスクはあるけど、アジトに戻るかな…)」
ヘタしたら雷が落ちる可能性もあるので、死ぬよりは、リスクがあった方がまだマシだと考えた魅真は、やはりアジトに戻ろうとした。
「(でも、こっからだと遠いなぁ…。確か、この辺に洞窟があったから、そっちの方に……)」
しかし、アジトまでは数キロ離れているので、どこか雨宿りできるところへ行こうと考えると、突然腕をつかまれ、強制的に走らされた。
「羽京!?」
魅真の腕をつかんで走っているのは羽京で、突然の羽京の出現に、魅真は驚いていた。
「(もしかして、一部始終を見られてた?いつから?まさか、氷月とのやりとりの時から!?)」
走っている音があまり聞こえなかったので、木の上にいたのではないかと思った魅真は、羽京に、氷月とのやりとりを見られていたのではないかと予想した。
「(変なことは言ってなかったはずだけど、それでも、会話はしていた。もしも、その会話から、わずかなヒントをみつけだしたのだとしたら!!)」
以前、大樹と杠に、言葉や行動は、相手の人となりを知る鍵だと言ったことがあった。それは、第三者にも、自分のことを知られてしまうということなので、魅真は心臓が強く鳴り響く。
「(もしも…さっきの会話で、千空のことを知られてしまったら…。それに、さっき泣いてるところも見られていたら)」
千空の生存は、もう知られているだろうが、それ以上のことも知られてしまったら、泣いているのも見られていたら、そこをつかれるかもしれないので、魅真は今の状況を危惧した。
かといって、無理矢理に手をふりほどくのも、それはそれで疑われるかもしれないので、今はなりゆきにまかせることにした。
羽京に連れられて来たのは、さっきいた場所から、わりと近いところにある洞窟だった。
「(ここは、私が行こうとしていた…)」
魅真が羽京とともに来た洞窟は、まさに、魅真が向かおうとしていた洞窟だった。
羽京は洞窟の中に入ると、魅真から手を離して、火を起こした。
「どうしたの?立ってると疲れるから、すわったら?」
「え?うん…」
火を起こすと魅真に顔を向けて、すわるように促す。
促されると、魅真は近くにある岩にすわり、羽京も人1人分くらいの距離をあけて、魅真の隣にすわった。
「(気まず!)」
魅真は気まずさを感じた。
羽京が微妙な距離を保って隣にすわったのもだが、たぶん氷月とのやりとりや、泣いてるシーンを見られていただろうし、そうでなくても、恋愛経験がゼロで、男性に免疫がないため、特に何かあるわけではないが、若い男性と、せまい空間で2人きりというこの状況に緊張していた。
「(羽京は、どういうつもりで、私をここに連れて来たんだろう。別に放っておいたっていいんじゃ。ていうか、放っておいてほしかった)」
ここに連れてきた羽京の意図がまったく読めず、もしかしたら涙の痕を見られてるかもしれないので、あまり関わってほしくないと思っていた。
なので、極力羽京と目を合わせないように努め、目の前の焚き火に目をやった。
「(さっき、魅真は確かに泣いていた。なぜ泣いていたんだ。千空が生きていたから?ゲンが裏切っていたから?いや、たぶんどちらも違う。その返答には、動揺がみられなかった)」
羽京はその聴力で、千空の生存と、ゲンの裏切りに対する、魅真の返答する時の声に、動揺が感じられなかったのを知った。
「(ということは、やはり手下達を殺したのは、千空ではないんじゃ…。それに、ゲンの裏切りに動揺を感じられないということは、ゲンが司を裏切ってるのを、最初から知ってたんじゃ!まさかダブルスパイ!?それなら、付き合っていたのはウソで、情報共有のために!?だとしたら、僕をはじめとする、司帝国の人間の情報は、魅真にすべて知られているといっていい。それだけじゃない。司帝国のことを全て…)」
その情報で、手下達を殺したのは千空ではない可能性、ゲンの裏切りを、魅真が最初から知っていた可能性を考える。
「(ゲンはきっと、村にとどまってる。なら、僕たちのことも、千空にも知れるはずだ。村が襲撃を受けた以上、司の総攻撃のことは、千空も読んでいるだろうから、何かしらの準備をしているはずだ。それなら、今の僕の心を解き放つ、切り札になるかもしれない!!)」
それらのことを考えると、羽京は希望をもった。
「(けど、それなら、なんで魅真は泣いていたんだ。僕の仮説が正しければ、魅真にとっても喜ばしいこと。心を揺さぶられることなんてない。…まさか!手下たちがやられたから!?)」
泣いていた理由が、千空のことでもゲンのことでもないなら、もう可能性は1つしかないので、その可能性に羽京は驚いた。
「(なぜ魅真が、手下たちのことで涙を流すんだ?魅真にとっても手下たちにとっても、お互いに敵だった。しかも魅真は、彼らに罵倒されていたこともある。それなのになぜ…)」
しかし、どんなに考えても、答えも、仮説すら出なかった。
「(けど、魅真が泣いていた事実も、今の状況を破る打開策になる可能性がある以上、まだまだ情報が必要だ。あの時、魅真が涙を流す時の音は本物だった。つきとめたい。けど、聞いたところで、いつもみたいにはぐらかされたり、笑って流されたりするだけだ)」
なので、知りたいと思ったが、魅真は何を聞いてもはぐらかしたり、笑って受け流してしまうので、どうしようかと悩んだ。
「魅真…」
悩んだが、悩んでいたところで答えは出ないし、ある程度の会話がなければ、情報も手に入らないと判断した羽京は、魅真に声をかけた。
声をかけられると、魅真は無言で羽京に顔を向ける。
「なんで…そんなに、苦しそうで、辛そうで、悲しそうな顔をしているの?」
それは、いつか魅真が羽京に言った言葉だった。
だが、それは本当のことだった。
魅真は、普段から極力ポーカーフェイスを貫こうと努めてはいるが、手下たちが死んだショックで、羽京が言った通り、苦しそうで辛そうで悲しそうな顔をしていたのだった。
ポーカーフェイスをしてるので、読みとりにくいが、それでも、わずかな表情の動きを見逃さなかった羽京は、情報を手に入れるために、遠回しに聞いてみた。
その質問に、魅真はドキッとした。
ポーカーフェイスをしていたはずなのに、羽京にバレてしまったからだ。
「…羽京こそ」
「?」
「とても…苦しそうで、辛そうで、悲しそうな顔をしているわ」
羽京の質問に、魅真は羽京と同じ言葉を返す。
その返答に、羽京は面を食らって、目を丸くした。
本当のことを言うわけにはいかないので、はぐらかしたというのもあるが、魅真が今言ったのは、本当のことでもあった。
その質問をした羽京自身も、まだ手下たちが死んだ事実に動揺しており、魅真が言った通り、苦しそうで辛そうで悲しそうな顔をしていたのだ。
はぐらかされたことよりも、また自分の心を見抜かれたので、羽京は動揺した。
魅真は羽京の質問に返すと、再び焚き火に目を向けた。
それと同時に、小さなくしゃみをした。
「大丈夫?ずいぶんとぬれてしまったからね。風邪をひかないように、もっと近くであったまった方がいい。僕も、服はこの一枚だけで、上着とか着ていないから、貸すことはできないんだけど…。本当にごめん」
くしゃみを1回しただけで、すごく心配してきたので、魅真は驚いて目を見開く。
「なんで謝るの?」
「え?」
「羽京が謝ることじゃない。雨がふってきたのは偶然だし、雨にぬれてしまったのも偶然。誰のせいでもないのに…」
「それはそうかもしれないけど…。やっぱり、相手が風邪をひいたら、いい気分にはならないだろ?だからといって、今の僕には、火を起こす以外は何もできない。女の子だから、体を冷すのはよくないしね」
とても謙虚で、自分を気遣ってくれる羽京の優しさに、魅真は一瞬胸が高鳴った。
「(羽京…。真意のほどはよくわからないけど……それでも……やっぱり、悪い人じゃないのかも!)」
司帝国の人間である以上は、羽京は敵にすぎないが、それでも、他の司帝国の人間よりは、好印象を抱いた。
「私は…大丈夫だよ。それよりも、私をここに連れてきたのって、雷が鳴ったからだよね?ぬれた状態で外にいたら危険だから。だから走って、ここに連れてきてくれた。違う?」
「それは…そうだけど…」
「ありがとう。羽京は優しいんだね。羽京も同じようにぬれたんだから、ちゃんとあったまらなきゃ。羽京こそ風邪ひいちゃうよ」
「え…うん…」
「もし体調が悪くなったら、遠慮なく言ってね。その時は、薬草持っていくから」
羽京は、今の魅真の言葉に目を見張った。
先程質問をした際の返答の時、魅真の声に、わずかに動揺が見られた。
だが、今の魅真の声には、動揺は微塵も感じられない。
それなのに、本来は敵同士なのに、自分のことを気遣っている。いざという時は、また助けようとしている。
「ありが…とう…」
それがふしぎでならなかったが、どこか心地よさも感じた羽京は、魅真の正体不明の優しさが気になった。
それから、1時間ほどすると雨はやみ、空は再び快晴になったので、魅真は羽京とともにアジトに戻り、アジトに戻ると、それぞれ別れた。
「(この司帝国の鍵となる人物は、司以外には間違いなく氷月だから、これまで以上に氷月を調べなきゃ。でも、相手は氷月だから、無理のない程度にしないと。そして羽京…。羽京も間違いなく、司帝国の鍵となる人物。3トップと言われてるから、要注意人物の1人だわ)」
羽京と別れると、魅真はこれからのことを考えた。
「(けど、羽京は最初の方に目覚めたけど、誰にも心を許していないように見える。私みたいに、内通者じゃないのに。ちょっと気になるな…。だけど、氷月だって、ほむら以外は信用していないんだから、これはもう性格かな?ここの人たちは、別に、仲良しこよしな集団ってわけじゃないし)」
3トップの司、氷月、羽京は、敵なので当然調べる。けど、それとは別に、個人的に羽京のことが気になっていた。
けど、考えてもわからないので、予想ではあるが、自分なりに推測して、軽く納得させた。
「(だけど、やっぱり気になるな…。司のところにいたであろう羽京が、責め問いもせず、助けてくれた上に、心配もしてくれるなんて。あの優しさが、演技だとは思えないし…)」
羽京の、司帝国での地位は高く、見張りの仕事と休み以外の時は、玉座にいることが多い。そのことを把握している魅真は、ふしぎに思った。恐らくは、もう魅真と大樹と杠が内通者だというのは知っているだろうに、氷月と違って、そのことについては何もふれず、それどころか、魅真を気遣っていた。それは、魅真を油断させて情報を探るという可能性もすてきれないが、今までの羽京を見てきて、どうしても悪人とは思えないし、これまでの言動や先程の言動も、ウソではないだろうと感じている魅真は、羽京のことを気にかけていた。
「(それはそうとして、氷月はやっぱりヤバい。もとからそんな雰囲気はあったけど、わざわざ私に言って、仲間に誘うなんて…。何を企んでるの?)」
次に、氷月のことを考えた。
先程のやりとりで、氷月のヤバさを再認識した魅真は、野心を抱えていると確信した氷月を、かなり警戒した。
「(それよりも、千空とゲンが、無事でよかった。村の人の強さがどのくらいかはわからないけど、氷月が相手となると、無事ではすまないはずだから…)」
その中で、千空とゲンが無事だったことに安堵する。
「(去年の冬は、雪国みたいに雪がすごかったから、今年もきっと、たくさんふるに違いない…。冬備えの準備があるし、何よりも、ゲンの情報によれば、村は湖の中に建っている水上要塞。冬は凍てつく湖に守られ、籠城されれば攻めるのは困難。司帝国は、数では有利だけど、そうなれば、圧倒的に不利になる。おまけに、地の利もないし、食料だって調達は難しい。長引けば更に不利。つまり、司達が攻めるのは、冬があけた直後。来年の春だ…!!それまでに、千空がなんらかのコンタクトをとるに違いない)」
氷月が千空と接したということは、千空は、司が自分をほっとくわけがないとわかってるだろうし、ほむらが監視としてついたということは、千空が何か大きな動きをするかもしれないこと、そして決戦の時に、いきなり司帝国に行っても対応が難しいので、なんらかの連絡がくるだろうと、魅真は推測した。
「(一刻も早く、大樹と杠に知らせなきゃ!)」
魅真は、まずは大樹と杠に、氷月から聞いたことや、自分の考えを報告するために、2人を探した。
幸運にも、2人をすぐにみつけられたので、今度は、これからの冬備えのために、畑に屋根がついた柵を作るのを手伝ってほしいと要請した。
そして、柵の材料となる木を切りに、森に入ってしばらく歩くと、魅真は2人と向かい合った。
「今回は何?魅真ちゃん」
「また重要な話か?」
以前も、ゲンのダブルスパイの件で、同じように呼び出されたので、また重要な話があって呼び出したのだろうと、大樹と杠は予想した。
2人の予想に、正解だと言うように、魅真は小さくうなずく。
「2人がもう知ってるかどうかはわからないけど、司帝国側のミッションで、千空が生きてることと、ゲンの裏切りが、氷月にバレた。直接見聞きしたわけじゃないけど、もう司や羽京、一部の司帝国の人間にもバレてると思う」
「「!!」」
大樹と杠も、ある程度は予想していたが、魅真の報告に動揺した。
「千空の生存を知った司が、長いこと千空を放っておくわけがない。だけど、これから冬備えに入るし、大樹は知ってるけど、去年の冬はすごい雪だった。水上要塞となってる村を、冬に攻めるのは困難を極める。だから、おそらく決戦は、来年の春!大体3月から4月頃ね。千空は行き当たりばったりで行動しないし、それまでになんらかの連絡があると思うから、2人も気をはっていて」
「わかった」
「わかったぞ」
魅真からの指示に、2人は真剣な顔で返事をする。
「もう、私たちが内通者だってことは、司たちにはバレてるでしょうね…。それでも、私達が勝つためには、今まで通り、司帝国に潜入していなくてはいけない。司の性格からして、向こうも知らないふりをしてくるだろうけど、油断はしないでね。これまで通りにみんなと接して、これまで通りに行動をして。だけど、司が千空の生存を知ったということは、向こうはこれまで通りにはしてこないと思う…。司帝国の人間の目はますます厳しくなり、同時に人質カードにもなるわ。専門の監視もつくかもしれない…」
「それでもこれまで通り、平然とした顔で、ミッションをこなすのね」
「そういうこと。決戦まであとちょっと。みんなでがんばろう!」
「うん!」
「おお!!」
あくまでも魅真の予想ではあるが、千空や闘いのことを話して、魅真が気合をいれると、大樹と杠も、気合が入った返事をした。
それから司帝国は、冬備えの準備に入った。
同時に、魅真の予想通り、3人に専門の監視がついた。
その人物の名前は、花田仁姫こと、通称ニッキー。
しかし、専門の監視がつくのは想定内だったのと、ここでボロを出すわけにはいかないので、3人はなんてことない顔で、これまで通りに過ごした。
大樹は、狩猟を中心とした雑務と杠の護衛。杠は、裁縫と、裏の仕事として石像の修復。魅真は治療とそれに付随する業務、裏の仕事は、これから起こる闘いを考えることと情報収集、たまに杠の手伝い。
「(闘いが起こる前に、千空が接触をはかるのは、おそらく冬解けの前の、大体2月頃。それまでに、何らかのアクションがあるかもしれないから、常に気をはっておかなくちゃ!)」
闘いが起こる時期、その前に千空が連絡してくるタイミングを考えた魅真は、これまで以上に、いろいろなことを細かく調べた。
戦闘について何度もシミュレーションしたり、地の利を生かす戦いを考えたり、アジト周辺の地理を更に細かくたたきこんだり、今いる司帝国の人間や、それ以降に増えた復活者の情報を探った。
復活者の名前、性格、身長、体格、足の大きさ、歩く速さ、走る速さ、得手と不得手、役割、行動範囲、能力、強み、弱点、長所、短所、クセ、武器の種類、武器の大きさや形、攻撃方法、防御方法、好きなもの、嫌いなもの、苦手なもの、アジトのどこが誰の部屋か、どの部屋にどんなものがあるか、仕事の時とプライベートの時の行動パターン、足跡、警備の配置やシフトなど。どんな小さなことが役に立つかわからないので、とにかく、調べて…調べて…調べまくった。
それだけでなく、いずれくる闘いのために、体を鍛え、戦闘の腕をあげていた。
また、千空から何かアクションがないかどうかも見張っていた。
そうやって過ごしているうちに、あっという間に冬が来て、雪が降った。
いつ何が起こるかわからないため、夜はなるべく起きていた。
そんな毎日を過ごしていると、あっという間に年が明けた。
そして、年が明けてから一か月が経った。
「(もうあと一か月くらいで冬解けか…。そろそろなんらかの連絡があっていいかも…)」
今の時間帯は、夜中の2時。魅真は薬草室にいて、外を見張っていた。
「(もし来るのなら、闇にまぎれて来るだろうから、夜はなるべく起きていなくちゃ!)」
外を見張っているのは、いつ千空から連絡があるかわからないのと、昼間に堂々と来るとは考えにくいからで、寝床で見張っていないのは、来るなら富士山が見える陸側からだろうと推測したのがあった。
けど、なかなか変化がないまま過ごしていた。
だが、2月も半ばを越えた頃のこと…。
魅真はその日も、薬草室で、何かアクションがないかを見張っていた。
「(今日の夜のシフトは羽京か…。聴力が優れてるし、慎重だし、できれば羽京が夜じゃない時がいいな…)」
他の人間なら、何か異変があってもごまかせれる可能性はあるが、相手は羽京なので、もし何かあったら難しいのではと思っていた。
同時刻。アジトの数キロ手前には、3人の男がいた。
1人はゲン。そしてあとの2人は、千空がいる村の人間だった。
ゲンより少し小さめの、ハチマキをした茶髪の男はクロム。大樹なみに背が高く、ガタイのいい金髪の男はマグマといった。
「おぅ。この携帯だけどよ、一体どこに隠すんだ?」
彼らは、魅真達と連絡をとるために、携帯を作って持ってきたのだった。
携帯といっても、リュックサック並に大きなもので、どこかに隠さなきゃいけないので、クロムはゲンにそのことを聞いた。
「だぁ~いじょうぶよ。うってつけの場所があるから」
「そうか。でもよ、隠しちまって、大樹と杠と魅真…だっけか?そいつら、みつけられんのか?」
場所に関しては問題なくなったが、次の問題が浮かんだので、クロムは再びゲンに聞く。
「その辺も心配ないよ。魅真ちゃんがいるからね」
「魅真?千空の友達のか?」
「そ!」
「その魅真ってのは、どんな奴なんだ?」
「魅真ちゃんはね、千空ちゃんの武力カードなの。闘いに関してのカンがゴイスーでね。闘いは冬解け直後の春だってことも、その前になんらかの連絡があるかもしれないってことも、その連絡は、闘い前じゃなきゃ意味ないってことも、ちゃ~んとわかってるだろうから、そろそろだって察して、気をはってくれてるだろうね」
「なら、心配ねぇか」
ゲンが魅真のことを説明すると、クロムは納得した。
「けど、隠しちまったら、みつけんのに時間がかかるんじゃねえか?」
すると、今度はマグマが、気になったことを質問する。
「その点も問題ないよ。魅真ちゃんの、司ちゃん帝国でのミッションは、闘いに関することだから。内容は、司ちゃん帝国の構成員の情報を集めたり、科学王国VS司ちゃん帝国の闘いについて考えること。千空ちゃんが一任してんのよ。もう、どんな小さな情報でも集めてるからね~。観察力もゴイスーだし。だから、わずかな変化も見逃さず、見てくれてるよ」
「ふーん」
その質問の答えに、質問した本人のマグマは、大して興味なさそうに返事をした。
それから、約一時間後にゲン達は司帝国につき、千空の墓で、携帯を隠すためのミッションを始めた。
順調にセッティングしていたが、クロムが土をほっていると、土の中に岩があったため、どうしようか悩んでいると、マグマが斧で岩をかちわった。
「!!」
その際に響いた音が、あまりにも大きかったため、魅真は眠さで目が半分閉じかけていたが、覚醒して、あわてて外を見た。
「(今確かに、千空の墓からすごい音が…。まさか…)」
まさかと思い、千空の墓に目を向けると、そこには羽京がいて、千空の墓の方へ走っていった。
「(あれは羽京!?やっぱり、羽京の耳にも聞こえたんだ!!まずい…!!もし、本当に千空が来ていたとしたら…)」
さすがの魅真も焦った。
よりによって、羽京が見張りの時に来てしまい、何か騒動を起こしてしまったのだから…。
しかし羽京は、司のところに行かずに、1人走ってアジトから離れていった。
「(どういうこと?なんで、司にも、他の誰にも知らせないの?何か裏が…?)」
そのことを、魅真は疑問に思ったが、羽京の意図は読めなかった。
「(もしかしたら、司の耳にも届いてるかもしれない。本当は、今すぐにでも確かめたいけど、ここは我慢するしかない!)」
どういうことなのか確認したかったが、羽京が戻って来る可能性や、司や他の人間が来る可能性を考えると、断念せざるを得なかった。
次の日の朝。
魅真は大樹と杠とともに、千空の墓参りをするために、一緒に墓に向かっていた。
「(千空は、去年箱根で別れる時、墓参りは欠かすなと言っていた…。夜中に墓から音がしたことを踏まえると、十中八九、墓に何かある!)」
魅真は歩きながら、夜中に起こったことを考えていた。
数分歩くと墓についたので、魅真は墓の周りを見回し、墓標や岩壁や地面に、何か変化がないかどうかを確認していた。
「(これは…ゲンの足跡!てことは、ゲンが来たんだ。それに、他にも足跡がある。杠の靴と似たようなものが2つ…。てことは、来たのは千空じゃない。顔がわれてる千空が来るのは、難易度が高いし、そもそも、大きな音をたてるなんて、そんな危険なヘマを、千空がするわけがない。これはきっと村の人のだ。基本的に同じ形だけど、微妙に違う。あまり大人数で来てもみつかるし、来たのは、少なくとも3人…)」
そこで、うっすらとだが、地面に足跡があるのをみつけた。
そして、墓標の前に来てしゃがむと、今度は違う異変を目にする。
「(これは、わずかに掘り返された跡。それに、手形もある。1つはゲンのものだ。ってことは、夜中の音は、やっぱりここで…。てことは、この手形の下に、何かがある)」
それは、複数の違う大きさの手形があることだった。
「大樹…杠…」
手形をみつけると、墓の出入口の岩壁の影に監視がいるため、2人だけに聞こえる、ごくわずかな小さい声で話しかけ、話しかけられた2人は、魅真に顔を向けた。
「墓標の前に、手形と、掘り返された痕跡がある。ここに、何かが埋まってる」
魅真は前を向いたまま、短く用件を伝えた。
「じゃあ、監視の人が見てるから、スコップとかで掘ったりはできないね」
「どうしようか」
土を掘ったりしたら、絶対に怪しまれるので、魅真と杠は、どうやって土の中の物を取り出そうかと悩んだ。
すると、大樹は手を開き、手を土の中につっこんだ。
手をつっこみ、探るように何度か動かすと、メガホンのような形のものを取り出す。
同じ頃、千空がいる村の、ツリーハウスに似た円形の小さな家では、金属をたたくような、目覚まし時計に似た大きな音が響いた。
「「!!!」」
「かか、かかってきたんだよ」
「もしも、司の手の者だったら…」
「……」
そこには、スイカの殻をかぶった子供…スイカと、金髪碧眼で、髪をポニーテールに結った、魅真達と同じ年くらいのコハクという少女がいて、いきなり携帯が鳴ったことにびっくりしていた。
コハクは、電話をかけた相手が、司帝国の人間の可能性も考えるが、千空は迷うことなく受話器をとった。
「よう」
そして受話器をとると、静かに声をかけた。
「千空ーーーー!!!!!」
千空が出ると、大樹は涙を目に浮かべながら、千空の名前を叫んだ。
隣にいる魅真と杠も、電話ごしだが、ようやく千空と繋がったことに、涙を浮かべる。
「オホー!ついに繋がっちゃったぞい。携帯電話(ケータイ)ホットライン!!とんでもない距離で……!!!」
携帯が繋がったことで、サンタクロースのように長い白髭の男性…カセキは、両手をあげて、涙を流しながら大喜びしていた。
「この人が、あの噂の」
「大樹か…!!」
そして、金髪で小柄な少年…銀狼とコハクは、初めて聞く大樹の声に感激していた。
その大樹がいる、司帝国の千空の墓では…。
「せんくー!!」
大樹はもう一度、千空の名前を叫んだ。
「(なんか、お墓に慟哭してる…)」
岩壁の影にいるニッキーは、大樹の体で受話器が見えないため、何故大樹が、千空の名前を叫んでるのかわからなかった。
「ククク。超絶懐かしくてお涙が出るな。アホほどデケえその声もよ……!!」
久しぶりに大樹の声を聞いた千空は、顔を上に向けて、とてもうれしそうに笑っていた。
.