Z=2 石の世界の王者
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魅真達は、杠の分の復活の水を作ると、さっそく杠がいるクスノキへと赴いた。
「その水をかければ!杠が復活するんだな!?」
「あぁ。試しでバラバラ石像にブッかけたら、ちゃんと死体に戻ったぞ」
「な、なんてことを…」
「!! なんとバチ当たりなやつだー!」
杠にかける前に、再度大樹が千空に確認をすると、千空はなんとも恐ろしいことを答えた。
その千空の発言に、魅真と大樹は顔を真っ青にして非難する。
「一応、全部ひっつけてから試したんだがな。でもやっぱ、既に死んでた奴は助けてやれねえ。尊い犠牲だ。念仏でもあげとけ」
「おぉぅ!ナンマンダブナンマンダブーーー!」
けど、決して変な意味ではないので、大樹は手を合わせて、言われた通りに念仏をあげ、魅真も手を合わせた。
そして気をとりなおすと、いよいよ杠に、復活の水をかけることとなった。
「(3700年も待たせてすまん、杠。今!生き返らせてやるからな……!)」
大樹は、杠を覆って支えている木の枝をどかし、その後ろから、千空が復活の水をかけようとした。
「!! 待て!千空!!」
「……!?」
だがその時、大樹が真剣な顔でふり返りながら、千空を制止する。
「杠は、はだかだ!!」
「?!!」
制止すると、大樹は千空を目つぶしで止めた。
大樹が千空を止めたのは、杠が服を着ていないからで、このまま復活させてはまずいと思ったからだった。
「ダメだ。このまま復活させてはー!」
「それはそうね」
魅真は杠と同じ女なので、大樹の言うことに同意した。
だが千空は、眉間に深くしわを寄せてあきれ顔になり、どこかひいてる風だった。
「まっっった、魅真の時同様、非合理的なバカ言い出しやがった。ど~~~~でもいいじゃねえか。この非常時のストーンワールドでよ!!」
「どうでもよくなどない!」
「確かにどうでもよくはないね」
「いきなり尻見せだろうが、チンコ丸出しだろうが、気にしねえよ、誰も!」
「杠に、チンコなど無い!」
「論点そこじゃねえ!」
「キャンプに連れ帰って、服を着せてからだ」
はだかの状態で目覚めさせるわけにはいかないので、大樹は杠に服を着せるため、杠の石像を、頭の上に軽々と持ち上げた。
「ヒョイて。何キロあんだ、その石像」
「杠はデブではない!」
「論点そこじゃねえ」
千空は大樹のバカ力のことを言ったのに、杠の体重のことだと思った大樹は、的外れなことを返した。
「!! 待て!デカブツ」
「「……!?」」
その時、今度は千空がまじめな顔をして、大樹に声をかけた。
三人が横を見てみると、そこにはライオンが数頭、三人の前までせまってきていた。
「ラ…ライオン!?こんなところに?」
「まさか、なぜいるんだ。日本に……!」
「んなもん、出所は動物園しかありえねえだろ。飼育員が、鍵開けたまま石化したか」
あたり前だが、三人は即座に逃げ出した。
「人間不在で逃げ出しゃ、園内の草食獣は、全部エサ。街に出りゃ、ペットも食い放題。んで、文字通り、百獣の王になった。3700年後の石の世界(ストーンワールド)じゃ、食物連鎖の頂点はもう、人間様じゃねえってことだ…!!」
ライオンたちは三人を追いかけてくるが、食べようとせず、追いかけるだけだった。
Z=2 石の世界の王者
走っていった先は崖だったが、そんなことは言っていられず、三人は崖をとびおりるが、ライオン達もあとを追ってきた。
「魅真!なんとかならないのか!?」
いつライオンに追いつかれて、襲われるかわからないので、三人は後ろを気にしながら走っており、そんな中、大樹が魅真に、無理難題をふっかけた。
「ムチャ言わないでよ!人間がライオンに敵うわけないでしょう!!」
ライオンと戦ったことはないが、それでも絶対無理だとわかりきってるので、ライオンを気にしながらも、大樹に返した。
「どうして、まだ襲ってこないんだ。ライオン達は?」
「ククク。連中にしてみりゃ、俺らは、初めて見る、キメぇ二足歩行生物だかんな」
「! そうか。人間などいなかったんだから…」
「警戒はしてる。だが、もう時間の問題だ。いくら魅真でも、ライオン相手は無理ゲーだ。キャンプ戻ってファランクス(槍の壁)くらいしか手がねえ。それも、はるばる逃げ帰れりゃの話だ。初めからほぼ詰んでんだよ。このゲームはよ……!!」
「……」
千空がそう言うと、大樹はいきなり、千空に杠の石像を投げた。
「おぐふ!」
それを、千空はなんとか受け止め、大樹は魅真と千空の前に出て、ライオンに向けて手を伸ばす。
「大樹!!」
大樹が前に出たのを見ると、魅真は腰にさしている木刀を抜いて走っていき、大樹の隣に立ち、大樹の少し前に出ると、木刀を構えた。
「科学知識をもった人類最後の砦、千空だけは死なすわけにいかん!いざとなれば、この俺が!盾となって…」
「なに言ってんの?武力カードは私!いざとなったら、私が二人を!!」
「ダメだ!」
大樹が前に出たのは、魅真と千空の盾になるため、魅真が前に出たのは、千空と大樹を守るためだったが、そこを千空に止められる。
「大樹、テメーのカードは体力だ。武力じゃねえ。小学生ん時から、ずっと――人殴ったことが、一度でもあんのかよ!魅真、テメーもだ!いくらテメーが強くても、ライオンを倒すなんて、いくらなんでも無理だ!合理的に考えろ。俺は頭を使う、大樹は体を使う、魅真は武力で俺らを守る、どれかが欠けるわけにいかねぇだろが。合理的に…考えろ。逃げる時は必ず!俺ら三人で、同時にだ!!」
「わかったわ」
「……ああ!分かった!!」
魅真と大樹は、千空だけを生かす道をやめ、大樹は千空から杠を受け取ると、再び三人で逃げ出した。
と言っても、他に手があるわけではなく、ただひたすらに走っているだけだった。
「でも、どうするの?このままじゃ、いずれ追いつかれて襲われる!!」
「せめて、魅真みたいに、武力で強い人間がもう一人いれば…」
「! (武力…?)」
走りながら話している千空と魅真の会話で、大樹ははっとなった。
「魅真!千空!」
そして、顔だけ後ろに向けて、後ろを走っている魅真と千空に声をかける。
「逃げきれないのなら!一か八か…」
何か考えがあるようで、大樹はある場所へと走っていった。
大樹が先導して走って来たのは、洞窟近くの川沿いだった。
「最初の日に見つけたんだ。『霊長類最強の高校生』獅子王司――!!」
それは、武術で有名な男・獅子王司の石像がある場所だった。
司は、大きな木を背にして、体は杠のように木の枝でしばられ、木の周りにもられた土にすわっていた。
「すまん、杠!今はなんとしても武力が必要なんだ!もしも、ライオン達に勝てたならば、次こそ必ず―」
「いいから、とっととぶっかけやがれ、デカブツ!」
大樹は、杠を近くの木にたてかけながら話しかけ、魅真は二人の前で木刀を構え、千空は、こんな時にまで、感傷にひたって杠に悠長に話しかけている大樹に、前を見ながら復活の水の器を渡した。
復活の水を受け取った大樹は、司の頭から、復活の水をかける。
だがその時、木をかきわける音がしたので、三人はそちらの方を見た。
「いかん。囲まれた……!!」
それは、三人を追いかけてきたライオン達だった。
「来るぞ……!」
ライオン達は、いよいよ魅真達に襲いかかろうとしたので、大樹はライオン達に顔を向け、千空も石器の斧を構えた。
その時、復活の水をかけた司の石像に、顔に二本、胸部に一本、合計三本のヒビがななめに入ると、司の左目が見えた。
「すまん!数千年ぶりに起こしておいて、何が何やら分からんまま…」
ただライオンを倒すためだけに、身勝手に起こしてしまったので、大樹は顔だけ司に向けて謝罪する。
「現況は?」
しかし、司はまだ、左目と口の一部しか石化が解けてない状態だというのに、大樹の謝罪には答えず、手短に質問をした。
それを聞いて、魅真と千空は驚いて固まった。
「体表全体に鉱石片。9時から2時方向にライオン群」
けど、すぐに覚醒して、千空は簡潔でわかりやすい情報を、司に伝えた。
「OK」
現況を知ると、司は了解の意を示し、まだ体中に石片が残っているのに、石片と自身をしばりつけていた木の枝を、力ずくで破り、その場を立ち上がる。
それを見ると、魅真と千空は地面に伏せるが、大樹は何が何やらわからない状態で、そのまま立っていた。
司は、まだ腕から指にかけて残っている石片を、指を動かして、力ずくで破壊すると、破壊されたことによって粉々になった石片を、まるで弾丸のように、ライオンにとばした。
石片はライオンと大樹にあたったが、伏せている魅真と千空にはあたらなかった。
石片があたったことで、ライオン達の動きが一瞬鈍くなった隙に、司は群れの唯一の雄ライオンのもとへまっすぐに走っていくと、渾身の一撃で、ライオンを殴りとばした。
殴りとばされたライオンは木にあたり、素手でライオンを倒してしまった司を見た魅真達は呆然とし、雄ライオンがやられたことで、他の雌ライオン達は、蜘蛛の子を散らすように、あっという間に逃げていった。
「詳しい説明は、うん。ゆっくり聞くよ。ただ一つ約束する!君らには、もう二度と危険って奴は訪れない」
司はライオンを倒すと、一撃で死んで地面に伸びたライオンのもとへ歩みよっていきながら、魅真達に話しかける。
「これからは、この俺が闘うからだ!!」
それはもう、安全を保障されたような言葉だった。
仕方ないと言えば仕方ないのだが、司がはだかの状態で立っているので、魅真は顔を赤くしながら、手で目を隠した。
「お……おおおおおお!!」
すると、突然大樹が大きな声で叫び出した。
「すごいぞ千空ー!これで人類は、知力!体力!武力!の三銃士がそろった上、更にもう一人、武力が加わったってことだー!!しかも武力は、最強の二人だぞ!!」
「…ククク。まぁ、そうなんだが、銃もねえこの段階だとなァ~。いくらなんでも強すぎんぞ、この獅子王って男」
大樹はすごく喜んでいたが、魅真と千空は、司を警戒していた。
その司本人は、魅真達に顔を向けて、ただ優美に笑っているだけだった。
「強すぎちゃダメなのか?頼もしいじゃないかー!」
何故、千空が司を警戒しているのかわからない大樹は、千空に聞いてみた。
「例えば、もし奴が、欲望モロ出しの悪代官だったらどうすんだ。素手でライオンブッ倒す、チート武力の男だぞ。銃もねえこの世界じゃ、100億%止めようがねえ」
「う、それは困る。いや、その時は俺が…」
「大樹は別の意味で無理でしょ」
大樹の質問に、千空は何故警戒したのかを、簡潔に答えた。
その答えに、大樹は戸惑いながらも決意するが、そこを魅真がすかさずつっこんだ。
「肉をさばく道具を借りてもいいかい?ナイフ―いや、無ければ石器でもいい」
その時、話題になっていた司が、魅真達に背を向けて、ライオンの頭をさわりながら三人に話しかけた。
「!! 食うのか、ライオンを?食えるのか!?」
「毒はねえよ。ククク。アンモニア臭ぇわ硬ぇわで、死ぬほどマズいがな」
「なにーー!食ったことあるのか、千空」
「エボラの調査で、アフリカ行った時な」
「どういう高校生だー!」
「なんでエボラの調査?」
日本の一高校生にすぎない千空が、専門家のようなことをしていたので、魅真と大樹はつっこんだ。
「身を護るためとはいえ、俺がこの手で殺めたんだ。うん…。全て糧にすることで、自然の輪廻に感謝したい。それだけだよ」
しかし、司は千空の想像とはまったく反対の善人だったので、大樹は身が打ち震え、魅真も驚いて、少しだけ好感をもった。
「うおおお。立派だー!!良かったな千空。悪代官なんかじゃないぞ。めちゃめちゃ善い奴じゃないかー!!」
今の司の言葉に感動をした大樹は、完全に警戒心をなくし、司に石器のナイフを渡している千空に声をかける。
「…だといいがな。まぁ、感謝とかなんとかは、1mmも興味ねえが、肉を無駄にしねぇのは大賛成だ」
けど、魅真だけでなく、千空は、まだ司に警戒心を抱いていた。
その司は、借りた石器でライオンをさばくと、ライオンの皮をその身にまとった。
司が仲間になると、魅真達は司とともに、ツリーハウスに戻った。
「(少しだけ待ってくれ!杠。奇跡の水ナントカ酸がたまったら、すぐ助けるからな!)」
大樹はツリーハウスが建っている木に、杠をたてかけながら、心の中で杠に話しかけた後、魅真、千空、司とともに、家の中に入った。
「あらためて、獅子王司だ!司で構わないよ」
家に入ると、司はあらためてあいさつをしながら、あくしゅをするために手をさしだした。
「この世界じゃ、苗字も意味ねぇわなあ。アタマがマトモな科学担当千空と、アタマが俺ほどじゃねぇが結構マトモな武力担当魅真と、アタマが雑な体力担当大樹だ」
「魅真よ。よろしく」
「武力担当?君のような、華奢な女性がかい?」
魅真が武力担当と聞いた司は、魅真とあくしゅをしながら、驚きで目を丸くし、魅真を凝視した。
「え…。何か変かな?」
「いや、すまない…。確かに21世紀では、武術をやっていて、強い女性もいたが…。失礼かもしれないが、俺の考えでは、女性は男性が守るものだと思ってるからね」
「そういうことね。まあ、一応これでも、剣道を嗜んでますので」
「剣道…魅真…!?じゃあ、ひょっとして君は、あの、剣道界のスーパースターの、真田魅真かい?」
「あぁ…。雑誌か新聞読んだ?すっっごくはずかしいけど、そんなことも言われてたわね」
剣道と魅真の名前で、魅真のことを思い出した司は、魅真に問うと、魅真はとてもはずかしそうにして答えた。
「剣道だけじゃないぞ!魅真は、小さい頃からいろんな格闘技をやってきて、肉弾戦もできるんだ!!」
「なんで大樹が自慢げなの?」
横から大樹が、すごい自慢そうに魅真のことを語るが、話題となっている魅真は、ますますはずかしくなり、顔が赤くなった。
肉弾戦ができるといっても、今はもう剣道一筋で、まったくやっていないのと、もとからあまり得意でないのとで、せいぜい護身術程度にしかならないが、そのことを魅真は、司に話すことはしなかった。
「すまない。そんな、変な意味じゃなかったんだ。もし気分を悪くしたのなら、非礼を詫びよう」
「いや、私は全然気にしてないから…。司も気にしないで」
「ありがとう」
そのことを知らない司は、魅真に謝罪をする。
変な意味で言ったのではなくても、受け取りようによっては侮辱の言葉にもなるので、許してくれた魅真に、司はお礼を言った。
「俺はアタマが雑な大樹だ。よろしく!考えることは、全部千空に聞いてくれ!」
司がお礼を言った後、今度は大樹が、司とあいさつをしながらあくしゅをした。
「なら俺は、魅真とともに武力―――狩猟担当だね」
特に何も言われずとも、司は自分の役割を理解した。
「俺が仲間になったからには、二度と、獲物に不自由はさせない!!」
四人は海に行くと、司は服をぬぎ、槍をもって海に入ると、一瞬にして、一度に何匹もの魚をとった。
「うおおおおおお!!」
そのすさまじさに、大樹は感嘆の声をあげ、魅真は千空の隣にすわり、すごいと思いながらも、司がはだかなので顔をそらし、千空は司が自分の前にやってくると、司が地面に槍をさしたあとに、すれちがいざまにハイタッチをした。
そして、三本の木の棒の先を一つにしばって三角錐の形を作り、地面に刺すと、すべての魚の頭に木の棒をさして、真ん中をしばった紐を、先程組み立てた木の棒の先にひっかけてつるし、その下で火をおこした。
「なるほど。釣ってすぐ焼けば!冷蔵庫なしでも、腐らないわけだなー!!」
「焼いてんじゃねえ。煙のアルデヒドで、微生物ブチ殺してんだよ。アタマが雑でも分かる言い方で言うと、燻製だ」
「へぇー。燻製って、こんな簡単にできるのね」
もっと難しいやり方かと思っていたが、意外とシンプルなので、魅真は感心していた。
「俺と千空のタッグなら、保存食は心配ないね」
「あぁ。これでやっと、文明の一歩目に進めるな」
「まだゼロ歩だったのか!」
これで保存食がなんとかなったので、千空は首を鳴らしながら、次のステップに進もうとした。
何歩か進んでいると思ったが、実はまだ一歩も文明に進んでいなかったので、大樹は驚いていた。
「さ~ァ、楽しいクイズの時間だぞ。科学文明にまず欲しい、一番重要なモンはなんだ??正解者は、100億点な」
いきなり千空がクイズを出すと、大樹は真剣に考えた。
「スマホか!?」
「いいなスマホ!うん。欲しいけどな、スマホ!」
考えた末に、出した答えを千空に言うが、その答えはあまりにもぶっとんでいた。
「何百万年ワープしてんだ、デカブツ!想像超えるアホ回答に、色白の司が、倍プッシュで、顔面蒼白じゃねぇか」
「……」
人類の歴史で言うと、旧時代がなくなるほんの数年前に発明されたものを答えたので、千空はノリツッコミをして、大樹の性格を知ってる魅真は呆れるだけだったが、大樹のことをよく知らない司は、顔が真っ青になっていた。
「鉄…かい?」
「鉄も欲しいが、まだ先だ。もっと便利なもんがある」
「便利なもん?石けん?」
「あたらずとも遠からずだが、そいつはテメーが欲しいだけだろ」
「あたらずとも遠からずってことは、多少はあってるってこと?」
「ああ、そいつは…炭酸カルシウム」
「なるほどー!例によって、全然わからん」
「石灰か!」
「石灰って、炭酸カルシウムだったのね」
「ああ。そこの雑アタマでも分かる言い方で言うとそれな。グラウンドの白線引きだ」
魅真達に説明しながら、千空は近くに落ちている貝殻を一つ手にとった。
「つまり、その炭酸ナントカゲットのために、体育倉庫を探すんだな?」
「おお、それな。体育倉庫な!」
大樹は先程のように、またぶっとんだ回答をした。
「あったらいいな!3700年後のこの世界にな!」
「……」
大樹のぶっとんだ回答に、千空はまたノリツッコミをして、魅真は再び呆れ、司は先程よりも、更に顔が真っ青になっていた。
「デカブツ、テメーのおヒゲのケアに大活躍してた貝殻だが、ボッコボコの粉々にするだけで―その、炭酸ナントカのできあがりだ」
「おおおおし。体力担当俺にまかせろー!!」
千空の説明を受けると、大樹ははりきり、持ってきていたカゴを背負うと、貝殻をカゴに山盛りいっぱいに集めてきた。
ツリーハウスに戻り、板のように平たい石の上に、集めた貝殻をのせると、大樹は石器のハンマーで粉々に砕いた。
「ククク。炭酸カルシウムほど、唆るもんもねえ。4つも!死ぬほど重要な使い道がある」
大樹が貝殻を砕くと、千空は、次に炭酸カルシウムの使い道について説明を始めた。
「その1!農業。石灰で、水素イオンをブチ飛ばす!つまり、土がレベルアップする。
その2!焼いて砂と混ぜりゃ、モルタルの完成だ。セメントの子供だな。デケぇかまどや家が建つ」
農業は説明だけだったが、モルタルは実際に作り、大樹がツリーハウスの壁にぬっていった。
「なんだか、旧時代の家みたいになったね」
「今言ったが、セメントの子供だからな、モルタルは」
まさか、貝殻でこんなことができるとは思わず、魅真は感心した。
「その3!石けん。病気=ゲームオーバーのこの世界じゃ、バイ菌浄化するこの小せえ塊が、医者がわりの命の石、Dr.ストーンだ!」
モルタルの次に作られたのは、石けんだった。
「なるほど。ここで石けんが出てくるのね。石けんも貝殻でできるんだ。だからさっき、あたらずとも遠からずって…」
「ああ」
貝殻を集める前に、千空が言ってた意味がようやくわかった魅真は、石けんができたことで納得し、司は驚きで目を見張った。
「―千空、君は素晴らしい男だ」
そして、いきなり千空を褒めた。
「復活直後にライオンと戦った時も、あの咄嗟に冷静な現状伝達。君より切れる男を見たことがない。尊敬するよ、心から」
司が千空を褒めると、千空は手の動きが止まった。
「目の前で男を褒める男は、ホモか策士(タヌキ)かどっちかだ。何が言いてえ」
千空が動きを止めたのは、今の司の言葉には、何か裏があるのではないかと思ったからだった。
「困ったな。そんなに深い意図はないよ。君なら、本当にゼロから近代文明を、作れてしまうかもしれない。うん。ただそう思っただけだ」
深い意図はないと言いながらも、どこか深い意図がありそうな、含みのある言葉だった。
「(今の司の言い方、なんかひっかかる。それは、千空も気づいてるはず…。悪い人ではないんだろうけど、警戒はしておかなきゃ…)」
含みのある言い方に、魅真は司を警戒し、千空も警戒して目を見開いた。
「で!4つ目はなんだ?貝殻の重要な使い道。4つもあるって言ってたじゃないか」
そこへ、また貝殻をカゴに山盛り集めてきて帰ってきた大樹が、カゴを地面に置きながら、千空に問う。
「いや、3つだ。3つって言わなかったか?」
問われると、千空は少し間をあけて、3つと嘘をついた。
「わははは。あれ、そうか!記憶も雑だな俺はー!!」
「…?」
その答えに、大樹はまったく疑っておらず、新しいカゴを背負って、魅真と千空とともに、森の中へ歩いていった。
「(千空が相当警戒してる。4つ目が、本当はなにかはわからないけど、私も警戒を怠らないようにしなきゃ!)」
魅真は、確かに千空は4つと言ったのを覚えており、大樹に嘘をついた千空には、何か深い考えがあるのではないかと見抜き、司に対する警戒心を更に強めた。
次の日の早朝。
四人は浜辺に行くと、大樹はまた貝殻をひろい集めており、魅真と千空は浜辺に隣同士で立っており、司は狩りのために、槍を持って海の中に、足首がつかるくらいの位置まで入っていた。
「――この石の世界(ストーンワールド)は、自由だ。貝なんて、もともと誰の物でもない。海だって、土地だって……」
海に入った司は、貝殻をひろいあげると、自分の思いを語り出す。
「――昔、一人の貧しい少年が、貝の首飾りを作ろうとした。手術する妹のために。妹は人魚姫が大好きだったんだ。そこへ、ちょうどこの石像くらいの、一帯の『漁業権』を持つ中年男が現れた。酒の臭いと共にね。貝を集めていた――中年男が言うには、盗んでいた少年は、顔が変わるほど殴られたよ。最期まで、妹を人魚姫にはしてあげられなかった……」
そこまで言うと司は、自分の横にある石像を、素手で破壊した。
「!!」
破壊された石像の頭は、千空の前までころがっていき、その光景を見た魅真は、驚愕で大きく目を見開くと、ころがってきた石像の頭を見た後、司を睨むように見た。
「なんてことするの?なんで…こんなひどいこと…」
「ひどい?それは、価値観の違いだね。俺は全然そんなこと思ってはいない」
「!」
「分かってやってんだろうな。司、テメーは今、人間一人、ブチ殺したんだぞ」
この司の所業に、魅真は怒りと悲しみがまじった顔になり、千空は静かに怒りを露わにした。
「分かってるさ。もちろん。千空、君は、心の汚れた年寄りたちまで、全員助けるつもりかい?」
けど、司は動じず、千空に質問をする。
「うん。彼らも、最初はしおらしく感謝するだろうね。だが、文明が戻れば必ず!『そこは俺の土地だった』、『家賃をよこせ、税を払え』。また、持たざる弱者を食い物にしだす。もう、そんなことはさせない」
質問をすると、自分の考えを話しながら、千空のもとに歩いていく。
「ここは石の世界(ストーンワールド)。まだ、なんの汚れもない楽園だ――」
そして海からあがると、司は千空の前までやって来て、千空と対峙した。
「純粋な若者だけを復活させて、このまま誰のものでもない、自然と共に生きていく。人類を浄化するチャンスなんだ!君もそう思わないか、千空」
「全っっ然。1mmも思わねえなあ~」
司は自分の考えに対し、千空に同意を求めるが、千空は司の意見を否定した。
「メカやら宇宙やらドラえもんやらに唆りまくりの、テクノロジー大好き少年なもんでな。科学の力で、人類全員!もれなく助けてやるよ」
そして、まったく正反対の意見を、司にぶつけた。
すると、司の顔がけわしくなり、怖い顔で千空を睨みつけると、千空は冷や汗をかいた。
魅真は、先程の司の言葉と所業、今の状況を見て、いつでもとびだせるようにしていたが、司は、それ以上は何も言わず、何もせずに、千空に背を向けた。
「(ククク。相~~当やべぇぞ、こいつは。悪代官のが、100億倍マシじゃねえか。つっても、司起こさなきゃ、ライオンで全滅だったんだ。しゃあねえっちゃしゃあねえが)」
毅然とした態度で対峙していたが、千空は内心司にびびっており、冷や汗をかき、目が泳いでいた。
「(こいつも、若者は助けてえんだから、石化復活液のレシピを知るまで、無茶はできねえはずだ。その秘密が、VS司の切り札になる。洞穴の奇跡の水のことだけは、死んでも隠さねえとな……!)」
「(今は何もしてこなかったけど、いつ暴動するかわからない。切り札の復活液は隠し通す。でないと、武力であっという間に制圧されてしまう)」
当然だが、魅真も千空も、司に対して警戒心が最大になり、復活液のことだけはだまっていようと心に誓った。
「やったぞ、千空ー!魅真ー!司ーー!」
そこへ、森の中から、大樹がすごい勢いで走ってきた。
「たまってたぞ。洞穴の奇跡の水が!今度こそ、本当に杠を助け出せるぞーー!!」
大樹がやって来たのは、壺に硝酸がたまってたからで、一刻も早く杠を助けたかった大樹は、目じりに涙を浮かべながら、杠用と書かれた壺を、全員に見えるように前に出した。
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